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GⅡ-15 協力者は多い方がいい

 食堂を貸しきって、たらふく肉料理を頂き、参加者には1人銀貨2枚が手渡される。その残金に、私の銀貨を1枚付けて、酒とジュースは飲み放題となった。


 「あんたが全部出さなくても良いんじゃないかい?」

 「発起人は私ですし、しばらくここを離れて申し分けなく思ってますから、良いんです」

 

 そんな私とテレサさんの会話を恨めしそうな表情でご主人が調理場から見てるのが気にはなる。やはり、今度簡単な狩りに連れて行ったほうが良いんだろうな。


 ロディやネリーちゃん達も嬉しそうだ。しばらくぶりで好きなだけ焼肉が食べられるんだからね。年に1度ぐらいは、皆で狩りを楽しんでも良さそうだな。

 ある程度の人数がいれば、赤や青クラスのハンターでもリスティン狩りを楽しめるからね。とはいえ、今回誰も怪我人が出なかったのは、クレイ達の成長もあるんだろうけど、ミレリーさんとテレサさんの2人によるものが大きいと思う。高レベルの中衛がいれば子供達も安心して任せられるからな。


 そんな狩りを終えて数日も過ぎると、あの狩りはそれぞれの想い出になる。そして、私達の所にも、その話を詳しく聞きたいらしい来客がお土産を持ってやってくる。

 やはり息子や娘が危ない目にあって無いかを確認したかったようだ。

 私が話す内容を、ミレリーさんが補足してくれるから相手も納得してくれる。


 「ミチルさんの話は子供達から良く聞いていますが、あまりのことに信じられないところがあります。でも、ミレリーとテレサは良く知っていますから、2人が同行したのなら、納得できる話ですね」


 そんな事を言う客が殆どだ。ミレリーさんの往年の姿が想像出来るな。

 

 「でも、そうなると、カインドが文句を言いそうですね。次には連れて行って上げなさいな」

 

 最後にどの客もそう言って帰っていく。誰だろうと、ミレリーさんに聞いてみたら、宿屋のご主人とのことだ。テレサさんに当り散らしていないだろうな? 今度行ったらたっぷりと小言を言われそうだぞ。


 「皆はそう言ってますけど、宿を閉めて狩りに出掛けるわけにも行かないでしょう。。彼も納得はしてるんでしょうけど、妻の活躍を酒場で聞くと心穏やかでは無いでしょうね」


 新しいお茶を私のカップに注ぎながら、そんな感想を言われても、そうそう大型の狩りなどあろう筈が無い。


 「ところで、あの片手剣は頂いてよろしかったのですか?」

 「ええ、どうぞ。たまに手伝ってくれると嬉しいです。ところで、テレサさんは何時もあの棍棒を振り回してたんですか?」


 「そうみたいね。私とはパーティが違ってたから、初めてテレサの動きを見てたんだけど、昔からあの体格で魔道師ということが気にはなってたのよ。あれなら前衛でも使えるわね」

 「それなんです! どう考えても前衛向き、ということは旦那さんは前衛では無かったんでしょうか?」


 おもしろそうな顔をして私を見ている。シガレイに火を点けて軽く紫煙を吐くと、私に笑みを浮かべた。


 「誰も想像できないでしょうけど、カインドは前衛なんです。そこでレイピアを使うんですよ。刺突剣と言えば良いのかしら?」

 

 危うくお茶の入ったカップを落とすところだった。

 まあ、レイピアは良いだろう。貴族の主流な武器ではある。儀礼用に軽く作られているらしいが、本来は長剣よりも錬度の高い鋼で作られた両刃の細身の剣だ。

 たまに、貴族のハンターが持っているのを見かけるけど、あれではねぇ……。突き刺した野犬に噛み付かれてるところを見たこともあるぞ。


 「そうですよね。誰もが想像できないでしょうけど、カインドのレイピアの断面は三角でしたよ。その突きはガトルの頭骨を貫通してました。乱戦で良くも目標を正確に突き刺す事ができることを皆が不思議がってましたね」


 動体視力が突出しているのだろうか?

