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1話 旅立ち

主人公は徹底的に凡人です、派手な活躍とかきっとしません。どこか抜けてます。

十月二十四日に加筆修正しました。

ハァッハァッハァ!!


 なんで、どうしてこうなってるんだ、畜生やっぱケチらずに行商のおじさんに頼んで便乗させてもらえば良かった。でも、頼んだら懸命に貯めたなけなしの金が無くなっちまってたんだよ。


 だから仕方なかったんだ、町にたどり着けても一文無しで一晩の宿代も無しなんてイヤだったんだ!!


 その結果がこれって笑えない、なんでゴブリンの盗賊に追いかけられてんだよ。一人や二人ならなんとかする自信くらいはあった、一応粗末な物だけど片手棍くらいは用意できたから……、殴り倒せるなんて贅沢は言わない、それでも追い払えるくらいはできるって信じてた。


 なのになんでだよ、十人以上の集団って街道に出ていいものなのかよ!! 街道付近は兵士が定期的に盗賊とか危険な動物とか排除してるはずだろ!!


ハァッハァッハァ…


 やばい、息が苦しい、喉が渇いて苦しい、胸の奥の方まで渇いてるようだ。だめだ、脚が痛い、どんどん重くなってくる。でも、追いつかれたら死ぬ。殺される。イヤだ!!まだ死にたくない、まだなんにもしてないのに死にたくない!!


 必死だった、生きたい! そうここまで願ったのは人生で初めてだった。しかし、限界はすぐに訪れた、息が吸えなくなったのだ、息が出来なければ動けなくなる、脚が止まる。

 

ヴォエッ!! ゲホッゲッホ!!


 口の中に血の味がした。脚を止めてしまった、息もまともにできない。もう走れない。脚に力がはいらずへたりこんでしまった。


 ここでオレは死ぬのか?ゴブリンに殺されて身ぐるみ剥がされ死ぬのか?でも、もう動けない、最低でも息を整えないと……

 

ハァッハァッハァ

 

 死を覚悟した。すぐさまゴブリンが追い付いてくる、そして集団でオレを殴るだろう。殴られたら痛い、そして死ぬ。でも、まだ動けない。自然と涙も出てきた。


ハァッハァッハァ


 あれ?だいぶ息も整ってきたのにゴブリンが追い付いてこない。


ハァッ……ハァッ……フゥ……


 呼吸が大分楽になってきた。あれ? もしかしてゴブリン追いかけてきてないのか? もしかして、助かったの? いや、まだ油断しちゃだめだ、ゴブリンはオレより、ゆっくりと走って追いかけて来てるだけかもしれない。


 そう考えながらも、とりあえず水筒を開け水を一口飲んだ。息が楽になったおかげで水を飲む余裕ができたのだ。水が喉に染み渡った、おいしい……、などとは感じられない。でも、渇いて痛かった喉がうるおい、胸の奥に感じていた渇きも急速に癒される気がした。脚は相変わらず痛い、力があんまり入らない。でも、立てるくらいには回復しただろう。


 ゴブリンが追いかけてきてる気配は今は感じられない。だが、追いかけてきていない保証なんてどこにもない、この場所から少しでも離れないといけない。


 オレは力が入らず、震える脚になんとか力をこめ、立ち上がった、すぐよろけそうになる。でも、立てた。あとは歩くだけだ、しばらくは走れそうにない、歩くしかない。


 時々よろけてしまいそうになる。倒れたらまたしばらく動けなくなってしまう。だから倒れちゃダメだ。倒れないように意識しながら、ゆっくりゆっくりと、街道を進む、街へ向けて進んでいくんだ。

 

 それからしばらく歩いた、ゴブリンは追いかけてきていないように思える。脚の痛みもやわらぎ、もう普通に歩く分には問題ないくらいになってきた。


 そうするといくらか考える余裕も出てきた。よく考えてみたらゴブリンは別に脚が早いわけじゃない。背が低い分オレより遅いだろう。体力にしてもそうだ、たしかにゴブリンは体格のわりに力が強いけどそれだけだ。


