4章20『絶望の再来』
「――空間。ですか?」
「ああ、確かにそう書いてある。」
「ではその言葉はこのことですね、マスター。」
そう言ってまだ誰も見ていなかった暗くただ床と天井があるだけの広大な空間を指さした。
「もしかして、ここから下に続く階段を探せということでしょうか。」
そうエレインが絶望的な表情でそう言った。すると絶望が連鎖するようにあたりに広がっていった。
だってそうだろう。この目印になるものも何も無い世界で地下への階段を探せ? ふざけてやがる。まずどうやって探すのよ。
「歩くしかないのか?」
「此方最近喋ってない気がするのは気のせいか?」
「ええと、そんなことないんじゃないかな?」
「でも、此方活躍ない。しょぼーん。」
そう可愛く体育座りをし一ミリも歩いていないのにもう折れてしまったアクア。
でも確かにアクア何も出来てないな。
「まあ、止まっていても何も起こらないわけだし歩くか。いずれ見つかるだろう。」
そんなことを言ったのを後で祈は後悔することになったのだが、それはまた別のお話である。
「マスター。一時間が経過いたしました。」
そういったのは他でもないカマエルだった。
この暗い中をオベロンの光魔法を永続的に発動させて光源にしつつほぼ無言でただひたすらに歩いていた。何故って? 疲れるからに決まっている。
「カマエルどうして分かるんだ?」
「当機は体の半分が時計仕掛けの機械で出来ています故に、時間もわかるのです。」
「へぇ、便利なんだな。」
「その他にも歯車で作られているものの性能はだいたい使えます。」
「へぇ、例えば?」
「そうですね。ギアをフル回転し超高速で走ったり、先程言った通り時計の役割をしたり、このようにしてドリルにすることもできます。」
「それは、〈エロヒム・ギボール〉とは関係なく使えるのか?」
「いえ、歯車自体にそれほどの力はないので、〈エロヒム・ギボール〉なしで出来るのは時計くらいです。ちなみに言いますとドリルが〈九翼の太刀〝回転〟〉で、高速で走れるのが〈十翼の太刀〝疾走〟〉です。〝疾走〟の方は今の段階でもできますがネジが切れてしまいます。それは命の危機です。」
「ほへぇ。」
そんな返事で第1回の会話は終わってしまった。
「マスター。五時間が経過いたしました。」
一時間が経過する度にカマエルがそう言っていることによって祈達のやる気がどんどん失われていることをカマエルは知らない。
歩き続けて五時間、計算をすると一般的に大人の歩く速度は時速4キロと言われているので、4キロ×五時間=20キロほど歩いたことになる。
「見つからないー!」
そう自暴自棄になって誰もが口にすることを惜しんでいた言葉をアクアは言ってしまう。
「一旦休憩するか、色々出せるし。」
そう言って祈はアヴァロンのグィネのスキル【貯蔵】を配布され、個人用の蔵と共用の蔵が使えるようになっているのだが、その中にはものすごい量の食料が入っている。何せ、この旅のためにアルフヘイムの城からごっそり貰ってきたのだから。
「うわぁ。ちょうどお腹すいてたのー。いっただきまーす!」
そう言って祈が出した出来立てほやほやの料理や果物をアクアは貪り出した。
それに釣られほかの全員も「いただきます」と挨拶をし食べ始める。
何せ疲れている時の食事だ。喋る気力っていうものが湧いてこない。ただ静かに食べるだけ。
規格外の力を持った祈でさえ【太陽】の30分の1のせいで体力が少なくなっているとはいえ結構疲れていた。ちなみにカマエルは疲れた顔を見せず逆に余裕な顔ぶりだった。
「なあ、何でカマエル疲れてないんだ?」
「それはですね、当機先程から滑っていたもので。」
「へ?」
祈はその以外な言葉に唖然な声を漏らす
「ですから滑っていました。床を」
「それはわかる。誰も会話が滑っているなんて思ってないだろ。そうじゃなくて、どうして床を滑れるんだ?」
「あれ? マスター。もしかしてお気づきじゃなかったんですか? この床ベアリング式になっております。」
「ベアリング? ベアリングって丸太で移動させたあれか?」
「はい、マスター。」
祈はマジかみたいな絶望的な表情で嘆いていた。
何故ならば、歩き必要性がないからだ。
「べありんぐ? って何ですか?」
そう聞いたのは興味を持ったティターニャだった。
「ベアリングってのは、簡単に言うと回転するものの力でものを移動する事だ。例を言うならば丸太をたくさん横にして並べてその上に重たいものとかを乗っけて押すと移動させられるって言う移動技術みたいなもんだ。」
「なるほど、それがこの床になっているということは、歩く必要がなかった。ということですね。」
「それを言わなかった俺の努力は……。」
「ふぇっ。すみません旦那様。」
「いや、謝るのは俺じゃなくて……」
その言葉によって絶望に陥ってしまったそこの人たちだろ。
それを言わずしてもわかるだろという感じで目線をそちらの人たちに向けた。
これを悪夢と言わずしてなんというだろうか。五時間の労働はなんだったのだろうか。
「まあ、いいじゃないか。歩かなくてもOKになったんだぜ。な?」
そう言って祈は完全にブルーな方々を励ます。
「ですがマスター。このベアリング加速システムがなく、最高でも時速4キロ――歩いているのと同じ速度しか出ません。」
そのカマエルの言葉に祈はそんなことは言っちゃダメでしょ。みたいな目で見た。
するとカマエルは
「すみませんマスター。意図が汲み取れず。」
いや意図が汲み取れるだのなんだのほんだのより、これは優しさの問題だと思うぞ。と突っ込むのは無駄だと思い、祈は口を閉じた。




