4章8『真逆の少女』
「あ――。あの――。あの……。すいません……」
どこからからそんな声が聞こえてきた。
祈はその声の主を探るべくあたりを見渡すが人影は見当たらなかった。
「あの……。えっと……。下です。下」
そう言われ下を見るとそこには血塗れの女の子が倒れていた。
「ふぇっ? うぁっ!? どうしたの? すごい出血。」
そう言って祈は、自分の肉体にも等しい服をちぎり患部を止血する。
「ふぇっ。ほぁっ。あっ、痛っ。」
「ごめん痛いかもしれないけど我慢して。」
「はい……。わかってはいます。ですが……んあっ。痛いです。」
祈は服を強く縛り少女の患部――太ももスレスレを止血する。
(なんかデジャヴ。)
なんてことも思いつつ久々に人に出会えて少し心が休まった。
「大丈夫か? 何なら俺がおぶって近くの街まで送るけど……。」
「えっと……立てそうにないのでお願いできますか?」
「ああ、任せとけ。」
俺はそう自慢げに言うと少女を背負る。
さっきからデジャヴ全開な感じだったが今は少し違った。
アーサの時にあった胸を押し付けられている感覚があまり無かった。
少女は雪のように真っ白で短い髪。アーサは真っ赤なルビーのような瞳なのに対してこの少女は真っ青なサファイアの瞳華奢な体なのは変わらないが、ほぼアーサとは正反対の少女だった。
「えっと私はパラミティーズ・グランドアルケミックです。ミティとお呼びください。」
「ミティか、宜しくな。俺は巡谷祈。地上? から来たんだ。」
そうお互い自己紹介をする。
「ええと、メグリヤさんこちらこそよろしくおねがいします。」
「ああ、えっと巡谷は名字で祈が名前なんだ。」
「ほえっ? すみません。それにしても名字が先だなんて変わってますね。地上ではそうなんですか?」
そう間抜けで可愛げのある驚き方をしてミティは言った。
この驚き方は可愛いから成立するのであってこう言っちゃなんだが可愛くない人がやったらテロになる。ちなみにミティはまごうこと無く可愛い部類だと思います。
「いや、なんというか俺だけ特別みたいな?」
「そうなんですか。凄いですね。」
そんな他愛ない話をしながら俺らは着々と進んでゆく。
「えっとさ、ここについて教えてくれないかな? 俺地上から来たからよくわからなくて……。」
「はい。いいですよ。ここはアヴァロンの地下に存在する世界〝アンダーグラウンド〟です。」
(アンダーグラウンド? 地底……まんまだな。)
そんなことを思い少しクスッと笑うとミティが心配して顔があると思われる場所を見て「どうしたんですか?」と聞いてきた。
「いや、アンダーグラウンドって『地底』って意味でまんまだなって。」
「そうなんですか!? 知りませんでした。凄いんですね。」
そうとても冷たい氷ように無表情にそう答えた。
「ミティもっと表情豊かにしたらもっと可愛くなると思うんだけどな……。」
「ほえっ? な、な、な、何を言いますか。可愛いだなんて……」
言っている内容自体は表情豊かなんだけどその表情と抑揚のない言い方では可愛さも半減する人も多いだろう。
ってか……。
「俺声に出てた?」
「はい。バッチリ私を罵りながらも可愛いと言いました。」
「なんかごめんな。俺思ったことがたまに口に出てることが多いんだ。主に可愛いとか……。」
「それなんかの病気では? たらし病みたいな。」
「アハハ。面白いこと言うね。」
俺はミティのそのボケが追加されたツッコミを過大評価した。
「そう言えばですが、何故祈さんは体がないのですか?」
「え?」
俺はミティのその言葉に正直に驚いた。
何故ならば、今祈はミティに触れていて、『体がない』ことは一度もなっていないししていない。なら何故、『体がない』と分かった?
「どうして分かったんだ? 俺ミティに触れられているし、この姿を見た人は大体『体が見えていないだけ』と判断しているんだけど……。」
「私、人の念とかだいたい人がどこにいるか、色々わかるんです。だから一番最初にあった時は正直びっくりしましたよ。」
「そうなのか、俺実は異世界人でさ異世界で身体を取られてしまったのさ。」
「それは大変ですね。それにこの服に乗り移っている魂も残り少なくありませんね。あと1日半と言ったところでしょうか。」
なんだよこの洞察力。神がかってる。いや、鬼がかっている。鬼がかった洞察力。うんカッコイイ。
「凄いな。」
「あと異世界人って言うのも本当みたいです。この星の流れを感じません。ほかの二つの世界の流れが入り混じっている感じです。」
「え? ちょっと待って。二つの世界が入り混じっているって?」
(いや、俺は生粋の地球生まれ地球育ち。それなのになぜ二つの世界の何かが混ざっているって?)
「よく分かりませんが、普通ではない膨大な力が二つ混ざっています。とても暖かいような……。」
「そうか、ありがとな。」
「いえ、私の命の恩人でもあるわけですしこれくらいじゃ足りないくらいですよ。」
「お礼とか別に考えなくていいよ。俺は人として当たり前のことをした迄だし。」
「そうですかお人好し何ですね。なおたらし病の可能性があります。」
そんな同じようなボケをしてミティは棒読みとも言えるその無表情な声と顔で楽しそうに言った。
そう言えばパラミティーズってあのパロミデスのかな?
トリスタンと色々したり、唸る獣を探求したりとかした人。
「あっ。そう言えばなんで怪我してたの?」
「えっとクエスティングビーストに襲われて……。」
(まじ、唸る獣出てきちゃいますか。)
唸る獣英語でQuestingBeast。蛇の頭の尻尾を持ち胴体は豹尻がライオン、足が鹿といういわゆるキメラみたいなものだ。
それにやられたと……。出てきちゃいますか……唸る獣。




