003 魔法の練習
「魔法なんだけど、俺はまだ一度も使った事がなくて…‥試験の前に一度くらは一緒に練習させてくれないか。 いや是非一緒に練習させて下さい。 お願いします」
「いいわよ♪」 アマネは快諾してくれた。
「せっかくだから、今から練習に行きましょうか。 ね!」
そんな訳でソウスケとアマネ、それにシエルとギンは城門の外に出て人目のつかない小丘の傍らに来ていた。
「ここなら街に近いし、まだ安全圏だから大丈夫よ」
50メートルほど離れたところに標的にする五枚の木板を小石で留めて立てた。
最初はアマネが前に出て、右手の掌を前に突き出して集中をしてイメージを作り上げていた。
アマネが呟いた。
「ファイヤー・ボール!」
その瞬間、握り拳ぐらいの火球が5つ現れたかと思うと一瞬で「ビュゥン」と唸りを上げながらカーブを描いて5つの的にすべてに見事に命中していた。 標的の木板は全て火球が炸裂して粉微塵になっていた。
アマネはご機嫌で右手の拳を天に突き上げながら飛び跳ねていた。
「やった~、さあ君にもできるかな」
ソウスケはちょっと驚いていた。 火球が現れてから命中するまで、ほとんど一瞬の出来事だった。 しかも標的はどれも木っ端微塵になっていた。
そんなソウスケの動揺を他所にシエルがパタパタパタと飛びながら次の新しい標的を5つ用意していた。
「よしっ俺の実力を見せてやるぜ」
そう言いながら、ソウスケは腕をぐるぐるまわしながら前に数歩前に出た。
(ほとんど空元気だが)
蒼甫は標的を見据えながら魔法の発動に集中した。
「ファイヤー・ボール!」
ソウスケの前に大小まちまちな火球五個が現れてたが、すぐに膨れて霧散してしまった。
「何あれー」
笑い声がする後ろでは大笑いをしている一人と一匹がいた。アマネとギンである。
「あはははははっ あ~笑いが止まらない……でもめんごめんご」
「意外とソウスケは不器用だね」
ソウスケはムキになって何度となく繰り返したが結果は同じだった。
ソウスケは少し顎に手をやり、しばらくの間『考える人』になった。
(いきなり五個同時に発射は無理だったか。 まずは一個づつ練習するべだな)
気を取り直したところで、また両手の平を前に出して精神集中を始めた。
「ファイヤー・ボール!」
ソウスケが声を発すると、アマネが先程発射したものと較べて2倍はあろうかという大きな火球が一つだけ現れた。
その火球は何とか押さえ込むように半分弱程の大きさに圧縮されて、ふらふらと中央の標的に飛んでいき、標的の近くに命中した。
ソウスケのファイヤボールは標的は外したものの爆風で近くの標的を吹き飛ばしていた。 威力だけは先程のアマネの魔法よりかなり強力なのは明らかだった。
「おおお、なかなかやるなぁ、君も」
アマネが以外だと言わんばかりの真面目そうな顔をして関心した。
この後二人は、と言うよりむしろ主にソウスケがファイヤーボールを自然に撃てるようになるまで繰り返し練習をした。
ソウスケのファイヤーボールは練習を重ねていくうちに命中精度を上げることができたが、またその威力も段々と強くなっていた。
「火の魔法はこれくらいで十分でしょう。 次は水の魔法の練習をしましょう」
今度も最初はアマネが見本とばかりに呪文を唱えた。
「サーペント・ウォーター・フォール!」
突然アマネの前に高さが60メートルほどの水柱が上がりそれは海竜を象った。 そして海竜が頭から飛び込む様に標的に落ちて、辺り一面を濁流が押し流した。
ソウスケ達は思わず後ずさるように後ろの小丘に上がり退避した。
「ちょっとやり過ぎだろう、アマネさんよ」
アマネは笑いながら舌を出して誤魔化していた。
一度仕切り直だった。
またアマネの声が響く!
