4章22『力の代償』
「さて、マスターも言ったことですし、本気を出さない程度に頑張りましょうか。貴方もせいぜい当機に傷一つくらいつける程度には頑張ってくださいませ」
そう目にも止まらない。そんな速さで固定砲台ホート・アーマードの足元にカマエルは行きそう宣戦布告した。
「キャハッ! 傷くらいつけられるっつうか、殺す程度に頑張ってやるよ!」
「口だけは達者なようですね。ですがその減らず口がいつになったら減るのか見物ですね。せいぜい楽しませてくだい
【峻厳】――〈十二翼の太刀〝剣翼〟〉」
そうカマエルが言うと足元に出来ていたターボエンジンのようなものが付いた甲装が姿を変え12本の短剣で出来た一対の翼になる。
カマエルはその剣翼で空を切ると〈エロヒム・ギボール〉を同時展開し〈二翼の太刀〝鱗甲〟〉――少し短い、元は長く刀身の部分に刺がある棘剣を作りその結果〈十二翼の太刀〝剣翼〟〉の12本の半分、3本ずつの一対の翼で滑空移動する。
それを追跡するようにホートの自動照準弾が連射される。それは機関銃のような機動性、連射性を持っていながら追尾弾な上に大きい。その弾はたちまちにカマエルを包み込み逃げ場がなくなるまで追い詰める。
「ほぉ、悪知恵だけは働くようで。ですが、これっぽっちでは当機を殺すなんぞ夢のまた夢のお話でございますね。」
そう煙幕とともに現れたカマエルはそれほどの力しかないのか、と蔑み挑発した。
カマエルを追い詰めた18もの自動照準追尾弾の動きはカマエルには遅すぎる。その18の弾は無残にも全て粉々に切断されホコリ以下の大きさにしかなっていなかった。それもほぼ同時にそれを行ったのだ。
その挑発に乗ったホートはとにかく積んである弾をただひたすらに乱射しまくる。それに援護するように戦艦の連射。
――この勝負もとより終いているのだ。
カマエルが弾丸を切ったその瞬間に……。
所詮、ホートの力は死体または自らを戦艦にすること。ただそれだけでしかない。すなわちホートの攻撃パターンはたった一つ砲撃それのみだ。……平たくいえばの話だが……
それに対しカマエルは弾丸を切りそれでいて涼しい顔をしている。そして何よりカマエルは本気を出していない。これで本気度1パーセントほどしか出していない。
カマエルの脳内ではアリンコの巣を虐める子供程の戦闘またはそれ以下そういう事なのだ。カマエルは……
こんな言葉を聞いたことがあるだろ。ペットは飼い主に似る。と……祈とカマエルの関係は主人と従者、飼い主とペットの関係でしかない、ならばカマエルにもその言葉は当てはまるだろう。カマエルは祈程ではないが、程なく強い。
そんな少しでもバケモノ級の強さを持ち合わせているカマエルと『戦っている』と認識をしているホート。戦いはこれからだ。そんな少年漫画の主人公みたいなことを思っているに違いないが、それは違う。元々カマエルには戦っているという認識はない。遊んでいる、または命令に従っているただそれだけでしかない。
遊んでいるけど戦ってはいない、命令に従っているが戦ってはいない。
多勢に無勢とはこの事なのだろう。たった1人に遊ばれているだけの艦隊。
「キャハッキャハハハハ! 死ね死ね死ね死ねね死ね死ね死ね死ね死ね! シネェ!」
「あなたにお似合いな低俗な言葉ですね……おや――」
つまらない。つまらない。面白くない。
カマエルの頭の中にはこの文字のみで満たされていた。
嗚呼、これほどまでつまらない遊びは他にはないですね。
もうクリアしかけあと一撃で終わりのところで渡されたゲームにどれほどの楽しさがあるの言うのだろうか。カマエルが陥っていたのはその状況だった。
推測でしかありませんが、艦隊を操るのにどれほどの力が必要なのかはわかりませんが、一つだけ言えることがあります。
――艦隊を使えば使うほど使用者の脳が壊れてゆく。このように
そして限界に陥り自ら破滅する。これはクリア寸前のゲームを渡されたのではない。最後の一撃をかましたあとエンドロールの所でそのゲームを渡されたのだ。つまりゲームはもう終わっていた。
自らの【異能】の概要を深く知ろうとしないで。
もう脳の殆どが壊れていたのだろう、幾1000ほどの艦隊を操っていたのだここまで耐えたのがおかしい程だ。それにトドメを入れたのは先ほどの全艦隊を使った乱射攻撃それで脳が焼ききれた――否、正しくない表現だった言い直そう。それで脳が完全に壊れた。
いつの世いつの世界も『強い力』を持つものはその力に溺れて死ぬか、それより強い力によって死ぬ。これは決まっている事だ。
弱いから力があるのであり、強い力には必ず代償がある。世界はそう決まっている、だから自分の力を知り制御しなければならない。
「無様ですね。自分の力に溺れて死んでゆくとは、滑稽極まりありません」
ホートが死んだことにより固定砲台が解け、辺りの戦艦も穴の空いた死体に戻ってゆく。脳損傷によるショック死なんと締りのないしだろうか。齢10歳で戦場に駆り出されそのような肩書きの死だ。そしてその狂気に満ちた何一つ未練が無い様なその姿。それはまるで、こんな戦場にいる自分からやっと解き放たれたようなそんな顔だった。
「自分の力に呑まれていたのでしょう。ここはひとつ安らかにお眠りください。」
そう言ってカマエルがその場を離れると一筋の風が横切った。




