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GⅡ-11 後は狩るだけ

 冬の雪山は危険だけれど、キチンと準備をすればそれ程危険ではない。

 防寒と携帯食料が一番大事になる。

 狩りそのものは3日あれば十分だが、吹雪に閉じ込められる可能性がある。その分は携帯食料を増やしておく必要があるのだ。通常3日と言われているけど、私は1週間分を常備している。

 オヤツ代わりに食べる時もあるから、再度中身をキティの分を含めて確認する。水は大型水筒を私が持って、0.6ℓの小型の水筒を装備ベルトに付けておく。

 綿の上下に、細い糸で編んだ少し長目のセーターを着込んで、その上に革の上下を着込む。靴下は2枚だ。革の手袋をして、帽子は耳にも覆いが付いている。装備ベルトを付けて、マントを羽織れば出来上がり。雪靴とスノーシューは町を出てからで十分だろう。

 キティに弓を背負わせてその上からマントを羽織らせる。

 毛糸の手袋を付けさせて、革手袋は戦闘時に付けさせれば良い。長い紐が付いた革手袋を首から下げて装備ベルトに挟んであげた。

 短剣をベルトから下げているから、咄嗟の場合は短剣を使う事になりそうだが、それよりは【メル】を使うんじゃないかな?

 ちびっ子だけど、【メル】を数発は使う事が出来るからね。


 「さあ、これで良いわ。後は、その杖を使いなさい」

 

 私の言葉に嬉しそうに頷くと、部屋を出て行った。私も、杖を持ってキティの後について行く。


 リビングには2人のおばさんハンターとネリーちゃんがお茶を飲んでいた。

 宿屋のおかみさんは、雪にまみれたら雪だるまと見間違いそうな感じだぞ。暖かそうな革のマントに包まって、ベルトの腰には短い魔道師の杖が挟んである。

 ミレリーさんは現役のハンターと見まがうばかりだ。動き易そうな服装で背中に片手剣を背負っている。

 ネリーちゃんはキティと似た装備だが、背中に魔法の杖になるバトンが斜めに差してあるのがマントの上からでも分かるぞ。


 「皆さん、お早いですね?」

 「なぁに、嬉しくって早起きしてしまったのさ。今日は良い天気だよ。目的地まで上手く進めそうだねぇ」


 そんな事を言って2人で口に手を当てて笑ってる。

 これは、早めにギルドに出かけた方が良いだろう。


 「それじゃあ、出掛けましょう!」


 私の言葉に皆が頷くと、ネリーちゃん達を先頭に私達はギルドへと向かった。

 家に鍵を掛けて、最後にミレリーさんが小走りにやって来る。

 早朝の通りは、まだ雪かきもしていないがブーツのくるぶしぐらいの深さだから、歩くのに問題はない。キュッキュッと雪を鳴らしてギルドに向かった。

 宿のおかみさんが言ってた通り、抜けるような空だ。ギルドを出る時には雪メガネが必要になるだろう。昨夜は結構冷えたから、雪原も凍って歩き易いに違いない。


 バタンっとギルドの扉を開けると、いるいるかなりの人数だな。

 暖炉に傍に行くと、ダノンが点呼を取っている。


 「よう、姫さん。おはよう。姫さん達が最後だな。クレイのところが6人、グラムのところが5人、ロディが6人でトビーのところが4人だな。最後に姫さん達が4人だ」

 「ダノンを入れて、都合26人になるわね。ダノンも行けるでしょう?」


 「ああ、行かせてもらう。足だってこの通り問題ないからな」

 

 そう言ってこんこんと義足を叩いてる。

 

 「準備品はグラムとクレイに確認して貰った。食料は、各自2食の弁当がもうすぐ届く。それに携帯食料は5日分用意してあるが、な~に、皆が予備を3日分持っているから都合8日分はある。吹雪になっても問題は無いと思うぞ」

