1章16『生存者』
俺は回復魔法が使えない……いや、正確に言えば使えなくなった。ちゃんと前に、試しに使ってみたから確かだ。光属性魔法は使えるのに、同じ属性の回復魔法だけ使えなくなってる。初級魔法も上級魔法も……
「とにかくこのままでは行けません。私に魔力を分けてください。私ができるだけ止血くらいなら応急処置をします。」
「……分かった。」
俺はエレインに魔力を分けるイメージをして、エレインに魔力を分ける。
「【治癒の光よ。我が御言葉に力を示せ かの者に癒しの輝きを リカバリー】」
エレインが唱えた魔法は、光の上級魔法リカバリー。体力回復はしないもの肉体を傷がなかったかのように元に戻す回復魔法。
あくまでも、肉体回復なので、粉々に折れたその足はもちろんのこと治らない。
「パパ。ママを家に連れて帰りましょう。この様子なら家はほぼ壊れてません。」
「分かった。……っさあ、行こう。」
俺は、できるだけ、折れているところに触れないようにしアーサを背負う。
早く走ってしまったらアーサにも、危害が出てしまうのでゆっくり歩いて、生存者を確認しつつ家に帰る。
そこに何度も大きな光の魔法陣を作り、上級広範囲回復魔法【ヒールド】……ヒールとフィールドをかけてきっとそんな魔法名なのだろう。を連続でかけているのを見る。
「何でしょうか? 生存者でしょうか。こんな正確で高度な【ヒールド】私見たことありません。」
「しかもこんな連続で……【ヒールド】の消費魔力量は、ものすごく大きいのに、それこそ、少し高い魔力量を持った宮廷魔道士でも、五人でやっと一回が精一杯らしいから、相当な持ち主。」
「行ってみよう、元から生存者の探索が目的だし、これだけの技量ならきっとアーサも……」
【ヒールド】及び広範囲魔法は、魔法陣の中心に発動者がいる魔法陣構成だ。俺らは、その魔法陣の真ん中目指してアーサを背負っているので、ゆっくり急いで向かう。
「そろそろ中心です。」
エレインが魔法陣の中心を指さした。場所は街外れの煉瓦で出来た小さな家がポツリポツリ並んでいる。その街外れの家ですらほぼ壊れている。マジか、ここまでの範囲まで襲われたのか……
はぁ〜。やっと着いたか……意外と長かった。これほどの広い範囲の魔法だとは……通常の二三倍広いんじゃないか?
「【ヒールド】! 【ヒールド】! 【ヒールド】! どうして誰も元に戻らないんですかぁ〜なんで、なんで私の完璧な魔法なのにぃ〜。どうしてみんな生き返らないのですかぁ〜……グスン。」
【ヒールド】の魔法の使い手は、小さな12歳ほどの少女だった。その容姿は、背は見た感じものすごく小さい。色々小さいことを気にしてる願よりも圧倒的に小さかった、髪の色は初雪のような白銀色でその髪はとても長い。幼い顔つきには水色の瞳。
可愛い装飾のついた魔女を思わせるようなとんがりボウシ。可愛い装飾が沢山ついた魔法少女を思わせるようなドレス。それはいいのだが、それらの衣装は全て少女には全然丈も何もかもがあっていなく、まるで胸や身長がもっと大きいかのように。ボウシは、深く被り、ミニスカートのものだと思われるドレスは、肩でぎりぎり止まっていて、ロングスカートになっていた。
ホンワカとしたその少女は【ヒールド】の長ったらしい呪文詠唱はせず魔法名だけで魔法を発動させていた。
その少女の前に俺らは出ていった。
「ヒゥッ……誰ですかぁ〜? はぁっ。もしかして私の魔法効いてくれたんですかぁ? よかったですぅ……」
少女は安堵の声を漏らし、魔力切れだろうか、少女は安心してバタンと倒れてしまった。
「ランス家に連れてく、頼めるか?」
「分かった。……さあ、行こう。」
結構家から離れちゃったな……俺はアーサを、ランスは少女を背負って、家に帰った。
「はぁ〜。着いた〜。あそうだ、エレイン他に生存者はいるか?」
「いえ。家の中にニマーヌさんとタリシエンさんらしき反応以外、すべて反応はありません。」
家は守護神ニマーヌの力のお陰で周りは全て半壊状態なのに、俺の家(まあ、アーサの家なんだけど)全くの無傷。
「ニマーヌ、タリシエン大丈夫だった?」
そう俺は、確認するとニマーヌとタリシエンが出てきた。
「ああ、ニマーヌのお陰でこの通り無傷さ」
「はい。タリシエン様の為、やる気を出しすぎてしまいました。」
