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妖怪『ドウワカイタネ』

作者: 羽生河四ノ

泣いていたら出ました。

 私が自宅で、枕を顔の前に置いてうつぶせに寝転がりながら、すんすんすん、と泣いていると、突然何かが私の裏ふとももの辺りを触った。

 「うわあ!」

 私は叫んだ。

 だって、私は現在関東圏で一人暮らしをしている。だから家に自分以外の誰かなんて居るわけがない。つまりそれは賊かお化けかどちらかだ!と思ったからだ。まあそうだろう。この三段論法は正しいと思う。誰がどう考えたってそうだ。

 そしてこれもまた当たり前の話だとは思うんだけど、たとえ賊だろうが、お化けだろうが、そんなものに遭遇するのは嫌だった。ノーセンキュー。これだって一般的に考えてそうだろう。賊に遭遇して喜ぶのは、その賊を殺人犯に仕立てたい奴だし、お化けを喜ぶのはTV局だ。私はどちらでもない。「賊に物を盗まれたから脱税でーきる!ラッキー!」って思えるほど富豪じゃないし、ヨーロッパの人みたいに『お化けは文化』的な感覚もない。


 だもんで、私は、突然体に触れたその何かにとても驚いたし、感情は全部が恐怖に染まった。脳みそは勝手に時世の句を詠み出したし、心臓は最後だといわんばかりにドキドキしだした。私の全部が死ぬう!死んじゃうう!いぐう!ってなったのだろう。

 だから振り返って、そこに居たものを見たら、今度は呆気にとられてポカンとしてしまったのだ。


 「・・・」

 そこには、とても綺麗な女性が一人居た。しかも彼女はこちらを見て慎ましやかで控えめに、それで居て上品な感じでまで含んだ笑顔で、まるで慈しむ様に私の事を見ていた。

 私の事を。

 なんと私の事をだ。

 私は、今まで誰かにそんなような目で目視された事は無かった。あ、赤子の頃にはあったかもしれないけど、でも思い出せないことだから意味無いです。

 で、

 「・・・」

 私はその女性の美しさに、しばし『ほげー』ってしてしまった。だってそんな美しい女性の知り合いは私には居なかったし、それにそんな美しい女性がいきなりこの場に現れたことに驚いたし、そして何よりも私の汚部屋にそんな女性が居る事自体がかなり異常だった。

 あー、つまり、

 インモラルだった。

 もし私がR-18の同人誌を描いて生計を立てている人間だったとしたら、絶対にこのネタを夏コミで描くだろうと思えた。そんで締め切りのかなり前に『ねこのしっぽ』様とかに入稿して、前割りをたくさんしてもらって、そんで締め切り前にデス・レースをしている人達を内心で笑いながらも、それをツイッターとかのタイムラインとかではおくびにも出さずに、心無い『がんばれ』って言うのを連呼したりして、更に他所に寄稿とかをたくさんするだろうと思えた。

 うん。

 それくらい異常だったわけ。

 私のこの汚部屋に突然出現したその美女はそれくらいインモラルだった。

 なんだべ、あれ、あれ「完全なる飼育」みたいな感じがあった。で、あれのちょうど逆みたいな感じ。分かる?

 「飼育されてあげる」感。

 おねショタ感。

 そういうのがあった。多分にあった。あふれていた。


 まあ、ぶっちゃけて言うと、これはまさにエロゲーだった。むしろエロゲー以外ではありえなかった。逆にそんな事エロゲー以外で何処に存在するというのか?ねえよ。絶対にない。

 私はさっきまでこの汚部屋で一人すんすんって言って泣いていたというのに、そんな事もうすっかり忘れ去られた過去と化してしまった。


 「どうしたの?」

 美女は相も変わらず、私の裏太ももの横に座りながら、小首をかしげて声を発した。

 「ああ~」

 私はその鈴の鳴るような声にまた持っていかれた。何てことでしょう。って思った。世の中にはこんな鈴の鳴るような声で言葉を発する人が居るのだと知った。声優みたいだった。

 「どうして泣いているの?」

 美女のその声に、私はぞくぞくした。鳥肌が立った。

 「・・・誰?」

 やっとのことで、私の口が声を絞り出して発したのはそのような言葉だった。その際、自分の声はその美女の鈴に比べるとなんてこ汚いんだろうと思った。酒やけしているのかと思った。ジャイアンリサイタル時のジャイアンみたいではないか!

