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GⅡー33 狩りはクレイ達で


 「皆、来るわよ!」

 罠の仕掛けてある場所を通り過ぎながら大声で知らせる。クレイ達は既に槍を持って準備している。グラムが私の槍をヒョイと投げてくれた。受け取ると同時に後ろを振り返る。

 まだ、30m程の距離がある。槍を右手で抱えて、グライザムを見据えながら左手を上げた。少し離れた場所にいるパメラが短剣を手にするのが見える。

 

 罠の上に差し掛かった時、私は左手を振り払うように下ろした。

 バシ! っと音を立てて、たわめた木が皮のロープを空高く持ち上げる。先端に作った輪がグライザムの体に食い込んでいる。

 数本仕掛けた罠の3つがグライザムを捕えたようだ。首と、胴、それに前足を締め上げている。丁度、仁王立ちの姿だからクレイ達にも攻撃がしやすいだろう。


 ドォン!っと音を立ててグライザムの顔面に火炎弾が爆ぜる。奴が自由な左手で顔を覆った隙に、クレイが雄叫びを上げて、槍を腹に突き刺した。

 腹のやや右上だから、かなり心臓に近いようだがグライザムは唸り声を上げただけだった。

 これは時間が掛かりそうだ。次の罠に移動したパメラ達は斜面の上を覗き込んでいる。2頭目は、パメラ達に罠を任せよう。最悪、もう1つ罠があるから、しくじっても挽回は可能だろう。


 グラム達は投槍の要領でグライザムに槍を投げた。短剣を改造した槍だから、当たればそれなりに深く刺さるだろう。

 既に槍が4本刺さっている。まだ動いてはいるが近寄らなければ安心できる状態だ。


 「ミチルさん、まだ攻撃しますか?」

 「そうね。このまま放置しても夕方までには死んでしまうでしょうけど、早めにし止めた方が良いかもね。最初の槍を刺した少し上を狙って突きなさい。石斧で頭を狙った隙を付くのよ!」

 

 クレイとドワーフ族の連携だな。どちらか一方が致命傷になって終わりになりそうだ。

 ふと、斜面の上を見ると、もう1頭がこちらを見ながら少しずつ近づいている。

 早めに終わらせるに越したことは無さそうだ。


 ガツン! と言う音が辺りに響く。石斧は正確にグライザムの額を割ったようだ。そのまま額に張り付いているから頭蓋骨を割っているのだろう。クレイの体重を掛けた槍は狙いたがわず、グライザムの心臓の位置を突き刺している。捻りながら槍を抜いても、血が脈を打って飛び出るような事はない。

 これで1頭を狩ることが出来た。


 「次が来るわよ。少し後ろに後退するわ!」

 急いで斜面を下り次の罠の後ろで槍を持って、2頭目が近づくのを待つ。

 少し用心深い個体だな。先ほどの場所からこちらの様子をうかがっているだけだ。

 

 「クレイ、仕掛けるからね!」

 振り向きざまにそう告げると、彼がしっかりと私に頷き返した。

 ゆっくりとグライザムを見ながら、斜面を登る。これで、奴が退くなら狩りは終わりなんだろうけど、生憎と奴も同じように私に近づいてくる。

 仕掛けた罠を通り過ぎたところで立ち止ると、グライザムもゆっくりと歩みを止めた。やり難い相手だな……。ゆっくりと左手を上げると、収束した火炎弾を打ち出す。

 距離はおよそ30mだが、私には必中距離だ。狙い違わず、奴の鼻先に着弾して顔面を焦がす。


 ガオォォン!

 大きな叫びをあげると、私に向かって駈け出した。

 槍を掴んで急いで戻る。罠を慎重に飛び越えたところで体をグライザムに向ける。

 既に20mも距離が無い。槍を両手にしっかりと持って、足を前後に開いてグライザムの直撃に備える。

 

 バシ! とバネにした立木が唸りをあげて皮のロープを上空に跳ね飛ばした。

 罠に掛かったグライザムに私は一瞬驚いて片手を口に持って行った。

 

 「うそ……!」

 グライザムの後ろ足に罠が絡んで、両足を高くした宙吊り状態になっている。すかさず投げたグラムの槍が背骨付近に突き立っていた。


 「パメラ、周囲の監視をして! クレイ上から狙って頂戴。こちらからだと様子が分からないわ」

 「了解です。皆、移動するぞ。大きく迂回しろよ。まだし止めたわけじゃないんだ!」

 

 クレイが皆に指示しているが、もはや時間の問題だろう。逆立ちした状態だから、ガトルが10頭もいれば狩れるんじゃないかな?

 

 私が焼いた顔面にドワーフの石斧が命中する。顔面を割られてもまだまだ前足を動かしながら私達を威嚇している。

 一斉に投げた槍が4本腹に突き立つと、少し動きが鈍くなってきた。だが油断はできない。

 魔導士達が続けざまに顔面に炸裂すると、そのたびに体がビクンと震える。まだまだ最後の体力を温存しているぞ。

 私の横のドワーフがやってくると、トマホークのような斧をグライザムに向かって投げつけると、奴の腹に斧の尖端がめり込む。グウゥゥン……と絞り出すようなうめきをあげる。


 「そろそろ止めですか?」

 「ダメよ。奴はまだ闘志を失っていないわ。手ごわい相手よ。あの前足の一撃で体を持っていかれるわ。槍は何本残ってるの?」

 「4本です!」

 「20D付近で一斉に投げなさい。それでダメなら、パメラの出番になるわ」


 4人が一斉に投げた槍は全て奴の腹に突き刺さった。

 これで、ほとんど勝負がついたはずだ。だが、奴の目からは闘志がいまだに衰えない。どんどん流れ出る血潮に相当体力は奪われたいるはずなのだが……。


 「パメラ!」

 私の呼び掛けにパメラがグラムと周辺の監視を交代して馳せ参じてくる。

 