アハハと顔を引きつらせて笑う俺。どうせならもっとやる気出して、この街守れよとか思っちゃったけど、まあそんなことは気にしないで。
俺はそれからアーサをベッドに寝かせて、タリシエンに血で汚れているので着替えさせてくれるように頼む。
ニマーヌはさ、なんか気を失ってることを言い事に襲われたか困るし、エレインは、ちっちゃいから無理ではないがものすごく時間がかかる。ランスは、さっきまでずっと黙ってたけど裸だったから服を着るように言った。
「祈様。ランス様を裸にしてナニをしてたんですか? それにこんなぶかぶかな服を着た幼女まで連れて帰ってきて……」
「別に何もしてないから。ランスは100回ほど死んで服がもうなかっただけ、少女は、さっきまで【ヒールド】を使いまくってて俺らの前で魔力切れ起こして倒れたからです。そんなやましい事はありません。」
「あら。本当にそうでしょうか……?」
「本当なんです。」
俺はニマーヌのジョークを真面目に受け流した。
「ところでニマーヌ、紅白の双竜お前らがここに来た瞬間目覚めた。なにか関係があるとしか思えないんだが……」
「ああ、それはですね。きっとわたくしとエクスカリバーが離れたことによって封印が解かれたのだと思います。」
そう。それなんだ。でも、文献やニマーヌの話によるとニマーヌがあそこに行く前から双竜はコーンウォールに存在していた。矛盾してるんだ何もかもが……
「それは多分違う。関係ないとは一概には言えないがあまり接点がないと思う。」
そうでありたい。と俺が心から願った為の結論に過ぎないが……
「ニマーヌ、ひとつ聞いていいか? ニマーヌがいや、エクスカリバーがコーンウォールに封印されている前から、あそこに双竜が封印されてたんだよな?」
俺は自分の言葉に紡ぐように疑問を投げかける。
「はい。そうだったはずですが……それがどうかしたのですか?」
「いや、それが聞きたかっただけだ……」
これは推測に過ぎないのかもしれない。アーサが彼処でエクスカリバーを手に入れることは俺があのタイミングでこの世界に転生してこないと有り得ない事なんだ。
きっとあの時アーサは、誰からも見捨てられていたと思うから。
ここ8億年以上双竜は目覚めていない。封印が強かったのかもしれない。がもし、封印が実はもう解けていて、エクスカリバーとニマーヌの力で擬似的に封印状態になっていたら……
いや……もしかすると、今日が丁度封印が切れる日で、ちょうどその前の日にエクスカリバーとニマーヌを連れ出しただけかもしれない。
それから俺らは黙ってどちらかが目覚めるのを待った。
どちらにせよ、俺はアーサのためだけに待った。アーサが起きたのならばそれでよし、少女が起きたのならばアーサを治してもらうように頼む。それだけだったからだ、ただ順番が逆なだけで……
「ふにゅぅーぁ」そうなんとも可愛らしい欠伸は起きている俺らでもアーサでも無く、正体不明の魔道士の少女のものだった。
「ほぅぇぇ……あなた達は誰ですかぁ〜?」
「俺は、巡谷祈だ。ええと……生存者のひとりかな?」
俺が少女の目線に合わせてそう言うと少女は怯えたような目で、他のみんなは嘘つけみたいなことを訴えてくるような目で俺を見つめた、
「ひぅっ……私はマリン。マリン・シルベスター・フェアリマジシャンですぅ〜。世間的には『妖の魔道士』と呼ばれてる『ウィザード』ですぅ〜。私の家の家訓で助けられたものにはそれ以上の恩で返せ、というのがありまし出ですねぇ〜。良ければ私もパーティーに入れてもらえないですかぁ〜?」
シルベスター? それって確か、大魔道士マーリンの名前だったよな……
アーサー王の助言者だったり、悪魔の子やら妖精の子やらたくさんの伝承があるんだっけ? 確か愛した人に騙されて塔に幽閉されて死ぬんだっけか……
フェアリだから、妖精の子って所があってるな、邪悪な力は清められたからなのか?
いきなりパーティーに入れてくれと言われても、もちろん俺はいいんだけど、ランスも頷いてくれてるし……アーサならきっと「うん♪ いいよ♪ ようこそ我が家へ♪」的なノリで了承してくれるんだと思うけど……
「それなんだけど……良いんだけどさ……」
まあ、少し言葉を濁しつつも頼もしいヒーラーを手に入れてしまった。