 「え?私?」

 するとその美女は、自分の口に手を当てて驚いたような顔をした。だから、なんだその所作この野郎!馬鹿野郎!殺すつもりかてめえ!と私はそれを見て思った。だって、このままでは私は、その美女に萌殺されてしまうからだ。萌死だ、萌死、焼死とは違う、萌死だ。萌死ってなったら死亡診断書にはなんて書かれるん・・・、

 「妖怪よ」

 「だろ・・・」

 私は改めてその美女を見た。その美女はニコニコしながら私のほうを見ていた。

 「い、今、何て?」

 え、なんかようかい?って言ったの?

 「妖怪」

 美女はまた少しも言葉を滞らせる事無く、言った。彼女はおすまし顔で間違いなく『妖怪』って言った。

 「妖怪・・・」

 私は意味も無くただ彼女の言葉をリフレインさせた。

 それというのも、私はその時妖怪とかはどうでもよくって、彼女のおすまし顔のことばかりが気になっていて、そのことばかりを考えていたのだ。だって『妖怪』って言った彼女の顔があまりにもおすまし顔だったので私は脳内で『汚すまし顔』っていう言葉を思いついてしまっていたのだ。それだから、もし私に絵を、特にいやらしい絵を描く才能があったとしたら、ピクシブでそのタグをつけた絵を大量に生産して、アヘ顔やトロ顔と同程度の評価が得られるまで絵を描き続けようと思ったかもしれなかった。あるいはニジエで広めてから誰か他の方にピクシブに輸入してもらったほうが、かっこいいかもしれないけど・・・。

 「前に一度あなたのご実家に出たでしょう?」

 「はあ?」

 脳内で汚すまし顔のことが途切れた。

 「年末に」

 「・・・いや、まあ確かに妖怪の話を書いたには書いたよ。ドウワカイテヨでしょ?でもそれは私の創作であって、そんな妖怪いねえし、まったく意味の無いことであって・・・」

 何故私は今この様な釈明めいた女々しい事をしているのだろう。

 「でも、あなたはちゃんと童話を書いたでしょう?」

 自称妖怪は言った。

 「は、まあ、はあ・・・」

 いやだって、あれはああいうネタでさ。確かに童話を書くまでにずいぶんと時間はかかったよ。夏ホラーに比べるとまあ確かにすごい遅かったけどね・・・。

 「だから進化したの」

 「し、進化!?」

 私は子どもの頃から進化という言葉に弱い。おそらくポ●●ンの影響で。

 「ええ、進化、あなたがちゃんと童話を書いてくれたから、ほらこうして私『ドウワカイタネ』になることが出来たの」

 どっからどうみてもただの美女にしか見えないその自称妖怪は、なんか『フシ●●ネ』みたいな事を言って立ち上がるとその場でくるんと回った。そしてそれを見て私は萌えた。あと『汚すまし顔』の事も再燃した。

 「・・・それだからあなたにお礼を言いたくて来たのよ」

 「は、はあ・・・」

 おすまし顔を汚すまし顔おすまし顔を汚すまし顔おすまし顔を汚すまし顔おすまし顔を汚すまし顔・・・。

 「で、どうして泣いていたの?」

 そして、話がやっと最初に戻った。

 「・・・」

 私は下を向いて、手のひらを組んでみたり、もにもにしたり、指を出したり引っ込めたりした。

 「・・・どうしたの?ちゃんと童話書いたじゃない」

 ドウワカイタネは私の顔を覗き込むようにして見た。

 「・・・その、本当はもう一個書こうって決めていたんだ・・・」

 私は下を向いたまま、そういう心の内を彼女に告げた。他の人だったら言わなかっただろう。だってそんなの言い訳じゃないか。どんな理由があろうとも、どんな問題があろうとも、書いていない以上、提出期限が過ぎ去ってしまった以上、それはただの糞みたいないいわけじゃないか。

