4章27『強い力』
祈達は空間の歪みから出るとそこは日本軍本部にまた来ていた。
理由は明確、カマエルが何らかの理由で『壊れた』――歯車が回っていなかったからだ。
「あれ〜? 祈さんもしかして浮気ですか〜」
そう誰もが恐れるような顔で診は言った――否、脅してきた。何を脅したかはよくわからないが、脅しているようにしか見えなかった。
「ち、違う違う。カマエル、俺の従者ってことになってる異世界天使だよ。」
その脅しに祈は、浮気がバレた夫のようなオドオドとした態度でそう言った。
「その方、本当に〝ヒト〟ですか? 私にはどうも機械でできた人形にしか……。」
「機械? この美少女がかい?」
その奏の声に真はすっとぼけているような、はたまた真面目な感じでそう言った。
「司令はそのようなお方が好みだったのですか?」
そう少し嫉妬のオーラが出ているような感じの圧力で奏は聞く
「あはは、もちろん奏君も好みだよ? 診君も蛍君も願君も」
「ただのフェミニストじゃないですか」
「いーや。違うよ? 君たちは悪い嘘はつかない。それこそ人を傷つける嘘をね。だから好きなんだよ?」
「いえ、私だって嘘はつきますよ。人を傷つけてしまいます。」
「奏君はそんなことは絶対にしない。なぜならその痛みを自分が一番知っているからね」
「そうですか? そういうことにしておいてあげますよ」
そうノイズキャンセリングヘッドホン越しに話す視覚という人類の互換の中で一番使うと言われている箇所を失ってしまった奏が軽く頬を染めながらそうあしらった
「たらしなんですね。」
「いや君には言われたくないよ、祈君」
「え? 俺は全くそんなことはしてませんよ」
「自覚のないところが重症だ」
「俺なんか好かれているんでしょうか? 逆に人を傷つけてないか心配で」
全てを知っている祈の中で――否、人類最大の謎、課題。人の心を『読む』でも『把握する』でも無く『解る』ことそれが出来ない。
人の心というのは実に不可思議だ。同じ言葉でも人によって捉え方が違う。
『人類』だの大きな名称が我々にはついているが、それは間違えだこの世界に1人として『同じ人』はいない。一人ひとりが違う生き物なのだ。
「カマエルをよろしく頼むよ。診って機械も直せるのか?」
「任せてください〜。私に直せないものなんかありませんから〜」
そう張り切った勢いで、自身に満ち溢れたその言葉を発した。
その数秒後で真は小さな声でこう言う
「でも、奏君の目は直せなかったけどね」
「皮肉を言うなら本人に聞こえない声で言ってください〜!」
それが意外と大きな声で真の隣にいた奏はもちろん少し遠くにいる診二ですらその声が聞こるため、つい診は情景反射的にそう突っ込む
「あはは、注意するよ」
「司令、それをずっと引っ張るのはやめて下さい。」
「ごめんごめん。ついねつい」
「そうやっていつも司令は、同じことを何度も何度も……」
そう言って奏は溜息をひとつつく。
怒られている真のあの表情と反応を見ると、まるでその光景は……
「夫婦喧嘩はやめてくだ……いや、やめなくてもいいです。リア充大いに結構なんでいっそのこと早くくっついて下さい」
その祈の声にあたりは凍りついた。
多分その沈黙は、「お前が言うか……」という羨ましさ半分恨み半分の沈黙だろう。
なぜならこの少年祈は、アヴァロンに妻を4人、アルフヘイムに妻を1人、そして地球に祈に好意を抱いている人が少なくとも3人、ついでに娘のエレインに、従者のカマエルときた、集団はその噂走っているが最初の5人はあまり詳細は知らない。だが、あとの5人は分かる。一人目は完璧な義妹の願、そしておっとりお姉さん系美少女の診、そして内気系金髪美少女の蛍、そして小さく完璧な娘に、半機械娘の従者カマエルだと? ふざけているのにも程がある。
そしてやっと言葉の意味を理解したふたりがそれぞれの反応を見せる。
方や「ななな、なにゅぃをいってりゅんでしゅかかか。そんな嬉しくともなんともない」とツンデレな反応を見せる恋愛方向に疎い奏と
方や「ふむ、奏が妻ね……悪くないな……」と奏が妻になっているその光景をイメージしながらそう呟く真。
ホント早くくっつけよ。
「カマエルさんには何も問題はありませんでした〜。ですが歯車が止まったままです〜」
「何も異常がないのに、どうして止まっているんだよ。カマエルあれでも半分は生身だから普通に回るはずなんだと思うけど……」
「自動巻きということですか?」
そんな俺のつぶやきにエレインはそう問いかけた。
――自動巻き?
