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9話 成長が実感できる時期 (1)

特に変化のない訓練期間はいっきに飛ばし季節が移り替わります

 ダンジョン周りでの魔石集めができるようになってからは、金に余裕ができ生活環境が一気に向上しだした。収入が段違いになったのだ。キラーラビットは相変わらず怖い存在だったが、見つけたら即座にガイが居る場所まで撤退し、ガイが攻撃をいなしている間に隙を突いて殴れば倒せないこともなかった。


 ずっと警戒の仕事をしていたパックは探知能力が向上し、スライムと他の生物の区別がつくようになった。そうなってからはキラーラビットはむしろおいしい相手だった。はじめて一日に3匹狩れたときはつい贅沢をして、肉を買い取ってもらわずに持って帰り宿舎のみんなに振舞ったりもした。


 休日も取れるようになった。マナ教会はこの街にも支部がある。さすがに小さな教会では奇跡は執り行えないそうだが。治療術士が在籍していることもあり、キズの治療などに訪れる人が後を絶たない。教会では一週間に一度祈りの日を設けていて、その日を休日にすることを奨励している。オレたちも、その日を休日にすることにした。


 宿舎にいる他の徒党も全てダンジョン周りに来ることができるようになっていた。キラーラビットにケガを負わされる徒党も出たりしたが、そこは先に狩り始めていたオレたちの徒党がフォローしていった。自然とオレたちの徒党の仕事は魔石拾いよりキラーラビット狩りが中心になっていた。他の徒党が魔石を集め、オレたちがキラーラビットを狩る。そのような体制で仕事をすることが多くなったのだ。


 しかし、エレインとパックがひと月に一週間ほどまとめて休みを取りたいと言い出した。パックがいないとキラーラビットを探すのは一苦労だし、エレインも最近は十分な戦力にりだしていたのだ。二人が休んでしまうと収入が激減することになるが。どうしても必要らしい。まあ、金にも余裕ができてそれくらいの休みでとやかく言う必要はなくなっていたし、オレたちはその提案を受け入れ二人が抜けている間は魔石拾いを中心に活動することになった。


 生活が向上し、いろいろと余裕が出てきた。宿舎での毎日の食事は相変わらず続けているが。それぞれの徒党が時折、肉を持ち寄り振る舞うことが習慣になった。肉なんて村にいる間はめったに食べることが出来なかった贅沢な食事だ。


 毎朝の訓練では最近は素振りだけではなく、突きの練習もするようになった。やってみるとこれが意外に難しく。最初は動かない丸太相手なのに外すことも多かった。チャージ攻撃に至っては、的を外しそのまま丸太に体当たりしてしまい痛い思いもした。チャージ攻撃は通常の突きがきちんとモノになるまで練習は控えることにしよう。


 そんな生活が数ヶ月続いた。もう夏も真っ盛りだとても暑い。貯金も大分貯まってきた。今は当面使う分の魔石以外は、ほとんどを狩人ギルドに預けている。魔石は割と小さい石だけど、数が揃うとそれなりに重くなる。さすがに数百個の石を持ち歩くと重い上に不用心だ。大きな買い物をする場合は職人や商人から見積もりを貰い、それを狩人ギルドに持っていけば支払いを代行してもらえることになっている。自分で魔石を持って行かなくていいのでとても便利だ。といっても、まだ利用したことはないんだけどね。


 ここ数ヶ月で、魔石や貨幣のレートなども覚えた、土魔石が1だとして、水は5、風は10、火は50くらいで取引されている。火だけ妙に高いのは、このあたりでは火魔石がほとんど手に入らないからだ。ダンジョンでは産出するらしいけど、ダンジョンでも他の魔石に比べて見つからないらしい。魔結晶はそれぞれの魔石の価値の100倍くらいで取引されているみたいだ。まあ、ダンジョンに潜らないと見つけられないので、オレはまだ見たこともない。


 貨幣は、金貨と銀貨がある。魔石が産出しにくい地域では銅貨もあるらしいけど、この辺りでは、ほとんど使われない。一応銅貨が5の価値を持っていて、銀貨は100、金貨は1000だ。魔石の価値は地域によって変わるけれど、貨幣は王国が価値の保証をしていて王国内であればどこでも同一の価値があるらしい。なので、この辺りでは比較的価値の低い土や水の魔石を集めて、魔石が産出しにくい平野部の農地へ持っていき、貨幣や穀物などに換えて戻ってくるなどの商売があるみたいだ。


 魔石は森林地帯ではよく落ちているけれど、平野部ではめったに落ちてないみたいで、ダンジョンも平野部にはあまりなく、森林地帯や山岳地帯にできることが多いと聞いた。平野部は安全で農業に向き、厳しい自然のある地域では魔石を多く見つけることができる。平野部では食糧を、森では魔石をそれぞれ生産することで王国は大きくなってきた。それはこれからも変わらないだろうし、変わってほしくないと思っている。


