3章10『憤怒の業火』
□□□
その頃、ヘブルでは……。
人形隊と同じ人が沢山いる軍隊以外は1人ずつの軍勢でその一人ひとりから出てくる気迫というものがエレインが思い浮かべるそれとは全く違う凄いものだった。
ただ1人たりともそこからは動かず敵の行動を探っているという状況だとエレインは捉えた。
【怠惰】の人形隊が行動の最前線に立った。
可愛いその用紙からは到底思えないような残忍さ、その自らを切り刻んでしまいそうな漆黒のハサミ。それを構えた人形隊約3百が一気に行動し始める。
それを機に7人が行動し始めた……【暴食】のコピーのようなものを除けばの話だけど
動くまでに三時間ほどの間合いがあったように感じた。ただそれは戦ってからも同じことだった。
祈の身体を奪ったグロウはその祈の『力』を最大限に使い……。
(パパの能力を……最大限の力を使い切れてない? どうやらグロウさんはそれが最大限の力だと思い込んでいるようですが……。)
そう、やはりまだ祈の身体を十分に使いこなせていなかった。少ない力でさえ常人以上の力を持つ祈の身体。それを使いこなすとなるとものすごい力が必要なのは目に見えている。まるで百tの重さを林檎では持ちきれないように。百tを支えるにはそれ以上の力がいる。
それでも、祈の力を3分の2ほど使いこなせるのだからグロウは凄いのだろう。
他の魔王とも互角以上に戦えるほどの強さを【権能】なしである訳だから。
その中で1人……正確には2人片方は戦うことを拒み、片方は一対の片割れに全てを託している。
その二人の正体は言うまでもないだろう。
【憤怒】の称号を得ているのにも関わらず、大人しそうである意味この中で一番大人だとも言える性格、怯えているようなその表情をしているサタン・ラース。
これこそ【怠惰】だろうと言うべきの姉の方のベルフェゴール。
その2人は1歩も歩かずその場に棒立ち……片方は絨毯で寝ていた。
「こんなくだらない争いなんてやめませんかぁ? みんな平和に……きゃぁ。」
そう【憤怒】の少女が言っていたが、その言葉に目もくれず七人の集中攻撃の的となる。
「あなた本当にそれでいいと思っているんですか? そう思っているのでしたら今すぐこの世からご退場ください。ボクと姉さんの為に死んでください。」
一番最初に攻撃をしたのは【怠惰】とは到底思えないほど勤勉そうな執事服を着た少女スロウスだった。
スロウスは柔軟な体付きで手と足に握っている四本のナイフを獣のように投げつける。
そして、ラースの悲鳴の原因もこれである。
「みんな仲良くですぅ――……。」
そうラースが優しい声で言ったのがラースの最後の言葉だった。
あくまでエレインの中のラースとして。
少女はさっきまでの優しい顔とは一転怒りに……それこそ【憤怒】の名に相応しい姿と化していた。
「カッカッカッ。スロウス貴様やりおったな? 禁忌の憤怒王が覚醒した。」
「禁忌? どうしてですか?」
「それは、この中で一番強いのは怒りに溺れたラースだからですわ。」
そうエレインの問に快く答えるグロウ。
その近くにメラメラと燃え滾るような憤怒の業火と雷霆。全てを覆してしまいそうなその赤と黄の二つの光。
それが見えた子思えば、【怠惰】のスロウスに一撃二撃三撃というように打撃を与えてゆく。
「……。1……2……3……!!」
そうさっきまで微笑みが可愛かったとエレインでさえ思わせた少女の無口なのにその言葉のはしはしに狂気や憤怒の感情が見えるようだった。
それに心做しか攻撃力がほんの少し高くなっているように見えた。
「……12……13……!!」
「熊隊、防御!! 兎隊援護!」
そうスロウスが叫ぶとその命令のとおり熊は防御に兎は援護に回った。
「チッ!」
そうラースが舌打ちをするとそこからスロウスの反撃が開始する。
「最強か何かは知りませんが、最終的に勝つのはボクです。勤勉なものこそが勝利するのです」
スロウスがそう喚くとまるであたりに転がっている石に意識があるように浮かび上がり、ラースに総攻撃をかける。その光景を例えるなら切り裂き咲が良くやっていた
無限の狂剣の石版かのようなものだった。
あたりにゴババババと言うような効果音が響き渡る。
ラースはその石礫をひとつ残らず受けまるで何かを企んでいるような顔をする。
「なにを企んでいるのかは知りませんが、詰みです。」
そうスロウスがサタンにそう言った。
確かに一見は詰みに見えるその光景。
上には石礫が大量に敷き詰められ横にはナイフを構えたスロウスと人形隊がそこでひとりほくそ笑んでいるサタン。
そしてその全てが一斉にふりかかる。サタンの体はボロボロになっている
「カッカッカッ、詰んだのはあやつだ。」
そうひとり高笑いをするルシファー。
スロウスが勝利を確信した顔をした……。
だがその勝利の笑は一瞬で消え去る。
「敵の、ラースの【憤怒】の権能を知ろうとしなかったスロウスの怠惰ですわね。」
グロウはそう呟くように言葉を発した。
ただ、エレインにはサタンが権能を発動したようには見えなかった。
「あやつの権能は連撃と蓄積と反射。そんな輩に数の暴力とは自殺行為も甚だしい」
「コンボ数が稼ぎやすい上に、相手の威力をすべて蓄積できますわ。総勢3000程の回数のコンボを蓄積、それに自分の連撃持たされた一撃かと思うとゾッとしてしまいますわ。」
「え? それじゃぁ……」
エレインは二人の解説のもとそう言葉を紡いだ。
「ええ、スロウス……私達はサタンを怒らせた時点で戦う前に負けているんですわ。」
そうグロウはどこか『勝ち』を見越したような顔で言っていた……
――ような気がした。




