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GⅡー32 森のくまさん状態


 北門から荒地を抜けて、北東に進路を取る。

 尾根2つ先という事は、昔ガリクス達とグライザムを狩った近くになるのかも知れない。尾根を1つ越えたあたりで、一泊すれば次の日にはグライザムを見つけることが出来るだろう。


 秋の日暮れは早い。予定通りに1つ目の尾根を越えて、2つ目の尾根の中腹で野宿場所を探す。

 見つけた場所は大岩の影になったところだ。岩の付け根にはくぼみもあるから、安心して眠れるだろう。

 焚き木を集めて、クレイ達には投槍の柄になる枝を集めさせる。既にグライザムの生息範囲に入っている可能性もある。用意は早いに越したことはない。


 早めに食事を作り、クレイ達がパイプを咥えながら投槍を作り始める。私が渡したナイフの数以上に作っている。どうやら自分達も何本か槍に転用できるナイフを持っていたようだ。


 女性達は、焚き火を使って平たいパンを焼き始めた。ビスケットのようなパンよりははるかに美味しいし、1度作れば3日は持つ。

 シガレイを咥えながら、そんな作業風景を眺めていると、藪ががさがさと音を立てる。

 男達が作業を止めて近くに置いた得物を持とうとした時に、2人の女性が現れた。


 「見てきたにゃ! 尾根の上までは安心にゃ」

 連れの女性も頷くことで同意している。


 「ありがとう。なら、今夜は安心できるわ。でも、2人の内1人は起きていてね」

 「だいじょうぶにゃ」


 そう言って、女性達の仕事を手伝い始めた。

 偵察要員としてはネコ族が最高だな。夜の偵察だって昼間とほとんど変わらずに行えるし、周囲の気配を敏感に感じ取れる。

 パメラが安心と言うからには、周囲には野犬すらいないのだろう。だが、この周辺は豊かな狩場のはずだから、獲物がいないという事にもなる。その原因は……、やはりグライザムという事になるのだろう。

 

 吸い終わったシガレイを焚き火に投げ入れると、私も少し太い枝を使って自分の採取ナイフを分解して投槍を1つ作り始める。

 出来た投槍の穂先を砥石で軽く研いでおく。グライザムの腹を突き破るにはいくら鋭く研いでも足りないくらいだから……。

 私の行動を見て、クレイ達も穂先を研ぎだした。そんな中、ドワーフだけが石を石で叩いている。あの叩き方は……。


 「石斧を作ってるの?」

 「ああ、石をぶつけると昏倒するなら、これでも良いだろう。石より離れた場所から投げられるし、俺にはこの方が投げやすい」

 

 クレイには工夫が出来る仲間がいるようだ。確かに有効だろう。それにドワーフ族の斧使いは定評がある。腰のベルトにはトマホークのような斧が差し込んであるが、それを使う前に使ってみるつもりのようだ。


 「そんなんでだいじょうぶなのか? 相手はグライザムだぞ」

 「それだから良いのよ。気兼ねなく相手に投げられるでしょう。それに彼の力で投げる石斧ならリスティンなら背骨だって断ち切るわよ。期待させてもらうわ」


 グラムの言葉を聞き流して作業を続けていたが、私の言葉ににやりと顔をほころばせる。

 「ドワーフの戦いを見たことがあるのか?」

 「昔、一緒にリスティンを狩ったことがあるわ。皆が槍を使ったんだけど、両刃の斧を使ったドワーフ族の男がいたの。投げた斧で首が両断されてたわ」


 「両刃斧はドワーフの一人前なら使いこなせるだろうが、生憎と俺は練習の途中で村を出てしまった。その前の斧なら一人前だ」

 そう言って、ベルトのトマホークを叩いた。


 片刃と両刃では少し使い方が異なるのかも知れないな。私には理解できないけど、ドワーフ族の中にその違いを技とした武技が伝わっているのだろう。彼の場合は、その技に到達する前に駆け落ちしたわけだから、知らないって事になるんだろうけど、グライザムの狩りには今のままでも十分だと思うな。


 そんな作業が一段落したところで、クレイのパーティは岩の方に寄り添って横になる。しばらくはグラム達のパーティが焚き火の番だ。

 お茶を飲みながら、グラム達の狩りの様子を聞くことで時間を潰す。

 そんな状況でも、パメラの耳は周囲を警戒しているから、グラム達にはなくてはならない存在になっているな。


 北の空の星の動きを森の木々で計りながら時間の経過を見る。

 数時間が過ぎたところでアレク達のパーティと交代して、私も焚き火近くでマントにくるまって横になった。


 私が目を覚ました時には、辺りにスープの匂いが満ちている。

 パメラがいないのを目ざとく見つける。どうやら周囲の偵察中らしい。

 お茶を1杯頂きながら、アレク達の顔を眺める。少し緊張しているようだな。まあ、死闘が始まるんだから仕方ないだろう。他の狩りいなら慣れるということもあるだろうが、グライザム相手にそんな余裕はないことは嫌でも分かるだろう。


 がさがさという音を立てながらパメラが戻ってきた。

 食事をしながらパメラが話を始める。


 「やはり、周囲に獣がいないにゃ」

 「どれぐらい見てきたの?」

 「周囲2M(300m)は見てきたにゃ」


 となると、パメラの能力からすれば半径500m近くに獣がいないという事になる。かなりグライザムが近いという事になるだろう。

 

