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GⅡー25 参加者を集めないと

 スラバは、綺麗な虹色の皮を除けば利用するものは無い。そう考えれば、毒矢という選択もできるのだが……。狩りを毒矢で行う連中が増えそうだ。今のところ、毒矢を安定に保てる方法は私と一部の薬剤ギルドだったが、盗賊と一緒にそのわざは途絶えたようだ。物騒だからなるべく教えずにおこう。だが、そうなると……。


 「だいぶ、悩んでいるようですね。灰が落ちますよ」

 慌てて左手のシガレイに灰を灰皿に落とす。その様子がおかしいのか俯きながら口を押えて笑っているぞ。

 それが収まったところで、蜂蜜酒とカップを食器棚から出して、私に注いでくれた。


 「黒姫様が悩むというのもあまり見たことがありません。何を始めるのです?」

 まだ、口元が笑ってるけど、シガレイを口にしてごまかしているようだ。でもシガレイの先が細かく震えてるからそれと分かるんだけどね。


 「はあ、実はスラバ狩りなんです。匹、いや2匹ならばクレイ達に任せればいいでしょう。ですが、目撃例が数匹となると他のハンターと協力してという事になります。グラム達が適任でしょうが、それでも3匹……。5匹が離れ離れにいるならばそれで対応できるでしょう。ですが、近くに群れた場合はそうではありません」

 「2匹でも近くにいるなら問題です。レイク達でどうにかではありませんか。確かに問題ですね」


 ミレリーさんも、その困難さを理解出来るようだ。静かに目を閉じているところを見ると、かつての仲間と数匹のスラバ狩りを頭の中シミュレーションしてるんだろうな。どうなるかを聞いてみるのが楽しみだ。新たなシガレイに火を点け、蜂蜜酒を飲みながらその時を待つことにした。


 「2匹までですね。夫の腕を持ってしても、4つの頭の攻撃を凌ぎながら倒すのがやっとでしょう。数匹となればいかな長剣使いと言えどもスラバの連携をかわすことは困難ですわ」

 「ですよねぇ~」


 爬虫類なのだから、連携など出来ないはずなのだが……、どう考えても連携らしき攻撃をスラバの群れはすることができる。やはり、個々に分断して倒すことになりそうだな。

 待てよ、ミレリーさんは夫の……、と言ったぞ。それは1人ではという事になる。たぶんミレリーさんが片手剣でスラバを翻弄ほんろうしている隙を突いてご主人が首を落としたんだろう。だとすれば、最初から長剣使いが2人で一組になって1匹を相手にすれば、他のスラバも連携いた動きが出来ないんじゃないか?

 スラバの数に倍する長剣使いを確保すれば狩りは成立するんじゃないだろうか? 

 問題は、長剣を使えるハンター……、いや、接近戦が出来るハンターでいいんじゃないか? それなら数が揃えられるぞ。


 そんな私をジッと見ていたミレリーさんが微笑み始めた。

 「良い作戦を思いついたようですね」

 「ええ、何とかなりそうですけど、手伝って頂けますか?」

 「かまいませんが、留守番はお願いしますよ」

 

 その答えに私も微笑みを返す。ミレリーさんは最初から分かっていたみたいだな。

 「となると、宿屋の2人も呼びませんといけませんね。たぶん喜んでやってきますわ」 

 「お願いします。後はクレイ達にグラムが使えるでしょう」

                  ・

                  ・

                  ・


 二日後に、ダノンからスラバの数が報告された。全部で7匹らしい。その数に、私は口を開いたまましばらく閉じることも忘れたほどだ。

 「姫さんも驚くってことがあるんだな。まあ、俺だってその数を聞いた時には驚いたけどな」

 「確かに由々しき事態って事よね。問題はハンターの数が足りないって事だわ」

 

