2章3『Saki the ripper』
「祈さん。全て願さんからお聞きしましたわァ……祈さん異世界にわたる能力をお持ちのようですねェ。」
狂ったその言葉の持ち主は切り裂き咲こと斬崎咲だ。
その少女は俺がこの世界にいなかった二日程の間にこの札幌内の二百万人ほどの人を殺したとでも言うのか……
「斬崎さん、この2日で札幌から俺ら4人以外を一人で殺したのか?」
「はいィッ。ワタクシがたった2日でこの札幌を壊滅させたのですわァ。アハハハァ……それはもう楽しかったですわァ……泣き叫び喚き喚き喚きィ一瞬地獄とはこの事なのだなァと思いましたわァ」
2日で二百万人の命を……という事は……1時間で四万人の命を……こいつのどこにそんな力があると言うんだ……そりゃあ【武装】は強い異能だ、でも流石に1時間四万人はさすがに無理がある。
「どうやってとでも思っているような顔ですわねェ。いいですわァ。教えて差し上げましょう。異能というのはですねェ……
思いを糧にして強くなるのですわァ。強くなれと願うほど強くなりィ、こうなれと思えばその通りになるのですわァ。あらァ? 前も同じことを言った気がしますわァ。
だから大人には異能は使えないのですわァ。」
前そんなこと言ってたか? 兎に角コイツを倒すことに精一杯で。
想像力か……確かに大人は想像力が乏しい人が多い。それに対し子供は夢を見る……
「……でもォ。最近の子供はァ、想像力がないのですわァ。サンタを信じなくなり妖精はいないと主張するゥ。そんな奴らをワタクシの偉大なる異能で成敗しているのですわァ。」
コイツの猟奇殺人は想像力のなさが原因だと言うのか……イジメが原因じゃなかったのか……
「でもォ。願さんは違いますわァ。自分の異能を磨き上げていますわァ。だから生かしましたのォ。さァ、祈さん前の続きをしましょう。さあ、アナタの持てる全てを使ってワタクシを殺しでご覧なさいなァ」
そう狂った声で斬崎さんは言い、剣を手に取りかかってきた。
来い、クラウ・ソラス。カリバーン。
そう念じると、左手にクラウ・ソラスが、右手にカリバーンが来る。
今は夜中の12時頃俺の力が一番弱まる時間帯か……辛いな……あくまでもコイツは1時間で四万人の人を殺している。
ヤバイ……また殺される……
「アハハハハハハハァ! どうしましたのォ? 威勢がありませんわよォ?」
ヤベェどうしよう……どうしよう……打開策……打開策……
完全に攻撃を取られた……守備戦は辛い。
振り下ろされる斬崎さんの双剣を俺はカリバーンとクラウ・ソラスで迎え撃つとガキンと響き渡る金属音と火花が散る。
攻撃に変わりたいところだ……煙幕か何かを出して……
そう思っていると、赤の魔法陣とともに煙幕が出る。
それに惑わされた斬崎さんを両手の剣で両側から水平切りを食らわせる。
ガキーンと金属音が二回聞こえる。防がれたか……
「どうしましたのォ。祈さん。剣に重みがありませんよォ?」
その言葉とともに四連撃の突きが俺を襲う。
クッ! 土の壁で……
ズゴーとオレンジの魔法陣が出来てそこから厚さ50センチほどの土の壁ができる。
……が、その壁は四連撃の2連目で崩れ落ちてしまう。
「今日の祈さんは面白くないですわァ。つまらないですわァ。もう殺してしまいましょうかァ。」
その言葉が聞こえる頃には、斬崎さんはもう目の前にいた。
!? いつの間に……
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………!!」
その言葉と振り下ろされた剣が分かると思う前には、俺の体は斬崎さんに切られ気づかなかったが周りに剣が配置されていたらしいその無数の剣も俺に突き刺さり……
……死んだか…………
ガコン。ガコンガコンガコンガコン。そんな音が何回も聞こえる。
俺に刺さっていたと思っていた無数の剣も、斬崎さんに切られたと思っていた二つの切り傷も無かった……
いや、違うな……ほぼ無かった。右足に剣が一個刺さってしまっている。
「願さんですのォ? 余計なことをしたのはァ……」
その言葉と共に願に襲いかかる斬崎さん。や……めろ……
「早く逃げてお兄ちゃん。速く!」
願が守ってくれたのか……。いやそうじゃなくて…逃げろ……
俺の足から血が出てくる。止血、止血。
俺はものすごく痛かったが剣を抜き炎の魔法で傷口を塞ぐ。
「やメローーーーーーーーーーー!!」
俺は声の限り叫び無意識に最大の攻撃魔法を発動させてしまう……
その魔法陣はここテレビ塔を余裕で埋め尽くし俺らの家ですら魔法陣内にあるだろう。
赤い魔法陣が発動した。炎の魔法なのにその魔法は黒かった。いや、少し違うな、赤と黒が混ざったような例えるのならば地獄の炎かのような……まあ、見たことはないけど……そこに黄色の雷が迸りアマテラスの何倍の力を持っていると察した。
なぜ今そんなことが言えるのかと言うと……願の異能のおかげ+俺の防御魔法。
その魔法が消えたかと思うと俺とエレイン、願が居たのを確認した。
だが、エレイン以外は火傷をおっている。
「パパ。今の魔法の影響で北海道と呼ばれる地形と青森秋田の半分が消滅。被害者約五百万人です。」
ああ、やらかした。斬崎さんに真っ当なことを言っておきながらそれ以上の人を俺は殺してしまった……
「エレイン。願の火傷を治してやってくれ」
「分かりました。パパはいいんですか?」
「ああ、良いよ。これは戒めとして取っておくよ」
俺は左半分に水魔法でやけどをあえて冷やし、痕を作る。
顔から腹と腰にかけて炎の痕ができたことを確認した。
それから俺らは南を……本州を目指して進むことにした。
斬崎さんは死んでしまったのか? きっと跡形も無くなってたから死んでしまったんだと思う。
俺らは……いや、俺は願を抱え一生懸命走り最速で東京に着いた。1時間くらいだろうか?
さあ、宿を探すしかないか……