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GⅡー24 スラバの群れ

 1時間ぐらい経つとリトネの投げるブーメランもだいぶ様になってきた。

 初めての品だから、懐疑的な気持ちが優先したんだろう。思い切りスナップを効かせて投げるのに戸惑っていたみたいだな。あれなら、昼食までに数匹を狩れるだろう。

 ラクス達は荒地に輪を作っておしゃべりを楽しみながら薬草を採取している。各人が持っている小さなカゴに次々と球根が入れられているから、おしゃべりをしていても問題はないようだ。だけどあまり感心できないな。見張りは立てておくべきだぞ。まあ、私がいるから安心しているのかも知れないけどね。

私は、荒地に点在している岩の一つに飛び乗って周囲を眺めている。1m程の高さがあるから結構遠くまで眺められる。林に近いのが気になるけど、ここで見張っていれば遅れを取ることはないはずだ。それに、林の中ではネリーちゃん達が罠猟とラビー狩りをしてるんじゃないかな? さらにその先の森ではロディ達が狩りをしているのだろう。


昼近くになったところで、周囲を歩きながら焚き木を手に入れる。焚き火のところに戻って、焚き木を継ぎ足して、ポットに水を継ぎ足しておく。

少し多めに入れておくのがハンターの習わしだ。他のハンターが通りかかればお茶をご馳走することになる。

準備が出来たところで、岩に飛び乗り周囲を眺める。特に問題は無さそうだ。シガレイに火を点けると再び林の中を中心に見張りを続ける。


ピィーーと笛を吹く。ダノンが作ってくれた小さな木笛だけど、こんな合図には最適だ。2つのパーティが作業を止めて私のところに集まってきた。

昼食は宿屋に頼んだ簡単な黒パンに野菜とハムを挟んだものだが、体を動かした後の食事には最適だろう。カップのお茶を飲みながら現在までの狩りや採取の状況を話し合う。


「ラビーを6匹狩ったにゃ。午後は薬草を採取するにゃ」

「私達の方は、依頼の数は確保しました。午後も薬草を採取するつもりです」

「何とか依頼はこなせるってことね。なら、午後はブーメランの使い方をラクスと連トスで練習しなさい。ラズーとアンはラクス達が練習している間は薬草を採取してね。ブーメランが使えるようになれば、ラズー達もラビー狩りが出来るわ」


 狩りが出来ると聞いて、プレセラの連中の顔に喜色が浮かぶ。まあ、どうなるか微妙なところだけれど、上手くいけば1匹ぐらいは狩れるかもしれないというところだろう。20m程の距離で的に当たる確率が5割だからな。実際の狩りを始めれば少しは身を入れて練習をするんじゃないかな。

 食事が終わったところで、もう1杯のお茶を時間をかけて飲む。

 リトネからブーメランを借り受け、もう1つのブーメランと一緒にラクスに渡す。リトネは1時間ほどで上手く投げられるようになったけど、ラクス達はどうかな?


 キティ達はラズー達よりも林に近い場所で薬草を採取している。ラケス達は荒地の上で練習しているからラズー達に当たることはないだろう。

 そんなラケス達の腕はまだまだだな。石を投げるようにと教えたんだけど、思ったように戻ってこないから行ったる来たりしているぞ。

 

 岩の上にスノウーガトルの毛皮を敷いて座りながらシガレイを取り出そうとした時、視野の端でキティが突然立ち上がるのが見えた。

 キティの見ている方向に視線を合わせると、林の中から誰かがやってきたようだ。昼下がりだから、高レベルのハンターが狩りを終えて町に帰ってきたのだろう。

 岩から飛び下りて、ポットに水を入れておく。誰かは分からないけど、お茶の1杯はご馳走したいからな。

 再び岩の上に乗った時にはハンター達が林から出てソリに乗せた獲物を運んでくるのが見えた。10人を超えているから2つのパーティで狩りをしたんだろう。ソリに乗せられた獲物も結構大物のようだ。


 近づくにつれ、見知った連中がいることが分かった。どうやらグラム達だな。そして、もう一つのパーティは……。クレイじゃないか! だいぶ立派になったな。

 向こうにも、私達が分かったようで腕を上げてこっちを見ている。私も腕を上げて挨拶を返した。


 「しばらくです。お礼を言いたかったのですが、ミチルさんはそんなことは気にしないと思い、会った時にお礼を言おうと思っていました」

 立派な青年になったな。思わずハグしてあげたけど、後ろで嫁さんに睨まれてしまった。慌てて体を離して、お茶を勧めることにした。


 「それで、今日の獲物は?」

 「イネガルを2頭です。グラム達が手伝ってくれました」


 グラム達も満足そうな顔をしている。黒と青のパーティだからな。イネガル程度なら楽に狩れるだろう。だが2頭となると、それなりに狩り方を考えなければならない。そんな狩りの段取りも今のクレイ達には楽にこなせるということなんだろうな。

 ハンターになりたての頃の姿を思い浮かべると思わず笑みが浮かぶ。


 「クレイがここに夫婦でいるってことは?」

 「町の娘さんに子守を頼んでるんですよ。ですが、子守任せというわけにも行きませんから、5日狩りをして3日休むことにしています」

 