 「俺達でどうだ?」

 私達が声の主を確かめるようにギルドの入り口に視線を移すと、そこにいたのは4人組のハンター、その一人のガリクスだった。

 4人で私達のところに歩いてくると、椅子に座る。ライナス君も今では立派な青年になっている。そういえばグライザムの一件で美人の嫁さんを貰ったんだったな。


 「手伝ってくれるの?」

 「獲物によりけりだが、ミチル殿がハンター不足を嘆くとなれば、それなりの獲物なんだろう?」

 「やはり、グライザムですか? 今度は私も最初から戦いますよ!」

 

 「私達が狩ろうとしてるのはスラバよ。青の半ばなら十分なんだけど……」

 「数が多いんだ。7匹なんて俺は初めてだ」

 

 ガリクス以外の連中が少しがっかりした表情を見せたが、ガリクスだけは違ってた。

 「俺なら、国王に願い出て軍隊を借りるぞ。少なくとも【メルダム】を何度も連発して弱らせないと近寄るのも困難だ!」

 「でも、スラバですよ。ミチル様とガリクス殿がおられれば楽勝だと思いますが?」


 たぶん、群れたスラバを一度も狩ったことがないハンターなら、ライナス君と同じ事を言うだろうな。


 「ライナス、スラバ単体でも狩るには【アクセル】を使うんだ。それ程素早く動くことが出来る。それに奴は頭が2つある。さらに2つの頭を潰してもなお向かってくるのだ。3つ目の頭を持っているからな。その上頭の1つは牙に毒を持つ。1匹なら俺達で簡単に狩れるだろう。だが、7匹となると……」

 「ガリクス殿も躊躇ちゅうちょする依頼なのですか?」

 

 「ああ、確かにミチル殿が悩むのも道理だ」

 「でも、ミチルさんはハンターが足りないって言ってたにゃ。ハンターがいれば狩れるって事にゃ」

 

 確かアネットだったな。覚えてたんだ。ダノンを含めて5人が一斉に俺を見た。

 

 「ええ、言ったわよ。簡単に考えたの。相手が7匹なら、それに倍する接近戦にけたハンターを集めれば良いと気が付いたの。1匹に2人で当たれば良いのよ。それで相手の連携が防げるわ」

 「その手があったか……。一度に全てのスラバにそろぞれ相手をすれば良いって事か。問題は……、それでハンターが足りないって事か」

 

 どうやら、理解してくれたようだ。これで、前衛の2人は確保できたぞ。


 「そうなると、クレイのところが2人にグラムのとこが3人だ。ガリクス殿のところが2人に姫さんで合計8人にしかならねえぞ」

 「ミレリーさんに宿屋のご夫婦が参加するわ。それで11人よ」

 「疾風と妖炎にカインドが一緒なのか。だが、それでも3人足らんぞ?」

 「ガリクスなら一人でスラバを相手に出来るでしょう? 私もだいじょうぶよ」

  

 私とガリクスで1匹ずつ、残った5匹を相手にするのは9人ってことになる。あと一人って事だな。


 「俺が参加してもいいだろうか?」

 テーブルの全員が声の主に顔を向ける。そこにいたのはトラ族の青年だ。


 「だいぶ世話になったようだ。まだ仲間にはめぐり会えないが、青3つならばスラバはこなせると思うが?」

 「傷は癒えたのよね。ならお願いしたいわ。これで何とか狩れるわよ」


 「ちょっと待ってくれ! 妖炎は魔導士だぞ。前衛が出来るのか?」

 「前衛も出来る後衛だから問題なし! カインドさんも頑張ってくれるでしょう」

 「まあ、手抜きでもしようものなら、あの折檻せっかんが待ってるからな。死に物狂いで頑張るってわけか」


 ダノンが自分なりに納得してるけど、あの2人が前衛として組んだら見事な連携をするんじゃないかな。何といっても気心の知れた夫婦なんだしね。


 「トラ族と言えば長剣だ。青ならば立派なものだが一人とは珍しいな」

 「最初のパーティはガドラー狩りの助太刀で失敗して解散した。しばらく一人で他のパーティと組んでいたのだが……。この間の狩りであのザマだ」

 

