G-009 リーダーの資質
ガドラーの目撃例は、マリーの情報では森を北に抜けた山麓の谷間だ。
町からは15km以上離れている。そんな場所に狩に行くのは、青中位のパーティだろう。
そんな2つのパーティが目撃した以上、ギルドは狩りの依頼をだすことになる。
放っておけば犠牲者が出るし、鹿に似たリスティンや小型のデリスを狩るハンター達に犠牲者が出る可能性が高い。
レベルが低いのが難点だが、ガドラー単体ならば黒1つで十分だろう。私がガドラーを初めて狩ったのは青5つ位だったような気がする。
「ところで、貴方達の名前は?」
「ドリムです」
「俺はレントスだ」
「マリーシャ。皆はマーシャって呼ぶわ」
ハーレムパーティのリーダーがドリムで、青3人のリーダーがレントス、そしてガトル狩りを成功させたのがマーシャって事だな。
「さて、それでは狩り方を説明するわよ。……もっとも、これは私達のパーティがやってた事だから、あくまで参考ということになるけどね。
基本は、ガトル狩りと同じ。
でも、大きな違いは安全な方向が1つ以上ある場所で待ち伏せる狩りをするの。
でないと、魔道師達を攻撃されるからね。ガドラーは弱者から狩るのよ」
私の言葉にビクって体を硬直させたのは魔道師だろう。
「だから、狩るときは森ならば大木を背にするか、荒地では岩を背にする、若しくは岩に上ることになるわ。理想は岩の窪みを利用する事だけど、そんな場所はあまりないわ」
「要するに、魔道師を守れる場所ってことだな?」
レントスの言葉に私は頷いた。
「ところで、【メルト】が使える魔道師は何人いるのかしら?」
私の質問におずおずと手を上げたのは、ドリムとレントスのパーティの3人だった。
「貴方達に注意しておく事は、【メルト】を使うのは2回までということよ。それは、ガトル相手に使いなさい。少なくとも6回の【メルト】を浴びればガトルの群れは半減するし、残りの群れも無傷という分けにはいかないわ。
それを殲滅するのは、レントスのパーティから魔道師を除いた2人とマーシャのパーティが当たればいいでしょう。マーシャのパーティにいる魔道師は彼等に協力しなさい。
手負いだから、気が立ってるわ。でも、基本は同じ分かってるわね?」
「斬るのではなく、殴る!ですよね。あの言葉は忘れません。大丈夫です」
マーシャの言葉に笑顔で頷いたところで、お茶を飲む。
一呼吸、おいたところで言葉を続ける。
「さて、最後はいよいよガドラーね。
最初に言ったかと思うけど、大きさで相手の動きを判断しないでね。ガトルより数段身体機能が上だから、6D(1.8m)位の高さには飛び上がれるわ。
もし、岩の上で戦うときは、8D(2.4m)以上の岩を見つける事。
そして、地上を動いているガドラーを倒そうとしないこと。先ず貴方達では当たらないわ。
攻撃のチャンスはただひとつ。貴方達を狙って飛び掛ってくる時!