 名人ともなれば相手が止まって見えるとまで言われることがあるからな。

 でも、あの体形で? 私は噴出しそうになった。


 「テレサのパーティは長剣とエストックの前衛と短槍の中衛に後衛がテレサと弓つかいでしたね。短槍は両端に穂先を付けてましたし、弓使いは矢が無くなると戦斧を使ってましたよ」


 どんなパーティだか想像できないぞ。なんか全員が前衛をやっても問題が無さそうだ。だけど、そんなおもしろパーティの話を私は聞いた事も無かったな。


 「ミチルさんが知らないのは無理も無いと思います。テレサはガトル狩りを主に生業にしてました。レベルはどうにか黒1つでしたね。当然たまにガドラーを狩る事もありましたが、それではレベルがさほど上がりません」


 特化したパーティだったのか。それでも、今では宿屋を開いているんだからかなり活躍したんだろうな。


 「ミレリーさんのパーティはどうだったんですか?」

 「私の所はいろいろと狩りましたよ。あわよくば銀を狙っていた事になるんでしょうね。そんな自分の技量を超える狩りをしたことから、夫を亡くしたんです。あの時はだいぶテレサが力になってくれました」


 ちょっと場がしんみりしてしまった。

 私もシガレイを取り出して火を点ける。

 しばし沈黙の時間が過ぎた時、トントンと扉を叩く音がする。今度はどこの親御さんだろうと、玄関に出て行くミレリーさんの視線を追った。


 やってきたのは酒ビンを手に持ったカインドさんにダノンだった。

 ミレリーさんが席を移動して、私のテーブル越しの席を2人に勧める。

 カップを棚から下ろしたところで、私の隣に座った。


 「姫さんよ。宿屋の主人の頼みを聞いてやってくれねえか?」

 「狩りに連れて行け! って事でしょう。さっきまでその話をしてたのよ。次ぎはご主人を連れて行ってあげないと肩身が狭いだろうってね」


 「まったくその通りで困ってる。ハンターの酒盛りも子供達のリスティン狩りで花が咲いている。そんな連中と家のテレサが話しをあわせるのを見るとなぁ……」

 「エストックを手に飛び出したくなると?」


 私の問いに、大柄な体を中腰になって身を乗り出し、私の手を両手で握った。


 「その通りだ。どうか、次に出掛けるときには俺を連れて行ってくれ。ハンター時代に比べれば、腕は落ちたが力は昔とさほ変わらねぇ」


 それって、大きなハンディじゃないのかな?

 だいたいエストックの技量は敏捷性の一言だ。力はさほど必要ない。相手の急所に素早く剣先を際しこみ捻って急所を破壊する。それがエストックだと私は思ってるんだけどね。

 

 「カインドさんは、エストックだけでハンターをしていたんですか?」

 「確かにエストックは使い込んでいたが、使うまでも無い相手には杖で打ち付けていたな。それを見てテレサがこれを使えって棍棒を渡そうとしたのは1度や2度ではなかったぞ」


 なるほど、必ずしもエストックにこだわる必要は無いって事か。杖が使えて力があるならおもしろい武器を持たせて見よう。基礎がしっかり出来てるから、たぶん使えこなせるだろう。クレイやグラムでは無理だけどね。


 「どうだ? 結構役立ちそうだと俺は思ってるんだが?」

 「そうね。ダノンよりも頼りがいがあると私も思ってるわ。でも、宿のご主人よ。狩りに出掛けたら、宿も食堂もお休みになってしまうわ!」


 表面的には問題ないのだろうけど、あの宿屋を拠点に狩りをしているハンターだって大勢いるのだ。

 そんな私を見て2人が笑ってる。


 「心配ない。王都から修行があけた長男が帰って来るんだ。奴に宿を任せれば俺達も少しは町に後見できるってもんだ」

 

 そういうことか。とはいえ、2人を一緒には出来無いだろうな。

 それに、長い間ハンターから足を洗っているのも確かだ。先ずはリハビリって事だろう。となると、ダノンとの役割調整が必要になってくるな。


 「ダノンはどのパーティの面倒を見てるの?」

 「おれか? ……クレイとグラムのところは心配ねえから、ロディ達を行動してるんだ。若いから中々付いていくのが大変だぞ」


 かなり長距離を行動範囲にしてるってことだな。となれば、ネリーちゃん達は近場で我慢してるってことになる。


 「ダノン。ロディ達の面倒をカインドさん達と交替出来ないかしら? ネリーちゃんのところは4人パーティだから、罠猟にしても近場で我慢してる筈だわ」

 「そうだな。俺もその方がありがたい。奴等に付いていくのはこの足ではちょっとな。カインドさん、頼めるか?」


 ちょっと意外な展開にカインドさんがパイプ取出して考え始めたぞ。

 それを良い事に、ダノンが手土産の酒をカップに注いで配り始めた。

 カインドさんが渡されたカップの酒を一息に飲んで口を開く。


 「そうだな。先ずは昔の勘を取り戻さなくてはなるまい。それに、何も俺1人という事では無いな。家内もいるし、ミレリーさんもいる。3人で交互に見てやれば良いだろう」


 今度はミレリーさんが驚いている。でも、良いんじゃないかな。基礎は私とダノンがしっかりと叩き込んでいる。そんな彼らの心配はムチャをしないことだ。それは先輩であるミレリーさん達が教えるべき事じゃないかな。


