3話 説明会
やった、3話目が出来た。説明が長ったらしくなってしまった。
十月二十六日に加筆修正
今日は説明会の日だ、昨日は特に特筆すべきことはなかった。初日とやること変わらなかったし、強いて言えば午後になって新入りが三人増えたことかな、全員男だった。
説明会の日でも、午前中にやることに変化はない、朝飯の用意して食べて宿舎を掃除する。それだけだ。素振りはなかった。まあ、説明会の日だしね。
「今日は、説明会の日だ。これから会場に案内する、ついてこい」
宿舎の掃除も終わり中庭で待機していると、ガラダさんが呼びに来てくれた。ようやく説明会だ。なにを説明してくれるのだろうか。できれば街での仕事とか紹介してくれたらいいなぁ。
オレたちは、ガラダさんについていった。会場は意外にも、すぐ近くで宿舎の隣だった。けっこう大きな建物だ、造りは無骨で実用性だけを考えたような建物だ。入った直後にはそれなりに広い広間があり、いくつかのテーブルと椅子が配置されている。カウンターもあり軽食を食べることもできるようだ。ガラダさんは、カウンターに居たおじさんに挨拶をした後に奥の部屋に向かっていった。オレたちもそれに続き部屋に入った。
「さて、あとの説明は彼らに聞いてくれ」
部屋の中には男性が二人待っていた。ひとりは眼光が鋭くいかにも歴戦の戦士といった雰囲気を持つ男と、値踏みするような目でこちらを観察しているやや線の細い印象を受ける男がいた。
「さて、まずは自己紹介をしておくとしよう。オレの名はペイナス狩人ギルドの長をしている」
「わたしは、アルマインといいます。商人ギルドの幹部をさせていただいています」
「早速ですが、この中で読み書き計算が出来る者は居ますか? 居たら挙手をお願いします」
アルマインさんはいきなり質問を投げかけてきた。オレは読み書きなんてできない、そりゃ自分の身分証明になる木札に書かれてることくらいは知ってるし、自分の名前くらいは書けるがその程度だ。計算なんてもちろんできない。パッと見て数を数えるくらいはできるけれど、数が多くなるとそれもできなくなる。
そんなことを考えていると、二人ほど挙手した者がいた、男が一人と女が一人、二十人いて二人だけか、やっぱりそんなものなんだろうな。
「それではお二人は、こちらの机がある方の椅子に座ってください。他の方は空いている席に適当に座ってください」
アルマインさんがそう言った。オレたちは指示に従い席に着いた。
「では、読み書き計算ができる方は、ちょっと試験を受けてもらいますね。他の方は少し待っていてください」
アルマインさんが、なにやら二人に木板と炭を渡している。木板に炭で文字を書くのだろう。二人が本当に読み書き計算ができるのかどうか、それを見極めるのかな。
静寂が部屋に訪れた、聞こえるのは二人が木板になにやら書いている音と周りの者の息づかいだけ、退屈な時間だ。
「はい、もう十分です、ありがとうございました」
アルマインさんが終了を告げた。
「ふたりとも初歩ではありますが、ちゃんと読み書きも計算もできますね、それでは、お二人は商人ギルドへ案内します。わたしについてきてください、ああっと、そうだ、お二人は別に狩人になりたい訳ではないですよね? 仕事があるのならば商人の元で最初は下働きからになりますが構いませんよね?」
アルマインさんが二人に質問をしている。二人も仕事があるのならばどこでもいいようだ。首を縦に振り肯定している。
「よろしい、ではお二人は、わたしについてきなさい」
アルマインさんは、二人を連れて部屋から出て行った。
「さて、待たせたな」
ペイナスさんが再び口を開いた。
「さて、また質問だが。キミたちの中に、この街に親類などが居て、あらかじめ身を寄せる場所がある者はいるかな? いるのなら挙手をしてほしい」
ペイナスさんの質問に答える者は居なかった、どうやら街に身を寄せる場所がある者は、今ここには居ないようだ。
「ふむ、いないようだな。それでは、ここに居る者はとりあえず狩人ギルドに所属してもらうことになる。ここまでで何か質問がある者はいるかね?」
