G-008 狩りは大勢で
ギルドの扉がバタン!っと大きく開いて子供達が入って来た。
小さい子達だな。……ネリーちゃんも雑じってるぞ。ちゃんとギルドに登録したハンターなんだ。
皆で背伸びして、カウンターのセリーさんに採取した薬草の球根を渡してる。サフロン草辺りだろうけど、ちゃんと依頼をこなしてるのは偉いと思う。
簡単な依頼でも経験値がちゃんと記録されるから、1年もすれば赤2つにはなれるんじゃないかな。
俺に気がついたらしく、手を振ってギルドを仲間達と出て行った。俺も、片手を振ってあげる。何時の間にか顔に微笑が浮かんでいたようだ。
「あのう……。高レベルのハンターとお見受けします。ちょっと相談に乗っていただきたいのですが?」
「あら、良いわよ。お仲間もご一緒にどうぞ」
少し慣れてきたな。こんな言葉が自然と出てくる。
俺に声を掛けてきたのは20歳程の線の細い男性だ。遠くから様子を覗っていた仲間を片手で呼び寄せている。
その仲間は、魔道師の女性に、片手剣を装備したネコ族の女性、そして弓を装備したエルフだった。男性は先程の1人だから、ハーレムパーティになるんだろうな。
「それで、相談とは?」
「実は、この依頼をしようと思ったのですが、カウンターの娘さんが貴方に一度相談してからにしては?と言われまして……」
男性はテーブルの上に依頼書を広げると、私の方に向けてくれた。
「これって!」
気がつかなかった。そういえば黒レベルの依頼はスルーして、中級から下を重点的にチェックしていたのを思い出した。
そこにあった依頼は、『ガドラー2匹の狩り』とあった。
「貴方達のレベルは?」
「一応、黒の1つになります。ガドラーというのはガトルの大型だと聞いています。毒を持つという事から黒の獲物になっているのでしょう。俺達は、ガトルは散々に狩ってきました。少し大きな獣でも4人いれば倒せる筈だと、この依頼を受けようと思った次第です」
なるほど、これは説得から始めた方がいいのかもしれない。
片手を上げて指を弾く。
直ぐにマリーがお茶を運んで来た。カップを皆に配り終えると、革装調のノートを取り出して私の隣の席に着いた。
皆の顔を眺めながらお茶を一口飲んだ。
「正直な話、無謀の一言よ。たぶん1人は確実に亡くなるわ。隣のマリーが私に相談しろと言ったのは、そういう事なの。これがガドラー1匹なら、何も言わずに依頼の確認印を押したと思うわ」
「ガドラーとはそれ程の獣なんですか?図鑑では大型のガトルで爪に毒を持つとありますが、黒低レベルの狩りの対象となっていますよ」
「その図鑑に書かれてないことを、これから話してあげるわ。
まず、ガドラーの習性なんだけど、ガドラーが単独でいる事は殆ど無いわ。数十のガトルの群れを率いている筈。そして、ガドラーの動きはガトルの上を行くの。簡単に言うならガトルが3倍ほど大きくなって【アクセル】状態だと思えば良いわ。この状態で爪に毒を持つことがどんなに危険か分るでしょう」
「という事は、ガドラー狩りの前にガトル狩りを行なうことになるんですか?それも数十?」
シガレイを取り出して口に咥える。
左手の指先に小さな火炎弾を作るとそれで火を点ける。
「その通りよ。貴方達が狩ったガトルの群れはそれ程大きなものでは無かった筈。今まで、他のパーティと連携した事も無かったんじゃなくて?」
「言われる通りです。今まで、この4人でやってきました」
