4章9『魔法のお話』
「クエスティングビースト?」
祈はその正体とだいたいの外見は想像ついたがありありとそう聞いてみた。
「そうか、地上から来たからわからないもんね。いいよ。クエスティングビーストって言うのは、このアンダーグラウンドの厄災です。」
「厄災? 何それどういうこと?」
「この世界アンダーグラウンドは錬金魔法が発達した世界なんです。」
「へぇ〜。錬金魔法がね。」
アンダーグラウンドは主に錬金魔法が使われている。
その祈のあいずちを気にせずに再び話し始めた。
「その他に呪術魔法もごく一部ですが強い勢力を持っています。」
「呪術魔法? 地上にはない魔法だ。」
地上では特に六属性と呼ばれる火、水、地、風、光、闇。これらの属性魔法と呼ばれる魔法が流通している。錬金魔法などはあまり使う人はいない。
「呪術魔法とは、人に悪影響をもたらす、条件により発動する魔法や、半永続的に続く魔法の事です。」
「つまりデバフ魔法か……」
「でばふ? それはよく分かりませんが多分そうです。ちなみに私は錬金魔法が得意です。見せてあげましょうか?」
「いや、今はまず早く街に行って傷を止めるのが先じゃないか?」
祈はそう錬金魔法が使いたげな顔をしていたミティにそう言った。
「地上ではどんな魔法が発達しているんですか?」
「ううんと、属性魔法かな。」
「属性魔法? 何ですかそれ?」
「火、水、地、風、光、闇の六属性を操る魔法って説明するのが一番かな。」
「そんなことが出来るんですか?」
「ああ、今身体とともに魔法も取られているけど、身体が戻ったら見せてあげるよ」
「約束ですよ。」
祈はその言葉に「ああ」と答えた。
「見えてきましたよ。あそこです。私の住んでいる街アルタールです。」
アルタール? たしかドイツ語だったような。
「ああ、そうです。クエスティングビーストでしたよね。」
そうミティは話がずれているのを自分で気づき戻した。
「クエスティングビーストって言うのは簡単に言えば錬金魔法が失敗。した姿です。」
「失敗? 魔法も失敗するのか?」
「はい。例えば自分の実力に見合ったものでないと失敗してしまいます。」
「なら、クエスティングビーストいっぱい存在しているんじゃないのか?」
「いえ、そうではないんです。クエスティングビーストは例外です。力無い人が夢見すぎたんです。」
「例外? じゃあ何、普通なんてあるの?」
祈はそう問うとその問に対してちゃんとこう答えた。
「はい。普通ならば錬金魔法が失敗するとホムンクルスという理性無き人間に成り下がってしまいます。」
ホムンクルスって言ったら錬金術で作られた人造人間の事だ。
だがこの場合は違うらしい、人間が人造人間を作るのではなく、人間が人造人間になってしまうらしい。
「じゃあその例外がそのクエスティングビーストってことか。」
「はい。それは言いました。」
「アハハ、そうだな。」
祈はそう笑い、それに加わりミティが無表情に「ふふふ」と笑った。
「それ以降、その行為は禁忌となった。それは……」
「――それは?」
人間が開き祈は息を呑んだ。
「――人体錬成です」
人体錬成。それは錬金術というジャンルの中でタブーと呼ばれる存在。
それを犯したバカがクエスティングビーストになった。という事か……。
「自業自得だな。」
「ええ、激しく同意です。その自分勝手が何千人という命を奪っている訳です」
そんな被害が……。そいつの自分勝手がそんなにもの被害を及ぼしているだなんて。
「あ。着いたみたいですね。」
「本当だ。」と祈はミティの言葉に答えた。
その街の外観はキャメロットのそれと酷似していた。レンガと木を使ったヨーロッパ風建築。本当にどこからどこまでも似ていた。
ここに来るまでの風景、このアーサと正反対なのにどこか似ているところがあるミティ――パラミティーズ・グランドアルケミック。名前までまるで正反対。
ここまで似ていると過去のあれこれがフラッシュバックしてきて少し悲しくもなる。
「近くのお医者さんに行ってもらえませんか? 道案内するので。」
「うん。いいよ。流石にここまでしておいて放り投げたりはしないから。」
「それもそうですね。あ、こっちです」
そう言ってミティは右側を指さした。
そこから少し三分ほど歩くと表札に『ドクターの病院』と書かれた目的地についた。どうやら読みはできるっぽい。アヴァロンと同じ言語だな。言葉も通じるし。