「はい!」
アキナが挙手をした。
「ふむ、発言してみたまえ」
「ええっと、ギルドってなんですか?」
「ギルドとは、職業ごとの寄り合いのようなものだ、似た職業の者が寄り合い相互扶助を目的として様々な仕事をしている。この街には大きく分けて、狩人ギルド、商人ギルド、職人ギルドの三つがある」
「えっと、その次の質問なんですが、なんでオレたち狩人ギルドに所属することになるんですか?」
「まず、職人ギルドは、ある程度手に職があるものしか入れない、様々な業種があるが、主に職人としての腕が必要になるものだ。高度な技術を必要とするものも多い。お前たちは職人としての技術を持ってはいないだろう? だから所属することはできない。次に商人ギルドだが、最低でも読み書き計算ができなければ商売なぞできない。だからこちらも所属できないわけだ、となると残るのは狩人ギルドのみとなるわけだ」
「そうなのですか、でも街では頭をあんまり使わない力仕事とかもありますよね? それらの仕事も狩人ギルドの管轄なのですか?」
「そういう単純な力仕事はギルドで管理はしていない、個人単位での雇用が基本となる、すでにツテがあるならともかく、そういう力仕事はお前たちに回ってくることはないな」
「なぜですか?」
「そういう仕事は、ゴブリンの仕事だからだ」
「ゴブリンを使っているのですか!?」
「そうだ、ゴブリンは基本的に頭がよろしくない。もちろん例外という代物はあるが、ここに残っているお前たちくらいに頭が回る程度のゴブリンでも数年に一人か二人くらいしか現れない。そいつらにしても教育を施しても絶望的に飲み込みが悪くてな、正直使い物にならなかった。もしかしたら、百年に一人くらいはすごく頭のいいゴブリンが生まれることもあるかもしれんが、そのようなものは、オレは見たことはない」
「話がそれたな、まあ、あいつらはバカだが、体力的にはお前らとそんなに変わらない。体格は小さいが割と力も強い、バカだが力は強く、小さい体というのはだな、力仕事を任せるのに重宝するのだよ」
「それは……、なぜですか?」
「体が小さいということは一日に食う食糧が少なくて済むということだ。そしてバカだということは、力仕事をするうえで余計なことを考えないということでもある。当然だが、ゴブリンが手に入れる賃金は少ない。ほとんど奴隷と同じだろうな。一応この国には犯罪奴隷以外の奴隷は存在しないことになっている。法律で禁止をされているからな。となるとだ、賃金の安い力仕事は安い賃金で雇えるゴブリンに回っていくわけだ。」
「でも、ゴブリンに仕事なんて任せて大丈夫なのですか? 単純作業とはいえヤツらはなにをするかわからないのでは?」
「そこはだな、ゴブリン使いという職がある。ゴブリンを監視し作業を円滑に進めるように誘導する職だ。ゴブリンを使うにはコツと言うモノがあってな、ゴブリンはバカで目先の利益に釣られやすい、そこを突いてうまく誘導するのだ。と、まあ、言うのは簡単だが難しい職だぞゴブリン使いは……、オレは出来なかった」
「ギルド長でもできなかったのですか」
「そうだ」
「おっと、言っておかないといけないことがあったな。ゴブリンのことだが、街中に居るゴブリンは基本的にゴブリン使いが近くにいて管理をしている。ゴブリンはゴブリン使いの財産でもある。街中でゴブリンを攻撃してはいかんぞ。損害を与えた場合、賠償金を払わないといけなくなる。もし払えなかった場合、犯罪奴隷の身分に落とされることもある。もちろんだがゴブリン側から攻撃を受けた場合に反撃することは許されている。だが、その場合でもゴブリン側から攻撃を仕掛けたと証言してくれる証人が居ない場合はまずいことになる可能性がある、十分に注意しておけ。基本的にゴブリンには近寄らないようにしておけば間違いも起きないだろう」
「ありがとうございます」
「質問は終わりだな?」
「はい」
アキナの質問が終わった、すごいな……、なんであんなにいろんなことを聞けるんだろう。オレは質問はあるか? って言われてもなにも思い浮かばなかった。
