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GⅡー34 青天の霹靂


 グライザムを狩ってから10日ほどに、ようやく王都から毛皮の代金がギルドに届けられた。とりあえずギルドから報奨金を銀貨1枚ずつ貰ったようだけど、グライザムの毛皮は王都のギルドで競売に掛けられる。

 という事になってはいるのだが、この国の上流社会のしがらみから、裏取引される場合が結構あるようだ。今回は2頭だったから、その内の1頭がそれに当てられたらしい。ある意味必要悪のような気もしないではないが、それによってハンターと貴族の両者が得するんだから、その辺の事情に明るい連中も見て見ぬふりをしているようだ。


 「それで、あの金額になるのね」

 「まあ、そういう事だ。俺達がかつてし止めた大きさではないが、それでも通常より大きい。嫁入り娘の持参品にと、公爵様に嘆願してきた。後はミチル殿の考えてる通りって事だな」


 ガリウスがギルドにずっしりとした銀貨を置いたので、その理由を問いただしていたのだが、いつの世界も子供はかわいいのだろうな。ましてや娘の嫁入りとなると、そんな心遣いまで必要になってくるのか。


 「依頼書を持って来たんでしょう? やはり私のサインが必要かしら」

 「出来ればクレイ達の署名が欲しい。花嫁はクレイ夫妻の遠縁だ。そしてそのサインはグライザムを狩るハンターを縁故に持つという事を示す事にもなる」


 とは言うものの、クレイ達は駆け落ちして王都を後にしてるんだよな。簡単にサインをしたら後々問題が出てこないかな?


 「クレイ達の親は既に彼らがここにいることを知っているぞ。だが、一旦家を出た者として扱っているからミチル殿が心配することはないと思う。彼らの実家の次の党首達も成人しているから、家に帰られても困るだろう。だが、彼らの貧しい暮らしをクレイ達が援助していることを忘れてはいない。本音と建て前をキチンと区別しているよ」


 なら、問題はないだろう。子供が生まれた時にたぶん知らせたんだろうな。どちらの親にしても初めての孫に違いないんだから。

 

 「後はクレイにサインして貰う事ね。たぶん夕刻には戻るでしょう。サインしないときは私を呼んでくれれば説得ぐらいはするわよ」

 

 私の言葉に苦笑いをするガリウスに軽く片手を上げてギルドを後にした。明日はグライザム狩りをした連中にたっぷりと報酬が分けられるだろう。冬を前にしたハンターにはありがたい話だろうな。


 ミレリーさんの家に戻ると、既にキティ達とネリーちゃんは帰っていた。テーブルについてミレリーさんと談笑しているようだ。


 「ただいま帰りました。ちょっと王都の様子を聞いていたので遅くなって申し訳ありません」

 「良いんですよ。ネリーから事情を聴きました。良い使い先があって良かったですね」


 ミレリーさんも王都の裏事情を知る1人のようだ。大型肉食獣を狩るものなら、何度かそのような経験をするんだろうな。普段より大きな報酬はやはり魅力だったんだろう。


 「クレイ達の縁者が使いたいそうです。ガリウスがクレイを待ってました」

 「それなら、クレイ達も嬉しいでしょう。ところで、明日はどうします?」


 キティ達とプレセラの連中の指導だな。これは私が本来しなければならない事だ。


 「キティとプレセラに同行しますわ。色々と動き回って申し訳なく思います」

 「良いんですよ。私やテレサも昔に帰ったようで楽しんでます。カインドもこの頃では包帯が少なくなってきましたね。まあ、それだけ昔に戻ったとテレサが思っているのかも知れません」


 相変わらずだな。ちょっとしたミスでもあれば鉄拳制裁だからな。ダノンもあまり関与したくないらしい。一度止めに入って、ミイラが2人になってたからね。


 「カインドさんにお願いしたのは不味かったんでしょうか?」

 「とんでもない。喜んでやってますよ。昔からガトルの傷よりテレサの折檻で包帯を巻いてましたから、町の連中も昔に戻ったみたいだと言ってましたよ」


 そんなドSの嫁さんを貰ったのか。人の好き好きは、やはり他人には理解できないって事だな。

 

 「ダノンさんが町外れの小母さんと一緒になるって本当なの?」


 私とミレリーさんが一緒になってネリーちゃんを見た。

 とんでもない衝撃発言だぞ。マリーが掛け落ちしたとしても、こんなに驚くことはないだろうな。

 

 「誰から聞いたの?」

 「グラムお兄ちゃんからだよ。お兄ちゃんはお母さんから聞いたと言ってたけど……」

 

 私とミレリーさんがネリーちゃんから視線を戻すと、大きくため息を着いた。

 グラムのお母さん達が知っているという事は、うわさ好きの小母さん達全員が知っている事になる。俗にいう、知らないのは当人達だけと言う状態になるのも後3日は『必要ないって事だ。


 「本当なんでしょうか?」

 「確かに、もうすぐ40歳になるでしょうね。私も良縁を望んではいましたが……」


 誰もが賛成してくれるだろう。だけど、そんな話が急に出てきたのも奇異な感じがしないでもない。ミレリーさんも首を傾げているくらいだ。


 「ちょっと、出掛けてきます。ネリーや、シチューを焦がさないようにたまにかき混ぜて頂戴」

 

 ミレリーさんがすくっと立ち上がると、ネリーちゃんに夕食を任せてリビングを後にした。どこに行くんだろうか? まさか、酒場にいるダノンに直接聞くわけじゃないだろうけどね。


