2章10『魔道兵器《メイヴ》』
そこは見たことの無い書斎だった。
「ええと……ここは何処だ?」
「ハイパパ。ここはアルフヘイムの城の書斎の中です。」
書斎? 俺はこの空白の1時間ここで何をしていたんだ? なんか鉄……血の匂いもするし……一体何があったんだ?
「パパ。私たちは一体ここで何をしていたんでしょう?」
「さあ、さっぱりだよ……」
俺は辺りを見て出来るだけの状況証拠を得ようとする。
「……。これは……」
俺が見つけたのはこの世界の魔導書のようなものだった。
その魔導書は赤紫の革表紙にこの世界の文字らしきものでなにか書かれている。
ええと……
「……メイヴ。」
俺は中身が気になり革の表紙をめくってみる。
中には大体このような文が書かれていた。
『私、メイヴ・フラワフェアリは研究の末危険な魔道兵器を作ってしまった。
その魔道兵器は、妖精の体を爆発性の物質に変換し常温で自然爆発する、
そんことは別にどうでもいい。一番大事なことはその兵器は自らの意思を持っている
この兵器は、少ない時間でもの凄い知識量を得てしまった。
私の研究は大成功だ。この兵器の名前を私唯一の成功例として、私自身として【メイヴ】と名付けることにした。』と……
メイヴ。そんな兵器がこの安泰した世界に存在するというのか……
俺はその大半が真っ白だった本を読み終えるとこの事を皆に伝えるためこの本を持ち出し、書斎をあとにする。
ティターニャどこにいるんだろ? あと、オベロン義兄さんも……
俺はまず自分の……俺とティターニャの部屋に行ってみることにする
すると案の定ティターニャはそこに居た。
「旦那様? ウゥゥゥ……心配したんですよ……」
「ごめんティターニャ心配させたみたいだな……俺実は1時間ほどの記憶がすっぽり消えていて……」
「そうですか……ええとですね。まず旦那様はなにか思いつめたような顔をして書斎に籠りました。そして一時間くらいたってから……。……あれ? ええと……」
まるで俺にそこの情報を与えないかのようにティターニャからもそこからの記憶が失われているらしい。俺のペナルティはそこまでのものなのか? それとも知られてはいけない情報だったのか? でも誰にとって?
俺はそんなことを考えて脳細胞という脳細胞をすべてフル回転させてその状況を把握しようとする。
「いや、無理して思い出さなくてもいいよ。ありがとな、あと心配させてごめんな。」
「いえ。すみません。お力になれず。」
そうショボンと俯きながらティターニャは謝る。それを慰めるために俺は頭を撫でてあげた。なんかこれよく効くんだよね、何でだろ。
「ああ、そうだこの本……」
俺はそう言い手に持っていた『メイヴの書』を見せる。
「ええと……旦那様、これなんて書いてあるんですか?」
俺の過去の記憶を全て持っているティターニャが俺らの世界の文字は読めるし、もちろんこの世界の文字も読める。そんなティターニャがこの本が読めない訳がない。
「とにかくお兄様を呼んできましょう。」
そう言ってティターニャは部屋を急いで文字通り飛び出た。
ええと、俺はここで待ってた方がいいのかな?
「読めない本があるとは!? それはどんな本だ!?」
飛び出てから数分。そんな大きな声が聞こえてくる。
あ、でもこの本この城の書斎のものだから……
「ええと、これです。」
俺はそう言って手に持っていた赤紫の本を見せる。
その本を手に取ると義兄さんは血相を変えてそのホント睨みアッコする。
「祈。この本はどこにあった? 」
「ええと、書斎です。机の上に……」
俺がそう口にすると義兄さんはものすごい顔をする。
え? 何? どうしたの?
「この本はあの書斎の全てを読んだ我が知らない本だ。あの書斎には新しい本は入ってきてない。つまり突然湧き出てきたか、誰かが置いたかそのどちらかしかない。」
え? ということはつまり、この本は……
「この色といい、我の読めない文字。完全に古代妖精語の一つだ。間違えなくメイヴについて書かれているだろう」
「この本……それにメイヴって何なんですか? 一応はこの本を読んでわかるけど……」
「何? 祈はこの文字が読めるのか?」
俺は義兄さんのその問に「まあ、はい」と答える。
「頼む。この本を翻訳してくれ。」
義兄さんにそう言われたので、俺はこの世界の文字に変換するよう翻訳魔法をかけて義兄さんに差し出した。
「おお、これは……これが祈の個性か?」
「いえ、これはタダの翻訳魔法です。」
「メイヴというのはここに書かれているとおり魔法兵器だ。」
その本を読み終えた義兄さんはそう説明をし始める。
「それが今、始動している。メイヴというのがどのようなものかは分からなかったがこの本を読んで少しはわかったよ。」
今発動しているだって? それはやばいんじゃ……
「だが、メイヴを発動させてしまったロビン伯爵は、その時の記憶を忘れているし。どこにあるのかも全く……」
それなら……多分。
「なあ、エレイン。名前がわかってれば場所特定は可能か?」
「はいパパ。出来ます。
……。動いています。この世界内で無数の反応が動いています。」
「「「!?」」」
「あともう一つ反応があります。こちらは動かず不動のままですが、この城の真下にあると思われます。」
動いている方と動いていない方。これはきっと動いている方が偶然同じ名前だった人だろう。動いてない方が多分魔道兵器だろう。
その意見を俺は伝えると義兄さんも同じ意見だという。
「じゃあ決定だな。この城の下魔道兵器を見つけに行きますか!」
意見は一つに決まり、俺、エレイン、義兄さんでこの城の下を目指す。ティターニャは危ないかもしれないので何とかして残ってもらう事にした。
さて、探索に行きますか、とドアを開けると……
なんか首が転がっていた。いや、ネタとかではなくホントに生首が転がっていた。
でも血とかは出てることはなく俺はいきなりの出来事につい悲鳴をあげてしまう。
「ギャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
それに連鎖するようにここにいる全員が悲鳴をあげた。この悲鳴は俺みたいに生首に驚いたわけではなく俺の声に驚いたのだろう。
その悲鳴は生首もしていた。へぇ?
「生首が……生首が……」
「あれ? シュタじゃないですか。」
シュタ? え? 首からしたが動いて……ああ、デュラハンか……ってアンデッドじゃないですか!? 何で義兄さんもティターニャもそんな冷然としてるんだよ!?
「もぅ。急に開けたら危ないじゃないですかぁ。」
喋ったァァァァァァァ。……じゃなくて。え?
首を持ち上げたシュタと呼ばれるこの国の騎士の防具を身にまとった女の子は敬礼した。
「メグリヤ・イノリ様ぁ。お初にお目にかかりますぅ。アルフヘイム騎士団団長のシュタ・アンデッドですぅ。」
ほえ? もう何が何だか誰か説明頼む。
俺はそんな顔でティターニャを見ると手招きをしてそちらへ行くとヒソヒソとちゃんと説明してくれた。
「ええとですね旦那様。彼女はデュラハン、妖精種の一つです。旦那様の世界ではデュラハンはアンデッドつまり敵かも知れませんがこの世界では私たちと同じ妖精です。」
デュラハンが妖精ね……思い出した。たしかどこかの神話で聞いたことがあるな。
「どうやら深刻な問題のようですねぇ。わたしもお供しますぅ。」
……と言うわけで、俺、エレイン、義兄さん、シュタさんで城の下に行くことになった。
なんか本当にすみませんシュタさん。