3章9『斬崎咲の再来』
この世界に再び悲劇が起こる、何年も……遥か前に人類史上最大の大戦争とも呼ばれたその第二次世界大戦のような悲劇が再び起きるやもしれない。
日本のおかれている状況は最悪だ俺の異能暴発切り裂き咲の大量虐殺によって人口の半分ほどがいなくなっているこの状況下、確実にふっかけられた場合敗北の文字しかない。
ついでに言うと、俺の力はほぼ失ったに等しいし、今最大戦力となる切り裂き咲も俺がこの手で消去した。
ただただ俺らはふっかけられないのを願うばかりという訳だ。
「最悪だな……。」
俺はその状況判断をし小さくため息をつく。
「後ですね〜。九州あたりで切り裂き咲を目撃したという情報が流れ着いているそうです〜。」
マジかよ。切り裂き咲がいたら百人力かもしれないが確実に仲間に引き込めるわけが無い。状況は最悪を越してもう終わり、詰みだ。
後は滅ぶのを待つだけ……。
それで言い訳ないだろ? 誰が今殺されるのに無抵抗でただ指を加えて待っている?
最後まで足掻くだろ?
俺はこの無力の体でも戦う。いや、戦わなければいけない。それが自分に課せられた罰だから。
「それで、そのモリアティ大統領はいつ戦争をおっぱじめるつもりだ?
ここで俺らは突っ立って待ってていいのか?」
そう俺が大きな声で問うと3人はちょっと待ってての一言を残して家の中に入りバタバタと少し何かをしてから戻ってくる。
「行くんでしょ? お兄ちゃん。」
「どこまでもお供しますよ〜。」
「右に同じ……。」
そう言って3人は実態のない俺の背中を言葉の通り押してくれた。いや、二つの意味でだな。
「みんなありがと、このお礼はいつか必ず。」
そう言って俺らは警視庁異能課に向かって走り出した。
着くとそこはある意味戦場だった。俺のこの姿に困惑することもなく自分の仕事をただひたすらにやっていた。
「やあ、祈君その様子だとすべて聞いたようだね。その容姿にはあえて触れておかないようにするよ。」
「司令! 裏が取れました。間違えなく切り裂き咲のようです!」
司令とはきっと信実さんの事だろう。そう奏さんが大きな声で言った、それに続いて……。
「司令! ロシアが弾圧されました! そのまま樺太経由で日本に来る模様です!」
「司令! 切り裂き咲が徐々にこちらに向かっているものと思われます!」
「司令! 敵陣には【艦隊】や【爆撃】と言った戦闘系異能が多いようです!」
そう声が行き交う。
でも確か切り裂き咲は俺が消去したはずだ、なのに何故……。
そう俺は考えていると脳内にある言葉がフラッシュバックされる。
――思いを糧にして強くなるのですわァ。
この言葉は切り裂き咲が言ったものだ。思いってなんだ? なんの糧になるんだ? あの時浮かべていた妖艶な笑の理由はなんだ? 異能ってなんだ?
そいつは誰なんだ?
そう脳内中に疑問という疑問がものすごい数浮かび上がる。
どうやって俺の二重の【消去】に打ち勝ったのかはわからないがそいつが切り裂き咲を名乗る以上俺はそいつを何度も討ち滅ぼす。それだけだ。
「危機的状況に陥っているわけだがなにか打開策は思いつくかね? 祈君。」
「いや、それが……どう考えても詰みにしかならなくて……。」
切り裂き咲を仲間にする……モリアティをどうにかする……。
もっとたくさんの方法があったのかもしれないけれど俺にはこの二択しかないような気がする。なぜなら俺が今無力に等しいからだ。俺が今力を持っていたら両方を一時的に終わらせられたかもしれない。
前者は可能性が皆無。後者はそもそもどうにか出来たところで切り裂き咲をどうにも出来ないんじゃ結局詰む。
この戦争俺らに勝機はない。俺はそう確信してしまうところまでいた。
「どうにか切り裂き咲を仲間に出来たら……。」
俺は少なくともそれにしか頼れない状況下にいた。
なんてったって俺は無力だからだ。
「切り裂き咲を仲間にか……。面白そうだが……」
「成功する……確率が……ゼロパー……。」
「確率論に0%は無いよ。あくまでゼロに近しいだけで……」
まあ、どう考えても1よりゼロの方が近いくらいの確率だろう。
「そのゼロに近い確率で攻めるかこのまま違う方法を考え続けるか……。」
「司令! 切り裂き咲の反応が消えました!」
俺らがその二つの選択肢を本気で迷っているとそう声が聞こえた。
「それはどういう事だ!?」
信実さんはその消えたという言葉に大しての追加説明を求めた。
「それはァ、こういう事ですわよォ。」
そう答えたのは他でもない件の少女。切り裂き咲こと斬崎咲だった。
「うわあああ」
辺りはその突然の出来事に冷静さを失う。
「おい! 切り裂き咲! 一つ聞きたいことがある。」
俺はそう啖呵をきって言った。
「何ですのォ。祈さんの言うことくらいなら少しだけなら聞いて差し上げても構いませんことよォ?」
その返答は意外だった。ただ俺はみんなが思っていた質問とは違うことを聞いてみることにした。
「お前、どうして生きてんだ? たしかに俺に異能もお前自身も消した。なのなどうしてだ?」
「それはですねェ。祈さん、ワタクシの異能はワタクシの細胞の一部でも生きていたらワタクシは何度でも蘇りますわァ。
ですからァ、祈さんのその【消去】の異能ではワタクシを殺すことは出来ないということですわァ。」
その少女は淡々とそうネタバラシをするマジシャンのように誇らしげに話した。
マジシャンは自分のネタをばらそうとはしないと思うけどそこはご愛嬌。
「なるほどな……要するにお前は人を殺している限り不死という訳だ。」
「そうですわァ。ねェ? だから大人しくワタクシに殺されてもらえませんことォ?」
「そうだな……今樺太経由で米軍が日本に戦争をふっかけようとしている。お前はそいつらを殺しても構わない。だから俺らと一時的に一緒に戦ってくれないか? そうしてくれたら考えてやらんでもない。」
俺は貰ったと思いこの顔の見えない極度のポーカーフェイスを利用してそう取引にかかる。
「ええ。いいですわよォ。」
「そうだよな、ダメだよな……え?」
「だからァ、いいですわよォ。」
なんか呆気なく切り裂き咲と一時的に協戦契約を結ぶことに成功した。




