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2−2 ミオは運転手と話をする

※20151223 全体的に手を入れています

※20151230 人称の統一を行いました。三人称だとミオの勢いが削がれるため、一人称にします。

 バスの乗客はあたししかいなかった。他の観光客はホテルの専用リムジンで移動しているのだと運転手は言う。


「お客さんみたいな人はめったにいないからねえ。開店休業の日のほうが多いくらいでさぁ」


 そうよね。こんな観光地に一人で来て宿泊もしない客って少ないだろうし。

 仕事で得くる客はそもそも観光に時間を割かない。夜景を見るまで星に滞在するなら宿を取るだろう。


 あたしだって、あいつの頼まれごとがなければ荷物の配送が終わって時点でとっとと飛び立っていただろう。不穏な空気があればなおさらだ。


 ……まあ、プレミアチケットに心動かされたのは事実だけど。


「お客さん、珍しいねえ。王城の幽霊は見て行かないのかい?」


 運転手が肩越しに声をかけてきた。

 奇妙なことを言う。そういえば土産物屋の店主も言っていた。


「そんなに人気なの? っていうか、必ず見られるわけ? その幽霊って」

「そりゃまあ向こうさんにも都合ってもんがあるだろうけど、よっぽどのことがなけりゃ出てくるんじゃないかい? なにせ最近はそれがお目当てで遠いところからも見に来てるらしいからねえ」

「そんなもんかしらね。必ず会える律儀な幽霊さんって初めて聞くわよ。騒がしいのが好きなのかしら」

「さてね、そういう噂は聞いたことがないが」


 からからと笑う運転手にあたしもつられて笑った。死者は大概怖いもの、というイメージで語られるのが常だが、ここではどうもそうではないらしい。


「だいたいさぁ、幽霊ってのは静かで暗くて寒くてジメジメしてる場所に出るもんなんじゃないの? それともそんなに恨みを強く残してるのかしら」

「恨み? さぁ。どうだろうねえ。まあ、あの場所が象徴であることは確かだけどな。長い間この星は王族によって支配されてきたからな。いいも悪いもない、象徴なのさ」

「そんなもんかしらね」


 運転手は笑う。


「まあ、そんなもんさ。だから王城観光ツアーがいまだに大人気なんだろうしな」

「ふぅん」

「お客さんだってそれ目当てだったんじゃないのかい? 王城の夜景って言えば幽霊と相場が決まってる」

「そうなの?」


 あいつの言葉を思い起こしてみる。

 確かに、『ホウヅカに行くなら王城に行くといい。夜景が絶品だぞ』と言っていた。

 自分が取った選択は間違っていたのかもしれない、と不安がよぎる。


「ねえ、運転手さん。ここを紹介してくれた友人が『夜景が絶品だ』って言ってたのよね。それって、やっぱりそういう意味なのかしら」


 バスは少しだけスピードを落とした。


「この友人ってのはここの出身かい?」

「さあ、聞いたことがないわ」

「じゃ、わからないねえ」


 運転手は首を振る。


「まあでも、観光地に来て目玉を見ないで帰るってのも、もったいない気はするがねえ。さて、そろそろ到着だ。お客さんが降りてくるまでここで待ってるから、ゆっくり見てくるといい」

「それもサービスのうち?」


 運転手はゆっくりバスを止めて振り向いた。


「なにせここはホテルのリムジン以外じゃこのバスぐらいしか通らない穴場だからねえ。リムジンは自分とこの客しか乗せないし。一晩ここで過ごすってんなら帰るけど」


 さすがにここで一泊する準備はしてないし、船に戻れないのは困る。


「じゃ、お願いするわ」

「へい、毎度あり。ああ、そうそう」


 腰を浮かしたあたしに運転手は声をかけた。


「ここも噂のあるところだから十分気をつけな。あちらの世界に引き込まれないようにな」

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