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3章15『光対<陰>』

「此処は我の世界ダァッ!」


そう打たれた足なんか屁でもないかのように颯爽とクナイを持って走り出した。


「それは……知りません。蛍に……影と光が……ある限り……蛍の目からは……逃げられません……」


なぜ、影と光があればそれが目となるのか? それは簡単な事だ。この光の空間は蛍を中心に出来ている。それは何故かと言うと蛍の光がマリアの影に勝てる最大の場所が蛍を中心とした半径200mの球体なのだ。

ならば、もしその光が遮られたらその球体は形を崩し歪んだ形になる。それを利用しているのだ。

だから、蛍が光っている限りマリアに勝ちはない。いや、蛍の身体能力が遅れをとったら負ける、結局あまり変わっていない。何故かと言うと、蛍に身体能力はあまりないからだ。本人がそう一番わかっていた。だからこそ……


(蛍の……身体能力が……ないと……敵に……悟られたら……蛍は……負ける……。)


その球体の欠けをいち早く見つけてそれをマリアに悟らせないように攻撃を仕掛ける。蛍はわかっていた。この殺らなければ殺られる戦いにおいて蛍に勝ちはないと……。


(敵は……足を……打ち抜かれたのに……どうして……そんな……楽そうに……立って……いられる……? きっと……この謎が……勝利の鍵……。)


「クッ!! ……そんなことも……考えさせては……くれなさそう……ですね……」


マリアのクナイを投げた攻撃を防ぐとそう言葉をこぼして銃で牽制、反撃をした。


(考えて……考えて……考えて!! どうして……余裕で……いられる……? どうして……蛍に近づいて……こない……?)


そう、マリアは蛍から半径10m程度の円状には入らずその一定の距離を保ちクナイで攻撃を続けていた。まるでそれ以上は近寄りたくないかのように。


(ダメだ……分からない……。どうして……蛍を……避ける……?)


そう思いながら蛍はクナイを撃ち落とすように光の弾丸を打ち、レーザービームでマリアに追撃をする。


(ハッ!! ……どうして……血が……出てない……?)


その傷が塞がっていないはずの足の下には打たれたその場所以外どこを見ても血が落ちている様子はなかった。そう、まるで何かで止血をしたかのように。


(ならば……きっと……こうすれば……。)


蛍がそう思うとマリアの足が……怪我した足の創傷が光り出す。


「ンナッ!? 何をしタ!?」


マリアがそう喚いているのも仕方の無いことだ。

蛍の【発光】の遠隔発光の力によって影で抑えられていた傷跡をこじ開けたのだから。

あたり1面に血が湧き出るようにこぼれ落ちてくる。それはまるでコップいっぱいの水を逆さにしたように。

蛍たちは今国をかけた戦争をしているのだ慈悲はない。

その光の弾丸が無慈悲にマリアの至る所を打ち砕いてゆく。打ち砕くとともに出てくるマリアの悲鳴は一生蛍の耳に残るだろう。

ここで一つの疑問が生じる。なぜ、蛍は即座に殺さないのか? それは幾ら無慈悲な戦争とはいえ、無慈悲に打ち砕いてゆく弾丸とはいえ、蛍の心に迷いがあるからなのだろう。本当に殺していいのか? そんな疑問がマリアに幾度の悲鳴を出させる理由となっている。

マリアは悲鳴の果てその場に倒れ込んだ。


(そんナ……負けるのカ……?)


そう全身を光の弾丸で打たれ負傷してまともに立つ事が出来ないと予測される出血量から、死が近づいているのが分かり地を這う猛者のように心に問うマリア。


(猛きものもついには滅びぬカ……あの方が言っていたナ……。)


それはまるで全てを諦めてしまったかのように、死を恐れて脱兎のごとく逃げ出すのでもなく自分の全気力を大地に委ねてしまう。


(この戦デ殺したのハ雑魚兵のミ……。このままでハ、米軍六天皇の<陰>の名が(すた)ル)


そうマリアは地面に委ねていた体を自分の()で起こしあげ、その傷だらけの体と足でぐらつきながらも立とうとする。


(此処デ、コイツを殺してしまわなけれバ。我が身に変えてモ!)


そう威勢を見せ、痛みなんて振り払って。ただ全力で走りだす。


「そんな……ことをしても……。ッ!!」


そう言い終える前、つまり蛍が、マリアが蛍を巻き込み自爆する。だなんて思う前にはもう遅かった。

蛍は精一杯のあがきを見せるが遅く、蛍はマリアに捕まり、蛍とマリアでサンドイッチになった自爆用の手榴弾の餌食になる。

蛍を抱き込むことによって出来上がった(いびつ)なその四分の一の球が手榴弾の閃光によって色付けられる。


(やっタ……殺しタ。これで悔いはなイ。)


そう影の中で2人倒れ込んだ。




□□□



「……!! 敵兵の影から隊長がッ!」


そう叫んだのは蛍軍の軍人の1人だった。

だが、この場が場なのでその叫びに応じる人はいない。

軍人の通り敵兵、この場合影というのもあやふやな、何故かと言うとそこに影となる対象がいないからだ。そこから出てきた蛍の体は焼かれはて、そこに居たもう1人の者もそれ以上にやばい状態にあった。


「クソッ!! 隊長!? 目覚ましてくだせェ!」


そう軍人は叫ぶがそれに蛍は答えない。


(クソゥ! 隊長、戦が始まる前「みんなが……死ぬまで……蛍は……死ねない……。」とか言っていただろう!)


その軍人の心で叫ぶ。

そう叫んでいた時だ。一つのか弱い声が聞こえた。


「い……のうし……はろく……にん……。」


「隊長!? 隊長!?」


その声の持ち主は蛍のものだった。蛍はちゃんと息をしていた。ただ虫の息も虫の息今にも死にそうなほど弱い呼吸だった。


「クソッ!!」


『こちら、篝火隊KH-19。隊長が死にそうです! 至急応援頼みます!!』


そう礼儀も全てを忘れて狂っているかようにそう【念話】で伝える。

それの直後辺りが光り、渡がその場に現れて、蛍を連れてゆく。


「隊長を、頼みます……」


「任せておけ、治癒がいれば死人は出ない。」


そう渡は言って蛍とともに消えていった。


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