 「どうして書かなかったの?」

 ドウワカイタネは相変わらず優しい声で言った。私はその告白をしている時、ずっと下を向いていたけど、彼女のそんな声を聞くだけで、彼女の優しい顔が浮かんだ。

 「・・・て、提出期限ギリギリで出そうと、お、思っていたんだ・・・そ、それに向けて、ちゃんと私もう一個童話・・・か、書いてたんだよ・・・」

 でもさ、

 「提出期限が2016/1/14の・・・13:00までだったんだよおお!!うわあーん!」

 そこで私の涙袋ダムは決壊した。

 ショックだった。私はすっかり提出期間は1/14の23:59までだと思い込んでいた。そのため、出来ない事を知ってとてもショックだった。考えた童話は来年に回せばいい。でも、三つ書くと決めていた。私はそう決めていたんだ。確認不足だ。何てミスだ。くだらなくてつまらないミス。それだから私は自分を恥じた。悔いた。時間が戻って欲しいと思った。もちろん来年になったらまた来年の童話祭があるだろう。でも違う。そうじゃない。今年の童話祭は今年だけなのだ。2015/12/1712:00-2016/01/1413:00までの童話祭はもう二度と戻ってはこないのだ。

 「うわーん!うわーん!ぎゃーん!ぎゃーん!うわーん!」

 私は大声を出して泣いた。

 泣いても泣いても涙は出た。

 で、涙でうまく見えなかったけど、私の前には相変わらずドウワカイタネがいた。そして彼女はなんだか両手を開いているように見えた。

 「おいで」

 私はドウワカイタネの胸に飛び込んだ。

 「よしよし」

 その言葉は私の心にとてもこたえた。だから私はまた激しく泣いた。








 彼女の胸で散々泣いてから、今は彼女、ドウワカイタネに膝枕をしてもらいながら、私はそこに横になっていた。

 「・・・こんな風に優しくしてもらえると、君の話を書いてよかったなあって思うな・・・」

 私はそのような思いを述べた。

 「そう?」

 彼女は私の頭をなでていた。それから、

 「じゃあ、そろそろ、主催のなろうさんや童話祭にも悪いから、本当の事を言いましょうか」

 と、彼女は言った。

 「・・・」

 心臓がぎゅうってなった。

 「本当は三つ目の童話なんて書いていないでしょう?」

 「・・・」

 「それに、本当は期限もちゃんと分かっていたでしょう?あなたはそういう事をちゃんと確認する人じゃない」

 「・・・な、なんでそんな事・・・」

 分かるんだよ。

 「私が誰に作られたのか知ってる?あなたよ。だから分かるの」

 「・・・」

 「あなたは『園山花子』の前書きを書いていた時、この話を思いついたんでしょう?」




実はもう一個書きたいんですけど、間に合わなかったら来年までとっておきたいと思います。(園山花子、前書きより)




「それにあなた、前日に提出期限をちゃんと確認して、それからお酒飲んだものね」

「・・・」


 彼女、ドウワカイタネはドウワカイテヨに比べて、とても美人だし、私には彼女が妖怪だなんてとてもじゃないけど思えなかった。でも今分かった。彼女は妖怪だ。


 「じゃあ嘘をついた事を、なろうさんや、童話祭に謝ってね」

 彼女は私の頭をなでながら言った。

 「・・・」

 確かに妖怪だった。




というわけで、冬の童話祭2016、お疲れ様の方はお疲れ様でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後のオチの意外性に驚きました。あえなく童話祭にあげ損なった最後の作品、提出期限の勘違い、無念な主人公に同情したのに・・・・! 本当は知ってた、書いてなかったって確信犯ですかぁ! 四ノのん…
2019/11/11 17:17 退会済み
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