1章3『言葉の魔法』
「さ、一度私のクエスト達成を知らせに行かないと……」
そう言ってアーサはカウンターらしき所へ今の今まで怪我をしていた事すら忘れていたかのように軽やかに走り出した。魔法ってすごいなと感心しました。
「お帰りなさいませ、アーサ様。クエストの達成と買取でしょうか?」
「うん、そうよ。」
「では、ギルドカードの提示と討伐部位の提出をお願いします。」
そう言われるとアーサは、赤色の名刺サイズのカードと、白く真っ直ぐに伸びスラットした五つの角をドンと出した。
「はい。たしかに受け取りました。一角兎を5体討伐たしかに達成した模様で。お疲れ様でした。」
一角兎。なるほど、この世界のギルドクエストの達成確認は討伐部位を持ってくるスタイルなのか。とひとり祈は感心しながらいる間にもことが進み、茶髪くせっ毛、胸もそうそうある白磁の肌を持つ美人なカウンターのお姉さんは、カードにスタンプのようなものを押すと、光の魔法陣のようなものが浮き上がり、経験値などが更新されていた。
「あと、この子の新規登録をお願いしたいんだけど……」
更新されたカードと銀貨2枚をもらってそう言った。
「はい、かしこまりました。ではこちらに血を少し垂らしてもらえますか。あ、こちらのピンをお使い下さい。」
そう言われて光の魔法陣が浮かんでいるその真っ白なカードに俺は指先にピンを指して血を一滴垂らした。すると、魔法陣が2重3重に重なり光を発し収まったと思えばそこには色々な文字が書かれていた。神秘的な情景であったが、その文字が読めないというのが及第点だろうか。それもまた、良い神秘感をだしているのだが。
「こちらが、貴方様のカードです。このカードは偽装防止のため貴方様の手元から離れると灰色になります。一度紛失されても再発行ができますが、その時は手数料を頂きますのでご了承ください。」
そう諸注意を沢山言われてカードを受け取った。どうやらカードの色はランクを表していて、白→黒→緑→青→赤→銅→銀→金→白金の順ですごいらしい。
だからアーサは、だいたい真ん中辺りのランクらしい。当然俺は初心者で真っ白だ。
「さて、行こうか。」
僕はアーサに腕を引っ張り連れられてその場を後にした。祈はドサクサにカウンターのお姉さんに手を振ってみると、お姉さんは営業スマイルか本心かは定かではないが笑顔で手を振り返してくれていた。
「ここは、ミーティングルーム、魔法で外部には音がもれないようになってるの。祈君のカード見せてよ。」
アーサに連れられて来た場所は、ミーティングルーム? ただの向かい合ったベンチだが? と思わせるような作りだった。よく見てみると、この床だけ素材が違ってそこに魔法陣が書かれていた。
「本当なのか? ちょっと試してみてもいいか?」
「大丈夫よ、完全防音になっていて外からこちらは見えないようになっているから、ナニを試しても私は構わないよ?」
そう、冗談めかした笑い顔を浮かべながらも、祈はその言葉の意味を理解したらしくブルブルと頭を降ってそんなことはしないからと、意思を示して声を出した。
こちらからは外が見えるのに、外から中は見えないのか。それなら、外からの反応もわかりやすいだろう。
「ただ、叫ぶだけだって」
「本当? 私に欲情してくれたっていいのよ?」
「さすがにそれは、どうかと思う。」
祈はそんな一連の会話を通した後にひとつ大きくあ! と叫んだが、周りはこちらに見向きもせず普通に過ごしている。
どうやら本当に、防音が聞いてるみたいだ。さすがは魔法世界。
「それで、これか? ああ、いいよ。どうやら俺には読めない言語だし。」
そう満足した俺は自分のギルドカードをアーサに渡した。あ、ホントだ。お姉さんの言った通りカードが灰色に変色した。面白い。
「うわ、祈。アンタ何者? 筋力の数値が3千。剣術の数値が2千。魔力量がカンストって。」
驚き気味な、と言うよりも少し引き気味な声音でそう告げた。
3千や2千の数値がよく分からないがカンストはきっとすごいのだろう。
僕がそれを聞いてわからないような顔をするとアーサが補足してくれた。