 「パメラの話だと、かなり近くにいそうな感じね。尾根を越えればひょっとして確認出来るかも知れないわ。確認できないときは、パメラ達を1M(150m)ほど左右に展開して進みましょう。既にグライザムの縄張りに足を踏み込んだと考えて頂戴」


 朝食を終えた私が彼らに注意する。

 お茶を1杯頂いて、後片付けをするとクレイ達が投槍を2本ずつ手にする。女性達も投槍を持っているから、前衛の6人が2本以上槍を投げることが出来そうだ。私も昨夜作った槍を持ってグライザムを探しに尾根に向かって歩きだした。


 尾根を越えたところで、斜面の下を注意して眺める。

 左手にいたネコ族の女性が、私に手を振って山側に腕を伸ばした。その先に黒いものが2つ動いている。


 「見付けたにゃ。グライザムにゃ!」

 皆が私のところに集まってくる。いよいよ狩りが始まるのだ。


 「パメラ、下手を調べてくれないかしら。2頭と聞いているけど、それ以上なら面倒だわ」

 「分かったにゃ!」

 身軽な動きでパメラが尾根伝いに下手に下がっていく。


 「さて、クレイならどうする?」

 「罠という事で良いですね。……あの辺りなら丁度良い雑木があります。グライザムがあの位置なら罠を仕掛ける光景を見られずに済みそうですし」

 クレイが腕を伸ばした先には、確かに罠を仕掛けるのに都合が良さそうな雑木がある。

 「パメラが戻り次第、あの場所に移動するわ。皆に伝えて頂戴!」


 直ぐにクレイが仲間に知らせ始める。パメラが戻ってくると、下手には何もいないと報告してくれた。

 私達は静かに尾根伝いに下手に移動して罠を仕掛ける場所へと移動を開始する。

 パメラ達に1M(150m)程山手に上ってもらい、グライザムの動向を見守ってもらう。


 「さて、グライザムはパメラ達が見張ってるわ。クレイ、罠作りを始めなさい。あるだけのロープを使うのよ!」

 雑木を曲げて、細身のロープで繋ぎとめる。そのしなった幹に罠をしっかりと結び付ける。数本では足りない。何本も何本も作るのだ。最初のグライザムと次のグライザムが私達に襲い掛かる時に時間差が欲しいところだ。出来れば10分以上は欲しいのだが……。


「3か所に作りました。あの場所と、ここと、そこです。ロープはウザーラ狩りよりも丈夫です」

 「なら、とりあえずは準備良し! ということね。だけど、油断はしないで頂戴。グライザムは正しくハンター殺し、そのものだから」

 「油断はしません。近づくのはミチルさんの指示が出てからにします!」


 それなら、少しは安心できる。小さな子供だっているのだ。親なし子には私だってしたくないからね。


 私も手製の槍を持って、罠の傍に行って様子を見る。ウザーラ狩りでこの種の罠の作り方は覚えたようだ。

 罠は多重に作られ、しかも3か所に分散している。仕掛けを解き放つロープは30mも離れて結ばれていた。これなら【アクセル】を使えばたやすく罠を作動させられるだろう。


 「皆! 集まって頂戴」

 私の声にぞろぞろと集まってくる。

 「始めるわよ。罠の後方に槍を持った前衛。クレイのところが2人にグラムのところが3人ね。その後ろが斧と弓が2人。後方は魔導士が2人になるわ。魔導士は【メル】を顔に放って頂戴。弓は顔または後ろ足を射るのよ。これが基本隊形。

 私が囮になるから、やってきたグライザムを罠にかけるのはネコ族の2人にお願いするわ。直ぐに引き返して、隊形の中に入って頂戴。質問は?」


 ぐるりと皆を眺めても質問の声はない。私の視線に頷き返してくれた。

 全員に【アクセル】を掛けて、シガレイを咥える。指先で火を点けると、腰のホルスターの留め金を外した。軽くM29を抜いて、支障が無いことを確認する。これを使う場面が来ない事を祈るだけだな。


 「さあ、狩りの時間よ!」

 直ぐに、皆が持ち場に移動する。私は槍を持ってゆっくりと斜面を登っていく。


 雑木がまばらにあるが、その場所に密集しているのがおもしろい。これならグライザムの突進を和らげることも出来るだろう。

 地面を足で蹴って穴を空けると、シガレイをその穴に投げ込む。次にシガレイを楽しむ時には果たして全員無事なのだろうか? 昔の狩りを思い出してきた。あの時も、2頭のグライザムを相手にしたんだっけ……。


 黒い塊が見える。2つの距離はおよそ100m。数秒の時間差が出来るのは都合が良いぞ。

 近くの小石を手に取る。ゆっくりと近づいてるが、まだ私に気付いていないようだ。

 50m程に接近した時、小石をグライザムに向かって投げる。

 当たらなくとも、ガサリ! という音に反応して、こちらを向いた。標準的な大きさだな。体重は300kg程度だろう。

 ゆっくりと、グライザムを睨みながら後ろに後ずさると、グライザムが私向かって動き出した。まだ後ろのグライザムはその場から動かない。

 グライザムの動きはゆっくりとしている。私が逃げださないからだろう。

 その時、私の右足が枯れ木を踏んだようだ。ボキっと音がして私の体勢が崩れる。


 ガアオォォ…!

 グライザムが叫び声を上げる。私は後ろも見ずに急いで斜面を駆け下りた。

 たぶん、後ろから追ってくるだろう。罠まで急がないとな。


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