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GⅡ-17 春の薬草採取解禁

 私達が狩りをしてる荒地の斜面に積もっていた雪は殆ど消えかかってきた。だいぶ薬草の芽が出てきたから、明日には薬草が解禁になる。

 町総出の薬草採取が始まるから、今日は早々に狩りを終えて準備を手伝わねばなるまい。


 獲物を狙いながら少しずつ近付くキティの動きが止まり、尻尾が高く上がった。それを合図に私はブーメランをキティの先に向かって投げる。

 シュルシュルと特徴的な音を立てて戻ってきたブーメランを叩きつけるように手で受けた。一応革手袋をしているけど、慣れないと指を折りそうだな。

 ブーメランを装備ベルトの背中に差し込んでいると、キティがラッピナを下げて、うれしそうな顔で戻ってきた。


 「大きいわね。今日はこれで3匹だから終わりにしましょう。明日から薬草を採取するわ。その準備もしないとね」

 

 私の話を嬉しそうに聞いて頷いている。

 2人で手を繋ぎながら荒地を眺める。明日はどの辺りで採取しようかな? そんな事を他のハンター達も考えているに違いない。


 今日の獲物は依頼書にあったものだ。無くても狩った獲物を肉屋に卸せばいいのだが、依頼書があれば、プラスアルファの褒賞金が若干だが上乗せされるのだ。ラッピナ3匹の報奨金を含めてギルドが私達に支払ってくれる額は25L。肉屋に卸すよりも4Lほど高額になる。


 ギルドに戻って、マリーに獲物を渡すと、報奨金を受け取る。帰ろうとする私達をマリーがひきとめた。


 「キティちゃん。両手を出してこれを持ってみて」

 神妙な顔でマリーが手渡した水晶球をキティが両手で持つと光が球体の中で渦巻いた。


 「やっぱりね。ギルドカードを渡して頂戴。レベルが上がってるわ。赤の3つよ。

 そうだ! ミチルさんも一応確認した方が良いんじゃないですか? 前にいた時だって1度も確認してませんでしたよ」


 笑顔で、そう言われても……。

 首からカードを外しながら考えてみると、いったい最後にレベルの確認をしたのは何時だ? まったく覚えてないぞ。

 恐る恐るマリーの渡してくれた水晶球を両手で持って、中に渦巻く光を覗いていた。


 「もうだいじょうぶですよ。ちょっと待ってくださいね」

 

 そんな事を言いながらカウンターの下にある魔道具の中から私のカードを引き抜いた。そのカードの穴の数を数えていたマリーの表情が変わったぞ。

 私の方にカードを握って突き出した顔はかなり怒っているようだ。


 「いったい何時から確認して無いんですか! 銀の9つ。これ以上は上がりませんよ!!」

 「覚えて無いのよ。別に困ることも無かったし……」


 「とりあえず、ギルドマスターと王都には連絡しておきます。まあ、ミチルさんは自分をあまり出さない事は分かってますけど、1年に1度ぐらいは確認してくださいね」


 小言を言われてしまった。

 受け取った銀のプレートには新に2個の穴があいていた。どう考えても10年以上前になるんだろうな。最初は1年でどんどんレベルが上がったけど黒からは上がり方が鈍くなったような気がする。たぶんそれが原因なんだろう。だけど、これ以上はあがらないんじゃないのかな?


 「これからは毎年春に確認するわ」


 それだけ言うと、急いでギルドを後にする。

 家に戻る前に寄ったところは雑貨屋だ。

 中に入ると、としかさの少年が店番をしていた。


 「まだ、カゴはあるかな? 2つ欲しいんだけど」

 「ありますよ。薬草採取ですね。だったら、この形が人気です」


 店の奥に歩いて行く姿は、少し足が不自由なようだ。そういえば、前にギルドにいた時に担ぎ込まれた少年がいた。ちょっと他の少年達とは一緒に働けないかも知れないけど、ちゃんとお店を任せられるようになったみたいだな。


 「これです。どうですか?」

 「そうね。これなら使いやすそうね。2つ頂くわ。それとカゴ2つ分を入れられそうな布の袋が欲しいわ」


 布の袋は需要が高いようで、カウンターの下にある棚にあったようだ。薄緑に染められた厚手の袋を取り出すと、カウンターに置いた。


 「全部で15Lになります」


 少年が告げた値段を支払うと、30cmほどの革紐を2本おまけしてくれた。これで、鑑札をカゴに縛っておくようだ。少年に礼を言って店をでる。

 客の応対も中々だ。あれなら両親も安心だろう。

 

 家に戻ると、ネリーちゃんが暖炉の前に布を敷いて店開きをしている。

 「ただいま!」の挨拶に、私達に顔を見せて「お帰りなさい」と言ってくれる。ちょっとした挨拶だけど、一緒に暮している実感が持てるんだよな。


 「明日の準備?」

 「そうなんです。今年はカゴを新調しましたし、採取ナイフもまだ研いで無いんです」


 そう言いながらも、私達に2枚の鑑札を渡してくれた。

 私達も暖炉の傍に腰を下ろして、カゴに鑑札を結わえ付ける。採取ナイフを取り出して、簡単に研いでおく。ついでにネリーちゃん達のナイフを研いであげた。ミレリーさんのは短剣だから先端だけを研いでおく。両刃だが、長い事採取ナイフとして使っているから既に刃が潰れているぞ。


