3章20『少し前の自分を殴りたい』
なんてことを思っていた自分が馬鹿だった。
【水舞】はあくまでも水を操る個性だった。しかも範囲が圧倒的に狭くて上の階まで操る範囲が届かない。=アクアは無能。
「結局また戻ってきたな。」
一度炎獅子に喧嘩をふっかけてみたもののアクアが無能だったため水が操れず追いかけ回されて結局〝海洋〟に戻ってきている。
「ごめん、此方のせいで……」
そう自分を問い詰めているアクア。そうずっと辛気臭い感じじゃ何かと嫌なのでアマタをなでなでして、と言うよりこれはアザラシの皮をなでてる感覚。それから「いや、そう問い詰めることじゃないよ。俺だって使えなかったわけだし。」と言って慰めてあげた。
そうしたら顔色を一変させていつものように、まあ数時間単位しか一緒にいないんだけど。元気な顔に戻った。
「どうしようか……やっぱり第三の試練〝炎獅子〟な訳だからあの炎獅子を倒すんだと思うんだけど……」
「もしかしたらぁ。また、何かの引っ掛けかもぉ……。」
「そうなのかな……?」
「「「「「ウ〜ン……」」」」」
そう俺らは夜なので焚き火を囲って唸るしかなかった。妖精さんは寒がりのようですし。
「とにかく寝るか? もう遅いし……」
「そうですね。旦那様! 今日こそは一緒に寝ましょう。」
「ダメだ。ちゃんと女子部屋男子部屋に分けるからな」
俺がそう言うと義兄さんが素っ頓狂な声で「え? そうなのか?」と言った。
ひと張りのテントに行こうとした義兄さんのその手にはシュタさんの肩を「さあさあ」と押して連れていこうとしていた。
え? いつからそんな関係に……?
「とにかく男女別。これは譲れません。アクアに失礼だろ。」
「どうして此方が出てくるの?」
「ゑ……ええと……ソレは……」
「どうして視線をそらしたの?」
どうしてアクアはこの身体のない俺が視線を逸らしたってわかってんだよ。恐ろしいわ。
「それはですね。きっとなにかよからぬ事を……キャアッ! 旦那様。等々私とのご子息を作る決断を……」
ティターニャは顔をぽっと赤くしながらそういった。顔赤くするんだったらそんな事言うでない。
「どうして、2人は顔が赤いの?」
だからどうして分かるんだよ!? 怖ーよ! 恐ろしいよ!
「それはだな、二人は今日熱い夜を…………」
「あーあーあー! それはいいとしてダメ。絶対に男女別! 決定!」
俺はそう義兄さんが言うのを必死に防ぐ。
「嫌です、私は旦那様に抱かれたいです!」
ティターニャは顔から火山のように煙と火を出してそういった。
な、な、な、なんてはしたない。 べ、べ、べ、別に心揺らいでないからな。
「とうとう吹っ切っちゃったな!? だからダメ!? ゼッタイ。」
「何でだ? こんなに激しくアピールしているというのに、何か? 容姿がダメだとでも言いたいのか?」
「いや、そうじゃなくて……ティターニャはもぉーの凄く可愛いし優しいしこれ以上要求することは何も無いです。はい」
「じゃあ何か? どうして抱いてやらん。度胸か? 経験か?」
いやいや、どうした義兄さん。どうしてそこまで暑くなる? まあ、愛すべき妹のためだとは思うけれど、多分違うな。なんというか男の感。この流れには乗ってはいけない。と言うより、みんな忘れてね? 俺今身体ないから行為自体が出来ないんだって。
「何なんですか? 義兄さんはシュタさんと一緒に寝たいならどうぞ好きにしたらどうですか? 俺はひとりで寝るから。」
そう言って俺はテントに閉じこもった。
気がつけば睡魔に襲われて寝ていたことは俺もわかっていなかった。
目を覚ますと左にブラとショーツ姿で半裸のティターニャが、右隣にはアザラシが眠っていた。
なんでここに寝てんだ? てかもう朝かよ。ふぁーあ眠い。
「こんな姿で寝てたら風引くぞ。」
俺はそう思い上着的なのをあたりにあるか探すと余裕で見つかった。これティターニャの服か? それを俺はティターニャに被せてあげた。
おおよその経緯はこうだろう。俺の寝息が聞こえてきて夜這いしようかと思って潜入して半裸になる。ただ俺を脱がそうとして冷静になる、俺が身体がないことに気がつく。そしてティターニャは半裸のままで外に放り出されていたアクアを入れてあげて寝た。おそらくそんな感じだろう。
そんなことをしているとアクアが目を覚ました。
なんかアザラシから人間? の姿になる瞬間ってあまり見たくないものだな少しグロイ。
「ん。おはよ」
「おはよう、アクア。」
そう挨拶を交わすと俺らは外に出て朝食の準備をすることにする。
俺は火を起こしアクアは魚を狩る。
そうしているうちにもうひと張りのテントからふたりが起きてきた。
「ふぁーあ。おはよう祈。昨日はなんか悪かったな。その姿なのを忘れていた。」
「こちらこそすいません。」
そんな感じで2人との朝の挨拶を終える。
話を聞くと二人は昨夜に何も無かったらしい。あれー? する気満々かと思ったのに意外とチキンだったりするのかな?
朝食が出来上がり美味しそうな匂いを漂わせているとその匂いにつられてお寝坊姫が起きてきた。
「おはようございます。」
キリッとしたその挨拶とは裏腹にその身だしなみと言うと本当にお姫様かを疑うところだ。ティターニャは自分の服を抱えて半裸で出てきたのだ。
「ちょっ、ティターニャ服服。着てない。」
「え? 何をおっしゃっているのですか? 旦那様……え? 本当ですわ。お見苦しみものを見せてしまい誠に申し訳ありません。」
そう言ってティターニャは再びテントに戻ってセッセコと着替えをしている。
え? なんかティターニャの言葉の上品さにより磨きがかかりましたか?




