3章30『呪いと注意散漫』
(目を持っていかれましたか……。)
そう思っていたのは、先程まで〈林〉のニンジ・ハイドと激戦をしていた、奏だ。
彼女は激戦の末相打ちという形で、目を失った。いや、正確に言えば『視力』を失った。それと、手榴弾による火傷や損傷が激しい状態だった。
『こちら海音 奏。目を持っていかれました』
そう一応見えてはいるが、弾切れ、外部から見ても出血多量だのなんなので身の危険を感じつつある奏が【念話】した。
『了解。今、渡君をそっちに寄越す』
そう応答したのは信実真異能課のトップでもありこの戦争において指揮官という大事な役割を担っている。
その声と寸分違わず渡少年が奏の前に現れる。彼の異能は【転移】で結構役に立つ足だ。すると、奏の手を「失礼」と言って掴み再び【転移】した。
「うわ、これまたすごい傷だね。」
「少しやらかしてしまいました。すみません。」
「いや、気にすることないさ、それにどうだい? 成果の程は」
「〈林〉の異能者を倒しました。」
「そうか、それはご苦労だったな、一旦休み給え。」
そう張り詰めた場の中会話をする2人。
それを邪魔するかのように診がこちらに来た。
「あらら〜、奏ちゃんまで〜。目と火傷と切り傷だね〜。【治癒】〜」
そう、患者の患部を確認し、最上の回復系異能【治癒】をかける。するとみるみる火傷と切り傷が癒えていく。
「どうですか〜? 変なところありますか〜?」
「目が見えません。」
この一連の流れも奏には見えていなかった。最上の回復系異能【治癒】を持ってしても、『目』を治すことが出来なかったことになる。
「そんなはずありませんよ〜。私の異能は完璧で治せないものはないんですから〜」
「でも、本当に見えていないんです。全ての視界にモヤがかかったような……。光の具合しか見れなくて」
光の具合と言っても、どこが光っていてどこが光ってないかが分かるくらいで実態なんて全く見えていない。
「どうしてでしょうか〜? 【治癒】に治せないものは無いはずです〜。」
「呪いだとしたら? 治せますか?」
そう奏は診に問いかけてみた。あの一連の行動もしかすると奏に呪いをかけていたのかもしれない。そう思ったからだ。
「わかりませんよ〜、私だってこんなの初めてですから〜。一応呪いということにしておいたらどうですか〜?」
「はい。そうします。まあ、目を使わなくても見えますし」
そう言って、奏はヒョンと立ち上がった。
すると奏は真の方を向き、こう尋ねる。
「変えの着替えありますか? 多分今私大変なことになってると思うんです」
「ああ、たしかに大変だ。これは君には見えていないのかね?」
「はい。全く。そこまでの細かな情報まではわかりません。分かるのは大雑把な形だけです」
本当はそうだったのだ。あくまでも外見は見えるが細かい情報なんてさっぱりだ。そんなの気にする必要がなかったから磨いてなかっただけの話だ。
「そうなんですか〜? こんなたゆんたゆんのもの見せつけて、目が見えないのと今のを聞くまで疑いましたよ〜?」
そう診は言い、奏の顕になった胸の先端をつつく。
すると、奏は顔を真っ赤にして、胸を両手で隠す。
いくら鮮明に見えなくてもそこまでは見えていただろう。どうして気づかなかったのかわからなかったような感覚だった。
さっきまでの緊張感の反動で緊張感が全然なくなっていた。
「鼓膜が、鼓膜が敗れてたんです!? 気づかないのも当然ですね〜!? あはアハハ」
そう奏は狼狽えながら服がある方向に大事なところを隠しながら走っていった。
「2人ともガン見してましたよね〜。どうとも言いませんが疑いますよ〜? 」
「「はい、すいません。」」
渡と真は診にそう言われ全身全霊で謝っていた。
「謝るなら、後でちゃんと奏ちゃんに謝ってくださいよ〜。私に謝られても困ります〜。」
「そうでした。」
なんてことがあったのは奏は知る由もない。
あとついでに言えば、本当は見えてなんかなく胸元が空いていたので2人はそこに目線が行き、診はギリギリのところまで空いていたので無理やり押した感じだ。気づかないのも当然。本当に奏が疲れていた証拠だろう。嘘も見抜けなかったようですし。その後、一層奏の『見る』能力に磨きがかかっていた。
「これで6人中の半分を倒したことになるな。」
そうポツリと呟いたのは真だ。
さすがは指揮官と言ったところか、次々と新しい情報を手に入れてはほかの人達にも即座知らせている。
それとは裏腹に、回復担当の診と言ったら、怠惰の極みだった。
ほかの人たちはそれぞれの方法で戦っているというのに、1人で寝ては寝てを繰り返していた。その猫や赤ん坊アイドルさえも裸足で逃げ出すような寝顔が天使のごとく可愛いせいか反感はあまり買ってはいないが、たまに「なにのんきにねてんだよ!」と心の中でツッコミを入れる人は少なくはなかった。
それでもちゃんと働いてはいるのだ。そのスピードが無駄に早すぎて退屈してしまうだけで。
「祈くん何してるかな〜。大丈夫かな〜」
診は親近感の湧いてくるいつもとは違う呼び方で愛する人の想像をしていた。