 「ごくろうさま。そういえば準備金を渡して無かったわね。これで良いかしら?」


 銀貨5枚をダノンに渡すと、3枚だけ受け取った。


 「これでもお釣が来る。それにこれからは御隠居様からの報酬が出ねえんだ。大事に使うことだ」


 そうは言っても、何か前払いで貰ってるような気がするんだよな。

 

 「荷物はグラム達が背負い籠を3つ持っていくからそれに入れてくれれば良い。雪靴やスノーシューも入れとけば良いぞ。後は……、雪メガネは持ってるんだろう?」

 

 最後の言葉はホールにいる全員への確認だ。

 誰も持っていないという声は無い。ポケットに入れてるんだろうな。ダノンは数個自作したんだろう持っていなければ渡すつもりでいたようだ。


 弁当が届いたところで、出発する。人数が多いから先頭はレイク達に任せる。クレイ、ロディ、グラムの次にトビーが続き、最後は私とダノンそれにご婦人が2人だ。キティはネリーちゃんが一緒に行こうと連れて行った。


 「まさか『疾風』と『妖炎』と一緒に狩りが出来るとは思いもよらんかった。姫さんに感謝だ。あの時来てくれなかったら、今日という日が来なかったからな」

 「そんな2つ名があるの?」


 ダノンが小声で私に言った言葉に、私の方が驚いた。


 「ああ、俺がハンターに憧れた頃に後ろの2人がこの町では筆頭パーティを争ってたと言う噂は俺の村にも届いてた。現役を退いてはいるかもしれんが、まだまだレイク達には及びもつかないだろうな」


 思わず後ろの2人を振り返る。

 そこには楽しそうに笑い声を上げながら雪の中を歩く2人のご夫人がいた。

 2つ名持ちと言うからには、少なくとも黒レベルと言う事だ。

 どう見ても信じられないんだよな。メタボな宿屋のおかみさんが『妖炎』と呼ばれていたなんて……。


 北門の広場を抜けるところで、雪靴を履く。雪が硬くしまっているから、スノーシューはまだ必要ないようだ。

 森の入口で休憩をとり、焚き火を作ってカップ1杯のお茶を頂く。


 「足はだいじょうぶなの?」

 「まったく問題ねえ。関節部分は金属だから、出掛ける前に油を引いてある。杖だってあるしな。クレイ達に混じって道作りをしてもだいじょうぶだぞ」


 確かに動きが自然だ。良くもここまで回復したものだと思う。短い距離なら走れるんじゃないか。

 シガレイを1本楽しんだところで、今度は森を進む。

 やはり、昨夜の冷え込みで雪が硬く締まっている。雪靴が15cmほど潜り込むが、スノーシューを履く事も無い。

 

 最初の森を抜けたところで昼食を取り、尾根を1つ越えたところで、クレイとグラムのパーティの男達が横に散開してリスティンの足跡を探り始める。

 人数が多いから、さほど時間を掛けずに、リスティンの通り道を見つけることが出来た。

 「あったぞー!」大声で私達に知らせてくれたグラムのところに、ミレリーさん達が様子を見に行く。


 「20頭ほどの群れだと思うわ。足跡が山側と谷側に続いているから、間違いなくリスティンの通り道よ」


 ご婦人2人が足跡の判定をしてくれる。

 グラム達に、足跡の判定方法を教えてくれたみたいだ。経験だけでなく、昔からの判定方法なんだろう。


 「20なら手頃じゃねえか? で、姫さんはどうやって狩るんだ?」

 「そうね。確かに手頃だわ。日も暮れかけてきたし……。野宿の準備を初めて頂戴!」

 

 狩りの方法は今夜にも話そう。

 前に狩った時にはロープを張ったけど、今回は散開してリスティンが移動しているようだ。

 

 男達はダノンの指示で立木にロープを張って、そのロープを利用して天幕を張っている。ミレリーさんとテレサさんが大鍋でシチューを作り始めた。

 私は女性達と周辺で焚き木を集める。両手で抱えられるだけ皆が集めてきたから、2日ぐらいは持つんじゃないかな。

 