 「まあ、問題が無いわけではありませんが、お役に立てるなら……」


 という事で、若手ハンター育成のメンバーが増えたぞ。

 ダノンも少しはギルドの手伝いが出来るだろう。今でも昔通りにギルドの臨時職員の地位を持っている事だしね。


 酒を飲むと昔の話に花が咲く。

 やはりカインドさんも黒レベルだったようだ。ガトル狩りに特化した狩りの話では、私も勉強になる事もある。ガトルの群れにはちゃんとリーダーがいるそうだ。そのリーダーを素早く見抜くことがコツだと教えてくれたんだけど、私には同じに見えるんだよね。見敵必殺が信条のパーティだったからそんな事を考えもしなかったんだと恥じ入るばかりだ。


 2人が帰ったところで、ミレリーさんに武器屋に出掛けることを伝えて家を出た。

 お願いする以上は、それなりの武器をそろえてやらねばなるまい。

 

 武器屋に行くと、今日は先客がいるぞ。

 

 「この短剣でガドラーを殺るのか? 俺達は本気なんだぞ。ガリクス殿に聞いて遥々と王都から来たのだ。我等が公爵の名を上げる良い機会であるのに……」


 どうやら、例の貴族のたしなみって奴なんだろうな。なるほど、王都から遥々武器を揃えに来る連中もいるんだ。

 あれからしばらく武器を仕立てて無いけど、ずいぶんと時間が経っているから腕も上がってるんだろうな。


 「どれどれ、見せて!」


 カウンターに並んだ5本の短剣はちょっと見た限りでは数打ちの短剣に見えなくも無い。

 1本を手にとってケースから抜いてみる。採取ナイフを腰から抜いて、刀身を下から軽く叩いて音を確かめる。


 「良い出来ね。腕も上がってるわ」

 

 そう言ってドワーフの主人に微笑んだ。


 「何を言う。魔道師に剣の良し悪しが判ってたまるか。良いか、我等はガドラーを相手にするのだ。ガリクス殿がグライザム用の槍をここで作ったと聞いてやって来てみれば、持ち出してきたのが、数打ちの短剣だ。出来なければ出来ないという事だな。ガリクス殿もお人が悪い……」

 

 最後の言葉は後ろにいるもう1人の人物に言っているようだ。

 ガリクスの悪口はちょっと問題だな。ここは説明してやるか。店の主人には作れても使い方までは教えられないだろうからな。


 「もし、本当にガドラーを倒したいなら、この短剣を買ってギルドで待ちなさい。用件が終れば私が説明してあげるわ。だけど、このまま王都に帰ったなら、この店を教えたガリウスに笑われるわよ」

 「待て、この短剣で本当に狩れるのだな? その使い方を教えると言ったな。良かろう。たぶんギルドに行けば黒姫殿にも合えるかもしれん。ガリクス殿に教えられたもう1つの事も出来そうだ」


 カウンターの短剣を全て買い込んで支払いにカウンターへ銀貨を積んでいる。あれだけ錬成してあれば数本で銀貨20枚位になりそうだな。


 包まれた短剣を受け取って2人が出て行ったところで、私の順番だな。

 

 「良いところに来てくれました。いくら説明しても聞いてくれないんです」

 「私が後を引き受けたわ。ところで頼みたいものがあるんだけど?」


 主人がカウンターを出て、小さなテーブルセットに私を誘う。用意された紙と粗末な鉛筆で作ってほしい物の概略図を描いた。


 「少し長めのバトンで良いんでしょうね。持ち手も太いですが先端のこの溝は何ですか?」

 「叩いた時にこの突起部分に全ての力が集中するの。溝よりもこの突起部分がだいじなのよ。小指1本の横幅で長さが1D、それを周囲12箇所に付ける事になるんだけど……」


 「こっちは、かなり反りがある片手剣ですが、柄の長さは本当にこれで良いんですか? 5Dと書かれてますよ」

 「それでいいの。槍と違うから、柄の断面は楕円に仕上げて頂戴。この片手剣部分も片刃で良いから、身を厚くして頂戴。それで値段は?」


 いまだに私が描いた画を見ているぞ。やはり、あまりにも武器の概念から離れているのかな? だけど立派な金棒と薙刀なんだけどな。

 

 私は、主人の告げた金額、銀貨50枚を支払って店を出た。今度はギルドか。ちょっと面倒だな。

 

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