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GⅡー28 ガリクスへの頼み事

GⅡ―28




 「よくも倒したものだ。俺で1匹が良いところだぞ」

 「小太刀まで使うとは思わなかったわ。そうだ! ここに使った刃物を並べて頂戴。まとめてスラバの血を洗うわ」

 

 まだ血で濡れているのもあるが、並んだ刃物にまとめて【クリーネ】を掛ける。スラバの血は腐食性だから直ぐに刃先が錆びてしまう。


 「あの3本首はすごいですね。家の本棚でさえ見たことはありません。帰ったら妻に聞かせなくては……」

 「突然変異だろうな。スラバの数は6匹だ。あの頭を見て2匹と勘違いしたんだろう」

 

 テレサさんが【メル】を灰になった葦原に数発撃ちこんでみたが、何も起こらないからそれが真相なんだろうな。

 シガレイを楽しみながらお茶を飲む。

カインドさんが若者と一緒に帰ってきた。スラバの皮の剥ぎ取りと、持てるだけの肉の切り取りが済んだらしい。ミレリーさんからお茶のカップを受け取ると、焚き火の傍にドカリと座り込んでパイプを取り出す。


 「やはり、6匹でまちがいねえぞ。かなりの大型揃いだから高く売れるだろうな」

 「やはり、あの3本スラバを誤認したって事でしょうね。ミチルさんがいなければ危ないところでした」


 ミレリーさんはそういっているけど、必ずしもそうではない。近づかずに、【メル】と矢を射かければ倒せない相手ではなさそうだ。だが、そんなことをすれば肝心の皮を手に入れることはできないんだよな。

 意外とそんな関係の狩りは多いような気がする。グライザムでさえ毛皮が珍重されるのだ。魔導士を集めて【メル】系の魔法を集中して放てばそれ程倒すのはそれほど難しくはないだろう。だが、それな討伐であって狩りではない。

 ハンターは相手を倒して、その使える部位を持ち帰るのが務めだと思う。討伐なら軍隊に任せれば十分だ。私達はハンターなんだからな。

 とはいえ、この依頼を誰も受けなかったら……、やはり【メルダム】で重傷を負わせた状態で倒す事になったのかも知れない。


 「ミチル殿、何を考えてるんだ?」

 「ちょっとね。もし、誰もこの依頼を受けなかったらって……」

 

 ガリクスがカップを傾けてるけど、それって酒じゃないか? いつの間にかカインドさんが飲ませてたみたいだ。

 

 「王都の軍隊から魔導士を借りることになるだろうな。【メルダム】の連発を受ければ、後はたやすく倒せるだろう」

 

 考えることは同じか。だけど、その話を聞いてテレサさんが驚いてる。

 「ちょっと待っとくれよ。それなら倒せるかも知れないけど、やはり狩りが基本じゃないのかい? そんな事をしたら綺麗な皮が台無しだよ」


 テレサさんはスラバに向かって【メルト】は一度も使っていないだろうな。あくまで炙り出す手段であって、獲物との戦いは棍棒を使ったに違いない。


 「そうですね。私もテレサさんに賛成です。自分達で狩れなければそうなるでしょうが、今回のようにハンターを集めれば何とかなるんですからね」

 私の言葉にミレリーさんも頷いている。

 ハンターと軍隊の関係は近いようでもかなり離れてるって思っているに違いない。

 

 「でも、無理だと判断したら、やはり軍隊に任せるべきでしょうね。私達の技量は私達が一番よく知っているんですから。狩るつもりが狩られてしまってはお仕舞です」

 今度はアレク達が頷いてるぞ。一番注意しなくちゃならない連中だからな。筆頭ハンターの辛いところだ。


 ゆっくりと休憩を取って、スラバの肉を参加者が1切れずつ受け取る。1切れと言っても4kgはあるから、自分達だけでは食べきれないんじゃないかな。それ以外の肉は2つの背負いカゴに入れて持ち帰るようだ。肉屋に売れば結構な値段で購入して貰える。

 焚き火を埋めたところで、町へと足を運ぶ。たぶん今夜は森での野宿になるだろう。

町に着くのは明日の昼頃になるはずだ。


 「まだまだ肉は取れるんだけどねぇ……」

 テレサさんが後ろを振り返りながら歩いている。

 それはそうだけど、運べるだけにしないとね。急きょグラム達がソリを作って100kg程の肉を布に包んで乗せているんだからあまり欲は出さない方が良い。曳いているのはリードだ。ガリクスと一緒に軽々と曳いている。


 途中の森で一泊して、町に着いたのは予定通り昼過ぎだった。持ち帰った肉を肉屋に持ち込み、個人に渡された肉は今夜のお楽しみになるんだろうな。

 私は渡された肉の半分を武器屋に持って行った。色々と便宜を図ってもらってるから、ちょっとしたおすそ分けになる。後の半分はプレセラの連中に分けてあげよう。教会ではめったに食べられないはずだ。


 武器屋に寄ってギルドに戻ると、皆で報酬を分け合っている。

 「これはミチル殿の分だ。スラバの皮、スラバの肉、それに俺達からの報酬を合わせて250Lになる」

 「私は頂けないわ。前金でご隠居にたっぷりと頂いてるからこれは皆で飲んで頂戴」

 「相変わらずだねぇ……。なら、皆で飲もうじゃないかね。もうすぐ、ダノンも帰ってくるはずだから、先に戻って用意しとくよ。ミレリーも手伝っとくれ。ネリーとキティはミチルさんに連れてきてもらえばいいよ」


