3章31『不動の艦隊』
そんな診の愛する人――祈の戦いは……。
(クソッ、戦力差と人数差が違いすぎる)
祈の今の身体である服はもう辺りが破れ残っている方より破れている方が圧倒的に大きくもう少しすれば透明人間に? みたいな感じでさしずめ満身創痍とでも言ったところだろうか。そんな状況だった。
――つまりは、不利。
人数的には2対1なのだが彼女、ホート・アーマードの異能【艦隊】のせいで当たりそこらじゅうに転がっている死体を一度は歴史の教科書か何かで見たことがあるであろう〝軍艦〟に変えられ、自らも〝固定砲台〟としてその存在感を発していた。
こちらの人数は言った通り祈と願の2人。
願の【防御】の異能でただひたすらに何重もの【防御】の層を重ね、この異能の弱点である『一箇所集中攻撃』を防いでいるが、それも完璧ではなく『耐久値』というものがこの1枚1枚の形の見えない防御壁にあり、それは水爆の威力でさえも守り抜く力があるが、一箇所に集中して攻撃されてしまうとダメージが大きくなる。まるで、幾度の水滴が岩も削るように、そのことだけを精一杯やっていればそれが飛び出てくるように。
そして今、祈は皆もわかっていると思うが【太陽】の力で夜は30分の1になる祈の力のまたその30分の1、を何度化したような。つまり簡単に言えば、『人より弱い脅威』を持っている。
その力は人には劣り、チート能力の大半は使えない。だが、元々剣道やら何やら武術のてっぺんに君臨した男だ。それが弱いわけがない。
それに加え、自らを強化する魔剣カリバーンを片手に持ちここまで、この幼女ホートが出てくるまでほぼ無傷で戦ってきたのだ。
その『守る異能』と今は使えないが『消す異能』をもった異なる異能者2人でさえこの有様。
敵は堂々と〝不動〟のまま敵を鎮圧させてゆく。まるで高くそびえ立つ〈山〉の様に。
「まずいな、この状況。敵が多すぎる。」
「そうだね、これをどうにかしないと本体にも近づけない」
そう話している間にも、〝軍艦〟が次々と敵味方を問わず殺して行く、そしてそれが〝軍艦〟となってゆく、言わば戦力が増えてゆく。
これにびったりな言葉があったな、多勢に無勢。この言葉が今の状況を簡単に説明する上で一番の言葉だろう、または、手も足も出ない。くらいが丁度いいのではないか?
「あはは、これじゃあまるで地獄絵図じゃないか……」
(こんなのもうみたくなかった。)
……と、そう言葉を漏らす、地獄とも形容できる……地獄すら生ぬるいかの光景それを見てしまっては流石にそんな弱音を吐きたくもなるだろう。
だが、祈はそれ以上の地獄を見た。失いたくない人を『失いかけた』。そうこの光景はまるで『紅白の双竜に襲われていたであろう、祈が目にしていない光景』をいとも容易く想像させてしまうような地獄。
まだ晴天な朝なのにも関わらず太陽が一切見えなかったり、目の前に幾千と立ちはだかる『紅白の双竜』に酷似してしまう〝艦隊〟。その〝艦隊〟から発射される無数の弾丸、当たりの地面は焼き果ててまるでまたそこに――。否、やっとそこに行けたような感覚が祈の全細胞を震撼わせる。
(ああ、アーサ分かったよ。記憶を閉ざしたくなる理由が……こんな状況が嘘だと言いたくなるアーサの事が……。
――でも、俺は戦わなければいけない。アーサのために、ランスのために、マリンのために、願のために、蛍のために、診のために、咲のために、奏さんのために……みんなのために……。)
そうもう決心のついていたことを、まるで今やっと思い出したかのように胸に誓い、再びカリバーンを強く握る。その時に鳴るカチャという音が〝艦隊〟が出す無数の弾丸の音よりも大きく、誇りのこもった音に聞こえた。
(そもそも、どうして死体を〝軍艦〟にしている?)
そこから導き出される答えを探す。
(いや、違うなどうして死体でしか〝軍艦〟に出来ない?
そういう決まりだからか? いや違うな、他になにかこれだと言うアレがあるはずだ)
そんなことを考えながら祈は情報を得るために〝軍艦〟を攻撃しつつも飛んでくる弾丸を撃ち落としあたりを探る
そんな時気づいてしまう。
〝艦隊〟ですらも〝不動〟だということに、〝艦隊〟は一切動いていない。アレらは全て船の形をしているだけの〝固定砲台〟だ。
ならばそこから計算し、弾丸がどこからどこに飛んでくるかを演算し実行。舐めないでいただきたいこちらは脳みそはないものの学習能力と記憶力その力という物理的な力以外の力の全てが強い。否、さしずめ普通通りといったところか。
そのもとより良い頭を使って戦術に組み込む、大して難しい事じゃない。必要な情報以外はシャットアウトし必要な情報のみを取り込む。
だが、それですら勝算は薄いものだ、勝ち目のない戦いはしない主義じゃないのだがそんな性格の祈ですらも萎えさせるようなチート能力。勝つことを考えるより負けることを考えた方がいかに簡単か祈ですら容易い。
が、そこで怯まないのが祈のいい所であり、身を滅ぼすであろう原因となる。のは祈は全く知らない。