 そんな夏の朝、久々にガラダさんの講習があった。こんどは何を教えてくれるのだろう。


「よーし、突きの練習もだいぶ形になってきているな。今日は突きのバリエーションをひとつ教えてやろう、足払い攻撃だ。足払いはとても有効な攻撃手段だぞ、使えるようになれば確実に役立つ技術だ」


「足払いといっても、棒を相手の足に向けて横に振って払うわけじゃない。そんな見え見えの足払いでも有効だし広い場所でなら使うことも可能だ。だが狩人の戦場は森の中、そんな横方向に大振りになる攻撃は使えない。そこで、突き攻撃から小さい動作で足を払う動作を可能にする攻撃を教える」


「まず、相手の足元めがけて突きを放つ!、その勢いを殺さないように、利き手で捻って棒の先端をぐりっと回す。こうすることで棒の先端が弧を描くような軌道を描く、この動きを使うことで相手の足を払うのだ。熟練すればキラーラビットのような小さな相手の足も払えるようになるぞ。まあキラーラビットの場合そのまま打ち据えればいいだけだがな」


「この攻撃方法は足払い以外でも応用可能だ。描く軌道を調節することで敵に軌道を読まれ難くなり、避けづらい攻撃を可能とする。自在に繰り出せるようになれば、まっすぐ突くより攻撃を当てやすくなるぞ。これからの突きの訓練では、そのあたりを気を付けて訓練するといい」


 ガラダさんは何度か手本を見せながら説明をしてくれた。たしかにあの技が使えるようになれば、攻撃するときにとても役立つことだろう。難しそうだったけど、練習するしかないな。


「次に、お前たちの将来のことだ。この中に狩人を生涯の仕事にしようと心に決めている者も居るだろうが。今は何となく狩人の仕事をしているだけという者も居るだろう。与えられた仕事だからやっている者は、これから別の選択肢もあるということを伝えておこう」


「まず、狩人だが、続けるつもりなら弓を習ってもらう。遠距離での攻撃を可能とする弓が使えれば獲物を狩る際に有効だからだ。例えば相手がクマだとすると、重厚な鎧を着て頑丈な盾で身を守りつつ戦えば勝てることもあるかもしれんが、クマがそんな相手に律儀に付き合ってくれると思うか?、ある程度のキズを負った上で相手に痛手が与えられてないようだったらクマなら逃げる。その程度の知能は野生動物にだってある。それにクマくらいになると近接武器でダメージを与えるのも難しくなるしな」


「草食動物や身体が小さな動物ならこちらを見つけ次第逃げるだろう。となると獲物に見つからない距離から攻撃する手段が必要になる。よって、狩人を続けるなら弓は必須技能と言っていい。相手がダンジョンの魔物ならば逃げることもなく攻撃し続けてくるだろうが。野生動物はケガを負えば逃げてしまう。だが、弓で致命傷とはいかないまでも、キズを負わせることで狩りの成功率は大幅に上がる」


「犬を使うという手もある。犬は狩人の良きパートナーだ、弓でケガを負わせた獲物を、その血の匂いを辿ることで追い詰めることもできる。徒党に一人くらいは犬を使える者が居れば狩りが楽にはなるな。といっても犬の世話は割と難しい、狩りに使えるとなると、相当な訓練を積ませなければいかんし、宿舎に居る間には無理だな」


「さて、次は街の兵士になるという道もある。こちらは当然だが、弓も含む様々な武器の訓練をすることになる。まー、兵士になりたいなら狩人としての訓練をしてればいい。狩人の訓練は兵士の訓練と似通ったものが多い。宿舎を卒業するときに兵士になりたければ、その旨を伝えれば紹介はするぞ」


「だが、当然だが兵士の仕事が狩人より楽かといえばそうでもない。狩人は動物や魔物を狩るのが仕事だが。兵士もそれらの仕事をすることもある。狩人のように森のなかを探索して獲物を狩るようなことはしないが、治安維持をするため街道などは定期的に兵士が整備をしてるし、街道付近に生息している危険な生物の排除も重要な仕事だからだ」


「あとは、このあたりでは盗賊といえばゴブリンどもが居るくらいだが。大きな集団になってしまったゴブリンの盗賊どもを倒すのも兵士の仕事だ。相手が少数であれば森に潜んでいるヤツらを狩人のオレたちが狩ることもある。しかし、10人以上の大規模な集団になればヤツらも侮れなくなる。下手に少人数で手を出して散り散りに逃げられれば、またどこかで集合するかもしれん。殲滅するためにはこちらも数を揃え入念な準備が必要となる。そこで狩人が見つけ、兵士が包囲殲滅する必要があるわけだ」


