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GⅡ-09 先人の言葉は正しい

 ガリクス達は狩りを楽しみにやってきたようだが、次ぎの日にはラスティー達を連れて王都に戻ったようだ。

 貴族の子供達だけで狩りをして、1人は死亡、1人は重体。逃げ出した2人は無事だったけど親達の争いはこれからだろうか?

 ガリクスの主人となる公爵の力だけでどうにかなるものでは無いだろうが、少しは反目を弱められる可能性が無きにしも非ず、というところだろう。

 

 もっとも、私に問題があるとは思えない。

 貴族でさえも、王国の頂点に立つハンターをそう易々と濡れ衣を着せる事はできないのだ。闇討ちしようものなら、どうなるかは王都で実例を5年前に見せている。

 そんなことで、私は何時も通りにキティちゃんとラビー狩りに勤しむ。この頃は慣れたもので、ボルトを外す事は殆どない。といっても、町に近い荒地だから狩れるのは1日、3匹が良いところだ。

 薬草採取よりは経験値が多い筈だから、1年もすれば赤の5つぐらいにはなるんじゃないか? とは言え、報酬は薬草とどっちもどっちと言う感じなんだが、早めにキティのレベルを上げるにはこっちの方が良いだろうな。

 

 ギルドに寄って狩ったラビーを渡して報酬を受け取ると、下宿に戻る。

 通りを行き交う町人に挨拶しながらだから、結構時間が掛かりそうだ。少し時間帯をずらせば良いのかな?


 「ただいま(にゃ)」

 

 玄関の扉を開けながらリビングに声を換える。「「おかえりなさい」」と2人のこえがするから、ネリーちゃんは既に帰っていたようだ。


 「あら、早かったのね。それで、森の野宿はどうだったの?」

 

 席に着く前に嬉しそうに私を見上げるネリーちゃんに聞いてみた。


 「3人ずつで番をしたの。私の時は真夜中だったけど、星がとっても綺麗だった」

 「星は少しずつ動くのよ。北極星を中心に1日で一回りするの。でも少し回るのが早いから、季節ごとに同じ時間で見える星は変わるのよ」


 「そうですね。あの星が出たら、交替するんだと焚き火の傍で仲間と話していたのを覚えていますよ」


 懐かしそうにミレリーさんが夕食を運びながら話してくれた。


 「そうなの? でも、どの星も同じに見えるよ」

 「同じようだけど、少し違うのよ。それが皆にも分かるように、星を線で繋いで星座を作ってるの。簡単なものは覚えておいた方が良いわよ。そうね……、ダノンなら知っているはずだわ。今度野宿する時に教えて貰いなさい」


 私も、最初のパーティで、エルフの娘に教えて貰った。そんな星を選んだ絵も売ってはいるようだが、ハンターにはそこまで必要は無い。精々4つほどの明るい星をせんで繋げているから、あの三角が双子のガトルと言われても、ピンと来ないんだよな。

 昔話から題材を取っているらしいから、その話を知っているなら興味を持つかもしれない。


 ミレリーさんが席に着くと、4人の夕食が始まる。

 いつものように、ネリーちゃんの狩りの様子が披露されると、キティが目を輝かせながら聞いている。そんな2人を私とミレリーさんが微笑みながら食事を進める。

 中々良いものだな。夕食はこうありたいと思う。いくら贅沢な食事でも、ただ食べるだけでは美味しくは無いだろう。

 ミレリーさんの作る食事は質素だけど、何時も美味しく食べられるのはネリーちゃんとキティの役割が大きいんじゃないかな?


 夕食が終ると、ネリーちゃんはキティを連れて風呂に向かう。今夜はネリーちゃんと眠るのかな?

 妹のように世話をしてくれるのがありがたい。


 「まるで妹ですね。ネリーが小さい時に欲しがってましたが、これだけはどうにもできるものではありません。今になって、それを思い出したのでしょう」

 「私にとってはありがたい話です。兄弟の記憶すらありませんから」


 蜂蜜酒を飲み、シガレイを2人で楽しむのは何時もの事だ。

 新に、私のカップにミレリーさんが酒を注いでいると、玄関の扉を叩く音がする。昨夜と違って柔らかな音だから急患というわけでは無さそうだ。


 「こんな夜更けに何方でしょう?」


 ミレリーさんが立ち上がりながら、小さな声で呟いた。

 玄関口での話し声が聞こえるけど、内容までは分からない。

 テーブルのカップを取り上げ、一口飲もうとした時、リビングに一目で高価だと分かる服をマントに包んだ2人組みをミレリーさんが案内してきた。どう見ても貴族だな。

 ミレリーさんが2人のマントを受けとり、テーブル越しに私の前の席に案内した。ミレリーさんは、そのまま台所に消えたからお茶を準備するのだろう。


 「初めてお目にかかる。カインドネス家の当主、バイダムだ」

 「私はマレイル家の当主、ライドネンです。黒姫殿にお会いできて光栄です」


 供を付けずに2人の貴族がここに来たという事か。理由は、あのミイラだと思うけどね。


 「私からは礼を言わねばなるまい。黒姫殿の手術の腕は王女殿下で王都では広く知られている。長男の大怪我の話を聞いて妻はその場に倒れてしまったが、ガリクス殿が『治療をしたのは黒姫殿です』の言葉を聞くと見る間に元気を取り戻した。妻は王女の教育係り、あの惨事を真近で見ていたそうだ。『ならばカイサルは助かります!」そう言って、私をカイサルの引き取りに来させたのだ」


 「私は、依頼をせねばなりません。何としても息子の亡骸を持って帰らねば……。もっとも、それはギルドにお願いしております。私達2人が黒姫様を訊ねたのは、2度とこのような事態が起こらぬように我が子達を鍛えて欲しいのです。亡くしたのは長男ですが、双子の妹がおります」


