GⅡー23 プレアデスの後衛要員
何事も無く数日が過ぎる。プレセラの連中もだいぶ薬草採取に慣れたようだ。今では3種類ほどの薬草採取依頼を1日で4枚もこなせるまでになってきた。
でも、弓は相変わらずだな。片手剣のラクスと【メル】が使えるレントスが頼りのパーティになりそうだ。キティ並みのちびっ子がいるからあまり高望みはしないでおこう。最終目標はガトルが数頭ってことになりそうだな。
いつものように、薬草採取を終えてギルドに戻る。今日はラズーとアンが頑張ってくれてラビーを2匹倒している。キティはそんな2人に付き添ってアドバイスをしていたようだ。ブーメランをこのパーティの誰かが使えれば良いのだけれど、ちょっとコツがいるし大きすぎるからね。
小さなブーメランを雑貨屋経由で町の木工職人に頼んでおいたけど、どうなったかな?
「今日は26Lになったにゃ。4L余ったから明日の報酬に使うってラクスが言ってたにゃ」
「そう、だいぶ貯まったでしょう。雑貨屋で両替して貰うと良いわ。手数料に3L掛かるけど、銅貨よりも銀貨のほうが良いでしょう。ついでに、私が頼んでおいたものが出来たか、見てきてくれない?」
「分かったにゃ!」
そう言って、キティはプレセラの連中と一緒にギルドを出て行った。
「また、何か変わったものをつくったのか?」
「皆には既に教えてあるわよ。ラビーやレイムの狩りに使う輪の代用品なの」
ダノンはテーブル越しのベンチに腰を下ろすとパイプに暖炉の火を移す。
「しかし、宿のおかみは豪傑だぞ。俺はテーブルの下に直ぐに逃げ込んだんだからな」
「その晩に夫婦でお詫びに来たわ。プレセラの連中には、絶対に逃げるなと言っといたわよ。でないと宿のご主人と同じ目に合うって言ったら、ちびっ子達は涙目だったわ」
「だろうな。最強は姫さんだが、最恐はおかみさんだとハンター達も言ってるぞ。おかげで酒場は静かなもんさ」
そんな事を言って笑い声を上げている。次の犠牲者は何となくダノンのような気がしてきたな。
「あのう……、この間の約束を確認しに来たんですけど……」
2人で同時に声の主を確かめるように顔を向けた。そこにいたのは足をガトルに噛まれたエルフの少女だった。
「ええ、良いわよ。数年は一緒になるから、ギルドカードのパーティ登録をしてきなさい」
そう言って私のカードを渡す。
パーティの偽証もあるので、所属するパーティメンバーのカードが無ければパーティ登録が出来ないのだ。
泣きそうな顔を笑顔に変えて、私のカードを押し戴くとカウンターに飛んで行った。
「足が不自由みたいだが、だいじょうぶなのか?」
「例の臨時パーティの1人よ。私が行った時にはガトルとの戦いの最中だったわ」
「齧られたか……。連携も出来てねえだろうし、2人もやられてれば士気はガタ落ちだな」
自分の事は棚上げにして、他人事のように話している。
ダノン、クレイ、グラム達にでも、狩りの注意点を聞いておけばあんな事にはならなかったろう。少しマリー達にも注意しておいた方が良いのかも知れないな。たとえその依頼を受けるレベルであっても臨時パーティには気を付けた方が良いだろう。
「ありがとうございます。これで里の両親にも自慢できます」
そう言って少女が私にギルドカードを返してくれた。
確かリトネイアだったな。両親は健在なんだ。
「これからはリトネと呼ぶけど良いかしら? それで、まだ杖を使わないといけないの?」
「リトネで結構です。里ではそう呼ばれていました。だいぶ痛みは引いたんですが、まだ駆ける事は出来ません。杖は用心のためです。何も武器は持ちませんから」
「杖でも十分に戦えるわ。長さは4D(1.2m)と言うところかしら?」
「そうです。長いと邪魔になりますから、私にはこれで十分です」
おもしろい武器を考えたぞ。その内作ってやるか。
明日の朝、ここで待ち合わせという事で、リトネと別れる。
「良いのか? プレセラの分け前が減るぞ」
「キティと組んでラビーを狩らせれば問題ないでしょう? そろそろ自分達で稼いで貰わなくちゃならないと思っていたから丁度良いわ。教会で厄介になってるから、宿代はあまり掛からない筈よ。キティと2人で目標は1日30Lね。パーティ特約で2件の依頼が受けられるからそれ位は稼げると思うわ」
確か、それなりの資金を持っていると言ってたから、雨が続いても飢える事は無いだろう。
ネコ族とエルフ族の少女達がプレアデスの名を上げてくれるだろうか?
半端なハンターになるようでは、昔の仲間に申し訳が立たない。みっちりと仕込んでやろう。
その夜。夕食が終った後で、ミレリーさんと蜂蜜酒を楽しみながら新しいキティの仲間の話をした。
「……そうですか。エルフ族であれば優秀な魔道師として育つのでしょうね」
「私は例外ですけど、確かに魔道師になる者が殆どですね。トラ族は長剣を持って前衛になりますし、ネコ族の多くが中衛に回ります。人間族は例外で、前衛にも後衛にもなりますね」
「ドワーフ族も前衛ですよ。犬族は中衛になりますね。確かに人間族がどれもこなすと言うのはある意味不自然なのかも知れません」
その種族の適性を考えると、確かに不自然ではある。だけど、人間族が中間的なもう力を持っているからではないだろうか?