 リトネが入れてくれたお茶を飲みながら、シガレイを口にする。だけど、ダノンがねえ……。

 3人の娘達は罠の作り方と仕掛け方を話し合っている。

 ネリーちゃんのやり方はダノン流だし、リトネ達のやり方は私が教えたものだ。基本的な作り方は同じでも、ちょっとした差異が出て来る。輪の大きさ、紐の長さ、仕掛ける場所等色々だ。私に罠猟を教えてくれたのはネコ族の青年だったな。意外とパメラが罠を仕掛ける時は私と同じようなものになるのかも知れない。それぞれ先達に教えて貰って罠猟を行い、自分達の改良をほどこして、後輩にそれを伝える。その繰り返しだから、罠猟の仕方は同じになると思うんだけどね。


 バタン! と扉を閉める音がした。どうやらミレリーさんが帰って来たようだ。

 ネリーちゃんが具合を見ていたシチューの最終確認をミレリーさんがすると、私達の夕食が始まる。

 夕食が終わると、ネリーちゃん達はお茶を飲み、私達は蜂蜜酒のお湯割りを飲みながら、問題の話を始めた。


 「どうやら、うわさという訳ではないようです。町外れの小母さんというのは、相手が見つからずに婚期を逃していた娘なのですが、良くダノンが連れて酒場に来ているとテレサが言っていました。テレサはあの性格ですから2人に尋ねたそうですよ。そしたら……、その場でダノンさんが申し込んだそうです」

 

 ある意味、テレサさんにけしかけられたのかも知れないな。だけど、これでダノンも1人者の負い目を無くすのだから、めでたい事に違いない。収入はギルドの仕事で安定しているし、ハンターだけど危険な場所には行かないから、娘さんも安心出来るだろう。これは私も何か祝ってあげねばなるまい。


 あくる日、私はリトネ達とプレセラの連中を引き連れて、残り少ない薬草採取の依頼をこなす。後1か月もすれば、そんな依頼は無くなってしまう。今の内に冬場を過ごすための蓄えを作らなくてはならないし、罠猟の合間に行う小動物の狩りが出来るように弓の使い方と野犬対策のための武器の使い方も覚えさせねばならない。

 弓使い達にラビー狩りをさせ、ラクスとベクトに片手剣と刀の使い方を教える。朝夕練習を独自にしているようで、グラム達よりも上達が早い。リトネとレントスには杖の使い方を教える。仕込み杖ではあるが、それを使うのは最後になるだろうな。とりあえず、効果的に殴るにはどうすればよいかを教えておく。

 

 彼らの武器の使い方がどうにか見られるようになった頃、予想通りに薬草採取の依頼が無くなった。もっともあったとしても荒地は枯草ばかりだから探すだけで苦労しそうだ。

 7人の子供達をテーブルに着かせて、今日からの狩りについて説明する。ダノンがいれば都合が良いのだけれど、生憎と彼も他のお子様パーティに罠猟を教えているからな。

 仕掛ける場所はあらかじめ聞いているから、私達の狩場はダノン達とネリーちゃん達の狩場の間になる。

 そこは、散々に薬草を採取した荒地だけれど、林の手前までは私達の狩場という事でネリーちゃん達のパーティと調整が出来ている。その先の森はロディ達だし、更に奥はグラム達の狩場だ。クレイ達は罠猟をせずに、私達の狩場に入ってくるガトルや大型の草食獣を狩るようだ。人数が必要ならグラム達が助けてくれるだろう。

 

 「……という訳で、いよいよ罠猟を始めるわ。今日の仕事は罠を50個以上作る事。仕掛けた罠が直ぐ分かるように、紐の先にはこの毛糸を結んでおくのよ。作った罠はこの背負いカゴに入れておきなさい」


 ホールの片隅に布を敷いて、早速罠作りが始まった。

 ラビーや雪レイムなら1日8匹は欲しいところだ。120Lあれば7人で分けても昼食を自分達で作るぐらいの事は出来よう。

 ラケスの話では1人350Lぐらいは持っているという事だから、吹雪や獲物が無い時が20日ぐらい続いても何とかなるな。最悪は私が出してあげることになるが、それはなるべく避けたい。ハンターなのだから自分の事は自分で責任を持てるようにしなければなるまい。

 もっとも、狩りに必要な最低限の装備は私が準備してあげた。革のマントにセーター、雪靴は彼らの手に余るだろう。低レベルのハンターが取る、もっとも良い手段である南の海岸地方へ行かずにこの地でハンターを続ける以上それは仕方のないことだろう。

 

 そんな彼らの仕事を見ていたら、ダノンに声を掛けられた。

 テーブルの反対側に腰を下ろすと、早速、パイプに火を点ける。


 「姫さん達もいよいよ罠猟だな。俺達は仕掛けたところだ。荒地の下でラビーが群れてたぞ」

 「明日、仕掛けてみるわ。……ところで、結婚するんですって! おめでとう。何か欲しいものがあれば贈りたいんだけど」

 「姫さんまで知ってるのか? まあ、成り行きって感じだな。気立ては良いし、よく今まで独身だったと感心するぐらいの嫁さんだな。驚かせようと思って黙ってたんだが、実はクレイが祝い用のイネガルを狩りに出掛けてる。グラム達も一緒だ。明後日の夜に宿の1階を貸し切って祝う事になってる」


 事態はそこまで進んでいたのか?

 これは問題だぞ。帰ってミレリーさんにも知らせなくちゃならない。

 「ダノン。後の面倒を見てあげて!」そう言って、ギルドを飛び出した。


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