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6話 少しづつ進む日常 (1)

やっと物語が進みだした、そんな六話めです。

十一月二日加筆修正

 朝食後に代表者を立てて話し合いがもたれた。時折声を荒げている様子も見えたが。大丈夫だろうか。ハラハラする。


 ガラダさんが素振りの指導に来てくれる前になんとか話しがまとまったようだ。どんな内容に決まったのだろう。あとでアキナに聞かないと。


 朝の素振り指導のあと、講習の時間になった。


「さて、今日の講習では防具の重要性を教える。昨日の初仕事で経験をしただろうが防具は重要だ。すでにいくつか揃えている者もいるようだが。まあいい、まず、底の厚いブーツは必須装備だ、森の中では尖った枝などがよく落ちている、粗末なクツでは踏み抜き刺さるこもある。お前達が、今探索をしている森の浅い部分は狩人がよく探す場所だから比較的マシだが、これから深い場所に入っていくようになると足のケガは死活問題になる。ブーツは早急に揃えろ、あと女性陣は早急にスカートをズボンに換えろ、スカートでは森に分け入るのは無理だということは昨日の初仕事でわかったはずだ」


「次に揃えるべきなのは手袋だな。丈夫な皮手袋があればトゲなども恐れずに魔石を探すことが可能になる。雑草の中には素手で触ると手を切ってしまうものもあるしな。手袋も出来るだけ早く買い揃えたいところだ」


「あとは丈夫な布地の服だ、すでに経験をしているだろうが、森の探索では服が傷みやすい。仕事着を用意すれば補修する手間が大幅に楽になる。服に穴が開いているとそこからケガにつながることも多い、仕事着が手に入るまでは補修も頻繁に行っておけ」


「どれもできれば、体に合わせて職人に作ってもらうのがいいが、当然高くつく。まずは中古品でいいから揃えろ。中古品なら狩人ギルドでいくつかストックをしている。稼いだ魔石などを無駄遣いせずに防具を整えろ。今日の講習は以上だ、各自仕事に取り掛かれ」


 ガラダさんの講習が終わった。防具の重要性か、初日に教えてくれていれば良かったんじゃないかなとも考えたけど、実際にケガをしてみないと防具の重要性を理解できない者が多かったのだろう。初日でケガを経験させてから防具の重要性を説くことで頭ではなく体で理解させるといったところか。おっとそうだ、アキナに今朝の話し合いの結果を聞かなきゃ。


「アキナ、今朝の話し合いはどうだった。どうするか決められたか?」


「うーん、それなんだがなぁ、今朝の話し合いでは決まらなかったんだ」


「というと?」


「まずオレは、マキと食事代は徒党ごとに徴収して、ダランさんに一度に渡すことを提案したんだけど、それは却下された」


「なんでだ?」


「同じ徒党内ですら、まだ信頼関係が築けてないのに、他の徒党の人に金を渡すのは不安なんだと」


「あー、そりゃそうだよなぁ」


「だけど、徒党ごとに別々にダランさんに支払いに行くわけにもいかねぇだろ?」


「そりゃな、宿舎に住む全員分を個別に持って行っても、誰が払って誰が払ってないかなんて分からなくなるし、もしかしたら払ってないのに食べてるヤツが現れるかもしれない」


「そうなるよな。宿舎の仲間っていっても、まだまだ日が浅いし、完全に信用はできない」


「じゃあ、結局どうすることになったんだ?」


「今ある分を食べきったら、しばらくは個別にダランさんのところで食べることに決まった。それならマキ代も気にしなくていいってことで」


「現状マキは食事の準備くらいにしか使ってないしな。食事をダランさんのところで食べるなら、それでいいわけか」


「だけど、それじゃ高くつくのは分かりきってるし、宿舎全体で使う金の徴収に関しては、これからも時々代表者が集まって話し合うことになった。当面はマキと食事代だけだったけど、それ以外にも宿舎で使う物の補充とかあるだろうからな」


