表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/140

GⅡ-16 グラム達の出発

 武器屋を後にして、ギルドに出掛けてみると、暖炉の前のベンチに2人の人物が坐ってパイプを咥えている。

 ちゃんと待っていたようだな。だが、ガドラー相手にあの短剣を使うなど、少し牛刀過ぎないか? ガリクスも教えるならばその辺りを良く考えてほしいものだと思う。

 そんな2人に近付き、声を掛けた。


 「遅くなりましたね。それで、ガドラーですって?」

 

 ベンチの空いた席に坐ると、2人に早速話を切り出した。

 そんな2人が、私を見て不審な表情を見せるのは、まあ仕方がないだろうな。


 「そうだ。我等でガドラーを仕留めたい。この町に来れば武器と倒し方を教えてくれる筈だとガリクス殿が勧めてくれたのだが……」

 「武器は買えたでしょう? そうなると、後は教えればガリクスの顔も立つということね。ところで、どの村で、何人掛かりで、何頭を仕留める事になるの? 話はそこからになるわ」


 2人が、ぽつりぽつりと話を始める。威勢の良い連中だったが、話を進めるうちに少しずつ俯いてきてるぞ。

 だけど、話の内容はちょっと深刻だな。


 彼らの主人である公爵領はそれ程大きなものでは無いらしい。小さな村が1つだけと言う名目的な所領だ。だが、例え名目であろうとも所領持ちの貴族であれば、貴族会議での発言力は増す。そういう意味では中流貴族の上位にはランク付けされるんだろうな。

 そんな村から、ガドラーの話が出た。辺境でなければそれなりにハンターがいるのだろうが、小さな村ではハンターだって大勢は集まらない。

 そうなると、貴族の名目に掛けてガドラー討伐を自らが行なわねばならないのだ。

 それ程裕福でない貴族なんだろうな。私兵は10人足らずで40歳を越えた兵士が半数らしい。若者は私の目の前の2人と他に3人と言う事だ。


 「ガドラーの数は2頭と村人が言っていました。しかし、黒姫殿もお人が悪い。最初に名乗って頂けたなら、無礼な言葉は言わずとも済みましたものを……」

 「私は至って平民よ。普通に話してもらえば良いわ。問題は貴方達がハンターで無いから、肉食獣の狩りを1度もしたことがないということね。しばらく貴族間の争いも無いから、貴方達も殺し合いを1度も経験して無いでしょう? そんな貴方達では、10人で出掛けても全滅してしまうわ」


 少しずつ彼らの言う村を思い出してきた。確かに所領としては名目だろう。痩せた畑と荒地が広がっていたな。森はなく林が点在している場所だから狩りの獲物があまり無いところだ。小さなギルドには薬草採取の依頼書がびっしりと貼り付けられていたのを覚えている。あれだと、赤5つを過ぎたらハンターは村を去ってしまうだろう。

 ギルドにガドラー狩りの依頼書を出しても、期間が過ぎて王都に流れてしまうのがオチだな。

 

 待てよ? それなら王都からハンターが出る事もありえる話ではあるのだが……。そこに貴族の矜持が絡む事になるわけだ。

 あれ? だとしたら、ガリクスに教えを請うことも問題にならないか?


 「でも、貴方達がガリクスに相談した事は主人の評判を落とさないの?」

 「我が主人とレイベル公爵は縁戚関係です。何のはばかりなく我等は行き来できますから」

 

 それなら、ガリクスが出張れば問題解決なんだろうけど、それが出来ないところが貴族の面倒なところだ。2、3人が行き来するには問題ないのだが、数人となれば貴族同士のたくらみを邪推する者も出て来るらしい。さすがにレイベル公爵を名指しで非難できないだろうが、中流貴族なら良いやりだまになりそうだな。

 