 夕食はお弁当とシチューになる。宿で出すシチューよりも美味しいんじゃないかな。男達はお代わりをしてるし……。


 夕食が終ると狩りの相談だ。

 お茶のカップを持ちながら、簡単に説明を始める。

 

 「早朝に、山側から下に向かってロープを張るわ。こんな感じにするのよ。最後は2つのロープの距離が100D(30m)ほどになるようにして欲しいの。これはグラム達とロディ達にお願いするわ。ダノンは彼らの監督をしながらここにロープで柵を作って頂戴。これで、準備完了よ」


 「ここに弓使いを置くんですね。確か弓が使えるのは……」

 「3人いるわ。用心に私もここに付きます」


 「すると、この下で槍を持って待てば良いんだな。焚き火の番をしながら杖にナイフを取り付けろ。リスティン狩りには槍が一番だ」

 「運ぶ為のソリの準備はレイク達にお願いするわ。なるべく沢山枝を集めてね」


 「分かりました。そうなると、解体はここでやる事になりますね」

 「臓物を抜いて頭を落とし、軽く血抜きをすればソリに積めるわ。その間の防衛は魔道師と私達が担当します」


 リスティン狩りは仕留めた後が問題なのだ。血の匂いを嗅ぎ付けてガトル達がやってくる。それこそ時間との勝負になってしまう。

 食器をまとめると、私が【クリーネ】で汚れを落とす。大鍋には適当に野菜と屑肉が投げ込まれて焚き火の傍に置かれている。夜食には丁度良いかも知れない。

 

 最初の焚き火の番はネリーちゃん達だ。といっても、私達が一緒に蜂蜜酒を楽しんでるから、心配は無い。それでも、周囲をしきりと眺めているから見てると微笑ましくなってくる。そんな子供達を見ながら飲む酒は美味しいに決まってる。

 ダノンと私、それにご夫人2人は、笑みを浮かべながらカップを傾けていた。

 

 私が天幕の中で目が覚めた時は周囲が既に騒がしい。

 慌てて、封筒状の毛布から体を起こすと急いで毛布を畳み、魔法の袋に収納する。

 天幕からでると、近くの雪で顔を洗い、焚き火の傍に行った。


 「あら、起きたのかい。皆早起きでねぇ。食事はあんたが最後さ」

 

 私は「おはようございます」と言うだけだった。

 ミレリーさんからスープを入れたカップと固焼きの黒パンを受け取ると、直ぐにパンを千切ってスープに入れる。

 周囲を見渡すと指示したとおりの作業が行なわれていた。


 「若い連中は、見張りをしてるよ。昔は数人でリスティンを狩ったけど、大人数で狩るのもおもしろそうだねぇ」

 「たぶん、来ると思います。ちびっ子達もいますから、よろしくお願いします」


 言った途端、背中をドンと叩かれた。

 「分かってるさね。まだまだ若い連中には負けないよ」


 思わず息が止まるところだった。絶対、テレサさんなら大型のハルベートだって扱えるに違いない。普段は魔導士だけど、前衛が危うくなったら後ろから長剣を引っさげて加勢するぐらいの事はやってたに違いない。今度旦那に聞いてみよう。

 私が朝食を終えて、お茶を頂いていると作業が終わった若いハンター達が次々と焚き火の周りに集まってくる。

 数を数えると、うん。全員いるな。


 「ごくろうさま。さあ、狩りのはじまりよ。一息入れたら指示した場所で待機してね。キティちゃん達が足音に気が付いたら、皆に知らせるわ!」

 

 私の言葉に全員が目を輝かせる。

 通常なら、クレイ達のパーティにグラムが補助をして3頭ぐらいを狩るのが精々だろう。だけど、これだけの人数がいればネリーちゃん達も狩りに参加できるし、獲物だって8頭は狩れるのだ。


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