4章15『権能』
「――。――パ。――パパ。パパ?」
そう何度も呼びかける声が聞こえる。
これは……エレインの声? カマエルのマスターって声やサタンの祈さんという声も聞こえるな。祈は起き上がった。
体が重いな……。痛って。
「あれ。身体が元に戻ってる。」
目の筋肉が重かったが力を入れ開いてみて自分の体を見た。さっきまで【虚飾】の権能だの何だので、美少女の体だったのだがそれも含め元に戻っていた。筋肉を動かすために脳から出る電波が伝わるのが感覚でわかった。口も動かすのがだるいと思うことがあったが特に気にはしなかった。
「パパ、パパッ。おかえりなさいパパ。」
「ああ、ただいま。」
そう2人は感動の再開――いや、やっとの事で取り返した祈の身体の喜びに浸っていた。
それからひと間があき、喜び終わった祈達はカマエルの声を聞きいった。
「さて、これからどう致しましょう。ここから一番近いところだとすればそこにいる【正義】や【栄光】のラファエル・ジャスティスさんの国が一番近いと思われます。」
「ここは中立域ですからね。」
「大体はわかるんだが、中立域ってなんだ?」
「それはですね、マスター。国と国の間と言えばマスターにも分かりますか?」
「要するにですね。このように国と国との境目に合わさっている国境線がなくその代わりにこのような中立域と呼ばれる地域があるんです。パパ。」
そうカマエルの大まかな説明と、エレインのナビゲーション用マップを使った説明で大体は把握した。
要するに二百海里水域以降の海という事だ。
「という訳で【栄光】の国ホドに行くということでよろしかったでしょうか?」
「ああ、そうするか。」
「立てますか? マスター」
「多分大丈夫だ。ありがとな。」
そんなやり取りをして祈は立ち上がるとホドがある方向に進み出した。
「そういえばサタンは着いてくるのですね。」
「ダメでしたかぁ?」
「いや、良いよ。頼むから暴れないでくれよ?」
「分かりましたぁ。努力しますぅ」
そんなやり取りをしている最中祈はある疑問を見つけた。
「そういえば、【寛容】の権能って何が使えるんだ?」
そう、祈は声を漏らしスマートフォンで調べた。
そこにはこう書いてあった。
・〝魔王〟や〝熾天使〟を自らにとどめることが出来る。
・一定時間どんな攻撃も無効化。(受けて入るのだがそれと同等の反対勢力で無効化しているだけ)
へぇ〜。無効化系の権能か〜。攻撃系とかしか無かったからな。これで願に守ってもらわなくても大丈夫そうだな。
「どんな権能なんですか?」
「当機も気になります。」
「私もですぅ」
そう言われ祈はその文章を音読する。
すると、三人はビクビクしながらこちらを見ていた。
何でだ? ああ、そうかこいつら〝魔王〟と〝熾天使〟だからな。そりゃあ怯えるか。
「大丈夫だよ。そんな事しないって。」
「絶対キスしないでくださいねぇ」「絶対当機に接吻しないでください。いえしても構いませんが」「絶対キスしないで欲しいのですよ」
そう三人の声がシンクロして響いた。
「え? なんでキス?」
「それは、キスをすると吸い取られるんですよ。魂が」
「マジで。」
「はい。大まじです。」
そんな会話をエレインとすると疑問が解けた。良かったー。
そう考えながらスマホを見ていると、もう一つ知っている単語があった。
「やっぱり【虚飾】の権能も残ってる。」
「本当ですかマスター。【寛容】の効果でしょうか? 」
「でも確かに、あの時グロウさんはプライドさんに吸い取られました。」
「じゃあ、グロウさんが置いていったということですねぇ」
「多分そうだろうな。」
ただその権能は大掛かりな変装でしかなく、〝創造主〟が作り出した不良品の中で一番弱い力なのだとか。
そりゃあそうか、変装はその力自体は強くないしな。
「そういや、カマエルの【忠義】ってどんな権能なんだ?」
「【忠義】は倒す事に強くなる権能です。あと重力と爆発ができます。【峻厳】は歯車を操れます。」
「なるほどな、歯車は狂わない限りただそれに忠実に回るか、【忠義】にピッタリだな。でも峻厳とどんな関係が?」
「それはですねマスター。特に意味はありません。」
「そうなのか。それでサタンの【憤怒】はコンボと攻撃を受ければ受けるほど強くなるだろ。」
「はいぃ。あってますぅ」
「それで、【正義】と【栄光】のラファエルは何が出来るんだ?」
そう振り返りラファエルに聞いた。
「【正義】の方は風を操ったり治癒や浄化ができるのですよ。
【栄光】は特に何も出来ないのですよ。」
「え? どういう事だ?」
祈はラファエルのその言葉の意味を聞いた。
「それはですねマスター。当機が自らの体を操っているだけで、それにどうせならと名前をつけただけでございます。」
「じゃあ、本来なら使えるのは【忠義】の一つだけと……。」
「はい。そうなります。機械仕掛けにすることによって歯車を言いように使っているだけでございます故。ただの当機の努力の結晶と考えていただければ。」
「そういう事か。」
そういえば、あまり気にしていなかったが、ラファエルってすっごい格好しているな。いるだけで所内の風紀を乱してしまいそうなその出ているところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる体型。そして今にもボタンがはじけてしまいそうなミニスカの警察服。橙色の髪に、白い艶やかな肌。
どうして俺の周りってこんな美少女多いんだ? もっと口に出して言うのはなんだがあれな子だって居るだろ。
まあ、それに越した事はないのですが。神様まじセンキュー。
「え? でも歯車を遠隔操作って出来るのか?」
「それはですねマスター。歯車一つ一つに仕掛けがありましてですね。脳とつなぎ動かしているのです。マスターも見たと思いますが自己再生プログラムも入っていてとても優秀なんですよ。」
「!? それなんてチート?」
「いえ、チートなんてそんな。マスターに比べれは茶番のようなものですよ。その甚大なオーラといい、異世界人とは言い難い波長。マスターは本当にニンゲンですか?」
「その通りだし、そのつもりだよ。」
「そうですか。懐かしい感じがするのは気のせいでしたか。」
「ちょっと待って、それどういう事だ?」
「……はい。」
そうカマエルはシリアスふうな口調でそう言った。




