菜の花
春の日の昼下がり。
おばあさんは居間のソファーで本を読んでいました。
ページをめくるたびにあくびが出ます。
そんなとき。
「おばあちゃん、おばあちゃん!」
孫のひろこさんの声がして、おばあさんは庭に目を向けました。
けれど、ひろこさんの姿がありまません。
「どこにいるんだい?」
「ほら、ここよ。壁の絵を見て!」
壁にかかった一枚の絵。
それはおばあさんが、菜の花畑で遊ぶひろこさんを描いたものでした。
絵の中のひろこさんがにっこりします。
「まあ!」
「気がついてくれたんだね」
「不思議だねえ。絵の中のひろこさんがおしゃべりするなんて」
「ねえ、散歩に行こうよ」
ひろこさんが絵の中から飛び出しました。
「いいねえ、眠気ざましにちょうどいい」
おばあさんはソファーから腰を上げ、ひとつ大きな背伸びをしました。
「わたしがつれてってあげる」
ひろこさんがおばあさんの手をとると、おばあさんの体はなぜだか風船のように軽くなりました。
「おばあちゃん、飛ぶわよ」
ひろこさんが宙に浮きます。
すると不思議。
おばあさんもフワリと浮き、ひろこさんに手を引かれて絵の中に飛びこんだのでした。
二人は空へと舞い上がりました。
「空の散歩も、なかなかステキだねえ。ところで、どこへ行くんだい?」
「あのね、おばあちゃんに見せたいものがあるの」
ひろこさんが笑顔で答えます。
空高く、二人は手をつないで飛びました。
家や道路や畑はどれもおもちゃのようで、地上の町は絵本を見ているようでした。
町なみをすぎると、一本の大きな川が流れていました。土手には菜の花が一面に咲いており、まるで黄色のじゅうたんをしきつめたようです。
「ここよ、おばあちゃん」
おばあさんの手を引いて、ひろこさんは地上に向かって降りてゆきます。
二人は菜の花畑に降り立ちました。
菜の花が風にゆらゆらとゆれ、そこはあまいかおりでいっぱいです。
「菜の花、おばあちゃんの部屋にかざろうね」
菜の花をつむひろこさんを、おばあさんはうれしそうに見ていました。
ひろこさんの姿が菜の花に見えかくれします。
ゆらゆら、ゆらゆら。
風が吹くたびに菜の花がゆれます。
ゆらゆら、ゆらゆら。
菜の花がゆれます。
おばあさんはひとつ大きなあくびをしました。
――あれ、まあ?
いつかしら居間のソファーにすわっています。
顔を上げると、
「土手にたくさん咲いてたの。おばあちゃんにも見せてあげたくて、つんできたのよ」
笑顔のひろこさんが庭のテラスに立ち、両腕いっぱいに菜の花をだいていました。
――あら、いつのまに?
おばあさんはちょっと首をかしげ、それから絵の中のひろこさんを見たのでした。