直線的に来るから予想は出来るでしょ。
その時に槍や剣を突き通すの。……当然無傷とはいかないけど、その他の方法は貴方達には無理だと思うわ」
「私達魔道師3人は何をするの?」
「ひたすら【メル】をガドラーに放ちなさい。但し、3発分は残す事。帰りの森にだって危険はあるわ。
1人で20以上放てるから数発は当たるわ。上手く顔に当たればドリムの攻撃が楽になるわよ」
ポーチからシガレイを取出して火を点ける。
そして、呆気にとられているテーブルの連中を見渡した。
「以上で、ガドラーの狩り方の説明は終わり。……質問はある?」
「槍はあまり効かないって言ったにゃ!」
「そうね。それは、貴方が持っている槍を言ったの。それは投槍よね。投槍では先程のやり方では折れてしまうわ」
投槍は投擲して使うものだから柄は細く、槍先も指2本の幅で長さも10cm程だ。
それを構えた状態でガドラーにぶつかれば、深く刺さらないうちに柄が折れてしまう。
「となると、通常の槍を購入して投槍程の長さで柄を切ることになりますね」
「それも、どうかな? 基本的に私達が武器屋で購入できる武器は対人戦闘を前提にしているわ。獣ようでもなく、魔物ようでもないのよ。
最初は大型の肉食獣なんて狩らないから、それでも十分だけどどね。でも、パーティの能力と自分達の狩りの仕方をよく考えれば、それに合わせた武器を特注する事になるわ。
たぶん、まだ特注したこととはないと思うけど、それ程料金が上乗せされる事は無いわ。
精々、5割り増しから2倍ってとこかしら。もっとも、材質まで変えるとなればそれに見合った額になるけど……」
そこまで言うと、バッグから採取用ナイフを取出した。
ケースから抜取って、テーブルの上に転がす。
「私が狩りに使う道具で使用頻度の高いのがこれになるわ」
「薬草採取ですか? 私達はガドラーを狩るんですよ!」
【メルダム】を誇っていた女の子が私に噛み付いてきた。
「いや、そうじゃねぇ。これは……槍の穂先だ! となると……、やはりな。柄を分解して急造の槍を作るんだな」
「正解。短剣を使った時もあったんだけどね。意外と採取用ナイフって使えるのよ。唯一の弱点は強度不足なんだけど、これは鍛造で造って貰ったから折れることはないわ」
「という事は、俺達の持っているナイフや短剣でも可能だということですね?」
「小さなナイフじゃ、だめよ。深く広く傷を付けるのが目的だからね。そして最後は頭蓋骨を砕きなさい。脳を破壊すれば動きは止まるわ。矢が目に深く刺さればそれだけで倒せる時もある位だから」
「私の矢だと深く刺さらないにゃ……」
ネコ族の女の子が残念そうに言った。
鏃を特注したのでは狩りに間に合わない。それでもガトルには有効だから、矢はガトルに放てばいいだろう。
そして、槍を使う事になるな。
「頭蓋骨を砕くのは任せておけ。丁度いい手斧を持ってるぞ」
レントスが納得顔で呟いた。
「かなり荷は重そうですが、怪我はするけど狩る事が出来るの意味は理解できました。
最後に、不躾な質問ですが……。貴方ならどうやって狩るんですか?」
私は温くなったお茶を飲んだ。
そう来たか。あまり参考にはならないが向上心はあるみたいだな。
「教えても良いけど参考にならないから、ここでは教えない。でも、さっき教えた方法でまだ黒にならない私が狩れたんだから何とかなるでしょう」
「後衛の魔道師がそう言ってもねぇ……」
結構、突っかかる小娘だな。
真顔で睨んでやったら、下を向いたから意外とツンデレなのかもな。
「私は何時も前衛だったわ。グライザム相手にもね。そして、これで作った槍はグライザムにも有効だった」
「また、あれを飲まなきゃならないんですか?」
「当然よ。ガドラーの毒は遅効性だから直には分からないけど、狩の最中に動きが鈍ったら命取りよ」
ウェって顔をしてるけど、レントス達は当たり前の顔をしている。それだけ経験があるんだろうな。
不思議な顔をしているのはドリム達だ。まだ飲んだ事は乃ということだろう。
「さて、私が教えてあげる事は以上よ。そして、ドリム。ちょっと残りなさい」
私の言葉にドリムはぽつんと残ったけど、それを心配そうな顔でツンデレ娘がみているぞ。
「何故残したか分かる?」
「たぶん、もう一度心得を確認する為かと……」
まぁ、心得には違いない。
「2つあるんだけどね。
1つ目は、報酬は参加者全員で平等に分けなさい。