「そうなのか、割とめんどくさいことになったんだな」


「そうだよ、めんどくさいことになったんだよ。話し合いには、しばらくはオレが行くけど、時々は替わってくれよ? サンタ」


「うっ、わかったよ」


「約束だかんな」


 想像したより、すごくめんどくさいことになっていた。やっぱり金のやりとりっていうのはいつだってめんどくさいことになるものだ。だけど、そういうやりとりも街で暮らすうえでの重要な経験のうちなのだろう。村ではそのあたりの取決めとかは、けっこういい加減だったように思う。もめてどうしようもない場合は村長にお願いして裁いてもらっていた。


 仕事は初日となにも変わらなかった。壁際を歩いてパックがなにか見つけたら森の中を探索して、スライムが居たら周りを探す。居なかったら少しだけ探して、また壁際を歩く。それだけだった。オレたちはパックが居るからこんな方法が取れるけど、他の徒党は小人族がいないからしらみ潰しにするしかない。オレたちの徒党はかなり恵まれていると言っていいだろう。そこそこの魔石を稼いだら早めに帰り、宿舎の備蓄が尽きるまでは晩飯の用意をしておいてやることにした。


 しばらくは、そんな日常が過ぎていった。備蓄は結局三日分しかもたなかった。それからはダランさんのところで食事をしていたんだけど、やっぱり高くついている。一人当たり土魔石三個必要だった。パンと野菜スープだけの簡素な食事でそれだ。しかも間が悪いとスープは冷めきってるのしか出てこない。そりゃね、いつ来るか分からない客、しかも大金を出すわけでもないのに、いちいち暖かいスープ出してたらマキ代の無駄というものだ。それでも新米価格で安く提供してくれていて、本当なら同じ内容で土魔石五個はするのだという。


 街周辺での魔石拾いは本当に稼げない。初日よりは慣れてきているから稼ぎは多くはなってるけど、それでも一人当たりの収入は土魔石に換算して、一日十個から十五個ってところだ。たぶん、いまやってる魔石拾いでは、この辺りが収入の限界なんだろう。そこから食事代が土魔石六個分引かれるのだから、貯金できるのは、一日に四個から九個と言ったところか。これでは最低限の防具を中古のものでもなかなか揃えられない。オレたちの徒党は中古だけど仕事着も買えたし、とりあえずの防具の心配はないんだけど、これから先を考えたら、ここは貯金を続けていったほうがいいだろう。


 そんな生活が初仕事から数えて二週間ほど続いた。宿舎の運営に関する会合は一週間に一度行うことに決まった。代表者の話し合いの際にマキ代と食材の代金を徒党の代表が集めて持ってくる。全部の徒党が代金を持ってきたら、そのまま代表者全員がダランさんのところに行って、マキと食材の手配をしてもらうということに話は落ち着いた。どこか一つでも持ってこれなかった場合は、その週は個人ごとに食事をしてもらうことになる。


 手配してもらった場合、マキ代込みで一食あたり土魔石二個分になる、一個分しか安くならないが、このちょっとの差が毎日になると大きい。一週間もすれば魔石十四個分になる。そのうえ自分たちで用意するわけだから、時間を決めて食事をすることでスープも暖かいものが食べられる。これは本当に大きな違いだ。暖かいスープと冷たいスープ。使ってる食材は同じでも、腹に入れば一緒だとしても、やっぱり全然違う。朝食も暖かければ仕事に出るときの足取りが軽くなるし、晩飯が暖かければ疲れた体を癒してくれる効果も高くなる。


 二週間も仕事を続けていると他の徒党も装備が整ってきていた。一番装備を整えるのが遅かったのは女性二人を加えた五人組の徒党だった。オレたちの徒党もオレが最初に払った魔石を全部返してもらっていた。いまオレの手元にあるのは、土魔石で百七十個分。土魔石だけだと袋が重くなるから、土魔石で百五十個分は水魔石だ、水魔石三十個に土魔石二十個となる。けっこう貯まった。これくらいあったらブーツくらいなら職人に作ってもらえるかな。手袋は中古のものでも今のところ問題はないけど、職人のところに行く時にいいのがあったら新調してもいいかもしれない。