 カゴを暖炉の左右に2個ずつ並べて、準備を終える。大鍋とザルは既にミレリー山河準備しておいたようだ。


 玄関の扉が開いて、ミレリーさんが帰ってきた。

 小さなカゴを抱えているから、買い物に行ってたみたいだ。


 「お帰りなさい。少し待ってくださいね。夕食はこれからなんです」

 「ええ、構いませんよ。……いよいよ明日からですね」

 「今年はハンターがいつもより少ないとダノンさん言ってましたよ。私達が頑張らないといけませんね」


 私達にそう告げると、台所に去っていった。

 私達はテーブルに着いて、ネリーちゃんの入れてくれたお茶を頂く。

 だけど、薬草採取はハンターで賑わうんじゃないのか? いつもより少ないという、ダノンの言葉も具体的じゃない。いつもの半分とか、2割がた減っているなら何となく状況がイメージ出来るんだが……。

 そういえば、通りにもハンターがいなかったな。前回と違ってギルドにあまり長居しないから全体の状況が見えないんだよね。


 いつもより少し遅めの夕食を頂く。

 明日から始まる薬草採取は春のお祭りとも言えるだろう。そんなわけで今夜はちょっと贅沢な感じがする。小さい焼肉が乗ったお皿が1枚追加されてるし、私達には蜂蜜酒、キティ達にはジュースが付いている。


 「どれ位集まっているんですか?」

 「いつもの半分と、マリーが言ってましたよ。他の村で何か起こったのでしょうか?」


 この季節になれば、王都や町で働くハンター達は少しでも実入りも良い採取場所を探す事になる。ギルドも各村々の薬草の芽吹きを王都のギルドに報告しているから、そんな情報を頼りに王都からハンターが旅立つ事になる。

 今年はどこかの村で大量に薬草が芽吹いたのだろう。たまにそんな話を聞いた事もある。そこに王都のハンターが群がったんだろう。


 「たぶん、薬草が鈴なりという事だと思います。そっちにハンターが流れたということでしょうね。でも、ハンターが少なければ森の中は心配ですね」

 「クレイやロディ達が頼みになりますわ。でも、森は広いですから……」


 ハンターが大勢ならこの町の住人も薬草を探しに森の中まで行く事が出来る。

 だけど、数が少なければ確かに不安だろうな。


 「私達と森に行きませんか?」

 

 1人なら即答しただろう。だけど、キティがいるからな。まだ野犬狩りは早すぎるようにも思える。

 私が周囲を見張れば良いか……。

 イザとなれば木に登らせれば何とかなるだろう。ミレリーさんもいるし、ネリーちゃんだって今では白だからな。

 

 「そうですね。キティには早いんじゃないかと思いましたが、3人いれば問題ないでしょう」

 

 一緒に行けると知ってキティとネリーちゃんは手を取り合って喜んでいる。

 私が周囲を見ていれば良いことだ。別に薬草採取をしなければ食べていけないわけじゃないしね。

                  ・

                  ・

                  ・


 あくる日の早朝。

 いつもより早めに起きて、仕度を整える。

 弓はいらないと思うけど、念のためにキティに背負わせる。パメラよりは射る速度は落ちるけれども狙いは正確だ。

 私は小太刀を腰の後ろに横に差しておく。M29はいつも通りにバッグの後ろのホルスターに納めてある。

 階段を下りてリビングに行くと、既に準備の出来た2人が私達を待っていた。


 「お弁当は私が持ちました。杖が必要なら森で作れば良いでしょう。でも、お茶をを飲んでもうちょっと待った方が良いかも知れませんね」

 「北門は混んでるでしょうね。そうしましょうか」


 例年よりハンターが少ないとはいえ、町の住人が現金収入得られる数少ないチャンスに参加しないわけが無い。

 ネリーちゃん達も昔は少し遅れて出掛けたことでも、その混雑が分かると言うものだ。


 4人でお茶を頂いていると、通りの方が騒がしくなってきた。

 

 「始まったようです。でも、私達は……」

 「森ですからね。ゆっくり出掛けても、それなりに採取できるはずです」


 シガレイを1本、ゆっくりと楽しんだところでミレリーさんが椅子から立ち上がる。

 私達もそれに続いて立ち上がり、テーブルのカゴを手に取った。

 

 「さあ、出掛けましょう!」

 

 ミレリーさんの言葉に、ネリーちゃんはキティの片手を握って家を出る。

 その後を私、最後は戸締りを確認したミレリーさんが続く。

 

 「前の2人を見ると昔を思い出します。ネリーと姉とがああして私の前を手を繋いで歩いていたものです」

 「本当に姉妹のようにして貰ってありがとうございます」


 そんな私の言葉を微笑みながらミレリーさんが聞いていた。

 北の門は閑散としている。薬剤ギルドの馬車は南門の広場に集まっているようだ。


 「だいぶ遅いぞ。早い連中はグリルをカゴ半分ぐらいに集めてるに違いねぇ」

 「焦ってもしょうがありません。まだまだグリル採取は続くんですから」


 「ちげえねぇ。怪我をしないように頑張るこった。今年はハンターが例年の半分だ。荒地にも野犬が出ねえとはかぎらねぇぞ」


 そんな注意をしてくれた門番さんに頭を下げて、私達は荒地を目指して歩き始めた。

 門の外の広場を横切って荒地に入ると、いるいるたくさんの人が薬草を採っているな。

 なるべく場所を荒らさないように足元に注意して私達は、荒地の斜面を森に向かって歩いて行った。


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