 農家の三男坊として生まれたオレだって、毎日の農作業で体も鍛えられてきた。一対一の力比べならゴブリンにだって負けやしない。そりゃ特別鍛えられたゴブリンだったら話は別だけど、こんなところで盗賊やってるゴブリンが、それほど鍛えられているはずがない。


 オレが持っている荷物もせいぜい二日分の保存食と水、そして少量の魔石と予備の服一着くらいしか持ってない。そんなオレがなりふり構わずに必死で走ったんだ。ゴブリンからしたらそんな獲物を必死こいて追いかけたら、自分たちも疲れて動けなくなる。


 そうだよな、ここは森なんだから、そんな獲物に執着して追いかけるより、早々に諦めて森の恵みを探したほうがいいに決まっている。


 季節は春なんだし、森には食べられる物がいくらでも実っているはずだ。野生の動物だって活動している。ゴブリンだって一応人類なんだ、種族は違っても同じ人類であるオレを肉として食べるなんて、そんなことはなかったはずだ。よっぽど飢えてたなら話は変わってくるが……、冬ならともかく春で、しかも森の中なんだそりゃないだろう。


 となるとオレが持ってるであろう保存食と衣類くらいしか実入りがない。そうなるとなにがなんでも仕留めようなんて思うわけがない。きっとそうだ。


 そう考え不安を振り払った。ゴブリンの盗賊団に襲われるなんて、はっきり言って恐怖しかなかった。正直不安は完全に振り払えてない、もしかしたら執念深く追いかけてきてるかもしれない。そんな考えがどうしても振り払えない。


 自然と歩みは早足になっていた。走るほどじゃない、でも息が切れてしまうほどではない、そんな早さだ。


 足の裏が痛い、街道はゴツゴツとした小石がけっこうある。履いてるクツは上等な代物でもない、歩くたびに小石が刺さってくるような、そんな痛みが襲ってきていた。


 疲労もあった、体のあちこちが痛みを訴えてくる、しかし脚は止まらなかった。止められなかったが正しいけれど……。

 

 不安に駆られた強行軍、それが功を奏したのだろう。日が沈みかけ、あたりが暗くなりはじめたくらいに街が見えてきたのだ。村を出た時は一夜くらいは野宿を考えていた。のんびりいけばいいやって考えてた。それがどれだけ甘い考えなのか、もう身に染みていた。もし野宿している最中に、あのゴブリンたちが現れていたらどうなっていたか、想像するだけで恐ろしい。きっとなすすべもなく殺されていたに違いない。


 街の光、かがり火が希望の光に見えてきた。あそこまで行けば安全だ、その思いに突き動かされ、疲労で動きを止めようとする体にムチ打ち歩いた。もう早足でもない、よろよろと歩くしかできなかった。それだけ疲れていた。


 街を囲む木製の壁が見える。頑丈そうな丸太で作られた壁だ、あの中で休めるなら宿じゃなくてもいい、今ではそう考えてしまうほどになっていた。


 門が見える、そして見張りの兵士も見えた。槍を持ち皮鎧に身を包んだ兵士は、オレにはとても頼もしく見えた。もう大丈夫だ。さすがのゴブリンでも、今ここで襲ってくることはないだろう。


 門から少し離れたところまで到着したところで、兵士が叫んだ。

 

「止まれ!!」


 そう一言叫んだ。周りにはオレ以外にはいない、オレに向けての言葉だろう。脚を止めたくなかった、一瞬でも早くあの壁の内側に入りたかった。しかし、兵士が止まれと言ったのだ、止まらなくてはならない。


 相手は武装した兵士だ、ゴブリンなんかよりよっぽど強い、指示に従わず攻撃されたらケガで済めばいいほうだろう。だから脚を止めた。


 そうしたら兵士が再び声をかけてきた。さきほどよりは小さな声だ、だがはっきりと聞き取れた。


「お前はどこの村人だ! 近隣の村の出身者なら身分を証明する木札を持っているはずだ、それをこちらに投げて寄越せ!」


 たしかに村で渡された木札があった、どこの村出身の誰かというものが書かれているものだ。これを無くしたら街に入れないから絶対に無くしたらいけないと言われて持たされたものだ。