 クレイ達を出せば問題は解決だけど、2歳の子供達がいるからな。彼らも子供を残して出掛けるような事はしないだろうし……。グラム達では荷が重そうだ。

 シガレイを咥えて頭を捻っていると、ギルドの扉を開けて数人の男女が入ってきた。誰だろう? 見かけない連中だがこの季節にこの町にやってくるハンターは珍しいな。


 カウンターでマリーと話をすると、私の方に顔を向けて嬉しそうに駆け寄ってきた。

 私に力強く抱きついたかと思うと、顔を離して私の顔を覗き込む。


 「マーシャ……なの?」

 「ガリクスさんに戻ってると聞いてやってきたんです!」


 なるほど、そういうことか。

 マーシャ達に椅子を持ってくるように言いつけて、マリーにお茶を頼む。

 簡単にマーシャ達へ狩りの話をすると、やはりガリクスにも頼まれたようだ。表立っては助けられないがこういう事は出来るようになったんだな。少しは世間を見ることが出来るようになったんだろう。


 「で、ここに来たという事は、ガドラー狩りを手伝えるってこと?」

 「だいじょうぶです。でも、できればもう1つパーティが欲しいと思っています」


 自分の技量を過信しないという事は、かなり武者修行の成果が出ているという事だろうな。

 

 「マリー、グラム達はもう戻ってきたの?」

 「まだです。ダノンさんと朝早く罠を確認に出掛けましたからもうそろそろだとは思うんですが……」


 「マーシャのレベルは青6つぐらいなの?」

 「先月で青8つです」


 「なら、グラムを連れて行って欲しいわ。他の村での狩りも1度は経験させたいと思ってるの。帰りに王都に寄って来るのも土産話には良いでしょうね」

 

 そんな私達の会話を怪訝そうな顔で2人が聞いている。

 たぶんマーシャ達が若いのを気にしてるんだろうな。


 「でも、クレイさん達でなくてだいじょうぶなんですか?」

 「宿の酒場で話を聞いてみれば分かるわ。十分に長剣使いとして育ったわよ。でも、彼らに教えた長剣は王都の訓練場で教える長剣の使い方とはだいぶ異なるから、その辺りはグラム達と持ち場の相談をしてね」

 

 マーシャの知っているグラム達は、ハンター成り立ての危なっかしい子供達だろうな。

 だけど、今ではガドラーの頭に長剣を突き刺すだけの技量に育っている。討伐名目でこの兵士2人が加わっても、魔道師と一緒に後ろに下げておけば安心だろう。


 「お若いようですが、黒姫殿の推薦であれば問題ないでしょう。ですが、1つ教えてください。この短剣はガドラーには向かないと思うのですが?」

 「ああ、それね。簡単なの。分解して槍の穂先に使うのよ。それだけの強度と粘りがあるわ。グライザムでさえ突き通せるわよ。でも、やらないでね」

 

 私の言葉に包みを慌てて眺めている。どうやらそのまま使うと考えていたようだな。

 

 「短剣は4本用意してあるわ」

 「昔頂いた短剣を今でも持っています。グラム達は長剣でしたよね。彼らに使って貰いましょう」

 

 マーシャの言葉に私は首を振った。

 「それも、貴方達が使いなさい。グラムなら長剣でガドラーを相手に出来ます」


 やがて、グラム達が帰ってきた。早速、暖炉の周りに集めると、ガドラー狩りの話をして、彼らの参加をお願いする。


 「確かに1人前だ。グラム行って来い!」

 「そうですね。1度は町を離れて狩りをしてみたかったんです。一応、両親に相談しますが、問題はないと思います」


 「この間狩ったばかりにゃ。グラムが前衛なら安心にゃ」

 パメラは何時も通りだな。だけど、グラム達の貴重な中衛だ。それに勘の良さは半端じゃない。

 