 そんなことを考えてたら、しばらくやっていなかった、ダランさんの講習が行われることになった。


「よし、全員最低限の防具を揃えられたな、そろそろいいだろう。街周辺の探索では魔石を集めるのが頭打ちになってきたころだな。そんなお前たちに朗報だ。新しい場所を探索することが許可されるぞ」


「場所は街から最寄りのダンジョンの入口付近だ。スライムの居る場所には魔石が落ちていることが多いのはすでに実感している者も居るだろうが、スライムなどの魔物は、基本的にダンジョンに生息している。この辺りに居るスライムも元をただせばダンジョンからわき出てきたものだと言われている、もっともスライムはダンジョンがない場所にも現われることがあるのだが、まあそういうこともあるということだな」


「魔物の正体はよく分かっていない。ダンジョンの瘴気に当てられて動物が狂暴化したものがそうだとも言われるが。スライムのように明らかに野生動物とは違う特徴を持つものも存在している。スライム以外の魔物は討伐されずに長く放置され続けなければダンジョンから溢れてこないとされているが確証はない」


「よって、ダンジョンの入口付近は街周辺より、はるかにに危険だ。だが、ダンジョンから出てきたスライムが多数生息している。つまり魔石がたくさん落ちているということだ。どうだ、嬉しいだろう、今日からでも行きたいと思うだろうが、連れていくのにはお前らは装備が足りていない」


「まず防具だが、今お前たちが装備しているもので最低限はクリアできてはいる。問題は武器だ。今は練習用の両手棍を持って行っているだろうが。実はその両手棍は強度が高くない。街周辺に生息している獣程度なら追い払うくらいはできるが、ダンジョン周辺となると話は変わってくる」


「殴っていたら突然ポッキリと武器が折れたとか死活問題だ。そこで連れていく前に自前で武器を用意してもらう。まず、鉄で補強し武器として専用に作った両手棍が安く練習用の物と同じように使えるのでおすすめだ。鉄で補強しているので練習用に比べたら重いが、その分威力が増しているぞ」


「次にナタや、片手斧などだな、両手棍よりは高くつくが、使い方も振り下ろすだけだ、両手棍とすこし勝手が違うが基本的な使い方は同じと考えていい。だが、これらの刃物は藪を切り払うために必須の装備だ。武器として使わないにしても、必ず徒党ごとにひとつは用意しておけ」


「次に必要となってくるのが盾だ。なぜここで盾が必要かという話になるが。盾は防具としてとても優秀な装備だ。いままでは両手棍で叩けば追い払えていたかもしれない、だが魔物は叩かれた程度ではひるまず襲ってくる。攻撃を受け取める必要がでてくるわけだ。そこで盾があるとないとでは安全性が段違いになる。クマなどの大型動物の攻撃も盾で受け止められれば死ななくて済むこともある。敵の攻撃を受け止める者を決めて盾を持たせておけ」


「ナタや斧、盾の扱い方は明日から装備を整えた者から教えてやる。徒党全員の武器が揃い、扱い方を習った徒党から新しい狩場に連れて行ってやる。とりあえずの実用に耐えられる程度のものは、すべて狩人ギルドで売っているからな。各自買っておけ」