それにしても『ドクターの病院』って安直すぎる名前じゃないか? ドクターってきっと名前だろ。
「ちわーす。」
そうミティは無表情なのがおかしい言葉をありありと発した。
「ミティってどうしてそんな無表情なの?」
なんというか棒読み感が激しいというか。
「私、感情表現が出来なくて。難しいですよね。」
「まあな、それは否定しないわ」
そんな話をしながら医者の方が来るのを待っていた。
まあ、感情表現が出来ないだけの無表情キャラは意外と可愛いとか思う人多いからな。お茶目な無表情キャラはそれだけで需要がある。
冷たいものを思わせるようなサファイアの瞳、白銀の雪を思わせるサラリとした短い髪、それと同じように雪のように白い肌。ペッタンコな胸。それら独自のパーツパーツがお互いを高めあって一つの造形美、一つの完成した彫刻そんな感情表現薄の少女と話ができているのは彼女が天然なお陰だろう。
「でもさっきも言ったと思うが感情表現豊かだったらもっと可愛いと思うぞ?」
「それは、今はあまり可愛くないということですか?」
「い、いや、そんなことは無いよ。可愛い可愛い。」
「そうですか。そんなことよりそろそろ来ますよ。ドクター。」
「ああ、そうか。」
そう俺が返しているとガチャと扉が開く音がし、その奥からしっかり者のお姉さん風の白衣を着た女性が来た。
「むむむ……さっきまでミティの声がしてたと思ったのだけれど?」
「お姉さまこちらはミティ様ではありません。ミティ様はおぶられています。」
その奥から明らかに仕事してなさそうな白衣の少女がそう言った。
何なんだ? 外見や感情系と性格が俺らの世界と一緒じゃない? というより反対?
そんなことを祈は頭によぎる。
確かにこの世界は、反転している。
明らかに無表情キャラな外見、そして実際その通りなのだが中身はおちゃめな天然。
そして明らかに頼りがいのありそうなお姉さんは、しっかりして無く、明らかに無職で親のすねかじってそうな少女はしっかり者。
人は見た目によらないとはいうものだが、ここまでとなると少し怖さを感じた。
「ああ、こっちがミティか、今日はどうしたんだ?」
「お姉さま、それはうちに生えている低木です。ですからミティ様はこちらです。」
「あはは、相変わらずですね。」
そうミティは絶対そんなこと思っていないだろと言われそうな声のトーンで言った。
「すみません。うちのお姉さまが。それで今日はどのようなご要件でしょうか?」
「それは、私クエスティングビーストにやられてこのざまなの、直してもらえない?」
「はい。分かりました。着いてきてください。ほらお姉さま行きますよ。」
「大変そうですね。」
祈はその1人だけしっかり者のその姿を見ると思わずそう声をかけてしまう。
「心遣い感謝します。ですが、これが私の仕事ですので。ほらお姉さまいつまで低木と話しているんですか? 行きますよ。」
「ほぅぇ〜。行きたくない、働きたくない〜。」
「何言っているんですか、仕事です。働いてください。」
そう妹さんが言いながらお姉さんの方の首元をつかみ引きずっていく。
「では、服の方はこちらでお待ちください。」
そう言われて祈は、少し広めの待合室みたいな場所で待たされた。
そこから数分。ほんの数分が経ち三人が戻ってきた。
「待たせてしまいましたね。さあ行きましょうか」
「大丈夫なのか?」
「はい。この方々ドクター姉妹は世界トップクラスの回復魔法のスペシャリストです。このくらいの傷朝飯前でしょう。」
「お褒めに預かり光栄です。」
そうしっかり者の妹の方が言った。そうお礼を言った直後
「ですが、クエスティングビーストの魔素を摘出するのに一分もかかってしまいました。不覚です。」
「ほぁーあ、ちゃんと摘出したから何の問題もない。兄ちゃんも安心しな」
「そうか。良かったな」
「はい。クエスティングビーストの牙には魔素という凶猛な呪術魔法が混ざっていますのでとっても危険です。」
「そうなのか。」
そんな会話をひとしきりしてから祈とミティは病院から出て、近くの公園に立ち寄った。
あの姉妹。姉がガレノス、妹がクラテスと言うらしい。妹さんの方がきっとヒポクラテスたしかギリシャの医者の父とか何とかだったかな。多分そんな重大なことではないと思う。何となく感で。
2人で公園をふらついているとミティが少し走ってから振り返り、
「――私の錬金魔法見たくありませんか?」
そう言った。