「ああと、筋力値はだいたい3千なら私くらいの大きさの石くらいなら持ち上げられるかな? 剣術はだいたい国の騎士で弱くても2千5百くらいだから凄い、魔力量は、一番すごい大魔法あっえーと……普段なら何人もの人数でする魔法を一人で軽々四回ぐらいは打てるかな。」
「えっ!? それやばいじゃん。」
僕はその数字の異様さに正直に驚く。
あっちの世界では、そんなことは出来なかったはずだ。たまに持ち上げたくなるこの気持ちは中二病という奴だろうか? ということはお約束のチートがしっかりとされているわけか。神様(笑)もなかなかやるではないか。
「まだまだ行くよ! 次はジョブ、マジカルナイト。魔法適性、火属性がカンストそれ以外は全部1。スキルが【無詠唱】【思考実現】【???】【???】アンタやばいよ!?」
そんなことを言われてもはっきりいってやはりその凄さがわからない。
マジカルナイトとか、その他もろもろとだ。それもまたわからなそうな顔を見たアーサはわかりやすく補足してくれた。
「えーと……マジカルナイトって言うのはジョブの中で最上職剣術と魔法適性が極限に高くないとなれない職。物理攻撃と魔法攻撃に倍率がものすごく高くなる。魔法適性は、完全に個人差なの、初期適性も次に行くにも、人によっては、魔法を磨いても一のまま終わる人もいるし、少しやるだけですごく上がったりするの。しかも魔法適性がカンストなんて前代未聞、魔法適性が一応全部あるのも何百年に一度くらいの確率。スキルって言うのは簡単に言うと、二度と重ならない個性。【無詠唱】は、その名の通り魔法陣も詠唱も要らない。思い浮かべただけで魔法が使える。【思考実現】は、魔法適性があるものなら、魔法を思う通りに改造できる。あとは書かれてない。この数字類なら金ランクレベルの実力だね。」
やはり俺が持っていたのはチート能力だった。
――でも多分それはすべて努力の結晶だ。最初の二つは、小さい頃からずっとしていた剣道、フェンシング、柔道が糧に、魔力量はよく分からんが火属性の魔法適性なら分かる。約8年の年月やってきたMMORPGのでのプレイは別名炎の剣士。ゲーム内ではプレイ以上の魔法の使い手はいなかったぐらいだ。そして、二つのスキルこれは高校内に期末テスト全教科満点で名を轟かせた俺の知能の表れだと思う。
「私のも教えてあげるね。筋力値が4千。剣術が8千。魔力量は0。ジョブがアークナイト。魔法適性は、全属性0。スキルが、【経験値増強3】【俊敏】【クリティカル】。まあまあかな?」
魔力に頼らないのが良くわかるアビリティだった。剣術だけ無駄に高くないか? 基準値が王国の騎士でも2500と言われるとそう思うが、上限がどこまでかわからない以上高いかどうかすら分からない。ま、それほど凄いのだろう。
「私の装備俊敏性のあるチェストプレートにコテこれはそんなんではないんだけど……
うちに代々伝わる伝説武器の『カリブルヌル』をちゃんと使うために筋力値と剣術を無駄にあげたからね。」
そう言ってアーサは、片手直剣でアーサの髪のように金ピカで、所々神々しいオーラを感じるそれを天に掲げた。
「じゃ、今日はもう遅いし、腕試しはまた明日にして、家に帰ってご飯食べて寝ようか。」
アーサがカリブルヌルを腰の鞘に華麗にしまいそう言った。
正直に言うならば、こう行った話は家出した方がよいのでは? と思ったがいろいろとご近所のアレとか、きっと俺をからかいたかったのだろうと思った祈はその口を紡いだ。
「ああ、そうするか。」
ギルドから出て二三分歩くとアーサの家がある。両親は昔狩りの途中でモンスターに殺され、今は一人暮らしなのだとか。なんか空気の読めない話をしてしまった。
「ジャーーん! ここが私の家。今日から祈君の家にもなるよ。さ、上がって上がって
♪」
中に入ってみるとそこには洋風で外見からの特徴も壊さずなんとも可愛らしい家具が沢山あった。ベッドなどは見当たらないためここはリビングなのだろう。なにせ一軒家なのだから。
「か、可愛い部屋だな。」
「……っ。ふっふーん。そうでしょ。」
何やら顔が赤くなった気がする。熱でもあるのかな?
