3章4『食べ物の葛藤』
ひとしきり海で遊んだところでもう夕暮れだった。
何のお節介なのかバーベキューセットとかテントとかがあった、ほんとなんなんだこの試練。
「そう言えばこれどんな試練なんだ?」
「え? 知らなかったんですかぁ。 あれを見てください。」
そうシュタさんが指さした方向を見るとそこには南国っぽい感じの祠のような場所があった。
「アレがどうかしたのか?」
「え? 分かりませんかぁ? 多分あれが下の階へと続く階段ですぅ。」
え? じゃあ早く次の回行こうよ。
そんなことを思っている矢先シュタさんの否定の言葉が飛び交った。
「でもあの祠扉がしまってるんです。さっきのようなボタンを押さないと扉があかない仕組みだと思われますぅ」
「それでそのボタンはどこにあるんだ?」
「それが分からないから困っているんじゃないですかぁ。」
確かこの試練は〝海洋〟だったよな……ご丁寧にシュノーケリングまであるしきっとそのボタンはこの海の中だ。
でもさっきみたいな事があるとやっぱりそれが正規ルートなのか疑いたくなる。第一の試練〝迷宮〟だったのに迷宮要素結局いらなかったからな……。
う〜ん。まあとにかくやって見ないことには始まらないな。
「多分そのボタンこの広い海の中にあるぞ。」
「何でですかぁ?」
「それはこの試練が〝海洋〟だからだよ。」
そう言うと俺以外の3人がうーんと顔を困らせた。なぜ俺はそんな顔をしないかと言うと言うまでもない、今俺に体がないからだ。
「でもそろそろ夜になるし、今日のところはやめといた方が……」
俺の言葉を聞き入れずシュタさんと義兄さんは海に飛び込んだ。
「「チベダッ!!」」
ふたりが海から飛び上がりそう叫んだ。だからやめといた方がいいって言おうとしたのに……。
夜の海は朝の海とは違い冷たくなる。だから寒いと感じる人が多い。それに妖精の特徴として寒いところが苦手らしいから尚更だ。あと、夜になると視界もあまり良くない。
「とにかく今日はもう着替えてそこにキャンプ道具やらがあるからそれに泊まろう。」
ここの設定は常夏のビーチだ。朝は太陽が出て最高に気温が暑くなる。夜は月が出て気温が下がる。そこまではいい、みんな忘れているはずだ……ここが地下だということを……特に意味は無いが、ここにもちゃんと朝と夜が区別されて太陽と月が出ている。不思議じゃないか? どうしてそんなことが出来る?
俺はそう思いながら特に更衣室に行く必要も無いのだがちゃんと更衣室で着替えることにする。この生活が板についてしまったら体が戻った時色々な感覚をなくしてそうだからだ。
着替える時にピンクの光が出て義兄さんはビックリしていたが特に気にはしなかった。
俺は気を使い一生懸命着替えているみんなのために火をおこしながらバーベキューの下準備をしてゆく。
いや、大変だったよ? 自分の手が見えないから今何処に手があるのか記憶しなきゃいけないからな。
そうしているうちに着替えが終わりみんながこの火を囲う。たしかにこの寒さは要請にとっては寒いかもしれない。まあ、寒さに強いジャック・フロストって言う妖精もいるらしいけど。
気温を体感出来るのかとツッコミを入れてくる君。いいセンスしてるよ? あくまでも俺は魂としてこの世に具現化されているわけで魂という目に見えない個体が存在する。……と思われる。多分俺の胸元あたりにそれが集まっていて大体の感覚はわかるようになっている。……っぽい。だからつまり気温、湿度などなどの触覚は感知される。……ってことだと思う。この体にもまだなれないな。
そんなことを思いながらガクガク震えているみんなの為に下準備をした肉類を鉄板の上で焼いてゆく。
俺って食べ物食べられるのかな? 食べなきゃ死ぬのかな?
さっきから誰も一言も話さないのは、3人は寒いから、俺は忙しいからが理由であり決して仲が悪い訳では無い。
「なあ、ここってどこまで広いのかな?」
俺がふと気がついたことを言ってみる。この世界のいわゆる所のアンダーワールド的なものなんじゃないかな? と俺はなんとなくそう思った。
それも全てメイヴ・フラワフェアリ元王女の作品なんじゃないだろうか?
「確かめてみますか?」
少し寒さも収まったのかティターニャがそう言い出した。
「じゃあ、バーベキュー終わってから行ってみようか。」
俺は今、焼きたての肉を見ていた。見るだけでお腹が減ってきて、見るだけでもその肉の美味しさがわかるような気がする程はお腹が減っている。
――食べられるかな……?
俺の頭にその言葉が過ぎる。
いやいやいや、でも流石に食べれるなんてことはないしょ、実際どこから食べるのさ? 首ん中に突っ込むの?
ゴクリ。その滴る肉汁、口に入れた瞬間蕩けてしまいそうな程柔らかそうな脂の乗ったその肉に今すぐでもかじりつきたい。
ゴクリ。俺は再び唾を飲む……実際にはそんな行為はしてないんだけどなんというかそんな感じ……息を呑んだみたいな感じかな?
――食べようか?
――いや、でももし食べられなかったら?
――それでも……。
やはりその肉の味わいを口いっぱいに頬張りたい。その肉汁を体に染み渡らせたい。
そう俺は決意した。食べようと……
俺がその目をつけていた肉に手を伸ばそうとする数秒前……。
「おっ、これ美味しそうですぅ。いっただきー♪」
そう無慈悲なシュタさんの手によって俺の数分の葛藤がすべて無駄になる。ああ、食べたかった……。
俺はそう思いながら方をぶるぶる震えさせる。この場に体があったとしたら男だということも忘れて涙が零れていたかもしれない。ワンワン泣き喚きはしないよ?
ならば仕方が無い、次の肉を……。
肉が……肉がない……。
がたんと俺の肩、膝全てが崩れ落ちる。
終わった……肉食べたかった……。
「旦那様? お肉食べますか?」
すべてに絶望しきっている時、まるで天使のような……いや天使だ。俺の天使がそう微笑みかけたのだ。
「食べます、食べます。食べられないかもしれないけど、食べます。」
俺はきっと今体があれば目から滝を作っていたことだろう。
ティターニャはそのお肉を自分の箸でつかみアーンの体勢をとったところで一度やめてこう言った。
「でも……どこから食べさせれば良いでしょうか?」
「う〜ん……服の中に入れてみる? 多分ここら辺に俺の魂があると思うんだ。」
そう言って俺は心臓の辺りを指さした。
ティターニャは、では。の声とともにもう1度アーンをしてくる。
俺はこの場合どうしたら良いか分からずなんとなく襟元をティターニャに向けてみる。
するとその中にティターニャはその肉を入れる。
ベチャ。
そんな音が聞こえた。
え? なにか落ちたのか?
俺はそう思い地面を見るとそこには……。
肉が落ちていた。俺の足元に……。
ガタッと俺は崩れ落ちた。
「クソッ!? 食べられないのかよ!?」
俺は紛うことなく大きな声で悲しく叫んだ。
俺は今灰と化している。ああ、すべて燃え尽きたよ……。
「ごめんな、ティターニャ……。あとありがとう……。」
俺はそう言って意識は全て飛んでいっていた。