「ああ、自動巻きね多分そうだと思うんだけど……」
「カマエルさんにはそのような仕掛けは一切されていませんよ?」
「ちょっと待って!? どうして分かるんだ……って、ああ、そうだったな、奏さんは耳がいいんだっけ……」
――じゃあ、何が問題なんだ。そもそも何が原因で止まっている? どうして動かない?
そう心の中で自問自答をするように問いかける。
「ああ、そうか。なんて簡単なことを忘れていたのだろう」
少し冷静になって考えればわかることじゃないか。
「――手動巻きなんだよ。」
自動巻きではないのなら、手動巻きそれ以外ないじゃないか。なぜこの結論に至るまでに三分もの時間を有してしまったのだろう。
「じゃあ次の問題だな。ネジはどこだ?」
首元、頭、手、それと思わしきからくり仕掛けの場所を手当り次第探す。
後はどこだ? どこを探していない? 足は探した。手も探した。首元も、頭も……ならばどこにある?
「こういう時、どうして大人に頼ろうとしないんですか?」
「俺ももう大人だ。いや、国の王であり国を引っ張っていけない。父として妻に安心させなければならないんだ。もう大人に頼ってられないんだよ!?」
「ならば、どうして使える術を使おうとしないのですか? あなたには人を使う力がある、あなたにはそのチート能力を使う力がある、あなたには物事を的確に判断する力がある、あなたにはそれらを的確に使う知恵があるはずです。
――なのに、どうしてそれを使わないのですか?」
「嫌なんだ……この能力で人が傷つくのは……。嫌なんだ、強い力を持っているのに人を救えないのは。嫌なんだ! その能力に頼りきっている自分が!
俺は――人は元々弱い。弱い人が強い力を手に入れて自分は強いぞーって威張る。だが、そいつからその力をとったらどうだ? また、弱い人に逆戻り。強い自分を知ってしまった自分にとって元の自分より、より一層弱く見えるだろう。そんなのは嫌なんだ! 頼りきっているのは嫌だ! 自分の弱いこの力だけで解決したいんだ。」
祈は心から今思っていることを高らかに叫んだ。
それは、キャメロットでのあの事件以来胸のうちに思っていたことだ。
自分は強くない。強いのは自分ではなく、自分の力――与えられた力なのだと。
「失礼ですがパパ。ならば、だからこそ、奏さんの力を借りるべきです。私はヘブルでたくさんの人を見ました。そこでたくさんの事を学びました。
――だから。言わせてもらいます。
パパ、今のパパは傲慢です。傲慢で、強欲です。
全てを助けたい強欲の割には謙虚で、傲慢で、力を持ってしてもその力を使わない……
そんなのは勤勉でも、慎重でも、我慢でも、峻厳でも、正義でも、慈悲でも、憂鬱でもなんでもありません。
そんなものはただの怠惰です。自己満足です。
使える力を使わないで助からないより、今使える全てを使って助けた方がいいに決まっているじゃないですか。
ちゃんと自分の心で考えてください。今の自分に何が出来るか、どれが最善策か……」
そのエレインの言葉は心に響いた。
エレインもエレインなりにヘブルで学んだのだ。人の感情というものを。
「そうだな。奏さん力を貸してくれますか?」
「はい。……ええと、司令と祈さんはあちらを向いていてください。」
「ん? どこにあるんだ?」
「いいからあちらを向いていてください。診さんエレインさんふたりを見張っていてください。」
「「はい、分かりました(〜)」」
仕方なく二人は後ろを向くとそれを確認した奏はカマエルの胸元を開きその豊潤な胸と胸の間にあるごく小さなネジのような部品を十分に回す。
「はい、良いですよ。これで動くと思います。少しずつ歯車が回り始めています」
「ありがとうございます。奏さん。それとエレイン。」
「それとって何ですか? ちゃんと私に経緯を込めてお礼をしてください」
「わかった。ありがとなエレイン。」
そう、祈は人差し指でエレインの小さな頭を撫でてやるとエレインはエヘヘと声を漏らし、そして祈とエレインは光とともに消えた。




