2章2『絶望の奥底へ』
結婚式が終わって俺らはオベロン王子……もといオベロン義兄様とティターニャとロビン伯爵といる。
「……という訳で、俺は異世界転移、転生が自由とはいかないが無制限に出来る。異世界人なんです。」
「異世界人……それはにわかに信じづらいな……」
そうロビン・トリックスター伯爵が言った。
「旦那様は異世界人ですわ。旦那様を一度見た時全ての情報が流れ込んできたような気がしたのですわ。」
「ティターニャがそう言うのならそうなのだろう。我々もそこのところに配慮するようにしておく。」
「はい。ありがとうごさいます。」
そんな会話をしていると俺の体が光り始めた
「これが、転移の予兆と瞬間です。」
俺はそう言うとすぐさまこの場から綺麗さっぱり消え去った。
□□□
目を覚ますとそこはアヴァロンの俺らの家の玄関だった。
エレイン、エレインっと。なんかいちいち呼び出すのが面倒くさくなってきたな……自動とかにならないかな?
「あ。祈さん帰ってきましたぁ〜。」
「祈! 大変だ! はやく!」
そうマリンとランスの声が聞こえた。
なんだよもう……こっちはさっきまで王子やら王女やら伯爵ヤらと付き合ってて大変だったんだけど……
「はやく! アーサが目覚めた!」
ランスのその言葉を聞いた瞬間俺は光も超えるかもしれないほどの速さでアーサの元へ向かう。
ベッドの上に座っていたのはアーサで、目覚めたばかりなのか目がポワポワしている。
「アーサ。良かった……良かった……」
俺は年甲斐も何もかもを忘れてアーサに抱きつきそう安堵の声を漏らす。
「……アナタ誰……? やめてください……離してください……」
アーサはまるで俺のことを綺麗さっぱり忘れたかのように怯えそう願った。
「お……おい……どうしたんだよ……またいつものボケだろ……冗談なんだよな……なあッなあッ!?」
「すみません……ごめんなさい……わからないんです……何もかもが……」
アーサは、小動物みたいに体をビクビクさせてまるで記憶を失ったかのようなことを言っている。
「ごめんなさい。祈さん私が至らなかったせいでぇ〜。」
善マリンも涙目でそのアーサの言っていることがホントの事のようにそう謝ってくる。
――嘘だよな? ……嘘なんだよな?
「私の回復魔法ではぁ〜。記憶の再生までは無理ですぅ〜。ごめんなさい。」
そう何度も何度もその事実が本当かのように言葉を繰り返す善マリン。
そうか……本当にアーサは、記憶を失ってしまったのか……俺のせいだ……俺のせいだ……
「祈? アナタ祈って言うの?」
「ああ、そうだ。記憶にないか?」
俺は辛い辛い現実を否定はせずしっかりと受け入れようとする。
「ウグッ……覚えてる……確か……私が一番大切な人だった……ごめんなさい……これしか分からなくて……」
「どうしてそれを覚えてるの? アーサ。アナタ自分の名前すら忘れてたのに……」
ランスは驚きと呆れを混ぜてそう呟いた。
自分の名前すら忘れてた? それなのに…………
ランス達は気を利かせて何も言わず部屋の外へ出てくれた。
それが俺の背中を押すように……
「うう……ゴメン……ゴメン……アーサ……俺が、俺がアーサを守るとあの日誓ったのに……俺が、俺が……」
アーサの胸の中で俺は抑えきれなくなった悲しみの感情を露にする。
その言葉を聞いたアーサは俺の背中を優しくさすって首を降る。
「違うよ……私がいつ何を言われたのかは全く覚えてないし、私がどうしてこんな状況に陥ってるのか全然わからない……
……でもね、祈君。君がそう誓ってくれた日私もきっと同じことを思ったと思う……
なぜなら……
私が今こうして記憶がすべて消え去って自分の名前すら覚えてないのに、君のこと……祈君が好きだったという事は明確ではないけれどしっかり覚えていた……
祈君が、私が記憶をなくしてしまったことに責任を感じてるんだったらそれは違う……
祈君はが誓ってくれた通り中身は違うかもしれないけれどこうして今この場所に君とこうして生きている……
それだけで十分なんじゃないかな……」
「でも……でも……」
俺はその言葉をしっかり受け入れて納得しているはずなのにその言葉に否定してしまう。
「なら、祈君。私は祈君のことが好きだ。これは、記憶を失う前も同じだと思う。
祈君は、私のことが好き?」
「もちろん……大好きだ……」
「ならさー祈君。それでいいじゃない。今の私を記憶をなくす前と同様に……いや、それ以上に好きになればいい。
私が記憶をなくしたことに責任を感じているのであれば、それが君が負うべき罰……ってことでいいんじゃないかな?
それでもダメなのであれば、泣き喚いて祈君が今出せるだけの涙を全て出し尽くしてしまえばいい。でもそんな祈君はきっと記憶を失う前の私が愛していた祈君ではないと思う……」
――守るべきものがあると強くなれる。
そんなもんは迷信だ、少年誌の主人公しかそんなことは出来ないと、俺はあの時強く思った。
いや……少し違うかもしれない。例え、強い力があったとしても、何にも屈さない強い根性があったとしても……その力はきっと最大限の力を発しないのだと思う。
強い力はそれ以上の強さにはどう足掻こうと勝てないように……俺は守るものがありその行動も決意すらも、それ以上の強さ……つまり【転生】には勝てなかった。
自分だけが戦わずして助かり、残りの500人程のギルドメンバーも街の人々も全てこの世から居なくなってしまった。
その事実はどう足掻こうと変えることは出来ない。
俺は弱い。守ると誓った愛する人も、街の人も守れなかった……
それはまるで手で水をすくってもその水がこぼれ落ちるように、すくった水は限られてその水ですらいずれこぼれ落ちてしまう。
まるで、さっきまで起こりうるはずだった。マリンの死とランスの略奪や、今起こっているアーサの記憶喪失のように……
「恥ずかしいな……助けられ、慰められてばかりだ……」
俺はそう呟く。
「そんなことは無いよ。助けられるということはその分人から求められてるという事だよ。恥ずかしがることはないよ。」
ああ、そうだったな……俺はこんな心優しいアーサに惚れたんだっけか……
そんなことを思ってると、俺の体が光り始める。
「アーサ。俺ちょっと異世界行ってくるわ」
「うん。行ってらっしゃい。」
その言葉を聞き届けると俺はこの世界からいなくなった……
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「ここは……地球か……?」
「ハイ。その様です。ですが……」
エレインがしっかり自動で現れてくれているようだ実験成功。
「この札幌という地名の中に私とパパを含め人が4人しかいません……」
どうやら、この世界でも何かが起こっているようだ……
……まあ、何かは、明確だけどな……
「斬崎咲…………」
「あらァ……お待ちしておりましたわァ。祈さん。」
目の前にいたのは、切り裂き咲の異名を持つ猟奇殺人者と、斬崎さんに捕まっていた俺の義妹、願だった……