3章18『世界を知る』
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……。……ハッ! ここは……どこだ……?
俺はまた戦っている最中に何の反応もなく【転生】したらしい。
俺がいる世界はあたり1面闇……いや、光がなければ闇もないわけだから、あたり1面が『無』、で真っ黒な一度見たことのあるような世界と言っていいのかもわからない世界。
だがここのそれは、前に訪れた【虚飾】の世界のそれとは違った。
いるだけで全てが憂鬱になってしまいそうで、何もしたく無くなるような虚脱感がこの世界には存在していた。
「ここは……どこだ……?」
俺はその覚えのある光景と覚えのない感覚が合わさった世界に一人漂っていた。
再び俺の体は消えて完全に何も無い世界
そこから一筋の光のような何かと聞いたことのあるような感覚の声が聞こえてくる。
「ダレだい? キミは……?」
そう遠くの方や近くの方から一人の声が聞こえてくる。
「俺が、見えるのか?」
「ミエているよ。ソレよりキミ。ナニ者だい?」
一筋の光がそう俺に問いかける。
「俺は巡谷祈。わけアリで体をなくしている。」
俺はその光の問に律儀に答えた。
「ソウじゃない。ナニ者かと、聞いている。」
「じゃあどういう事だよ?」
俺はその一筋の光の言葉に引っかかりそう聞き返した。
「ミニ覚えがないのか? ソノ溢れ返らん魔力や、タマシイだけの体。イッタイキミは何者だ?」
「ちょっと待ってくれ! その質問の意味がよくわからない。ちゃんと説明してくれ。」
「ソウだな……。キミは魔王か? ソレとも天使と悪魔か?」
俺のその問に一筋の光はそうわかりやすいように、別の話題を俺に問いかける。
「人間だよ、天使でも悪魔でもない。異世界の人間。」
だってそうだよな、実の親の顔も名前も知らないけれど俺は正真正銘人間と人間の子供だ。それだけは断言できる。
「イセカイ? ナニを言っているのかわからない? キミは魔王か天使か悪魔かそのどれなんだ?」
「信じてくれないかもしれないけど、俺は異世界、この世界とは違うところから来たんだ。」
俺はその問いには答えず自分の意見を合っているように主張した。
「ソレはそうだ。コノ世界はスロウスの物だからな。ガイブから来ない限り来れない場所だ。コノ場所にはウチとキミの2人だけ」
スロウス? 外部? 俺ら2人? ちょっと待ってくれよくわからない。
「ええと、じゃあ君はスロウスで合っているのかな?」
「チガう。ウチはグルーム。モト【憂鬱】だった。イマは【怠惰】のスロウスに取り込まれてここで永遠を過ごす」
【怠惰】【憂鬱】【虚飾】、天使、悪魔……もしかしてここの世界は『七つの大罪』と『八つの枢要罪』の世界なのか?
怠惰、憂鬱、虚飾、憤怒、傲慢、色欲、暴食、強欲の八つが七つの大罪の元と呼ばれる存在の八つの枢要剤にあたる、そこから虚飾は傲慢。憂鬱は怠惰と同列視されそこに加わった嫉妬。この七つが世間的によく知られている七つの大罪。
「じゃあここは【虚飾】の世界とは違うのか?」
「ソウ。キミ【虚飾】を知っているのか? モシかしてキミ、【虚飾】のグロウに体取られたのか?」
「そうだ。俺はそいつに魂を引っぺがされてこんな状況に陥っているんだ。」
俺はそうなるべく簡単に説明した。まあ、説明しなくても「そうだ」の一言でよかったのだと気づいた頃には遅かったが、
「ナラ尚更まずい。キミいずれ死ぬよ?」
「どういう事だ? 説明してくれ!? 頼む!?」
俺は姿のないその体を直角に曲げたような感覚でそう言った。
「シカたないな……ソコまでされたら……」
「ちょっと待ってくれ、グルームはもしかして俺のことが見えているのか?」
「エ? ギャクに見えないの?」
「残念ながら。一筋の光しか見えない。」
どうやら俺にはあちらの存在は仄かにしか分からなくてあちらは俺のことがよくわかるらしい。理不尽だ。
「ジャア始めようか……マズ君の身体は今本世界でグロウに使われている。ソレは分かるね?」
「うん一応は……。あっ、本世界って?」
「キミは本当に無知なんだね。ホン世界とは天使と悪魔が行き交う世界ヘブルの事さ。モシかして知らなかったなんてことはないだろ?」
「だから、さっき言ったように俺は異世界人なんだ。」
俺はそう言うとグルームにそっかー。そーだねー。みたいな感じで棒読みに軽くあしらわれた。
「ヒトというのは肉体と魂を魔力でつなぎ止めているんだ。ソレを無理やり引きはがすことによって肉体と魂と別れて半分半分で一つで保つため魔力が分けられる。イワば、今のキミの魂は魔力のみで構成されているってこと」
「じゃあ……」
「ソウ、ご察しの通り、魔力を使うとその分自分の魔力が減る。ダガ魔力の補給は肉体で行われるため、魂のみでの体にはいずれ魔力が尽きて消滅してしまう。
ナニか、心当たりはないかい? 普段はこうだったのにこうならなくなったとか。」
そのことには心当たりがある。【転生】する時に発していた光がなくなっていたことに俺は気づいている。
「ハヤく肉体を取り戻さないと、キミの魂。キミ自身は消えてしまう。」
消える=死。この式は当てはまらない、何故か心の中で俺はそう思った。
俺の魂が消えれば『俺』は死ぬ。
「キミは察しているんじゃないか? コノ世界にはウチとキミしかいない。タマシイを剥ぎ取りここに置き去りにして行くのが魔王がヘブルに行く唯一の方法だ。ソレなのにこの世界にはウチとキミしかいないということはスロウスが奪った身体の持ち主はもう居ない。」
「でも俺の魔力溢れ帰りそうなほどいっぱいあるんだよな?」
「ソウ、その神々しさが溢れたその膨大な量の魔力。ソレを持ってしてもあと3日持つか持たないか……。」
それはあまりにも急すぎる余命宣告だった……。