人間と比べて優れた能力を持つ他の種族がその特徴を利用して自分の場所を決めているようにも思える。
だから、所属の特徴と異なる能力を持った者は、その立ち位置を変える事もあるのだろう。エルフ族に分類される私が前衛となるように……。
「人間族の能力を各種族の平均であると考えると納得できますよ」
「という事は、人間族だけでパーティを組んでもそれなりにレベルを上げられるという事ですか?」
「ロディ達は幼馴染の6人でパーティを組んでます。人間族が6人ですけど、それなりに狩りをこなしていますよ。更にレベルを上げることは出来るでしょうけど……」
「黒になるのが精々。たぶん黒3つに行くかどうかという所でしょうね。でも、ロディ達はそれぞれ住む場所と親達もそれなりの商売をしていますから、町のハンターで止まるならそれでも良いと思っています」
ロディ達は無理はしない。どちらかと言うと、自分達より下のレベルのハンターの面倒をきちんと見てくれている。腕の良いハンター達もそれなりに必要ではあるが、畑の害獣退治や少し希少価値の高い薬草を採取できる中堅のハンターは是非とも必要になるのだ。
「そういう意味では、ロディの相談役となれるハンターが欲しいのですが、いつも私という訳にも行きません」
「ほほほ……。だいじょうぶですよ。私やテレサが指導出来るでしょう」
そんな話を、ネリーちゃんとキティがジッと聞いていたが、私達の話がひと段落したと考えたのか、私にキティが聞いて来た。
「あのお姉ちゃんが私と一緒に薬草を積んでくれるの?」
「そうよ。私が前衛でキティが中衛、そしてエルフのリトネが後衛になるわ。でも今は2人で薬草を採取しなさい」
「分かったにゃ。……そうにゃ、これを受け取ってきたにゃ!」
椅子から下りると暖炉の上に乗せてあった品物をキティが取ってきた。
「やはり、出来てたのね。3つあるから、1つはネリーちゃんにあげるわ。これは、こう持って、こんな感じに投げるのよ。前にツタで作った輪でラッピナやラビーが狩れる事を教えたわね。あのやり方と同じなんだけど、これは投げた後で戻ってくるの」
ちょっとうさんくさい目で見てるけど、ちゃんと戻ってくるはずだから驚くだろうな。
「そんな事があるんですか? 投げた品物が戻ってくるとは信じられません」
「私のブーメランは戻ってきますよ。あれは少し大きいんで、小さな物を作ったんです。それにこれは投げるのにコツもあまり必要じゃないんです。何度か投げれば上手く投げられるようになりますわ」
私のブーメランと同じと聞いて、ネリーちゃんの目が輝いてるぞ。上手く使えなければ、昔のように輪を投げれば良いわけだから、気兼ねなく使って欲しいな。
次の日。ギルドに出掛けると、プレセラの連中から1つ隣のテーブルにリトネが杖を椅子に立て掛けて坐っている。
結構早くやって来たんだろうか? まあ、早い事に越した事はないけどね。
「さて、今日から2つのパーティに分けて、薬草採取を行なうわ。プレセラとプレアデスの2つね。パーティは2つの依頼を受ける事が出来るから、ラクス、採取依頼を2つ選んできなさい。リトネはキティと一緒に採取を1つとラビー狩りを選んできなさい」
3人が掲示板に走っていく。縦1.5m、横は2mを少し越える位の掲示板にはたくさんの依頼書が貼ってあるのだが、彼女達の技量では左端の下辺りになるはずだ。レベル的には赤5つ位までの依頼書が10枚程度いつも貼り出されている。
やがて、3人が選んだ依頼書を一読して頷くと、彼女達は依頼書をカウンターのマリーの所に持って行って確認印を押して貰う。その辺りの仕組みはどうやらプレセラの連中も理解したように思える。
依頼を受けたところで私達は出発する。
ネリーちゃん達は昨日の内に依頼を受けたようで、朝のギルドには姿を見せない。たぶん、門の広場で仲間達と待ち合わせて出掛けたんだろう。ダノンの姿も無いから同行してるのかな?
北門を抜けて、荒地の斜面を1時間ほど下る。いつもの湖側ではなく少し北に寄ったところだ。林に近いが見通しは良いから、野犬が近寄っても容易に知ることが出来るだろう。それに、林の近くはプレセラの受けたジギタ草が多いってこともあるし、ラビー5匹の狩りをするにも良い場所だ。
1m四方の岩を見つけると、その近くに小さな焚き火を作る。私の持ってきたポット大型水筒の水を入れて火の近くに置いた。これで昼食時には皆でお茶を飲む事が出来る。
「さて、この辺りで採取をすれば良いわ。ラクス、ジギタ草は覚えてるわね?」
「だいじょうぶです。長い茎のような葉に黒いスジですよね」
そう言って、仲間と一緒に探し始めた。
もう一つの依頼はサフロン草だから、4人で集めれば昼過ぎには依頼を達成する事が出来るだろう。
既に薬草採取を始めたリトネを呼び寄せる。
直ぐに私の元にやってきたリトネに3枚羽のブーメランを手渡した。渡された物を怪訝な目で見ているけど、まあ、それは仕方が無いかな。
「貸してみなさい。これはこうやって使うのよ!」
左手のスナップを利かせてブーメランを投げると、シュルシュルと音を立てながら20m以上先に飛んで円を描くようにして手元に戻って来た。
ポカンと口を開けてリトネが見ている。
「ラビー狩りは、これを使えば楽になるわ。しばらく薬草採取をキティ任せて、これの使い方を練習しなさい」
私からブーメランを受け取ると、直ぐにマネをして投げ始めた。中々思うように飛ばないし戻っても来ないみたいだ。まあ、慣れもあるから練習次第って事だろうな。2時間程で思ったところに飛ばないようなら、ラビー狩りは私が手伝うことになりそうだ。