3章2『天国と地獄』
そこは辺りが仄かに白白しい地面に空、まるで死者の世界……天国を思わせるような世界。そこには鳩のような白い羽から蝙蝠のような羽を生やしたヒトが住んでいる。
その世界の一部にあるひとりの少年が居た。
その少年の名は巡谷祈。
その少年の近くの上空でポムっというような効果音を立てて出て来たのが少年の召喚妖精エレインだ。
エレインはその少年に辺りが今までにない世界だと判断し、マップで調べるとその世界は……
「パパ。この世界は天使と悪魔の住まう世界ヘブルです……」
エレインがなにか違和感のようなものを感じ取り、その少年にこう問いかける。
「パパ? あなたパパじゃありませんね?」
と……。
すると少年はその少年の声を狂ったように踊らせてこう答える。
「アナタは誰ですか? 私の名前は【虚飾】のグロウ。パパってもしかして……この体の持ち主かしらぁ?」
「パパに何をしたんですか? パパを返してください。」
そう小さな体で甲高い声を発して抗議をするエレイン。
が、エレインの講義の声は届かず、少年は……グロウはその奪い取った少年の体を確かめるべくあたり一面を破壊して回っている。
「アハハ、これほどまでに使い甲斐のある体は使ったことはありませんわ。これならあいつらを殺せるかも知れませんわねぇ。」
エレインはこの自体に諦めたのか、その時が来るのを待ちわびる事にしたのか表情も何もかもを一転させて好感度をあげようと近寄る。
「あいつらって誰ですか?」
「それは忌まわしき、プライド、ラース、グリード、グラトニー、エンヴィー、ラスト、スロウスの7人ですわ。」
グロウのその顔はまるで嫌悪に満ちた表情ではなく、殺すのが待ち遠しいかのようなワクワクという表現が一番正しいようなものだった。
「どうして殺さなきゃいけないんですか?」
「私達魔王と言われる、8人の【傲慢】【憤怒】【強欲】【暴食】【嫉妬】【色欲】【怠惰】【虚飾】を司る魔王が悪魔になる為には自分以外の魔王を全て殺さなければならないんですわ。」
そうグロウが言った時エレインは、そう言えば天使と悪魔の住まう世界だったな……と思う。
「魔王は悪魔の劣化品と呼ばれこの世界には留まるのは困難でそれぞれの悪魔になりたい理由が私でいえば【虚飾】。
まあ、何で【虚飾】って呼ばれたのかすら覚えてないほど昔の出来事なのですわ。」
「なるほど、だいたいわかった気がします。
それぞれがそれぞれの意を持ってそれぞれを殺しあっていると……
私もお供します。一応パパの体なわけですし。」
そう言ってエレインは怪訝な表情になるのを抑えて言葉を借りるなら虚飾な笑顔でそう言った。
「他に、魔王は居ないのですか?」
「昔、遥か昔に、【憂鬱】のグルームって奴が居ましたけど、【怠惰】のスロウスに殺されましたわ。」
「そうですか……。私もしかしたら魔王の居場所が分かるかもです。」
エレインはひたむきな笑を浮かべてそう言う。
「それは本当ですの?」
「ハイ! ちょっと待ってくださいね……。ハイ確かにそのような反応が九つ見つかりました。一番近いのがここで【傲慢】のプライドさんですかね。」
グロウはエレインの事を力を極限まで制御して頭をなでなでしてあげた。
□□□
その頃真っ暗闇の世界の中。
何もかもがない暗闇の世界、光があって初めて影があるのなら光に対しての影も同じ扱いになるのだろう。まあ、そんなことは関係ないのだが……
つまり、影の世界なのではなく、真っ暗な世界。影も光もない世界ということが言いたかったのだ。
(ここは……何処だ……?)
そう俺は目が覚めてその真っ暗な世界を見る。
ああ、そう言えばあの誰かに中に入られて……。
俺はあたりを見渡すとそこには本当に誰もいない、暗くて見えないとかではなく、本当に誰もいない。
俺はあたりを見渡して誰もいないのが分かるのと同時にある重大な出来事が起こっていることに気がついた。
――俺の身体がねぇ……
俺はあの誰かに体をパクられたのか……なんて冷静に考えている状況じゃない。どうすんだよ……俺の身体がパクられたよ。
俺は今陥っている状況を確認すべく魔法を発動させようとしても魔法は発動しない。
ただ、この感覚は……なにかまだ大事なものが少し残っている気がする。
但し今の状況が最悪なことに変わりはない。
とにかく俺はどこかに意識を張り巡らせてゆく、確かあの誰かは「此処は私とアナタ」とか言っていた……とすればこの世界は俺自身だということになる。
俺が意識を集中させれば何かはできるはずだ。
そう願っている……
すると、そんな光がないはずの世界に光が生まれていた。