 「来春にはカイサルの傷も癒えるだろう。マレイル家の長女ラクシーナをハンターとして鍛えて貰えぬか?」

 

 そう言うと、2人が私をジッと見据えた。

 良い具合にミレリーさんがお茶を運んできてくれた。

 お茶を一口飲むと、頭を整理する。

 

 貴族が子供達にハンター修行をさせるのは良くある話だ。特に長男であれば、将来に向けて頑張らねば、良いお嫁さんを貰えないからな。お嫁に行く方だって、それなりのメリットがある。それだけ良い所に行けるだろう。

 そんなこともあって、私兵の中からハンター資格を持つ兵に、子供達を託してハンター修行をするのがこの国の貴族なのだ。

 貴族はしつこいからな……。

 問題は、これが王都に伝わった場合だ。我も我もとやって来るようでは困る。


 「これも、1つの縁でしょうね。引き受けても良いですけど、条件が2つ。1つは彼らに持たせるのは得意な武器以外は銀貨3枚のみ。宿代は自分達で稼いで貰います。もう1つは、他の貴族が押し掛けない用に手を打ってください」

 

 2人は互いに顔を向けて頷きあった。

 

 「最初の条件は我等には問題ないことだが、妻達を承知させるのが難しいな。2番目は、簡単だ。貴族会議で国王に報告すれば良い。申し訳ないが、これにサインを貰えないだろうか?」


 腰のバッグから羊皮紙に書かれた契約書を持ち出した。

 内容は……。私が2人の子供達の訓練をする事を了承したものになっているな。なるほど、契約期間中なら他の依頼は断われるわけだ。期間は来春から2年間か……。これが終った段階で、ガリウスに何か依頼を貰えば良いだろう。


 「良いでしょう。ここでよろしいですね」


 2人の貴族の名が書かれた、右に筆記体で自分の名をローマ字で描く。

 

 「これで、私達の家の名を落とさずに済みます。カイサルを明日運ぼうと思っていますが、何か注意することがありますか?」

 「王都に付いたら、直ぐに治療院のレイリルを訊ねなさい。あえて傷口に【サフロ】を掛けない理由を彼女は知っています。定期的にレリエルの診察を受ければ問題ないと思います」


 最後にバイダム氏がバッグから革袋を取り出した。

 私の前にそっと差し出す。


 「王女殿下の治療費に国王が支払った額にはほど遠いですが……」


 そういうことか。なら返すまでだな。


 「私には必要ありません。治療はハンター仲間なら当たり前です。契約は、私が教えた事を誇れるようになっていただければ結構です」


 金より名を取る。貴族相手にはこれが一番納得させ易い。

 思惑通りに2人の顔に理解の表情が広がる。


 「私から1つ質問があります。ラスティー君達の家との関係はどうなるのですか?」

 

 私の問いに、飲んでいたお茶のカップをバイダム氏がテーブルに戻して、溜息をついた。


 「ラスティーはオリーナム家の次期当主。私の甥に当たるのです。妹の嫁ぎ先ではありますが、今後の付き合いは無くなりますな」

 「私の妻はオリーナム家から迎えています。それを思うと辛いものがあります」


 やはり、貴族社会は互いに婚姻関係にあるようだ。2年前の2つの貴族は他国から嫁を迎えたようだが、中流貴族はそうもいかないようだな。

 

 「オリーナム家に、14歳前後の子供はいるのですか?」

 「ラスティーの次男がおります。レントスと言いますが、家に篭って本ばかり読んでいるようです」


 「ならば、来春にレントスを一緒に寄越しなさい。表立っての付き合いは出来ないでしょうが、ハンター仲間ならば貴族社会とは異なります。彼らを通して付き合いは継続出来るでしょう。それに、オリーナム家の将来にとってもラスティー君を越えるハンターが出れば貴族社会で後ろ指を指される事も少なくなるのでは?」


 私の言葉を聞き終えると、2人の貴族が立ち上がって私の手を握る。

 ちょっと痛いくらいだ。


 「お願いできますか? それなら、オリーナム家も大手を振って通りを歩けます。……あつかましいお願いですが、もう1人加えられませんか?」


 そうだった。逃げたのは2人だったな。

 そいつも、貴族だったという事か?


 「トワレム家も何とかしないわけには。ただ、トワレム家には歳の離れた長女がいるだけなのです。今年11歳と聞きました」


 もう、こうなったら全員面倒見るしかなさそうだ。『貴族には係わるな!』とはこんな騒動に巻き込まれたくないための戒めなんだろう。

 今更断われないし、これ以上増えても困る。

 

 「全部で4人。得意の武器を持って来春にギルドを尋ねるように言ってください。少し訂正します。持参する金額は銀貨5枚。低レベルのハンター生活をしばらく続けなければならないでしょうから、少し増やします。貴方達にはそれ程の出費にはならないでしょう。契約書の修正をしますか?」


 「いや、それにはおよびません。彼らを1つのパーティとして登録させれば、付き添いとして同行させる事も可能でしょう。それに、対外的には我等の付き合いが以前と同じであると示すことにも繋がります」


 色々と面倒だな。貴族じゃなくて本当に良かった。

 来た時の悲壮感は消えたけど、私は何となく負けた感じがしてならない。


 「ごくろうさまでした」


 そう言って、ミレリーさんが改めてお茶を入れてくれた。


 「貴族とは離れていたんですが、やはり先人の言う事に間違いはありませんね」

 「『貴族とは係わるな!』ですか? 本当ですね」


 そう言いながら私を見て微笑んでいる。

 こうなったら、ダノンやグラム達を巻き込んでやる。昔色々と世話をしてあげたんだからな。


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