 「何にゃ!」

 「グライザムの目を矢で潰しなさい。至近距離から狙って頂戴、でも20D(6m)は離れる事」

 「やるにゃ!」


 矢を矢筒から取り出しながらグライザムに向かって歩いて行く。

 いかな狡猾なグライザムでも矢を目から射こまれれば脳に達するはずだ。私の止めの刺し方だが、矢でも十分に活用出来るだろう。

 私達が見守る中、パメラは3本の矢を使ってグライザムの両目を潰した。


 「最後はクレイ、あなたがこれで心臓を潰しなさい。逆立ち状態だから、左下になるわよ」

 「分かってます。……お前、援護を頼んだぞ!」

 

 後ろに振り返って妻の魔導士に頼んでいる。良い夫婦じゃないか。

 火炎弾が爆ぜる音と肉に食い込む槍の音が聞こえてきた。これで、どうやら狩りは終了だな。

 

 女性達に焚き火を作って貰い、クレイ達にグライザムの毛皮の剥ぎ取りを頼む。それでも喉に再度槍を刺してから行うように厳命しておいた。

 

 どうにか、グライザムを狩れたようだ。少しは協力したけど、ほとんどクレイとグラム達で狩ったと言って良いだろう。

 グライザムはしぶといのが特徴だ。何度し止めたと思って近づくハンターをあの世に送り込んだか分からない。念には念を入れて、それでも足りないぐらいに思っていないととんでもない事故に遭う。


 シガレイに火を点けて彼らの仕事ぶりを見守る。グライザムの肉も食べられると聞いたことがあるけど、あまりこの地方ではそんな光景に出くわさない。ここは毛皮だけで良しとしよう。

 毛皮を剥ぎ取り、ロープを改修したところで、クレイ達に【クリーネ】を掛けて衣服の血糊を綺麗にしてあげる。武器は魔導士達がまとめて【クリーネ】を掛けて綺麗にしている。

 お茶を1杯飲んだところで、急いでこの場所を離れる。

 何と言っても大きな肉が血まみれで転がっているのだ、いつガトル達がやってきてもおかしくない。


 山裾に向かって早足で移動する。まだ全員に【アクセル】が聞いているから、強行軍で移動してもそれほど苦にはならないようだ。

 1時間ほど歩いて休憩を取る。今夜は途中で野宿せざるを得ないな。秋だから、ガトルや野犬の動きも活発だ。出来れば林か、森の手前が良いんだが。


 秋の日が落ちるのは結構早い。

 まだ森には遠いけど、小さな雑木林に着いたところで、野宿の準備に取り掛かる。

 焚き火の周りに座ったクレイ達の表情に喜色が浮かぶ。まあ、グライザムを2頭も倒してるんだからな。それは喜ぶべき事には違いない。


 「ミチルさん、1つ教えてください。最後の1頭にあれほど槍を突き刺したのはなぜですか? 既にグライザムはひん死だと思っていたんですが……」

 

 お茶を飲みながらクレイが私に聞いてきた。ここははっきりと教えておいた方が良いな。


 「目よ。あのグライザムの目は闘志を失っていなかった。最後の槍の一斉投擲の後でさえ私を見る目は闘志で燃えていたわ。それだから、パメラに目を狙って矢を撃ちこんでもらったの。最後の一撃に備えて体力を温存している状態だから、グライザムの頭は動かなかったはずよ。至近距離でならパメラは目に矢を射こむことが出来た。目を潰してその後ろにあるのは脳そのものだから、脳を破壊された獣は命を失うわ」


 「では、最初から目に打ち込む方法もあると……」

 「私がグライザムをたくさんし止めてきたのは、その方法よ。この魔道具を使ってね」


 腰からM29を引き抜いてクレイに見せる。


 「至近距離で頭を打つと一瞬だけどグライザムは目を回すの。そこをすかさず近寄って。目に打ち込めばそれで終わりよ。でも、それは昔の仲間の1人が大きな石をグライザムの頭にぶつけた時にグライザムが一瞬目を回すのを見てからよ。それまでは先ほどのやり方でグライザムを狩っていたの。私の目の前で数人の仲間を亡くしたわ。それも、最後の止めを刺す時よ」


 「確かにダノンさんから聞いた話を上回ります。俺達を脅かそうとして話しているんだと思っていましたが、それ以上でした」

 

 グラムの言葉に皆が頷いている。そんな獣の話も夜の焚き火を囲んでダノンはしていたのだろう。ハンターが気を付けねばならない獣の話は鵜呑みにするのも危険だが、それなりの根拠があると考えてくれれば良いのだが……。


 「罠と槍の数、それにグライザムから目を離さない事……。僕たちなりに出来そうな気もしますけど、次はガリウスさん達に連れて行って貰います。それでも来年ですね。槍の腕を上げませんと、やはりグライザムは俺達には少し早いと思います」


 クレイなりに考えるところがあるという事だろう。自分の腕を過信しないことは良いことだし、目標も見えたというところだろう。

 グラム達にはまだ少し早かったかも知れないけど、3年後にはクレイ達と組んでグライザムを狩れるだろうな。


 そんなことを考えながら、シガレイを楽しむのも気持ちが良い。パメラがジッとヤジリを見ているけど、少し改造する気だな。鎧通しと呼ばれるヤジリはこの世界では見たことが無いけど、教えてあげても良さそうだ。


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