「3つの中から選びなさい。
1つ目は、この依頼を諦める。
2つ目は、この依頼を自分達でやってみる。やり方は教えるわ。でも1人は確実に亡くなるわ。場合によっては2人になるかも……。でも、依頼は確実に達成することができるわ。
3つ目は、他のパーティと連携してこの依頼を受ける。無傷とはいかないかも知れないけど、亡くなる者はいない筈。
さて、どれを選ぶ?」
4人は集まって相談を始めた。流石に2つ目は選ばないか……。だけど、自分達の実力を過大評価している気がするな。
此処は大人しく引いてくれるとありがたいんだけど。
「決めました3つ目を選びます。この場合、他のパーティを紹介して貰えるのでしょうか?」
「相手次第なんだけど……、ダメなら私が行くわ。明後日、もう一度私のところに来なさい。同行するパーティは現在薬草採取とガトル狩りをしてるの。上手く話が通れば2つのパーティが参加するわ。7人が加わればかなり優位に狩りが出来る筈よ」
「分りました。明後日ですね」
俺が頷いたことを確認して、ハーレムパーティはテーブルを去っていった。そして掲示板を漁っている。
「それって、あのパーティですよね。大丈夫なんですか?」
「明日になれば分るわ。たぶん小さな傷はあるかもしれないけど、狩りは成功して帰ってくる筈よ」
ガトル狩りに行ってる連中は、他のパーティと連携を取ることの重要性を理解して帰って来る筈だ。
そっちは問題ないんだけど、先程のパーティは今まで単独で狩りをしている。連携と同時に、狩りのリーダーとしての役割をちゃんとこなすことが出来るだろうか?
場合によっては、オブザーバー参加をしなければならないかも知れないな。
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次の日、朝早くからギルドに出かけて3人組みと、ガトル狩りの少年達を待ち構える。
一応マリーに、やってきたら俺のところに顔を見せるように言ってあるけど、やはり待ってあげるのが基本だろう。特にこちらからの依頼になる訳だし……。
暖炉の傍でのんびりお茶を楽しんでいると、3人組みがやってきた。
「この間は、すまねぇ。奴もようやく歩けるようになってきた」
「それは良かったわ。夕方にでも連れてきなさい。抜糸をして【サフロ】を掛ければ傷も残らないわ。でも、筋肉は切れてるから数日は休ませなきゃダメよ」
「悪いな。夕方に連れてくるよ。それで、金も受取らないってのは大きな借りになる。何とか返せないかと考えてるんだが……」
「早速返してもらいたいんだけどねぇ」
そう言って悪戯っぽい目で彼等を見上げる。
俺の前でずっと立っていたのだ。
「なんだ? 少し位の無理ならやってやるぞ!」
「ガドラー2匹!……手伝って欲しいのよ」
俺のの言葉を聞くなり彼等が硬直するのが分った。
ガドラーの恐ろしさを知っているという事だ。これは是非とも勧誘しなくては。
「それは少しムチャが過ぎないか? 俺達は青の6つだぞ」
「でも、ガドラーの怖さは知ってるんでしょ。その経験が欲しいのよ。実際に狩るのは黒の連中に任せれば良いわ。怪我は少しはするかもしれないけど死ぬことは無いわ」
「分った。それで何時出掛けるんだ?」
「明日の朝、此処に集まって頂戴」
男達は私に向かって力強く頷いてカウンターに向かった。今日も薬草を採取するのかな?