 子守のお姉さんを母親だと勘違いしないようにかな? それでも、今のクレイ達ならそんな子守を頼む余裕もあるのだろう。王都の両親達への援助もしているだろうから、決して楽な暮らしではなさそうだけどね。

 

 「そうだ! たしかドワーフ族の青年がいたわね」

 「何時ぞやは世話になった。俺がそうだ。名は教えていなかったか? ラムザスと言う」


 ドワーフ族特有の立派なひげを蓄えてるから直ぐに分かったけど、あの時の少年の面影は全くないぞ。ダノンの隣に座れば同年代だと誰もが思うに違いない。


 「イネガルの牙で、槍の穂先を作れるかしら? 出来れば返しも付けて欲しいんだけど?」

 「細工物は得意だが、どんな形にするんだ?」

 

 焚き木を採取ナイフで削って簡単に形を作る。相変わらずの切れ味だな。木では簡単に作れるけど、牙を使ってとなると私には困難だ。


 「変わった形の穂先だな。これでも槍なのか?」

 「海での狩りに使うのよ。鉄では直ぐに錆びるけど、牙なら使い物になるかも知れないわ。何個か作ってくれれば売れるかどうか確認できると思うの」

 

 海で使うと聞いて、ラムザスは納得したようにひげを手でしごいている。何となく年寄臭いぞ。嫁さんに嫌がられないのかな?


 「それ程難しくは無さそうだ。金属製ではないから、町の武器屋といさかいを起こさずに済むだろう。出来たらギルドに届けておくぞ」


 牙を使った武器作りは彼の興味を引いたようだ。

 私に別れを告げると、彼らは獲物を引いて町に向かって歩き出した。

 

 クレイ達を見送っていると、キティ達が戻ってくる。一休みってことだな。

 ラケス達は疲れた表情を見せているけど、ラズー達はそんな様子も見受けられない。


 「どうにか、ブーメランを投げられるようになりました」

 「そう。なら、一休みしたらラズー達と狩りをしてみなさい。でも、林の方に行ってはダメよ。薬草の数は足りてるんでしょう?」

 

 私の問いにラズー達が元気よく頷いた。いよいいよ自分達で本格的な狩りができると思って喜んでいるんだろうが、それほど簡単ではないぞ。

 「キティ達も薬草の依頼数は終わってるんでしょう? なら、1人ずつラケス達に付いて狩りの仕方を教えてあげて頂戴」

 

 そんな事で、日が傾くまでの2時間ほどラクス達のラビー狩りが始まったのだが、獲物はアンがどうにか矢を当てたラビー1匹だけだった。

 ラズーとアンも明日からは弓の練習を頑張るに違いない。ラケス達も思ったところにブーメランを投げることが難しいことに気が付いたはずだ。

 それでも、初めて自分達が捕えた獲物に違いない。売ることはせずに教会に持ち帰ってスープにするとラケスが言っていた。安い値段で泊まっているんだからそれ位の事はしないといけないだろうな。


 町に戻ってギルドで報酬を受け取り、その場で別れる。キティを先に帰して、私はギルドでお茶を飲みながら他のハンターの帰りを待つことにした。

 何も無ければ良いのだが、無理をして怪我をするハンターが仲間に運ばれてくることもある。

 日暮れ間際に次々とハンターが帰ってくる。

 獲物を携えた彼らの顔は誇りに満ちている。マリー達から報酬を受け取ると、足早にギルドを後にする。これから無事に狩りを終えた事を仲間と共に酒を飲んで祝うんだろう。

 そんな中、ネリーちゃん達のパーティが帰ってきた。やはりダノンが一緒ったか。私に気が付くと、ダノンがやってくる。足の不自由さはどこにもないように思えるぞ。自然な動きになっている。


 「やはり、待っててくれたか。ありがてぇ。実は……」

 テーブル越しに座ると、パイプを燻らせながら話してくれた内容は、どうやらスラバが湖の東にある小川近くに住み着いたらしい。問題はその数だ。数匹が目撃されているらしいのだが……。


 「スラバ2匹程度ならクレイに頼めば難なくこなせるだろう。だが、数匹となるとレイク達だけではダメだ。何とかならないか?」

 「スラバねぇ……。出来れば長剣が使えるハンターが良いのは確かなんだけど」

 「クレイのところが2人。グラムも何とか使えるだろうが3人だな。1匹に1人ではグラム達が危なぇな」

 

 「とりあえず、今直ぐって事じゃないわよね。出来れば、先行して数を確かめたいわ」

 「それは、ギルドで依頼を出せる。遠くから【メル】を放って追い出せば良いだろう。近づかねば問題ねぇだろうし……」

 

 【メル】の火炎弾の到達距離は30m程度だ。それだけ距離をおけば、魔法を放って逃げることは可能だろう。危険性は少ないか……。

 

 「とりあえず出来ることは、それ位ね。数が分かったら教えて頂戴」

 「ああ、マリーに伝えておく」


 ハンターの帰りが途絶えたところで、私も宿に帰ることにした。既にすっかり日が落ちている。

 家々の窓からこぼれる明りが、帰りの通りを照らしてくれる。そんな通りをどうやって狩るかを考えながら歩いているから、2度ほど石につまずいてしまった。

 1匹なら簡単なんだけど、数が多いとなるとそれなりに考えることになってしまう。


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