「私、ご飯の準備するから先お風呂はいってくれる?」
「ああ、分かった。」
お風呂の場所は、キッチンらしきところのすぐ隣だった。壁に仕切られとかではなく脱衣場兼キッチンで……って、入れるかー! 何そのプレイ、あれだよ、ダメなやつだよ。
「ん? どうしたの? 服脱がないと入れないよ? ……あっ、脱がしてほしいの? 」
「いやいやいや、違います。断じて違います。では」
俺はサッとお風呂と脱衣場兼キッチンを仕切っている唯一の壁、ドアをあけて入りその中で脱ぐことにした。
「ハーーァ。マジ疲れた。いい湯だーー。ぶくぶくぶくぶく」
俺は、浴槽に今日1日の疲れを癒すべく方までしっかりと入りぶくぶくする。
「ご飯の準備終わったから、入っていい?」
「ハァッ? ダダダダメ。」
「え? いいって? それじゃあ失礼して。」
ダメだ? 何故かこの人難聴だ。人の話が入ってきてない。
ドアのスモークガラス越しにでもアーサが脱いでいるのがはっきりわかった。やばい絶対ダメ、ここでは言えない大変なことが起こってる。さようなら華麗な異世界生活。こんにちはポリスメン。顔赤くなってるからっ! 心臓の音が高まってるからっ!
ガチャっとドアが開いた音がし、思春期の男の子なら仕方なく体が固まりそちら側に目がいってしまう。
そこには、美しい金の髪で雪のように真っ白な肌をさらけ出して見えてしまうその大きな美しき桜色のアルカディア……なんてことは無くちゃんと白い無地のタオルをまいていた。
「……へっ?」
俺は思わず声を漏らしてしまう。決してそんな想像や妄想はしてなかった。
「ん〜? なになに? ……あっ! もしかして期待した? タオルとろうか?」
そう言ってアーサは、はらりと巻かれたタオルをスカートをめくるように捲りあげた。
「いやいやいいです!上がります。」
身の危険を感じた俺は上がろうとする……しかし今更ながら自分がタオルを持っていないことに気がついた。
「ふっふっふー♪ 一緒に入ってもらおうか。さもなくばあんなことやこんなことを……」
「ハイハイわかりました。わかりました。入ればいいんでしょ入れば……」
逆らうと本当に大変なことが起こりそうだったので大人しく湯に浸かる。
「ふふふっ♪ 祈君は胸が小さい方が好きなんですか? 私に欲情しないんですか? 今なら特別何をしても何も言いませんよ? ホレホレ♪」
そう言ってタオルを投げつけたアーサは、湯に浸かっていた俺に抱きついてきた。
何気に胸の大きなアーサの胸の柔らかさがタオル越しにでも実感出来、今にも理性が吹っ飛びそうだった。
「いや、良いから。アーサは可愛いんだから、そんなことしたらダメだよ。」
そう言われてアーサは、仕方なく辞めたんだからねっ! と言いたげに頬を膨らませて俺に抱きつくのをやめて何やら顔を赤くしていた。
「それも社会不適合者の俺なんかに……」
――社会不適合者。それは普段、ニートや自宅警備員を名乗る人を指す言葉だと俺は思う。
……でも、俺的には違う。何をしても上手くいってしまう俺は、他人からなんだよアイツなんでも出来るからって調子にノンなよ。と言って来る人の目を気にしてきた。
社会不適合者って言うのは、普通より下と普通より極限に上。そんな社会の輪の中から外れた人のことを言うんだ。きっと……
「……な事ない。そんな事ないよ! 祈君。祈君は社会不適合者なんかじゃない。私を! 私を助けてくれた。薄れていく記憶の中で何人かあの道に人がこっちを見ているのを私は見た。でも、彼らは助けてくれなかった。きっとそれなりの理由があったんだと思う。でも、そんな中祈君は、私を助けてくれた。応急処置をしてくれて私嬉しかった。だからそんな悲しい事言わないでよ祈君。この世にも祈君がいた世界にも社会不適合者なんて1人もいない。人は違っていて当然なんだよ。」
アーサは、俺の顔を自分の胸に押し付けるように抱きついて、悲しみを伝えるように俺のことを慰めてくれた。
「私は、祈君のことが大好き。優しい祈君も、恥じらう祈君も、チートみたいに強い祈君も……そのすべてがちゃんと祈君の力なら、祈君はそれだけ努力をした。それだけだよ。努力をしない人に努力をした人の文句なんて絶対言っちゃいけない。私が許さない。だから元気だして……」
その慰めは俺のひびの入っていた心を癒す、それこそ魔法のような強い力で。
きっとこの世いや、どの世界でも人の思いのこもった言葉に勝る魔法なんてきっと無いんだな……と思わせてくれた。と同時にこの娘を我が命に変えても守ろうと強く決意した。