「あとは、皆も知っている通り、街の治安活動だな、夜の見回りから、櫓での監視、時折発生するいざこざの仲裁など細かい仕事も多い。人間を相手にすることも多い職業だからな、ある程度のコミュニケーション能力も必要となる。他人と話しをすることが苦手な者には向いていない職業だな」


「次は商人、これはまぁ、読み書き計算能力が必要になるし、兵士より優れたコミュニケーション能力も必要だ。人と関わることがとにかく必要とされる職業だからな。商人になりたいなら、まずは読み書き計算を覚えることだ。街で私塾が開かれているから、金さえ払えば習うことはできるぞ。私塾の授業料はかなり高いがな。それでも今の狩人の仕事をしていれば払えないこともないはずだ。読み書き計算は商人以外の職に就く場合でも無駄になるということはない。無理強いはしないが覚えておいて損はないぞ」


「次は職人だな、こちらはコミュニケーション能力はさほど必要ではない。職人としての腕さえあれば多少は他人と関わるのが苦手でも大丈夫だ。まったく関わらなくていいというわけでもないがな。職人になるのは割と難しい。まず自分がなりたいと考える職人の親方に弟子入りして、その技術を教えてもらう必要がある。職人が弟子を募集しているならいいが、募集していない場合もある。これは頼み込んでなんとか教えて貰うことも不可能ではないが、職人は頑固な者も多い何度も通う必要があるぞ」


「弟子入りして最低でも数年は職人として食っていくことは難しいだろう。その間の食い扶持は他で稼ぐ必要がある。狩人や兵士などの職を兼業しつつ技術を覚えたら職人になるというのが一般的だな」


「ここに居る者のほとんどは農家の生まれだろう。なら農家になりたいと考える者も居るかもしれんが、それはかなり難しいぞ。まず土地を開拓し農業に向くように開墾しなきゃいかん。だが開拓すると言っても森は危険だ、開拓すれば農地として使えそうな土地を見つけたとしても、それを開拓するには大量の人員を投入する必要がある。数人程度ではどうしようもない」


「もうひとつの方法としては、すでにある農地を買い取る方法だが、こちらも現実的には難しい。そもそも農地を売る農家が見つからない。見つかったとしても買うとなると法外な値段になるだろうな。それに農地を手に入れたとしても、農業を軌道に乗せるには栽培の知識も必要になる。お前たちが貯めた金で農地を買って、お前たちの子供が農業で生計を立てられるようにするくらいに考える必要がある。これはなかなか厳しいぞ」


「他にも芸人になったり、よろしくない店で働くなどの、あまりお勧めはしない職業もあるが…。まぁ、どのような職に就くかはお前たちの選択だ。オレがとやかく言うつもりはない」


「とにかくだ、仕事にも慣れて稼ぎも大きくなっていることだろうが。将来どの職に落ち着くか考えて準備をはじめておけ。どうしようもなくなって盗賊などに身を落とされたら、オレたちがお前たちの命を奪い行くことになる可能性だってあるんだ。そういうことは出来るなら避けたいからな。オレに教え子を殺すような真似をさせないようにはしてくれよ?」


「さて、今回の講習はこんなところだ。次の講習はまた折を見てすることになる。今日の講習で聞いたことを各自よく考えておくようにな。では仕事に行け」


 今回の講習の内容は、なんか重い内容だった。将来か、考えてなかった。このまま狩人を続けるものだと漠然と考えてた。オレだけならそれでもいいのだろうけど、アキナやガイ、エレインやパックはどうなんだろう。とくにエレインは女性だ、狩人の仕事を続けるとなるとどうしても男のオレたちより難しい場面が増えていくはずだ。パックはとくに心配はない、小人族の能力なら非力でも狩人として十分やっていけるだろう、事実オレたちの徒党はパックの探知能力のおかげで他の徒党より大分稼ぎが大きいわけだし。


 今日の仕事が終わったら。徒党のみんなに将来のことをどう考えてるか聞いてみるかな。


 今日も狩り自体はうまくいった。キラーラビットは5匹も狩れたし、魔石もそれなりの数を見つけることができたからだ。金も貯まって来てるし、そろそろ装備も一新したいな、オレは防具を整えたい。ガラダさんが着ていたような皮鎧を職人に作ってもらおう。貯まってる金を使えば買えないこともないはずだ。キラーラビットにはじめて遭遇したときに齧りつかれたのは本当に痛かった。あんなのはあれっきりにしたい。


 そんな目先のことを考えていたら、将来のことを聞くのをすっかり忘れていた。部屋に戻ってから聞くの忘れてるのを思い出したよ。まあいいか、明日にでも聞けばいいさ。そんなふうに呑気に考えて眠りについた。

読んでくれてありがとうございます


なんか、物語全体を通して、主人公たちのセリフより

おっさん達の講義の量が圧倒的に多い

もう、おっさん達が主役でいいんじゃないかな…

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