「は、はい、ちょっと待ってください」


 そう返事して上着を脱ごうとした。焦ってしまってうまく脱げない。丈夫なヒモを付けて首から下げ、そのままふところに仕舞っていたからだ。正直走ってる最中とかに腹のあたりに当たってけっこう痛かった。しばらく苦戦してようやく上着を脱ぐことに成功した。


「それじゃ投げます!!」


 そう言って、兵士に向かって木札を投げた。木札は兵士に直撃……、などということはなく兵士の手前に落ちた。兵士はそれを拾い確認してから、また声をかけてきた。


「ナカツ村のサンタ! これに間違いはないか?」


「はい、間違いありません」


「そうか、では上着を着てから、こちらにゆっくり歩いてこい」


「は、はい」


 オレは脱いだ上着を着なおし、ゆっくりと歩いて近づいていった。ようやく壁の向こう側に入れるのだろう。相変わらず脚は重かったが、心なしか軽い気がした。


「それでは、この木札は返す、これからの生活でも必要になるものだから無くさないようにな」


 兵士はそう言って、木札を返してくれた。オレは木札を再び首から下げた。


「ところで、お前はなぜこんな時間に到着したんだ? しかも一人で来るとは、道中で危険なことでもあったらどうしていたんだ」


 兵士が疑問を投げかけてきた。当然の質問だ、普通は行商人に便乗させてもらったり、村の出身者数人で連れ立ってくるものだ。時間にしても、もう少し明るい時間に到着するものだろう。日も暮れて暗くなっているところに、一人で近づく人物を警戒するのは兵士として当然の義務というものだ。


「は、はい、それなんですが……、一人なのは、今年うちの村で成人になったのがオレだけだったからです」


「それと……、危険な目には遭いました、ゴブリンの盗賊と思われる集団に襲われたんです。十人は居たと思います。すいません、必死で逃げたので、ちゃんと数えられたわけではないかもしれません」


「なに? ゴブリンの盗賊団が出没したのか? お前、よく無事だったな」


 「はい、もう必死で逃げました、片手棍くらいは持っていたのですが、それも放り投げて逃げました。死ぬかと思うくらい逃げましたよ」


「そうか、大変だったな。ゴブリンの盗賊団に関しては、近いうちに討伐隊が出るだろう、心配しなくていいぞ。よく報告してくれたな」


「それじゃあ、おまえの処遇に関してだが、街へ来たものには、街での生活で必要なことを説明することになっている。説明会は三日後に予定されている、それまでは門を抜けたところにある宿舎に泊まってもらう。外出は禁止させてもらうが、簡単な仕事をすれば、その日の食事くらいは出る」


「え? なっ、なんですかそれ?」


「この街を治める領主様のお考えでな。お前のように近隣の村から出てきた若者達が街での生活に早くなじめるようにとのことだ」


「えっ? そうなんですか? じゃあ、しばらく宿代とか考えなくていいってことですか?」


「そうなるな」


「なんだよそれー!! じゃあ、村に居るうちに貯めた魔石で行商人のおじさんに連れてきてもらえばよかった!!」


「なんだお前、魔石を持ってるのか?」


「はい……、宿代だと数日分くらいだと思いますけど、少しづつ貯めた土と水の魔石が少しですが……」


「行商人に同行させてもらっていれば、ゴブリンに追いかけられて死ぬような目に遭わなかったろうな。やつらはバカだが、さすがに武装した護衛を複数連れてる行商に襲い掛かるなんて滅多にないからな」


「ですよね」


「まあ、そう嘆くこともない、いくばくかでも仕度金があるとないとでは大違いだぞ」


「さて、そろそろ宿舎に案内しよう、今夜はゆっくり寝て明日に備えろ、こっちだ」


 兵士はそう言って歩き出した。オレは脱力しそうになりながらも、その背中を追いかけていった。オレの旅立ちはこうして終わった。少々の小銭をケチって死ぬような目に遭うという、さんざんな結果だった。そしてオレは心に誓った。これからは金で買える安全があるなら、絶対に買うと。

読んでいただき本当にありがとうございます。

当方、文才のないのは自覚しているうえに、遅筆なのは許してください。

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