4章16『マスター契約』
「あ、そういえば当機とした事がマスター登録をまだ済ませていませんでした」
「シリアス展開どこいった!?」
「シリアス? はて、何のことでしょうか? それよりマスター、左手を拝借してもよろしいでしょうか?」
「え? 良いけど。」
そう言われ祈は自分の左手を差し出した。
すると、左手の中指をカマエルがいきなり咥えだした。そして、そのまま歯でガブリ。
え? 痛いよ? そして仄かにエロいよ?
「これより当機はマスターの所有物です。いついかなる時も【忠義】の名の元にお供しそばに居ると誓います。」
「え? あ、はい。よろしくな、カマエル。」
「当機の半分が機械で出来てます故、血液を採取いたしました。」
「じゃあわざわざ咥える必要なくない?」
「サービス的ななにかでございます。」
そうシリアス展開が来ると思いきやそんなほのぼのとした会話をしたところでやっとちゃんとしたシリアス展開になる。
「それではマスター。マスターのお話と行きましょうか……
マスターの血を解析したところ、この世界の血それも王族の血ともう一つの世界の甚大ではないそれはもう神にも等しい力がある血が検出されました。」
「え? じゃあ俺は天使と神様の子ってことか?」
「はい。血液上ではそうなります。
先ほど王族と言いましたがあれは多分、【王冠】のメタトロンのものでございます。」
「メタトロン?」
「はい。当機もはっきりとしたことは分からないのですが、昔この世界を見捨て出ていったと残されております。今はその娘にあたるヨエルが国を率いております。」
ヨエルとメタトロンって同一の天使じゃなかったか? とか思いつつ祈はカマエルの言葉に耳を傾ける。
「生命の樹のセフィラ守る守護天使として認められた当機達〝熾天使〟とメタトロン、ラツィエル、ザフキエルそしてサンダルフォンこの11人の天使の中で唯一その座を降りた裏切り者でもあります。」
「そして今はその【王冠】――ケテルを守っている天使が不在なのですよ。だから、生命の樹が一大事なのですよ。」
「生命の樹ってなくなったらなにか被害があるのか?」
生命の樹について気になった祈は、そう聞いてみることにした。
「そもそも生命の樹というのは、〝天使〟の原点と言われています。
あれが失われると、〝天使〟は絶滅、当機たちは歯車をひとつ抜かれたように正常には動かなくなり、次第に崩壊します。
それを守るため当機達にはセフィラと呼ばれる〝守らなければいけないもの〟を守り続けているわけです。」
「その〝守らなければいけないもの〟って何なんだ?」
「はい、マスター。当機ならば【峻厳】です。それ以上もそれ以下もありません。」
「ワタクシならば【栄光】を守らなくてはいけないのですよ。」
「ええと、基本的にはどうするんだ?」
「当機達は特に何をするわけでもありません。強いて言うならば【峻厳】し続けるのと、当機達の国を守り続けることですかね。」
「じゃあそれをメタトロンは破ったと……」
「はい。メタトロンが守るものは【王冠】です。ですが【王冠】という物自体を守るわけではなく〝思考・創造〟を守っています。」
「〝天使〟は生命の樹で生きている。ならば〝悪魔〟は何で生きているんだ?」
そう祈は新しい疑問を投げかけた。
それもそうだ、〝天使〟は生命の樹で生きているとすれば〝悪魔〟も同じく何かがあるはずだ。
「それはですね。邪悪の樹という誰も見たことのない扉があるらしいのです。」
「じゃあサタンも分からないのか?」
「はいぃ。〝悪魔〟はそれで生きているのだと言われていますよぉ。」
「でも誰も実態を見たことがないと……」
そりゃあ凄いなどこにあるんだろ?
そう考えながらそう言葉を漏らした。
「邪悪の樹は記述によると〝守るもの〟を有さないのだそうです。」
「但し、その前にはケルベロスという三つ首の番犬がその樹を守っているそうですよぉ。それにぃ、〝守るもの〟ではなく〝行ってはいけないもの〟が設定されていますぅ」
ケルベロスさん、やっとちゃんとした元の職で認識されてる。地獄の門の番犬ケルベロスそんなこともう聞かなくなってたなー。ファンタジー世界では普通のキャラみたいな感じになって〇〇の番犬ならあっている奴もあるのに。
そうかそうか、やっと職戻れたか。
「〝行ってはいけないもの〟? それってどういう事だ?」
「ええとぉ、セフィラと同じくクリフォトと呼ばれているものですぅ。私たちは国を有さないが為に己個人に課されていますぅ。ちなみに私は【無神論】ですぅ。」
その後、サタンは七つの大罪――。つまり〝魔王〟の面々が必ずしもクリフォトを保有している訳では無いのだということを言っていた。
まあ、そこら辺あたりはうっすらと知っていた。知ってたよ!? 脳の隅にはあったよ!? ほんとにって、俺は誰に言い訳をしているんだ……?
と、馬鹿らしくなっていた頃に、祈はその結論を告げた。
「じゃあそのメタトロンという生命の樹の【王冠】のセフィラを守っている守護天使が俺の血に半分混ざっていると」
「はい、マスター。懐かしさはその血のせいかと。」
「それにしてもビックリだな。俺本当は地球人じゃなかったとは。」
「チキュウ? それがマスターのすむ世界なのですか?」
地球の部分はその意味を理解していないように片言に、そしてその後に興味津々そうに聞いてくる。
「ああそうだ。魔法もなければ特に突出したところもない。強いて言うならばものすごく進んだ科学力と最近ばらまかれた異能ってやつが使えるくらいかな。ここほど自然も豊かじゃないし。」
「科学力。ですか……」
そうカマエルは息を呑み、もっと教えてみたいな目でこちらを見てきた。
「そうか、カマエルは半分機械だもんな。」
「はい、マスター。異世界の未知の科学力すごく興味があります。」
「この中に異世界の書がいっぱい入っていると思うから読んでいいぞ。はっきり言って科学力の説明とか難しすぎるわ。」
そう言って祈はスマホをぽんと軽く投げた。
本は結構昔に知識欲が深くなってジャンジャンネットで購入してそのスマホの中に大量に入っているからな。そのスマホがAI化したらとっても優秀になりそうなくらいはな。まあ、あの中に入っている88647冊の本の内容すべて覚えているか教えようと思えば教えられるけどこういうのは自分で学ぶからこそ意義があるってもんだろ。カマエルの〝守らなければいけないもの〟は【峻厳】だしな甘えは許されません。
「マスター。この文字読めないので教えて貰っても宜しいですか?」
「ああ、いいぜ。でもカマエルならすぐ覚えてしまうだろ。」
「当然じゃないですか。そこらの脳の無い駄犬と違って当機の脳はいつも最大限使われていますからね。」
「そうか。じゃあ頑張れよ。」
「はい、マスター。」
そんな会話をしていると祈の体がいつものように眩い光を放つ。
【転生】だ。本来ならばこのように光を放ち転移するのが【転生】の力なのだが、服の身体では魔力やその近辺をあまり使わないようにしていた。――いや、本当は光る力を失ったと言った方が正確だろう。祈の意思ではなかったわけだから。
「ちょっくら異世界行ってくるわ。さきホドに向かっていていいぞ。」
「行ってきます。」
そう言って祈がその光とともに消えると、動力源を失ったエレインはその場からうっすらと消えていった。




