4章3『【虚飾】の力』
(不味いですわね。攻撃を命令する前に身体が先走っていますわ。やはり限界ですか……)
グロウの攻撃が鈍くなったのではなく、前の行動の反動を抑えきれず人ふりした後にもう二三激してから次の行動へ移るいわば、速すぎなのだ。ここまで行ってしまえばオート操縦をしているような感覚だ。それはまるで、身体の記憶のような何かが、身体を操っているかのようだった。
それについて行っている敵も敵だが、グロウは何より今の現状をどうにかしたかった。
(やはり、身体を切り離して……。いや、まだ戦えますわ)
そう思いながらも身体は大きな本物の金属で作ったなら持ち上げられる人はいないような大きさの炎の剣を的確に敵の隙をつき振り回す。
たしかに、攻撃の速度といい何といいとても『はやい』のだが、やはり、体に命令が遅れるせいか、敵の攻撃、斬撃を受けてしまう。その『はやさ』で半分以上はなんとかしているのだが、やはり凌ぎきれていなかった。
「朽ちよ!【憤怒の流星】」
そう叫び声が聞こえると同時にあたり1面が夜になったかのようになる。そこから瞬く幾数の星星がグロウの元へ流れ落ちる。
(これは本物の星、打ち砕いても粉々になる訳では無い、多少なりかは欠片が残る。それさえあれば結構。)
そう思ったのと同じように、グロウはその大剣で次々と空から振り落ちてくる星を切り落としてゆく。だが、その破片がグロウの周りとグロウ自身に当たる。
(どうだっ! 避けても切ってもダメ。どうする? 【虚飾】?)
「クソッ!」
グロウはそう吐き出し、少し遅れたタイミングでその星星を避けることにする。
「忘れてもらっては困るぞ、我がいることにッ!?」
グロウそう言われ動きを少し止められる。
(また、少し遅れましたわ。不味いですわね。やはりもう……。)
「【虚飾】ッ――〈解放〉ッ!」
そうグロウは叫ぶとその身体は口の中から出てきた黒いものに飲み込まれ、その黒いものはどんどん形を作ってゆく。
「その姿もしや……〝魔王〟の姿でこの世界に体現できるってのか?」
そう声を漏らすルシファー。
「何ですかあれおぞましい。」
「アレが私達〝魔王〟や〝熾天使〟の本来の姿なのですよ。それにしても興味深いのですよ、〝魔王〟の姿で体現できるだなんて」
そう同じことを言うラファエル。
何故そんなことに驚いているのか、それは一つだ〝魔王〟と〝熾天使〟はもとよりこの世界〝ヘブル〟では正常に動けない。本来ならばだから〝自らの世界〟をつくりこうごうする場所を確保するか、〝悪魔〟や〝天使〟に乗り移りこの世界を行動するか、その二つなのだ。
だが今ここにいる【虚飾】のグロウは自ら圧倒的能力のある〝魔王〟の体でいるのだ。この世界にその体でいるだけで死ぬか死なないかの瀬戸際に行ってしまうのに、その姿を膨張させている。それが驚きの原因だ。
「これが私の権能ですわ。」
そう大きく形作ったグロウは醜く視認できる百おも超える足の『形』ある何かになりそうさっきのとは違うまるでいろんな人の声を混ぜてグチャグチャにしたような悍ましい声。見るのでさえためらってしまう醜さのある『物体』。巨大な何かがそこにそびえ立っていた。
「これが権能?」
そう疑問を唱えたのはエレインだった。
「そうですわ。私の権能【虚飾】幻影、変声と体現が出来ますわ。」
「体現? 〝魔王〟がその体でいられるのもその権能のおかげということだな。」
「【虚飾】の名なのもわかったような気がします。」
これなら【嫉妬】でもいいような気がするが、彼女には人を恨む嫉妬の感情よりもその醜い姿を隠したかったのだろう。
【虚飾】には鍍金、嘘偽り、うわべの飾りという意味がある。まるでその姿になった時は鍍金が剥がれるようなそんな感じだった。
だからこそ人になりたい、きっとそうなんだ。だから【虚飾】なんだ。
「見ないで……。みにくい姿を見ないで……。」
そうその『形』が言い、百以上の足――と言うよりは足のような何かを伸ばして攻撃する。
「クッ!」
ルシファーはそれに応戦すべく雷剣を構えるが、その薙ぎ払われる『足のような何か』にその本来の形がない雷剣を『折り』ルシファーは後ろへ1キロほど飛ばされてしまう。
(なんだよ、この攻撃力。これが〝魔王〟本来の力……。これじゃあ勝つすべがない。)
そう弱気に甲高い声を出しそうな事を思っていたのは勿論【傲慢】のルシファーだった。そう思っていた時だ……。
「【虚飾】――〈幻影・変声〉。この姿を見られるのは恥ずかしいので【虚飾】の名の通り虚飾させて頂きますわ。」
『形』がそう唱えると、見るのもおぞましかった『物体』が形や大きさを変え一人の美しい女の子に、その声も変わっていて悍ましい声は心を魅了してしまいそうなほど美しい声になっていた。
その少女の小さくか弱い体からは想像出来ないようなこいつとは戦ってはいけないとまで知らせてくれる威圧、本来の姿は見えずともわかるその強靭さ。そんなものを嫌というほど知らせてくれた。