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昼を過ぎた頃、元気に扉を開けてぞろぞろとハンター達が帰ってきた。
獲物を狩ったハンター達だな。
採取依頼の連中はもう少し後になるはずだから、野宿して今朝方に町に戻って歩いてきた連中に違いない。
シガレイに火を点けようと、暖炉に手を伸ばした時に後ろから声を掛けられた。
「私達に御用だと聞きましたが?」
「あら、帰ってきたのね。座って頂戴。それで、狩りの結果は?」
少年達が私の向かい側のソファーに腰を降ろす。女の子2人は私の隣だ。
「都合22匹を狩りました。上手く行き過ぎて怖い位でしたよ。白1つの連中も中々上手く立ち回ってくれました。2人程、軽く噛まれましたが、【サフロ】でその場で治る程度です。私達としても満足した結果だと思ってます」
「白1つの連中もそうでしょうね。報酬も得られたし、レベルもう少しで2つに上げられるでしょう」
「ところで、御用というのは?」
「もう一度、ガトル狩りをやらない? 今度は前と違うパーティとなんだけどね」
「彼等とは違うパーティですか? その理由は?」
「今度はガドラー付きなの。しかも2匹もね。幾らなんでも白1つは無謀だわ」
俺の言葉に4人が硬直する。ガドラーがいなければという前提でガトル狩りを行い、軽いものだが怪我までしているのだ。
俺の話がかなりムチャなものか、少しは理解出来るようになったようだ。
「黒1つのハンター4人と青6つのハンター3人それに貴方達4人よ」
「11人ですか……。ガドラーとはそれ程のものなんですか?」
「貴方が想像する以上だと思うわ。そして、貴方達にはガドラーの周りにいるガトルを狩って貰いたいの。でも、相手の数が50はいるわよ」
「狩りの仕方は一緒なんですか?」
「基本は同じ。でもね。今度の場合は役割分担が大事なの。ガトル狩りはパーティ2つの連携で倒したでしょ。今度は仲間を庇うだけではなくて、自分の役割をしっかりと守りながら互いに連携を行なうという、もう1つ上の能力が必要になるわ。でも、ちゃんと覚えれば後々役に立つことは間違いない能力よ」
俺の言葉を聞いて、4人が集まって話し合い始めた。
確かに彼等単独のパーティではひっくり返っても不可能な話だ。しかし、黒1つが4人いれば何とかなる依頼ではある。
「あまり力になれるとは思えませんが、私達も参加させてもらいます」
「それでは、明日の朝此処に集まって頂戴。他のハンター達も集まってくるわ」
俺に軽く頭を下げてギルドを出て行ったが、今夜は数段上の狩りを考えて眠れないんじゃないかな。
まぁ、明日は移動と仕掛け作りだから、早めに寝られるとは思うけどね。
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次の日、窓際のテーブルに椅子を持ち寄って俺の前に11人のハンターが座っている。
全員にお茶をご馳走して、早速話を始めることにした。
「先ずは黒1つのパーティの4人よ。その歳で黒1つは優秀だわ。そして青6つの3人。それに昨日、ガトルを20以上倒してきた白3つのハンター達。これだけのパーティが揃えばガドラー2匹は倒せるわ。数人が怪我をする位でね」
「無傷とは行きませんか?」
「それは無理。貴方達が1度はガドラーとやりあっていれば良かったんだけど、今回が初めてでしょう。ガドラーは獣ではなく魔物なの。知恵があるわ」
「昨日のお話でガトルを率いると言っていましたね。私は【メルダム】を使えるわ。それで全滅させれば楽な依頼だと思うわ!」
「何回撃てるの?……2回? それとも3回? その後の貴方を守るのは誰?
私は貴方よりレベルは上だけど、【メルダム】は覚えなかったわ。
【メルダム】は防衛陣地の中で有効なの。それも多数の魔道師がいる状態でね。軍隊ならそれでもいいんでしょうけど、ハンターの狩りなら【メルト】で十分。その方が数が撃てるわ」
俺に口を挟んだ娘が顔を真っ赤にしている。
自分のスタイルじゃないという事だろうが、それならガドラーは諦めるべきだ。そんな生易しい相手ではないことは対峙して初めて分る。
「弓で射るのもダメかにゃ?」
「それは有効よ。確実に目を射抜けばそれで終わり。背中なら10本以上矢が刺さっても動きは変らなかったわ」
「槍も?」
「有効よ。数本刺しなさい。動きが鈍るから」
「剣は?」
「使い方次第。斬るのは貴方の力ではたぶん無理。突き刺すことが有効ね」
「そんな相手をどうやって倒すんですか!」
「だから、それを教えてあげるのよ。先ず用意するのは……」
俺の説明を食い入るように聞き始めた。
一見、無敵に見えるものでも弱点はあるのだ。
何時の間にか、狩りには参加するはずの無いマリーまでもが、俺の話を夢中になって聞いている。
その狩りの方法とは……。