4章18『第三の試練〝炎獅子〟』
「ここ暑いですね。暑いのは当機好まないのですが」
「歯車が膨張するからか?」
「はい、マスター。大体はそんな感じです」
「あ。着いたな。じゃ」
祈は頭の中で大雨の想像をし、魔法を発動させる。
祈はチート能力の持ち主で、想像をするだけで魔法を使えることが出来るのだ。
そしてザザザザザザザザと音が聞こえてきたと思えば、その灼熱火山地帯の明かりという明かりの元の火をすべて消した。ついでに近くの所に少し多めの池を作っておく。こうすることでアクアにももしかしたら出番が出てくるかもしれない。
って言うか……
「炎獅子の火が消えてないんだけど……」
「このデカイだけの火の粉を倒せばいいのですか? マスター。」
「多分そうだ。」
「では、【峻厳】――〈七翼の太刀〝圧迫〟〉」
カマエルが【峻厳】の〈エロヒム・ギボール〉を展開しそう言うと炎で燃え盛っている獅子を透明な何かで球状に囲った。
「炎なら酸素がなくなれば消えるはずです。」
「って言うか。そこまでの科学力はあるんだな」
「サンソ? 何ですかそれ?」
カマエルの世界ヘブルは頭のいい方の世界ということだな。それに比べこの世界アルフヘイムはホント知能水準が低すぎる。
「はい、マスター。これくらいは当たり前の範疇です。まあ、羽虫並みの知能しかないあなた方にはいくつになっても分からないのでしょうが」
それから少し――と言っても1時間くらい待つと炎獅子の炎がすべて消えた。
「【峻厳】――〈並行発動〉――〈五翼の太刀〝大鎌〟〉」
カマエルがそう言うと球状ドームの一番高いところに大きな鎌ができて済みたいに黒い燃え尽きた獅子を半分に切った。
「ホントカマエルって万能だよな」
「はい、存じております。」
炎獅子は確実に殺した。だが、どこも変化がしたようには見えなかった。
もしかして、これが目的じゃない?
「開きませんね。」
そうエレインが言っているところをどこかから高笑いが聞こえてきた。
「ふぉっふぉっふぉっ」
「サ〇タさんはお呼びじゃねぇ。くたばれ。」
そう言って祈は炎の弾丸を放った。だが、その弾丸は見事かわされた。
「マスターあれはサ〇タさんじゃありません」
そう的確なツッコミがカマエルによって入れられる。
「じゃあ、セールスマンか、なおくたばれ。」
そう言って祈は二回弾丸を放つが、また躱される。
「パパ、セールスマンではありません。あれはただのご老人です。」
「あのすいません謝りますから、話す前に攻撃してくるのはやめてくれませんかのお」
「どうせお前を倒せとかなんだろ? だから早くくたばりやがれ。てめえみたいな老いぼれおよびじゃねえ。」
「どうして、さっきからあのご老人に対してそんな口悪いんですか?」
そうティターニャが大事なことを聞いた。
だから俺はこう応えよう。
「よくぞ聞いてくれたァ!」と……
「それはだな、あいつが昔見たアニメの悪役で俺の気に入っていたヒロインを殺しやがった奴に似てるんだよ。そんなやつは容赦しねぇ。俺のティターニャや、エレイン、カマエルに触れる前に今すぐくたばれ。」
「そんな? 何言っているのか全くわからないのに何故か物凄く悲しいのお。」
「旦那様」「パパ」「マスター」
そう少し的を射抜かれた3人は声を漏らした。
「まあ、わしがこの試練の黒幕。ファイ、グボォ!」
そう老人が自己紹介をしている途中に祈は老人にパンチを入れた。
「必殺技名叫んでいる時堂々とまっているとか、自己紹介している敵を待っているとかアニメだけの話だ。早くくたばれ。」
「酷くないかのお……。何を言っているか全くわからないが酷くないかのお。」
「知ったこっちゃねぇ。てめえを長く生きさせていたら絶対後悔する。」
「ではこうなったら仕方が無いのお、わしを殺してみせるのじゃ。少年よ」
そう威勢よく老人は叫んだ。
それに気だるそうに祈はこう答える。
「だーかーらーさっきからそのつもり。あんだすたん?」
「ええい。いいわ! 灰塵と化せ【イグニス】!」
そう老人が叫ぶとあたり1面に炎が灯り出す。
炎使いか……。それはいい……
「うわー。ヤベー逃げろー。」
そうあたかもわかりやすいように祈は棒読みでそう喚いた。
それを追いかけるように老人の炎が地を這う。
よし……引っかかったな……。こういう時テレパシーかなにかがあったら便利なんだけど……。
「逃げてばかりか? さっきまでの異性はどこへ行ったのかのお?」
「いや、これで勝てるようになっているんでね。」
そう祈はガッツポーズとかそういう行動ではなく人差し指を口に当てて『静かに』のポーズをとった。
あまりお話に出てきていない祈以外の人たちは老人について話をしていた。
「あの赤い髪や瞳。焦げた茶の肌。サラマンダーか」
「サラマンダー? 聞いたことがありません。」
そう会話をしているのはオベロンとエレインだった。
「確かに聞いたことがありませんよぉ」
そのエレインの言葉に乗っかるようにシュタが言った。
「サラマンダーというのはな、炎の精主に攻撃系の個性に特化した妖精部族だった。」
「だったとは?」
「そのままの意味だ。アクア君と同じく絶滅した。……と思われていた種族だ。」
それから時間が少したち時間は大体、祈が棒読みで逃げ出したくらいだ。
「これは?」
そう違和感に気づいたのはカマエルだった。
「どうかしたのですか?」
そのカマエルの呟きにティターニャはそう質問する。
「僅かですが、当機達の周りに酸素の膜がはられております。」
カマエルが気がついたのは、この場にいる祈の仲間全員に酸素の膜をはるという魔法処置をしていたことだった。
何故それをしたのか。その理由は明確だった。
「それってどういう事ですか?」
「先ほど、マスターから二つの魔法反応がありました。一つは風魔法と思しきものこれは酸素の幕をつくる為でしょう。そしてもう一つは地魔法の反応でした……。」
そうふたりは会話をしていると祈が『静かに』のポーズをしていることに気づく。
それは、そのままの意味だ。あの言葉は老人へ、そしてその動作はカマエル達へ、それは、黙っていろ。そういう事だ。まあ、それに気づいていたのはカマエルとエレインしかいなかったようだからあまり意味は無いものだったが。
「作戦。という訳ですか、マスター。」
それからというもの祈は息も切らさず老人の這い寄る炎から逃げているばかりだった。なんの攻撃もしないで……
「さっきから逃げてばかり。これではつまらないのでは? そしてわしを殺せないぞ?」
「だから何度も言っているだろ? ジジイ。それに気づいていないのか? 死の刻印がもうてめぇに焼き付けられているってことに。」
「なに? どういう事かの?」
「それはその時になったらわかるさ」
そう祈は一生懸命とは程遠い余裕ぶった感じに炎から逃げていた。




