路地裏の弱者
「おらてめえ、これ以上殴られたくねえならジャンプしてみやがれ!」
「わわっ!判った!判ったから!!」
僕はその場でぴょんぴょん飛び跳ねてみる。
するとチャリチャリと音がする。
「やっぱりまだ持ってんじゃねえか!おら、全部出しやがれ!」
「ひええ!」
うう、またカツアゲされた…。
え、これで何度目かって?
お前は今まで食ったパン(以下略)
僕の名前は江緑 篤。昔から女顔で、どんだけ鍛えてもちっとも筋肉がつかなくていかにも弱そうにみえるせいか、社会人一年生になった今でもそこらのヤンキーからカツアゲされてばかりいる。
今日も会社帰りにちょっと繁華街で買い物をしようとしたところ、大通りの脇の路地から伸びてきた手に襟首を捕まれて、路地裏に連れて行かれてしまった。今日こそはカツアゲなんかに屈するものかと最初は突っぱねたんだけど、何度か殴られて鼻血が出てしまうと、たちまち恐ろしくなってしまい、結局財布の中の紙幣数枚とズボンのポケットの中の小銭を差し出すことになってしまった。
「痛たた…ああもう何でいつもこうなんだろう?」
僕はヨロヨロと立ち上がった。薄暗いこの路地から既にヤンキーは大通りへと姿を消していたけど、何となく僕は同じ方向には行きたくなくて、路地を先に進んで別の大通りに出ようとした。でもその辺りは妙に入り組んでて、何だかまるで別の方向の小道にでた。そしてしばらく歩くと何だかひどく寂れた感じの小さな神社が見えてきた。
「へえ、こんなところにこんなのが!」
ひどく傷んで苔むした鳥居の上には消えかけた文字で封狐神社と書かれていた。多分ふうこじんじゃとでも読むのだろう。境内に入り、賽銭箱をのぞき込むと錆び付いた五円玉やらひどく汚れてて最早色でしか幾らか認識できないような小銭がまばらに底に貼り付いていた。これじゃあ賽銭泥棒だって盗る気が失せそうだ。むしろ同情して賽銭を奮発してしまうかも…。
「あ、そうだ!」
僕はふと思いついてその場にしゃがみこんだ。靴下の中からポリ袋に入れてくるんだ2千円札を取り出す。
数えるのを諦めるほどにカツアゲに遭っている僕はその対策として千円札よりも高額な紙幣は靴下に入れているのだ。そもそも僕は発汗量も多くないし、念のためポリ袋に入れてくるんでもいるので、そんな所に入れていても臭くはならないし。
「こんなに廃れた感じでも神様は神様だよな?だったら願い事を聞いてくれよ。僕はもっと強い男になりたいんだ!」
そう口にしながら僕は二千円札を賽銭箱に落とし、手を合わせた。
すると、
「よろしい。その願い、聞き届けたです!」
と言う声が頭の中に響いた。
ぎょっとして辺りを見回すけど人っ子一人いない。気のせいかと思い、踵をかえし、僕は神社を後にした。
だけど、その時の僕にもっと霊感があったなら見えていたはずだったのだ。賽銭箱に腰掛け二千円札を口に咥えて、ニマニマと微笑む巫女装束のキツネ耳少女が。