「では、今日の講習はここまでだ、仕事がんばれよ」


 そう言って、ガラダさんは去っていった。新しい狩場か、街周辺より格段に稼げるんだろうな、これはできるだけ早く行けるように装備整えないとだな。


「おい、サンタ、これはチャンスかもしれないぜ」


「ん? アキナ突然なんだよ、チャンスって?」


「いや、オレたちってさ、今のところ他の徒党よりも稼いでるはずだろ?」


「まあ、そうだよな、防具を整えたのも早かったし、その分貯まってる」


「だからさ、新しい狩場に一番乗りして一気に差をつけるチャンスってことだよ」


「そっか、そうだよな、稼ぎが多くなったらその分いろいろできるようになるし」


「だろ、そろそろ稼ぎを増やして、ちょっとは贅沢できるようになってもいいだろ」


「贅沢って?」


「そりゃ、えっとアレだよ、いつもの食事以外にもうまいもん食ったりとか、そんなだよ」


「あー、そりゃいいな、あとは休みの日を設けたりとかもしたいかな」


「いいねそれ、ずっと働きづめだと疲れが貯まっちまうもんな、それにずっと働いてばっかりで街で買い物とかろくにしてねぇもんな。いまのところ狩人ギルドと宿舎の往復くらいしかしてねぇし、休日に買い物とか行きたいよな」


「うんうん、いいね、それ賛成だ」


「まー、まずはダランさんに装備の値段とかを早速聞いてみようぜ。買えるようなら買っちまおう」


 オレたちは逸る気持ちを抑え、狩人ギルドへ向かった。といってもダランさんに話を聞くのは仕事の登録が済んでからだ。他の徒党の登録の邪魔になっても悪いし、オレたちは最後に登録手続きをした。さっそく値段を聞いてみることにした。


「ダランさん、今日新しい狩場にいくための武器を調達しろってガラダさんに言われたんだけど、値段ってどんなもんなのかな?」


「ん? そっか、もうそんな時期か、そうだな、両手棍は土魔石五十、ナタや斧は百、盾は五十ってところだな」


 うわ、けっこう高い。刃物と盾揃えると百五十個分か……、買えない訳じゃないけど、どうしよう。


「うーん、アキナどうしよう?」


「きついけど、その分の見返りもあるんだし、ここは買いだろ」


「そっか、そうだよな、たしか盾と刃物はひとつづつは買わないといけないんだよな」


「そうだな、盾を持つのはガイだろ、となるとナタか斧かどっちがいいんだろうな?」


「藪を払う仕事に使うんだから、先頭を歩くガイがナタか斧を持つのがいいよな」


「でも、そうなるとガイだけ百五十個分支払うことになるぜ?」


「そこは、やっぱ、またオレが立て替えることになるかなぁ」


「いいのか?」


「今後は稼ぎが大きくなるし、いままでより早く回収できるようになるだろ、だからここは金の使いどころだ」


「じゃあ、ガイが盾で、他は両手棍を買って、サンタが立て替えてナタか斧だけど……、ガイは斧とナタならどっちがいい?」


 ガイは、少し考えて、斧の方を指さした。ダランさんがすでに持ちだして並べていたのだ。


「ガイは斧のほうがいいんだな、たしかに斧ならマキ割りするので慣れてるしガイにぴったりだ」


「よし、それで決まりだな。ダランさん、とりあえず支払いを先にしておくから、今日の仕事帰りに受け取っていいかな?」


「ああ、いいぞ。それまでは預かっておいてやる」


「ありがとう、それじゃ今日の仕事に行ってくるよ」


 他の徒党より遅くなってしまったが、オレたちも仕事をはじめることにした。仕事はいつも通りで、特に問題は起きなかった。


 帰りに武器を受け取り、各自で管理することを誓って宿舎に戻った。宿舎の仲間が盗むなんてことはないだろうけど、今のオレたちには高い買い物だ。明日からは新しくなった武器の扱いを教えてもらうことになる。新しい狩場か、すごく楽しみだ。稼ぎも増えるだろうし、期待に胸がいっぱいになる。


 まるで初仕事の時のように興奮が止まらない。今日はいい日だった、明日はもっといい日になるだろう。そんな思いを抱きながらその日は眠りに落ちた。

読んでくれてありがとうございます。

本当に少しづつ進む日常、急激に物語が進行しない

ナメクジ…いやスライムのように地べたを這いずる物語

それがこの「田舎者だって生きてるんだよ?」になる予定です


サンタとかが計算できないはずなのに細かく計算してるのは物語上の都合です

本当はもっといい加減などんぶり勘定してます

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