2つ目は、貴方がリーダーよ。不安があればレントスに相談しなさい。マーシャの前では絶対に不安な顔を見せない事。
レントスは狩りの経験は貴方以上。でも、大型を倒していないから青で止まってるわ。他のパーティと一緒に狩りをするのに慣れてるからね。マーシャは他のパーティと一緒の狩りの重要生にようやく気付いたばかりだから、こんな狩りには慣れていないわ。
そして、貴方も他のパーティと混在した状態でリーダーになるのは初めてよね。
狩りのリーダーって何だと思う?」
「え~と、何でも率先してやる事じゃないですか?」
ちょっと、口ごもってドリムが答えた。
私は、彼を見つめながら首を振る。
「貴方以外に狩りをさせなさい。貴方は剣を構えてジッとしてれば良いわ。そして仲間が危険に晒されたとき、初めて剣を振るいなさい。
そうしないと、周囲が見えないわ。総勢11人の狩りはそんな感じね。15人を超えたなら、もう1人そんな役目の人が必要だけど……」
「レントスさんと相談しながら、各自の役割と配置を決めて。……狩りでは全体を見ていろと!」
「正しくその通り。黒になれば皆が頼ってくるわ。そして、自分のパーティだけで狩りをするのはあまりないと思うの」
それがちゃんと出来るかが試されるのだ。
狩りが失敗してもいい。それも1つの経験だ。パーティ間の連携とリーダーシップがきちんと取れていれば、再戦も可能だ。そして新たな狩りの方法も模索するだろう。
ドリムは私に深々と頭を下げて仲間の所に戻って行った。
早速、ホールの外れに集まって相談を始めたので、私は暖炉に方に移動する。私が近くにいると気が散るだろうから。
「結局、一緒に行かないんですか?」
「えぇ、中々見所はあるみたい。私が一緒だと気兼ねするし、死ぬ気でガドラーに向かって行かない気がしたの。
あれだけ脅かしておけば、だいじょうぶよ。精々怪我で済むわ」
どうやら、結論が出たらしくぞろぞろとギルドを出て行く。
私に向かって片手を上げたレントスさんは、どうやら私の意図に気が付いたようだ。
私も小さく頭を下げる。
マーシャ達はかなり緊張してるな。まぁ、無理も無い。
そしてドリムは私に向き直ると深々と頭を下げた。
どうやら、単独パーティとの違いに気付いたようだな。それを実戦で生かすのは経験を積む外は無いのだから、ここは心を鬼にして見送ってやるべきだろう。
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サリーがお茶を運んできてくれたから、10時になったという事だろう。
「ありがとう」って礼を言うと、暖炉の火でシガレイに火を点けた。
「お姉ちゃん!」
私にそう呼びかけたのは、あのちびっ子4人組みだ。
「なあに?」
「これ!」
今度は何なんだろうな?
依頼書にあったのは……、ジルギヌじゃないか!
昔いた世界のアメリカザリガニそっくりな奴だ。ちょっと違うのはその大きさが30cm程あるという事位で、尾の味はロブスターに勝るとも劣らない。
そういえば、昔この町で大漁だったので、一時皆が出掛けたんだけど、その成果はあまり芳しく無かったな。
その原因は直ぐに分った。
私は、ザリガニ釣りの要領で獲っていたのだが、他の者達は石をひっくり返して、しかも手掴みで捉えようとしていたのだ。
だけど、元々ザリガニ釣りは子供の遊びだ。獲物が少し大きいけど、教えてやれば喜ぶんじゃないかな。
それに、釣り場も意外と町の近くだ。町の南の広場の端を流れる小川の縁で確か釣れたんだよな。
そうだ!どうせ教えるんだったら、子供達皆に教えてあげよう。
「ねぇ、貴方達みたいな、子供達のパーティは外にもいるの?」
「もう1つあるよ。俺達よりも1つ下なんだ。まだ赤1つだから俺達と違って、広場で薬草を採ってるんだ!」
思わず笑いたくなったのを、お茶を飲んで誤魔化した。
自信を持って応えてくれたけど、自分達だってついこの間まで薬草採取だったし、狩りと言っても蜜蜘蛛だけじゃないか。
「面白い狩りを教えてあげる。明日の朝、ここにその子達も連れてきなさい。獲れただけ買取るって言ってるんだから皆で狩りをしても大丈夫でしょ。そして、今日は薬草採取をしながらゲロッコを人数分捕まえて頂戴。明日の狩りに必要なの!」
「ゲロッコだね。分った!」
ちびっ子達は私の手から依頼書を取ると、カウンターに向かって行った。