「さて、お前たちには狩人としての仕事をしてもらうことになるわけだが、狩人の仕事と言えば森に入り獣を狩ってくることだ。この街は森に囲まれた立地をしている、狩人が街周辺の獣を狩ることにより、街に獣が侵入することを防ぐ意味合いもある。お前たちの村にも何人か狩人が常駐していたはずだ、そいつらが獣を狩ってくるおかげで、村の畑が荒らされにくくなっていたわけだ。肉を手に入れるというのも大きな目的だが、どちらかというと、現在は野生の獣による被害を防ぐ役割のほうが重視されている」
「だが。まあ、いきなりお前たちに獣を狩ってこいと言っても無理だろう。ウサギやリスなどの小動物すら満足に仕留められはすまい。草食獣は基本的に狩人を見つけたら逃げる。獣の足は速いぞ? 逃げに徹せられたら熟練した狩人でも走って追いついて仕留めるなんて不可能だ」
「逆に肉食獣に出会ったら死を覚悟することになるだろうな。少数の犬くらいなら防具を着て武器を持っていれば撃退はできるかもしれん。だがクマなどの大型になると出会ったら死ぬと思え。実際、毎年狩人が被害にあっている。死亡する者もいるからな。さて、一気に話したがここまでは理解できたか?少し時間をやるから自分で考えてみろ」
そういうとペイナスさんは椅子に座った。考える時間をくれるのだろう。狩人の仕事について考えたことなんて今までなかった。だって狩人になることになるなんて思ってもみなかったからだ。村では、街にいけばなにか仕事が見つかるはずだってくらいしか考えてなかった。
村にいた狩人のことを思い出してみる。毎日ではないが森へ入り、獣を狩ってきていた。狩人が獣を狩ってきたときは、うちでも野菜などと交換で肉を分けてもらっていたなぁ、めったに食べられないごちそうだった。彼らが獣を狩ってくれるおかげで、うちの畑が被害にあってなかったなんてはじめて知ったよ。村に帰ることがあったら感謝しないといけないなぁ。
「よし、そろそろ先ほどの話は飲み込めただろう。いよいよだが、お前たちに当面やってもらう仕事の話になる。まずは簡単に習得できる戦闘技術を身に着けてもらう。すでに体験したものも居るだろうが、宿舎でやらせた訓練だ。両手棍をただ振り下ろす攻撃だな」
「森で動物に襲われた時など撃退する必要がある訳だが、森の中では木が邪魔になり横に振り払う攻撃は基本できない。となると両手棍で攻撃するには振り下ろすか突く攻撃しかできん。突きはうまく当てれれば効果が高いが当て難い。だから振り下ろしだ、まずはそれだけを考えていた方がいい」
「お前たちにいきなり獣を狩れなどとは言わん、襲われたときに撃退できればそれでいいのだ。持っていける武器が両手棍だけでは心もとないと思う者もいるだろう。だが、下手に上等な武器を持って行って扱いきれず攻撃を受けてしまうよりは、扱いが簡単な両手棍を持って行ったほうが安全性が高まるのだ。それは理解してほしい。」
「当然だが、仕事は訓練だけではない、明日から簡単な講習を受けてから森に入り魔石の収集をするのがお前たちの当面の仕事になる。知っての通り魔石は重要な資源だ」
「土魔石は畑の肥料として重宝されるし、水魔石は渇水時に畑に撒くことで土を湿らせる効果がある、そのうえ井戸などに入れれば水の浄化もしてくれる。火魔石は火打石の原料に使われる、あとは貴族の家では暖房に使われることもあるそうだが、これはお前たちには関係のない話か。風魔石は空気を浄化する効果がある、有毒な空気の浄化に使用したり悪臭を抑えたりするのに使われているな」
「この辺りで取れる魔石は基本的に土と水の魔石になる。風魔石もたまに見つかるが見つけたら幸運だと思うくらいだ。火魔石はまず見つからない、北にある火山のファラン山まで行けば見つけられるだろうが、あそこは竜族の領地だ、勝手に入ればすぐさま殺されるぞ。まあ、お前たちではまずそこまでたどり着くことは不可能だろうがな」