 ある意味、恵まれない人物のようだ。たぶん最初のパーティで生き残ったのは半数もいまい。解散したのは各自の怪我の程度がまちまちだったのだろう。それ以降は一人と言うのもままあることだ。他のパーティに臨時的に参加して今までやってきたのだろう。問題は技量だな。


 「だが、誰と組ませるんだ?」

 「ライナス君の武勇伝を1つ増やしましょうか?」


 私の言葉に驚いたのはライナス君よりもガリクスの方だった。

 「待ってくれ。それなら一度彼の技量を見たい!」

 「そうね。裏の練習場にいらっしゃい。私が相手をするからガリクスは彼の動きを見ればいいわ」

 「俺は構わんが、エルフを下しても俺の技量を見ることにはならないんじゃないか?」


 トラ族の青年の言葉にその場にいた連中が笑い声を漏らす。少しムッとしているようだが、私を下せる技量を持つ者はこの国に何人もいないだろうな。

 そんな彼をギルドの裏に誘って、練習用の木剣を持たせる。観客がぞろぞろとやってきてギルドの壁際に並んだ。


 「さて、全力で来なさい。私を下せればどこからでも誘いが来るわ!」

 「たかがエルフ、我らトラ族の敏捷性と腕力はエルフ族を凌ぐのだぞ!」

 

 その言葉が終わると同時に私の頭上に木剣が迫る。片足を軸に体を反転させると、木剣を打ち下ろした彼の背中をドン! と押す。よろよろと数歩遠ざかると、私に向かって木剣を構えた。

 「【アクセル】か……。使えば我らトラ族を上回ると聞いたが、素早いだけでは、俺を倒せんぞ!」

 斜め上段に構え木剣は彼の次の攻撃を私に教えてくれる。トラ族は正直な連中だ。その剣技も素直で誘いや見せかけの動作がないのだ。ライナス君には通用してもガリクスには簡単に敗れるだろうな。

 袈裟懸けさがけに振り下ろされた木剣をそのまま体に受けたら、私のハンター暮らしは終わっているだろう。一歩彼に近づいて体を反転させ、彼の重い一撃を避ける。その瞬間、彼も私から離れるように体を回した。振り下ろした剣を横に払うようにし私を襲った。

 バキ! 2人が持つ木剣が折れた。


 「そこまで! 十分だ。中々の腕だな。名は?」

 「リドネイン。……皆はリードと呼んでいた」

 

 十分な技量だ。長剣の弱点である隙の相殺が出来るようだ。となると、彼の大怪我の原因が気になるところだな。

 そんなわけで、スラバ討伐の特別部隊が結成された。

 後衛はたくさんいるから、戦う前の【デルトン】や、牽制目的の【メル】それにスラバをあぶり出すための【メルト】には困らない。パメラ達弓使いも第3の頭を潰すのに役立つだろう。


 「だが、これだけの人数だと分け前が減るな……」

 「この町の狩りに支障があるって事でしょう? ならば、ギルドから報奨金をもっと出してもいいんじゃないの? ダメなら、私からの依頼って事で何とかしたいわ」

 「俺の方から出してもいいぞ。スラバ7匹を同時に倒すというのは早々あることじゃない。それこそ、タぺストリーの題材にもいいぐらいだ。館の広間のグライザム討伐のタペストリーは誰もが感嘆している。反対側にもう1つあってもいいだろう」

 

 ライナス君の武勇伝がもう1つ増えるってことだな。確かにタぺストリーには良い題材だ。

 「一人銀貨1枚をこちらが用意する。スラバ7匹の報奨金とスラバの皮の売り上げを合わせて分配すれば不平は出ないんじゃないか?」

 「そうね。お願いするわ。確かに王都で評判にはなるわね」

 これで、全て準備が整ったという事だな。後は出掛けるだけだ。

 


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