「アイス・スピアー!」
長さが30cmぐらいの氷柱五本が目の前で成形されて直ぐに真っ直ぐ撃ち出された。それは標的の板を軽く撃ち抜いていた。 アマネの魔法は発動が素早くそして狙いも正確だった。
今度はソウスケが前にでて掌をかざしながら叫んだ。
「アイス・スピアー!」
ソウスケの召喚した氷柱は1mほどの長さだった。それは一応は真っ直ぐに飛んでいった。
それでもソウスケのアイス・スピアーは、まあまあ様にはなっていた。
その後はとりあえず四元素の火水土風の魔法だけでも一通り練習しておこうという事で、土の魔法の「クレイ・シールド」、風の魔法「スピリット・オブ・ウィンド」を練習した。
クレイ・シールドは文字通り土壁を作って物理攻撃を防御する魔法である。 また、スプリット・オブ・ウィンドは風を纏って術者の移動速度と俊敏性をアップさせる魔法である。
今回の練習で二人の魔法に対する特性がはっきりでていた。 アマネの魔法は十個までの魔法弾を同時に発動ができ、しかも素早くて制御も正確だったが、ソウスケの魔法は一つの魔法弾を発動するのがやっとで、威力はあるものの細かい操作や制御がかなり曖昧でだった。 ソウスケの場合は、威力があるというよりも威力を抑えるのが苦手と言うのが、正しかった。
「ところでさーあいつらは魔法使えないのか?」
ソウスケはシエルとギンのほうを見ながら、アマネに聞くいてみた。
「さあー知らない。 どーだろーねー」
とアマネはギンのほうを見ながら答えた。
するとギンが「仕方ないねぇ」と言いながら胸を張って大股の2足歩行で前にでてきた。 ヒョイと飛び上がったと思えば宙空に二本足で立ち両前足の肉球を前に出した。
そしてギンの右手の前に青い光の玉が5つ、左手の前には赤い光の玉が5つ現れて、先程まで木板を置いていたあたりに真っ直ぐ飛んでいった。そして地面に着弾した瞬間に赤と青の光球が弾けた。
赤い光球が命中したところには土や岩に穴が空いてプスプスと煙があがっている。青い光球が命中した所は見事に地面が凍結して所々に先の尖った氷柱がはえていた。
ギンが得意気に魔法の説明を始めた。 赤い光球を放つ魔法は『ヒート・オーブ』これは高熱のエネルギーの塊を撃つ魔法で、青白い光球を放つ魔法は『チリング・オーブ』これは周りの熱量を奪いとる特殊なエネルギーの塊を撃つそうだ。
次に皆がシエルのほうに視線をやると、青い竜は右みて左みてそわそわいている。明らかに挙動不審だ。
シエルはいきなりカッっと赤い炎を吹き出した。竜のブレスである。命中したあたりの地面は高熱で溶けて淡く赤い光を放っていた。
「これ魔法じゃないよね?」
ソウスケは思わず突っ込んだが、シエルは何故かかオロオロしていた。
「え~これじゃだめ? ごめんよ~」
「いや謝らなくてもいいから、なにか普通の魔法使えないのか?」
「わかった! やってみる」
シエルが魔法を発動する体制にはいった。
「スパークル・ランス!」
突然2メートルほどの青く輝く光の槍が現れた。
そして光の槍はまるで砲弾のように放たれた。
ほんの1秒にも満たない刹那に数キロ先の地面に着弾した。
青い閃光が煌めき、火花が散り、土煙を上げ、最後に雷が落ちたかと思うような轟音が響いた。
シエルが放ったスパークル・ランスはエネルギーの塊を大きな槍状にして撃ち出す強力な攻撃魔法だった。
「まるで大砲が命中したような威力だな。 この魔法はちょっと危なすぎるぞ」
ソウスケとアマネは驚くばかりで言葉は少なげだった。
「もう少し安全な魔法は使えないのか、シエル」
「わかったよ、熱くないやつならいいよね」
シエルが次の魔法を発動する体制にはいった。
「ミラージュ・アバター!」
今度は先程まで標的を置いていたところに、シエルが一人、二人と、三人と現れた。 これは幻影による分身を作り出す魔法だ。
シエルが三人増えて四人のシエルがそれぞれ別々の行動をとっていた。 とても幻影とは思えない出来栄えである。
「お、お~何気に凄そうだ」
「パチパチパチ」 ソウスケとアマネは思わず拍手をしていた。
一通り練習も終えて、そろそろ帰ろうとしていた時だ。 ソウスケ達は街の城門の方が何やら騒がしい事に気がついた。
茂みからこっそりと城門のほうを覗いてみると、城門から一個正体の衛兵達がこちらにやって来るのが見えた。
どうやら先程のシエルの放ったスパークル・ランスの轟音に驚いた衛兵達が様子を見にきたらしい。
当然ながら爆発を起こした犯人として、衛兵に捕まったり取り調べを受けたりするのは、二人ともまっぴら御免でだった。
ソウスケとシエル、それにアマネとギンは隠れつつも急いでの場を走り去った。
この時のソウスケは走りながら、自分の体が風のように軽いと感じていた。 また同時に『竜の加護』により強化された自分の肉体は、本気で走りさえすればもっともっと早く走れるということを、ソウスケは改めて認識した。
ソウスケ達は草原に出ていった城門とは反対側の城門まで迂回して街に入り、そしてソフィア邸に戻ってきた。
ソウスケとアマネはさっそくソフィアに魔法の練習の成果を報告した。
その後はアマネとソフィアの女子トークが始まった。
ソウスケは仕方なくシエルやギンの相手をしているうちに時間が過ぎていった。
「じゃあ、次は入学試験で会いましょう。 またねソウスケくん」
女子トークに満足したアマネはギンを連れて帰っていった。