 2人は王都での集合場所を告げると、冬の最中だと言うのに町を去っていった。たぶん早く知らせたかったんだろう。

 そんな9人に依頼の前金を渡しておく。銀貨1枚ずつだけど、旅費にはなるだろう。それに狩りが成功すれば彼らの収入おそれなりになるはずだ。


 「良いんですか?」

 「後で、ガリクスから貰うからだいじょうぶよ。旅費の足しにしなさい」


 御隠居様から頂いたお金はこんな形で使っていけば良いだろう。私とキティの暮らしなら何とかなるしね。


 彼らと別れて今度こそ家に帰る事にした。

 宿屋の夫婦に武器を新調してあげようと思って家を出たんだけど、余計な話がでてきたからね。


 「ただいま!」と玄関を入ると、既にネリーちゃん達は帰っているみたいだ。


 「だいぶ時間が掛かりましたね」

 「相談があったんです。マーシャ達が帰ってきました。それで、グラム達を連れて西北の村に向かって貰おうと思っています」

 「そうですか。町を離れてハンターの腕を確認するのも必要な事です。ミチルさんの推薦なら彼らの親も安心して送り出すでしょうね」


 20日くらいは町を離れる事になるだろう。王都からは馬車で向かうのだろうが、せっかく出掛けるのだろうから、帰りは簡単な依頼をこなしながら戻ってくれば良い。


 「グラムお兄ちゃん達は王都に行けるのね。ネリーも来年には行けるかな?」

 「王都だと、青クラスのハンターは大勢いるわよ。この村でのんびり狩りをするのが良いと思うんだけどなぁ」


 私の言葉にミレリーさんも頷いている。ネリーちゃんも、それ位は知っているようだ。たまに帰って来るお姉さんから聞いているんだろう。

 遊びに行くんだったら良いんだけどね。

                  ・

                  ・

                  ・


 今朝早く、ネリーちゃん達はダノンと一緒に森へ罠を仕掛けに出掛けた。もう1人の魔道師は弓も使えるそうだから、獲物が無いという事は無いらしい。

 私も、宿屋でお弁当を買いこんでキティと一緒にラッピナを狩りに出掛ける。雪もだいぶ減ってきた。後一ヶ月も過ぎれば薬草採取が始まりそうだ。

 

 「当ったにゃ!」

 キティが30m程離れた場所で矢の刺さったラッピナを高く掲げる。今日はこれで2匹目だな。


 「お弁当にするわよ!」

 私の声に、その場から走ってくる。雪がまだあるんだけどね。

 日当たりの良い木の下は既に雪が消えていた。薬草が新芽を出し始めているぞ。

 そんな場所に小さな焚き火を作ってお茶を沸かす。少し大きめのポットは、狩りを終えて通りかかるハンター達に振舞うためだ。

 私達が雪の上に毛皮を敷いて座りながらハムが挟んであるパンを食べていると、案の定ハンターが獲物を担いで斜面を上がってきた。


 「こんにちは。お茶をどうですか?」

 「ああ、済まねえな。おい!ここでお茶が飲めるぞ」


 後ろの仲間にも伝えたようだ。ドサリと置かれた獣はイネガルの半身だ。どうやら解体して担いできたらしい。雪だから枝でソリを作って曳いてくるということは知らなかったようだ。それとも、森の深い場所で狩ったのかも知れないな。木々がソリの進みを邪魔する事は良くあることだ。


 「嬢ちゃんが一緒だと遠くには行けないな。だが、薬草は早いんじゃないか?」

 「ラッピナ狙いよ。2匹捕らえたわ」


 「罠ってわけじゃ無さそうだ。だが弓で狙うのは難しいぞ」

 

 そんな話をしながら、お茶を飲んでいる。

 危険な獣の話は出て来なかったな。少し安心できる。なんと言っても薬草採取が解禁になると、大勢の町人達が荒地に繰り出す。ダノン達もハンターから情報収集をしているのだろう。

 

 礼を言って去っていくハンター達の後姿を見ながら、マーシャ達の狩りが上手く行く事を祈った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