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4章5『美しさの定義』

「いい加減ヤセ我慢するのやめれば?」


そう言い出したのはルシファーだった。


――バキ。


「ヤセ我慢? 何のことですの?」


「分かっているだろ? わざわざ言わせるな。」


「それでもやめることは出来ないの知ってて言ってますか?」


そうグロウは言う、ヤセ我慢というのは身体がついて行っていないからだ。

何故体がついていっていないのか、それは前の状況と全く変わっていないからだ。グロウが〝魔王〟の姿になる時身体を飲み込んだ。それがダメだったのだ。

だが、身体は吐き出すことは出来ない。本来ならば肉体と魂この二つがないと現界出来ないのだ。魔王の肉体は本来無い。この肉体は魂が見えているだけのもの。

だからこのぎこちない動きは仕方ないものだ。


――バキバキ。


「ここで諦めるわけには行かないんですの。【虚飾】の願いを果たさなければいけませんの。【虚飾】――〈幻影・変声〉」


そうその大きな姿を再び華奢な女の子に変える。

そして見えない『足』で攻撃。


「嫌ですの嫌ですの嫌ですの。私は美しくなりたいんですの」


喚き喚き喚き喚き喚き喚き喚き喚き喚き喚き喚き喚き喚き喚き喚き…………攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃……。それを幾度となく繰り返す。


――バキバキ、バキバキバキバキ。


「何を言っているんだ。貴様はもう美しいではないか。貴様は【虚飾】なのだろう? 偽りの姿その姿『は』美しいではないか。

貴様はそれ以上何を願うというんだ」


「美しいだけじゃダメなんですわ……あの醜い姿それをどうにかしないと……」


そうまた喚き喚き……その『足』たる何かを振り払い攻撃する

 

「何言ってるんだ。おい貴様美しさってなんだ? うわべだけを飾ることか? それとも、『姿』だけが良いことか? それとも、『声』だけが良いことか?」


「……。」


「違うんじゃないか? いくら『姿』『声』がいいとしても……。それは本当の美しさじゃない……。」


「……。」


グロウがそう黙っているとルシファーはそう黙々と弁論を続ける


「その自分の――貴様の姿に、声に、すべてに素直になること……それが美しさじゃないのか?」


そう言ってルシファーは手を差し出した。


「そんなの……そんなの綺麗ごとじゃないですか。というより今なぜ私を口説こうとしているのですか? 全く意味がわかりません。」


そう美少女の姿でグロウは言う。


「綺麗ごとか……。まあそうかもしれないな、我は【傲慢】だ。傲慢だからこそ我が思ったことはすべて正しいと思っている。貴様のような愚民の考えなんかクソくらえだ。だから貴様の何倍も上を行く我に黙って従っておれい」


「【傲慢】……ですわ。思い上がりすぎですわ……。それなのに何故でしょうか? 何でしょうか? この涙。」


そうとぎれとぎれに話していたグロウの目からは涙が溢れていた。


――バキバキ、バキバキバキバキバキバキバキバキ。


(身体が動かないですわ。)


それはまるで形ではない何かが壊れるような音が。それと共に動かなくなる身体。


(どうして私の体が動きませんの?)


そう声に出せない声を心の中で叫ぶ。それに誰かが、何かが応じるようにこう聞こえた気がした。


(この身体は、君の体じゃないだろう? これは俺の身体だ。)


と、まるで自分が、グロウが取り込んだ身体がグロウ自身に問いかけるように、グロウに反抗するように。


(嫌ですの。私は【虚飾】ここで負けるだなんて嫌ですの。)


外見を伴わない強い力。それを自らの権能で覆い隠し外見と伴っていない強い力に変化する。

たとえ外見が醜くとも愛してくれる人がいる、その姿を見てくれる人がいる。それじゃなきゃこの世界達は、もう終わっているだろう?

この世界に完璧な人なんてひとりもいない。何かが突出していれば何かが凹んでいる。それを人と組み合わせて、まるでパズルのように一人前の人ができる。


グロウはそれを知らなかった。自らの【虚飾】の為に自分の強さ美しさを完全に表現するために適した存在を探し続けた。

だがそれは間違いだった。人と人との素晴らしさを理解出来なかった。たとえ醜い姿でも誰かが必ず見てくれていることを見いだせなかった。広い世界を見渡すことが出来ていなかった。そんな『孤独』が彼女を間違った方向に連れていったのだ。


「我は【傲慢】だ。われの力は偉大であり、崇高だ。そんな我は貴様【虚飾】のグロウに我が〝役割(かんじょう)〟を背いてでも言わなければいけないことがある。

我は偉大で崇高。それでいてナンバーワンだ。だが、美しさというのだけは貴様には勝てないようだ。どんな術を使ってもな」


そう言って一度引いた手を再び差し出す。


「本当に【傲慢】ですわ……」


差し出されたルシファーの手を取り、引っ張った。


「仕方ないですわ。私の〝魂〟差し上げますわ。この私があなたに渡したのだから必ず美しい人になりなさいよ。」


「カッカッカッ、貴様も『傲慢』よのぉ」


「あなたの【傲慢】が移ったんですわ。」


そ引いてバランスを崩してグロウ(美少女Ver)を押し倒したような体制になったルシファーと会話をする。

そして、グロウ(美少女Ver)とルシファーは熱いあつーいキスを、口付けをした。

すると、グロウ(美少女Ver)の後ろの方に大きなグロウ(魔王Ver)が現れ、それがどんどんとルシファーに取り込まれていった。



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