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4章11『お片付け』

「さ、帰りますか。祈さんは泊まるところもお金もないでしょうから仕方ないので付いてきますか?」


「あ、ああ。お願いしてもいいか。」


「仕方ないですね。祈さんは私の命の恩人です。襲われたとしても拒否しませんよ?」


そう無表情にミティは言う。


「いやいや、そんな事しないから。」


「そうですか。触るくらいでもしなくていいんですか?」


そう言ってミティは自分のない胸を強調する――いや、しようと頑張っている。


「では帰りましょう。着いてきてください、こちらです。」


そう言われて祈はミティの横をミティの小さい歩幅に合わせて歩く。祈は女の子と最近絡みすぎてそういう行動が多くなっている。しかも天然だ。

ついでに言うとこの世界馬車道という地球で言うところの車道みたいなところと、歩道があり、歩道の外側要するには馬車道側を歩いているさすがは天然ハーレム野郎だ。

公園から歩いて5分。祈達はミティの家に着いた。

ミティの家は質素でもなくかと言って豪華でもなく至って普通な民家だった。


「私、ここに一人暮らしなんです。」


「へぇ、料理とか掃除とかひとりでしてんのか。」


「はい。料理は錬金術師なら出来て当たり前です。容量は変わりません。正しい分量の用意された材料を用意された方法で錬金魔法と同じです。

掃除なんかは暇したらしているようにしているの始終しています。」


この光景が何となく思い浮かぶ。たしかにそういうとこ機にしそうな性格だ。天然でお茶目だけど。


「さあ、中に入ってください。」


そう進められ「お邪魔します」と言って祈はミティ宅に入った。

一人暮らしと言うには少しデカすぎるような内装で性格同様シンプルな見た目だった。

それはいいのだが……。


「どうして本やら服やらが下着やらが散らかっているのか説明してもらえますか?」


祈はその玄関先ですら足の踏み場がないほどの散乱ように驚愕と呆れたようにそう言葉を発した。


「ええと、片付いてますが?」


あ、これは掃除ができない人の発想だ、そう祈はミティのその言葉から察した。

こういう思考の人は、この位置の方が良い、ここが所定地だと言い張る人たちだ。ものすごい掃除に不向きな人種だ。

だがしかし、ちゃんとこの光景が目に入っていないだけかもしれない。いや、きっとそうだ。ミティが掃除ができないわけがない。そう信じた祈はミティに一応こう聞いてみることにした。


「あのミティさん? 一応聞いてみますがこの状況を見て片付いていると言っているのですか?」


「え? そうですよ? 何を仰っているのですか?」


「何を仰っているのですか? じゃありません。これは汚いでしょ。Gが這い寄る混沌がワシャワシャでしょ。」


「この家には虫1匹、汚れの一つ、ホコリの1粒もありませんよ」


「いや、この状況を見るとそうかもしれないけど、違うでしょ。この散乱している物たちは?」


「そこが所定地。バッチリ一ミリのズレもない。」


結論。やはり、ミティさんは掃除はできなかった。

そして、今から大掃除大会開幕。


「いや、気にするところそこ? ちゃんと棚にしまおうよ。」


「ターナー? フライ返しのことですか?」


ミティはキョトンとした感じにそう答えた。

ターナー=フライ返しが出てくるとはなかなかの料理通、料理の方は大丈夫そうだ。

……じゃなくて


「いやいやいや、違うから収納用の……えーと、ものだよ。」


棚なんて説明する機会が無いから説明するの難しいよな。だから言葉が詰まるのは仕方が無いものだ。


「へえ、最近はそんなものが……」


「ミティはおじいちゃんか何かですか?」


「いえ、私は女性なのでおばあちゃんですよ。」


「そうじゃなくて、片付けるぞ。」


「うぇぇー。」


そう初めて感情がこもっていた声を聞いた。嫌だーという負の方向の感情だったが。

と言ってもどこから片付けるか、本、本、本、服、下着、本、本、本と言った感じで散乱していてそれが玄関から上がれない状態にある。ここでこんなに凄いのなら奥はきっと大変なことになっているぞ。祈は息を呑んだ。


「とにかく、収納に大切なのは広げる、分ける、しまう、捨てる。この四つだ。今こんな状況だから特に最初の広げるっていう項目はクリアしていると思うが……。よくこの場で生活していたな。」


改めてその光景を見るとふとミティにそう言いたくなって仕方がなくなっていた。


「捨てることなんて出来ませんよ。この本もこの本も、内容はすべて覚えていますが読むんです。」


「え? 内容全部覚えてんの。マジか……。ジャいらないな。」


「ふぇぇ、いるんです。必要なんです。」


その感情がめちゃくちゃこもっていそうな言葉もすべて無表情に。それがミティのスタイル。普通のギャグ漫画時空ならばここは半泣きしているところだ。


「じゃあ、捨てるは極力なくすとして、分けるぞ。」


そう着々とまずは手前から、服類、本と、少しずつ分けてゆく。さっきから服類と本としか言っていないのは、本当にそのふたパターンにしか別れないからだ。

服類を分解すれば項目は増えるとは思うが。祈にそこまでの知識はありません。

それから小一時間が立ち、少し広めな玄関前廊下とミティの部屋の片付けという名の塔を作っただけの分別が終わった。

小一時間をかけてもそれくらいしか出来ないのだからそれほど広い。今やっと、広い家の大変さを知った祈であった。


「この家どんだけ広いんだよ。」


その広さはマンションのひと部屋ではなく、ひと家だ。ついでに言えば二階建ての。

気が遠くなりこの作業をしているうちに眠るのですら忘れそのまま祈が消えているかもしれない。


「ここら辺で意外と広い家で通っている建築家の家ですからね。」


「なんでそんな家作ったんだよ。今だけその建築家恨むわ。」


「はい、同感です。」


「いやいや、元はちゃんと片付けてないからで……いや、辞めよう無駄な争いは体力を削るだけだ。」


それから四時間ほどが経ちやっと片付けが終わった。

だが、圧倒的棚不足やらなんやらで今日片付けるのは辞退。残りは明日ということになり、家に少なからずとあった棚で片付いたミティの部屋とキッチンとダイニング、そして、本とかがあまり散乱しておらず服類が散乱していたお風呂場のみが祈達の行動場所だ。

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