3章32『かくれんぼ』
祈は走って走って走って走って、どれくらい走っただろうか?
そこの場所はまるで世界が変わっているかのように違った。
〝艦隊〟は動けないことを知った祈は、〝軍艦〟一つ一つには〝追尾機能〟がないのを知っていたので、大体の到着位置と時間は分かった。だから、〝艦隊〟の弾を躱すのは雑作でもなかった。
〝固定砲台〟ホートの弾は〝追尾機能〟があるのでそれだけは斬ったり躱したりをして〝固定砲台〟の弾が届かない場所まで離されていた距離をただひたすらに走り走って行く。
(ここは?)
その場所は銃弾と弾丸と剣と血が交わる戦地とは少し違った。
その場所は大きなドームにポツリと居る祈。魔法弾と剣と血とが交わったであろうその光景は間違えるはずもないアヴァロンだ。
ただ前の光景と違うのはその場に人がいないということだ。地面や壁にはびこる血がその状況を無理やり祈に理解させた。
「ここでどんな争いが起こったんだ……。」
ただその魔法でできた地面の窪みといい、内部から爆裂したかのような血のあと。そこからはどのような争いをしていたのかはよく分からない。
だが、一つだけ言えることがあるとすれば……
「――みんなはどこへ消えた……?」
血や魔法痕などのそれらあとを除いてはここ数時間全くここに人がいたあとが無い。血は乾ききり赤い鮮血から黒へと変わり、辺りには靴のあとですらがない。
祈が【転生】する前はきついほど人がいたというのにどうして人っ子1人いない?
そんなことを考えつつも祈はそこから外へ出ようと出入り両用の門を潜り、外を見渡す。
そこもまるでごっそり消えたかのように人が居ない。静かすぎる、嵐の前の静けさという奴だろうか? やけに静かだ、少しゆるく吹いた風の音がうるさく感じるくらい静かなのだ。怪しすぎる。
人はどこへ消えた? 敵は? アーサ達は?
とにかく一旦元いた場所に戻ってみる。どうやらこの場には人は全くいない。
ならばきっとこの場所に何かがあるはずだ。
そう考えたからだ。
「じゃあ、どこに何があるってんだよ」
祈はそう頭をかきむしるような動作(動作なのは実態がないため)をしながらも当たりをこまなく探す。血痕、魔法痕、壁、観客席……。言い出したらきりがないほどに祈は調べ尽くした。
至るところを調べ尽くした結果これと言うものは何もなかった。秘密の出入口だとか、隠しボタンだとかそういう類のものはなかった。
(調べられるところはすべて調べた。でも何も無かった……。他に見落としてないか? 例えば…………。)
そう祈は今の状況と調査結果を照らし合わせながらも、調べるところの見落とし、などなどを考えていた。
祈がそんなことを考えて、諦めかける……ではなくて休憩的な感じで一度空を見上げる。
「あっ!? あった見落とし。」
その場所は決してこの広い〜大空。ではなくて、そこにある観客席と会場の境目の壁ではなくこの建物の一番外側の壁。そこにどんと大きく構えたスペース。
そのスペースは緑の騎士ベル=シラックが仁王立ちをして吠えていた所だ。
その奥には大きな扉があり、通り抜けできるものと推測する。ならばあそこに秘密が……。
「よし行ってみるか。」
祈は迷いもなく、と言うか迷いを見せるところがわからない。そこに向かう……。
はずだったのだが……。
「どうやってあそこに行くんだよ。」
そこは周りに面する場所はなく建物の壁が唯一の面する場所だ。階段もなくそこに行く通路ですらない。そんな場所にどうやって生身(服)で行くというのか?
結局のところ謎ばっかだよ。どうやってあそこに行くっていうんだ? 身体さえあれば【飛行】でひとっ飛びなのに。
謎は深まるばかり、あそこにこの会場を軽く埋め尽くす人数の人をどうやって連れていった? と言うよりそこに連れていかれたのか? あいつらの目的はなんだ? どうして人がいない? どこへ行ったんだ? どうやって? どうして?
そんな無数の疑問が祈の脳内に渦巻く。この謎を解くには糸が雁字搦めに結ばれすぎだ。一つずつ解きとるにも違う糸が邪魔をする。
「ああ、とにかくあそこまでの道を見つけなきゃだな。そしたらきっと道は開ける。」
そう祈は自らに言い聞かせる。
とにかく前の捜査でこの会場――ドーム内には何も無いことがわかったあの飛び出たスペースを除いては、でもあそこに行くルートがない。そして【飛行】も使えないしそこまで跳躍力もない。
ならば一旦ここから出て違うところから探す。
糸が溶ける時だってそうだろ? 違う見方で糸を見る。
ならこれも同じだ、一つずつ解決するにもお互いが邪魔しあっているのなら、その蟠りを無くしてあげればいい、それも誰も思いつきもしない方法で。
例えば、どうせなら糸を切ってしまうって言う『解き方』もありな訳だ、人によっては。
行動しない限りには始まらない。
多くの人がそう唱えるように今は行動しないと始まらない。
得られる情報はすべて得て、使えるものはすべて使う。たとえそれが後で公開する道に引っ張っていくかもしれないけれど、その時はその時だ。
それが、ポジティブシンキングの人たち、祈の考え方だ。
めげていちゃ始まらない、この状況をいち早くつかみ行動したものにのみ勝機は得られる。
その考えの元、祈は行動を始める。
その飛び出たスペースはドームの出入口の門の正反対の位置にある。
ならばそのスペースに一番近いところドームの入口を出て右に進み半周したところで祈は歩くのをやめた。




