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3章12『喰いつつ喰われつつ』


「それにしても、(ヒー)の身体。この世のものではないな……。」


【嫉妬】の少女が気を失ったあと、【強欲】の少女が誰に聞かせるでもなく独り言を呟いた。

彼というのは、小さい妖精エレインを連れた羽毛のついた天使の羽もなく、蝙蝠のような悪魔の羽もない少年【虚飾】のグロウの事だ。

彼は唯一()の身体をしていて、中の人……つまり本物のグロウは女という珍しい組み合わせである。男が女を、女が女をという組み合わせは丁度ここにいる【強欲】のグリードと【嫉妬】のエンヴィーがしている。

その他にも、【傲慢】は女が女。【憤怒】は男が女。【暴食】は男が女、【怠惰】は女が女2人。【色欲】は女が女で、【色欲】のラストさんは1度身体を変えていてその前は男だった、何せ変わった理由が「男じゃァ〜、エロいこと誘ってもシテくれないんですわァ〜。それに対してこの女の身体はァ〜、誘えば男どもはほいほいシテくれますのォ〜」とかそんな理由でわざわざ自分の権能3分の1を削ったのだから凄いものだ。


「いや、その表現は少し間違いだな。この世界ともう(・・・・・・・)一つの世界の血で(・・・・・・・・)出来てるな(・・・・・)……。


【虚飾】――その称号に相応しい身体を手に入れた様だな……。」


そう意味不明な言葉を並べて不敵な笑みを浮かべた【強欲】の少女は【嫉妬】の魂を手に入れようとした。



□□□



その頃、同じ時刻ほぼ同じ場所でもう一つ、【暴食】対【色欲】の戦いを繰り広げていた。


「ああ、美味しそうないい匂いがするんダナ。美味しそうなんダナ。食っていいカ?」


そう言ったのは複数、いや無数にいる【暴食】のグラトニーの内本体と思われる少女がそう言った。


「ええ、存分にあーちゃんを骨の髄まで楽しんでください〜。アフターサービスもしますよォ〜、但し、あーちゃんに勝てたらのお話ですがァ〜。」


その挑発に乗っかかるように【色欲】の少女、と言うよりエロいお姉さんラストが応戦した。


「ああ、美味しそうな匂いダナ」 「ジュルり。」

「食っていいカ?」 「オレが食べル」

「柔らかくて美味そうダナ」 「女は久しぶりダナ」


「「「「「「イタダキマス」」」」」」


そう無数のグラトニーがバラバラに言葉を交わしたあと、一斉にそう言葉を合わせた。

それからというものの、【色欲】のラストは戦わず、グラトニー対グラトニー対グラトニー対対対…………を繰り広げていた。言わば誰がラストを食べるかの争い。誰がラストのその傲慢と色欲でいっぱいの四肢を味わうか。取らぬ狸の皮算用というのはこの事なのだろう。


「オレが食うんダ」 「オレが」 「イタダキマス」

「おい『オレ』邪魔するナ」 「美味しそうなダナ」

「あむあむ。マズ。」 「『オレ』めっちゃマズ。」 「美味しいのがイイ」


そう【色欲】の少女の前で繰り広げられていた、自分自身を捕食する争い、ただその戦いに終わりはない、なぜなら……本体が一番『自分』を食い続け『自分』を増やしているのだから。


「はァ〜、終わりが見えませんわねェ〜。」


【色欲】の少女は自分で作り出した普通ではない椅子に腰掛けて高みの見物をながらそう言った。


「退屈ですわァ〜、人を待たせるだなんて男の風上にもおけないですわねェ〜


そうだァ〜、それならあーちゃんも参加しちゃいましょうかァ〜、もとよりそのはずだったじゃありませんかァ〜


変身――。」


【色欲】の少女がそう呟くと、少女の身体がいわゆるところの西洋のドラゴンに変わる。

そして少女はそのドラゴンの身体の口から焔の息を吐く。

あたり枯れた草原1面は黒とも言えるほどの焔で燃え尽きる。それと多量のグラトニーも、


「こんがりなんダナ」 「食べたことない味が味わえるんダナ」

「あの竜もおいしそうダナ」 「アハハ、美味いんダナ」


その減った量は約3割、後の7割は1度でも食べたことのある人なのだろう、万物を灰塵にさせるその龍の炎ですら効かない。


「あらァ〜。あーちゃんの焔が効かないなんてェ〜。じゃあ〜こっちでェ〜


変身――。」


そう再び【色欲】の少女が呟くと次は三面六臂(さんめんろっぴ)の神に近い存在、所謂ところの阿修羅に変身する。


「変身――いい権能を持っているんダナ」


変身、それが【色欲】の少女の権能。

それなら人を変える必要はなかったのでは? そう思う人がいるだろう。それは性別までは変えられないということだ。ただし、相手の権能を複写(コピー)することは可能だから男でもグロウの力をも使える。それが【色欲】の権能の全て


「お褒めに預かり光栄ですわァ〜」


「ああ、いろんな味、楽しめるからナ。オマエいいゾ、キニイッタ。」


そう【暴食】の少女軍のリーダーらしき少女が怪しげな笑みを浮かべてそう言った。


「喰らウ! 喰らエ! 喰われロ! 【喰食の城塞(くいはみのじょうさい)】!!」


【暴食】の少女がそう叫ぶと周りの空間もろ共『自分』を喰った(・・・)


「アハハハァ!! 喰エッ! 喰エッ! 喰エッ!」


そう暴食に狂った【暴食】の少女は【色欲】の阿修羅の姿をした少女に素手で連撃を浴びせようとする。

が阿修羅の六臂によって押さえつけられる。


「その力より強くなってますねェ〜。どうしてでしょうかァ〜?」


「教えてあげてもいいんダナ、オレの権能は【暴食】増殖と吸収。自分増やし食べた物の全てを手に入れるんダナ」


「それは凄い権能ですねェ〜。


複写コピー――【暴食】ゥ〜。」


そう【色欲】が呟くと阿修羅の形をした少女が無数に現れる。


「アハァ。あーちゃんが沢山いますわァ〜。さあ、攻撃開始ですわァ〜」


無数の阿修羅がそう言って、手に持った剣と弓で攻撃を仕掛けた。









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