「魔石はそのまま通貨として用いられているのは知っているな? お前らが拾った魔石はすべてお前らの物だ。金を拾っていると考えれば気合いも入るというものだろう。だが森の中では油断はするなよ? 魔石に目が眩んでケガをするなど損というものだ」
「獣もいつ襲ってくるかはわからん、必ず複数人で徒党を組んで常時警戒をする者が居るようにしろ。森には獣の他にも魔物が居る場合がある、街の周辺にはスライムくらいしかいないが、スライムは有益な魔物だ、こちらを攻撃してくるということもないし倒してしまっても問題はないが。ヤツらが居る場所はなぜか魔石が落ちていることが多い。もしスライムを見かけたら周辺を探してみろ。」
「あとはそうだな……、ダンジョンのことも話しておくか。ダンジョンは非常に多くの魔石が見つかる場所だ。深いところまで行けば魔石ではなく魔結晶が見つかる場合もある、魔結晶は魔石とは比べ物にならない高値で取引されるためダンジョンに挑む者はそれなりに居るのだが。死にたくなければ近寄るな。入ってすぐの第一階層ですらクマと同じくらいの脅威の魔物が徘徊している場合がある」
「一ヶ月に一度程度だが熟練した狩人と街の兵士が協力してダンジョンに入り、魔石収集と魔物討伐をしている。魔物の素材は地上に居る動物のものより丈夫なものが多い、魔物素材を使った武具は通常のものより強くなることが多いため高値で取引され、魔術の触媒として使われる素材も多い。人員が確保できるのなら、もっと頻繁にダンジョンに挑みたいとは、オレも考えてはいるのだが。第一階層ですら毎回ケガ人が出ている。これ以上頻度を上げるわけにもいかんというのが現状だ」
「さて、今日の説明はこれくらいにしておこう。これ以上しても覚えきれないだろうからな。今日は宿舎に帰りゆっくりと休むといい、では解散だ」
長い説明だった。情報が多くて頭がふらふらしてくる、とりあえず明日から森に入って魔石を拾ってくればいいことだけは理解できたかな?
「サンタ」
「ん?」
アキナが声を掛けてきた。
「オレとガイは、はじめから狩人になるつもりで街に来たんだが、お前は狩人になるつもりなのか?」
「あー、そうだなぁ、オレは街に行けばなにか仕事があると考えて村から出て来ただけだから、狩人の仕事にこだわるつもりはないんだけど。まあ、他にアテがあるわけでもないし、しばらくは狩人の仕事をさせてもらうつもりだけど?」
「そっか、じゃあさ、オレたちの徒党に入らないか? いや徒党と言っても、今はオレとガイだけなんだけどな」
「えっ? いや、そりゃ入れてくれるならありがたいけど、オレでいいのか?」
「いやいや、ここ数日三人でつるんでただろ? 気が合わなきゃここまで一緒にいないさ」
「そういうものかな?」
「そういうもんだよ」
「オレもアキナとガイの二人と組めるなら心強いよ、ぜひとも徒党に加えてくれ」
「よし、じゃあ明日からの仕事一緒にがんばろうぜ」
アキナは嬉しそうにそう答えた、オレも嬉しかった。ガイはなにやら無言で頷いている。ガイも歓迎してくれているということなのかな?
目端が利いて頭のいいアキナ、力強く頼りになるガイ、二人ともとても頼りになる仲間になるだろう。問題はオレがふたりに比べて能力が劣ってる気がしないでもないことだけれど……。まあ、それは些細な事だ、ふたりでは手が回らないところをオレが埋めてやればいいだけさ。
オレたちは明日への希望を抱きながら宿舎に帰った。もちろん晩飯はしっかりと食べたよ? タダ飯食べられるのに食べない理由なんてないからな。説明会の最初に連れていかれた二人は帰ってこなかった、きっと商人ギルドと狩人ギルドでは宿舎が違うのだろう。
その夜は興奮して寝つきが悪かった。明日からはなにがあるんだろう。期待と不安がいりまじり、もやもやした気持ちを抱えながら、いつのまにか寝てしまっていた。
読んでくれてありがとうございます。
話が全然進まない、遅筆で文章量も無駄に多くてすいません。
この世界では意思疎通ができる生物は基本的に全て人類として扱います。
なのでゴブリンなどの人型種族だけじゃなく竜族なども人類として扱われます。