 おみやげの肉を一旦家に置いてこいって事だろうな。苦笑いしながらガリクスが私の前に置いた分け前を回収してテレサさんに手渡している。半端な金額も飲み代になってるんだろう。だけど、皆で狩りをしたんだから、それ位の楽しみがあっても良いはずだ。


 ぞろぞろと仲間達がギルドを出ていくと、マリー達がお茶を運んできた。狩りの顛末を聞きたかったのかな? マイカップを持参しているぞ。

 3つ首スラバの話をしていると、早上がりのハンター達が帰ってきた。そろそろギルドが忙しくなる時間帯になってきたようだ。


 何組目かのハンターがギルドに入ってきた。人数が多いと思ったら、ダノンに連れられたキティ達とプレセラの連中だ。

 私の姿を見て、ダノン達は報酬を受け取ると、私のテーブルにやってきた。


 「狩れたってことだな?」

 「これから宿で宴会よ。ダノンも一緒に来なさい」


 私の話に顔をほころばせるのも問題だと思うぞ。まあ、キティ達を預けてたんだからそれ位の役得は期待してたのかも知れない。


 「これは、ラクス達へのおみやげよ。教会のシスターに、スラバの肉と言えば夕食に出てくるわ。教会ではめったに食べられないから喜ばれると思うわ」

 バッグから取り出した布に包まれた肉を受け取って、ラクス達はギルドを出ていった。


 「それで、何も無かったでしょうね?」

 パイプを咥えたダノンが頷いて、3日間にラクスとキティ達が受けた依頼の顛末を話してくれた。

 基本は薬草採取。それもサフロン草だから荒地の斜面の上の方で採取したらしい。昨日と今日は、ラビー狩りの依頼を受けてラクス達とキティ達で数を揃えたそうだ。


 「まあ、本来は2つのパーティなんだが、3日間は1つのパーティとして動いてもらった。3日間とも、30L以上分配出来たぜ。ラクスのところの弓使いもだいぶ当たるようになってきたな」

 

 そんなダノンの話をキティ達が頷いているから、半分以上当たるようになったのかも知れないな。少し技量を見て林に向かってみるか。また違った薬草があるから、ラクス達も喜ぶだろう。

 最初の試練は野犬になりそうだ。ラクスの片手剣とレントスの杖が頼りだけど、ちょっと心許ないところがあるな。

 4人とも中衛と後衛要員だ。後1人、前衛が出来る者が加わればいいのだけれど……。


 お茶を飲み終えたところで、キティ達と宿に向かった。ダノンは既に出掛けている。

 宿に着くと、ほとんど貸し切り状態だ。ロディ達やネリーちゃん達も混じってる。キティ達を快く席に迎えてくれたから、向こうはネリーちゃんに任せておこう。

 私は、少し大きめのテーブルに着く。ガリクス達や、ミレリーさん達それにダノンまでもが揃っている。


 「ハイよ。蜂蜜酒だから飲んどくれ」

 真鍮のカップに並々と酒が入ってるぞ。こぼさないようにゆっくりと持ち上げて一口飲むと、周囲を眺める。


 「皆飲んでるし、スラバの肉はもう少しで焼けるからね。次期侯爵様からたんまり頂いてるからどんなに飲んでも足は出ないよ」

 私のしぐさを見てそんな話をテレサさんがしてくれたけど、たぶん銀貨数枚を渡したのだろう。私と、ガリクスそれにライナス君の報酬を使えばそれ位にはなる筈だ。ライナス君達は名誉を手に入れたって事になるのかな。

この町のハンターを率いて、三つ首スラバが率いるスラバの群れを倒したというライナス君の武勇伝は、タペストリーの物語の題材には丁度いいだろう。そんな息子の武勇伝を眺める来客を見る侯爵だって悪い気はしないはずだ。


 「ガリクス、師範のところから長剣を1人貰ってきてくれない?」

 「ネコの子供じゃないんだから、そう簡単にはいかんが、どうするんだ?」


 私はラクス達の今後の話を始めた。前衛がいない事を直ぐにガリクスは察したようだ。

 

 「確かに……、長剣が必要だな。だが、ミチル殿の要求となれば収拾がつかなくなるぞ」

 「出来れば初心者が良いわ。ケイネル師範の流儀ではないけれど、私の流儀を教えられるし、ラケス達と世代が同じになるでしょう? 条件はラケス達と同じにして、持ってくる長剣は、片刃で反りがあること」

 「なるほど……。それは侯爵に相談していいな。ケイネル師範でも選ぶとなると、色々問題がありそうだ」

 「頼んだわよ」


 ガリクスがうなずいたところで、この件は終了だ。やってるのがどんな子供か分からないけど、前衛が出来る要員が増えることが大事なのだから。

 

 次の日から、私は6人を連れて林に向かった。

 荒地に比べると土壌に水分が多いから、この辺りには『リドナス』草が取れる。昔探していた湿布薬に相当するものらしい。近頃見つかったというか、他国からその効能が伝わったらしく新たに薬剤ギルドが新たに注文しだしたものだ。

 おもしろいのは、単体で使うと湿疹ができるらしい。デルトン草と調合して初めて湿布薬としての薬効を出すという事だ。

 薬剤ギルドの大規模な組織改正のおかげで、こんな新しい薬草が採取の対象となるのもハンターにとっては嬉しいことに違いない。


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